INTERVIEW
2022.03.16
独創的で、美しい光を放つ音楽を届け続けてきたCö shu Nieが、1stアルバム『PURE』から2年3ヵ月ぶりとなる2ndアルバム『Flos Ex Machina』を3月16日(水)にリリースする。
本作には『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』EDテーマ「red strand」、『呪術廻戦』第2クールEDテーマ「give it back」、『15周年 コードギアス 反逆のルルーシュ』第2クールEDテーマ「SAKURA BURST」といった人気アニメタイアップ楽曲のほか、ドラマタイアップ曲も収録。
様々なモードチェンジを経て完成した今作について、ボーカル・ギター・キーボード・マニピュレーターに加え、作詞・作曲を担う中村未来とベースの松本駿介に聞いた。
――まずは、現在放送中のTVアニメ『15周年 コードギアス 反逆のルルーシュ』第2クールEDテーマについてお伺いさせてください。オープニングを飾るのはCö shu Nieプロデュースによる、藍井エイルさんの「PHOENIX PRAYER」、EDテーマはCö shu Nieの「SAKURA BURST」。お話をいただいたときはどのようなお気持ちでしたか?
中村未来 単純にすごく嬉しかったですね。歴史のあるアニメなので、そこにCö shu Nieとして曲を書けるというのはすごく光栄だなと。オープニングは(藍井)エイルで、どちらの曲も手がけることができて、すごく楽しかったし、なによりワクワクしました。
松本駿介 『コードギアス』は伝説的な作品というイメージが強かったので、「そこに参加できるんだ」という気持ちが2人の中にあって、湧いてましたね(笑)。バンドマンって結構アニメを観るんですよ。今は(ご時世柄)ないですけど、打ち上げの場で話すと、好きなアニメやお薦めの作品の話になって。そのなかで必ず『コードギアス』の名前が出てくるんですよね。そのとき僕は名前しか知らないという状況だったのですが、ほかにも色々な人に「コードギアスは観るべき」と言われていましたね。色々な人の心に残っている作品ですし、責任重大だなと。監督(中村未来の愛称)には「いつものかっこいいCö shu Nieを出したい」と伝えました。
――「SAKURA BURST」は、エイルさんの曲と対になる言葉から始まっています。これはシュレーディンガーの猫とラプラスの悪魔の関係性を意識されたと伺っていますが、曲を作るにあたり、最初に決めていたことだったのでしょうか。
中村 そうですね。自分の中での“両極端”のものを曲にしたいなと思っていたんです。『コードギアス』の登場人物たちは運命というものに翻弄されていて、どう捉えるかによって行動が変わってくるだろうなと。自分はどうかなと考えたときに、作家だから多角的に考えてしまうんですよね。1つの物語にしても結末に至るまでに色々な可能性があるだろうなと思い、両極端に帰結する物語を書いてみたくなったんです。「SAKURA BURST」から先に書いたのですが“運命に理由などないのさ”……と言いつつも、理由があるのなら……と考える場合もあるよなと。そこで、エイルの「PHOENIX PRAYER」では“運命に理由があるのならば”と書いています。
――たしかに「理由なんてない」と思うときもあれば「理由があるかもしれない」と思うときもありますよね。そう思いたい、というか。
中村 そうなんですよね。どっちもあるんですよね。
――最初に未来さんが「ワクワクが止まらなかった」とおっしゃってましたが、それは作家としての性というか、使命感なのでしょうか。
中村 面白い作品だからこそワクワクしましたね、そこが大きかったかなと。松本もそうだと思うんですけど、『コードギアス』は面白さに衝撃を受ける作品ですし、アニメが進んでいくうちに「どうなっていくんだろう」というワクワクがある。それに勝るとも劣らない曲を書かなければいけないという責任感。それはタイアップ作品の主題歌を作るうえで「一番面白いな」と感じるところでもあります。
――それこそ、今作にはタイアップ作品がたくさん収録されていますよね。
中村・松本 そうですね。
――前作から今作に至るまで、この多数のタイアップ作品によってCö shu Nieを知ったという方も多いと思います。前作『PURE』から今作までの期間を通して気づきや変化というのはありましたか。
中村 色々経て、原点回帰しているような気もしているんです。自分の中でブームがあるんですけど、原点回帰した部分と変化して進んでいる部分とがあって。だから『PURE』のときよりも幅が広いアルバムになったなと思っています。
――今おっしゃっていた“色々”というのは、例えばどんなことでしょう。それが未来さんのブームにも繋がっているような感じですか?
中村 そうですね。日々色々な音楽をインプットするなかで、どう新しいものを取り入れながらCö shu Nieとして構築していこうかというのは、ずっと考えていることなんです。バンドでありながら、バンドではない音を自分でアレンジして作り出すタイプなので、作品ごとに変化していってるんですよね。そこを経て思ったのが「やっぱりバンドって良いