INTERVIEW
2022.04.01
飯森みちる(CV:中島由貴)、中沢 栞(CV:鈴代紗弓)、太田 希(CV:大野柚布子)という女子高生3人によるピクチャーボイスドラマ(あるいはエキセントリックコント劇場)「VOISCAPE」。その魅力をエグゼクティブプロデューサーであるアニメ監督の水島精二に話を聞く短期連載。第3回は、占い師に会いにいく3話と、校内放送でハチャメチャにラジオを放送している4話について話を聞いてみた。
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――「VOISCAPE」の各話を振り返る連載、第3回はドラマ第3、4話について水島監督にお伺いします。まず第3話「トランプタワーじゃない」ですが、今回は栞とみちるが外に出て占い師に会いに行くというお話で。
水島精二 前にも言ったんだけど、基本的にもう初手は高垣(雄海)くんなんだよね。ドラマ6話分に対して、彼が8パターンくらいのコントネタを考えてくれて。その中から、面白くなりそうなものを選んで書いてもらっています。頭3話のものは特にそうなんだけど、最初に僕のところに投げてもらったものから「これ面白いね」って。キャラクターの性格を全部入れ替えちゃうとまではいかないけれども、話が進むごとに個々のキャラクターにどんどん新しい面が見えてくる。そういう部分でいうと、希の占い師は面白かったので“即採用!”みたいな流れでしたね。
――1話は部室、2話はファミレスという空間で3人での会話劇でしたが、今回は栞とみちる、占い師に扮した希という“2人と1人”的な構図になっていますよね。そのなかで占い師の正体を知らない栞の心酔しきったムーブがすさまじいですよね(笑)。
水島 そうなんですよね。染まりやすいというか、極端に色んなものに流れやすいっていうのかな。結局、キャラクターがある程度は極端な方が面白い部分はあるので、その辺りは割と考えてやっています。
――あの入れ込み具合というか、鈴代さんのエスカレートしていく演技も面白いなと。
水島 3話までをまとめて録ったんですよ。それもあって収録が進むにつれ、どんどんエンジンがかかってきたというか。「面白いからもっとやっちゃえ!」みたいな感じで、鈴代さんのノリも上がっていったのかなと。しかも収録した3本の中で3話が一番ぶっ飛んだ内容なので。あそこは栞がつっ走ってないと困るので、色々とアドバイスをしながら引き出していくなかで、段々レベルが上がっていきましたね。
――収録に応じてキャスト陣のテンションも上がっていったと。
水島 言ってしまえば、1話2話と比べて3話って舞台が屋外で、その中で日常と非日常な部分がある。人混みの多い通りから小さな路地に入った奥の、占い師がいるところに行く。というシーンを、ちゃんと区切って、移動する足音や遠ざかる喧騒を入れて。そんな場面を作って、期待値が上がっていく演出をしっかり踏んで。そうする事で栞のテンションが上がっていくのも伝わるんですよね。それで憧れの人に会ったら「うぇえ~!」って歓喜するじゃない?それをしっかりと表現してもらおうと思ってたんだけど、いざ本番!って時にはもうそれが自然体の演技でできていましたね。
――なるほど。コントにおける場面転換でしっかりテンションを上げていく演出をしていると。
水島 そうですね。それもちゃんとこちらで計算して完成形をある程度イメージしつつ、そのイメージを越えていくように芝居を要求する、みたいな。
――そうしたテンションが変な方向に行ってしまう栞、という立ち位置が面白いですよね。ものすごいボケるキャラクターではあるんだけどまともな面もあって、占いに興味がないみちるに対して「人選ミスった~!」って普通にボケないで言うみたいな。
水島 彼女にとってはちょっとがテンション高くて、当たり前のことでしかないんだよね。少しウザいけれども、まあ~いるかもなって思えるような。もう名前出しちゃうけど、戸松 遥さんがそうだったので(笑)。
――戸松さんですか(笑)。
水島 8年くらい前にUVERworldのライブに招待されて、みんなで東京ドームに観に行ったんですよ。ライブ終わりの高揚した状態で、ドームの周りのイルミネーションのところを歩いていたら、突然、彼女1人でものすごい勢いで大興奮してはしゃぎまくって。それを見たときに「こいつすごいな……」ってちょっと引きつつ、ケラケラ笑って帰ってきたという経験があって(笑)。
――なんとなく想像がつきますね(笑)。
水島 その姿を見たときに、「これはアニメに落とし込めるな」と思って作ったのがTVアニメ『夏色キセキ』の、戸松さんが演じた花木優香なんだよね。だから僕の作品の中にはその系譜があって、最近だと「D4DJ」の愛本りんく(CV:西尾夕香)もそれです。ウザかわいい。全然悪意はないけれど、テンションが上がっちゃって「ワ~!」ってなるっていう。でもそれが嫌われないレベルでちゃんと存在できるかどうかというのは本人のあっけらかんさとか、さっき言ったように全然考えていないわけじゃないっていう部分。常識は持っているっていうところの線を、どう線引きするかなので。だからある意味でベース、考え方は一緒なんだよね。そういう意味では僕が好きな、面白がれるヒロインの1つのパターンだと思うんですよね。
――対してみちるもボケに対してツッコむというよりは、占いに懐疑的というスタンスでもあるのかなと。
水島 そうですね。みちるは元々の設定でいう真っ直ぐなスポーツウーマンみたいな感じで。そうなってくると頭の回転ではほかの2人に敵わないみたいなところもあるんですよね。非常に素直な子だから、振り回されるというキャラクターになった。そんななかにも独特のみちる節みたいなのがあったり、どこかかわいらしさが残るのは中島さんが持ち込んでくれたテイストなんですよ。中島さんご本人にもそういう印象を受けたし、お芝居していくなかで受け答えとかを見ていても、みちるとどこかリンクするなあって思っていて。ディレクションも「こういう感じ」って伝えると、非常に丁寧に打ち返してくれる。ああいうふうに、なんだかんだ言って自分のほうにキャラクターを引き寄せちゃうタイプの役者さんは、みちるというキャラクターにとっては幸せなキャスティングだったなと思いますね。
――そうしたスタンスでもオチでは割りを食うというか、まるで「こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)」や「ドラえもん」のようなオチで(笑)。
水島 ははは(笑)。このへんは僕の演出の前に高垣くんの台本がそうなっているんですよね。みちるは“愛されるキャラクター”として立てていかないといかないので。
――そして希ですが、今回は彼女のキャラクターにもう1枚設定を羽織った印象ですね。
水島 実は、1話の段階で希が柔道部に入っているというのも、高垣くんがフックとして用意したものなんです。それがどういう形で今後活かされていくのかなみたいなところから、ここでさらにもう1枚用意するという。やっぱりこれはシチュエーションコントの考え方なんだろうな。何をやっても大丈夫なのかな、ということも踏まえながら、毎話設定変わっていいからということに対してもアイデアを出してくれて。で、僕はそれを面白がって「占い師いいね!」って言ったから、このまま進んだんだと思う。
――視聴者は知っているんだけど、ほかの2人にはバレていないなかでの演技も面白いなと。トランプタワーを作るときに異様にハアハア言っているところなんか最高でした。
水島 屋外の緊張感のなかでトランプタワーを立てるっていうね(笑)。基本的には音だけでやらないといけないので、例えばイラストで「トランプが舞ってる」みたいな絵だけを1枚描かせるのもどうかと思うので、規定の数枚の絵で見せられるような……みたいなことを考えると、音で雰囲気を作らなきゃいけない。あそこに至るまでの音響演出は、繰り返し繰り返し、丁寧にやりました。
――たしかに言葉で状況説明するにも、それをあえておおげさに見せることでギャグの破壊力が増していくというか。
水島 説明、声プラスSEと音楽でどうやって盛り上げるかっていうのは結構頑張ってますね。音楽も、繰り返し使っても面白いし耳に残るという利点もあって。それを編集できるように繰り返しのフレーズを使ったり、それとは別に頭にジングルみたいなものをつけてもらったりとか。そういうのは音楽のグシミヤギ(ヒデユキ)くんと相談して、「これは1曲でこういう展開があってね」って説明して、それを全部切って使うっていう……「結局3曲じゃん!」みたいな(笑)。全体で20曲くらい作ったけど、それ以上あるようにしているし、ステムデータをもらってリズムとウワモノのタイミングをずらして使ったりとか。
――それこそ水島さんの監督作でいう三間雅文さんのような立ち位置というか。
水島 本当に音響監督みたいな。それはまさに三間さんの教えです。三間さんがそうやってバリエーションを生み出してたんですよ。ステムで納品するとこんなすごいことができるんだと思ってやってたけど、逆に無限にいじれるので時間泥棒です(笑)。
――1話から3話は同じ収録タイミングだそうですが、3話から音響面でもグッとビルドアップした印象はありますよね。
水島 音楽とSEを加えるMIX作業は1、2話をやって、3話は少しずらしてもらったの。しっかりと空間を音で語らなきゃいけないので、効果音や音楽の在り方を構築するのが大変で。そこは臨機応変にスケジュールの調整をしてもらいながら、こっちの作業が終わるような形で進めていきました。
――単純に外に出る、ということでSEのバリエーションも一気に増えますからね。
水島 そう、場所の移動や外の空気感というものをしっかり作らないといけない。エンジニアの飯山(学)さんとやり取りしているときも、効果のイメージなどをなかなか上手く共有できなくて。そういうエラーを避けるために、初手として僕のほうでなるべくイメージ通りの音を用意したい。なので3話から、SEなどのサブスクサービスの「Artlist」を使ってイメージに合うSEを探して、僕の方で割とカッチリとガイドを作り始めたんです。
――ここから「VOISCAPE」の可能性が展開されていったと。そんな3話のエンディングに流れるのが、「幻想の旅へ」ですね。
水島 ミステリアスなお話っていうところから一点突破して作りました。ただね、歌詞は20代の疲れたOLが会社を辞めて旅に出る歌、みたいなオーダーで(笑)。
――タイトル通り幻想的なサウンドですが、どこか生々しい旅情感のある歌詞で(笑)。
水島 そもそもグシミヤギくんがそういう曲調をすごく得意にしているというところからスタートしたんですよね。歌詞を担当しているのが陽茉莉-himari-ちゃんといううち((株)一二三)所属の作詞家なんですけど、彼女も中二病感がものすごく漂っている歌詞を書く子なので、「ズバリ中二な歌にしよう」って話して。だから歌詞はいわゆる日常ものなんだけれども、ちょっとメンヘラ入ってるみたいな世界観でいくことにしました(笑)。あと、アルバムに入っている「センチメンタル・グラビティ」も陽茉莉-himari-ちゃんの歌詞なんだけど、すごく良い。完全にメンヘラの歌だから。
――そうした世界観の楽曲もあるとなると、ますます彼女たち3人は何者なんだろうかって思ってしまいますね。
水島 何かすごい謎を含んでいる……みたいなことは、前にも話した通り、最初に考えていた謎を全部回収できる設定にはなってるんですよ。ただ、そこに行き着かなかったときには、まあそれはそれで色々なものを楽しんでもらえたらいいよね、という閉じ方もアリだよなって思ってるんですよね。だからその原点に戻れるかどうかすら、自分でもちょっとわからないくらいやりすぎた感はある(笑)。
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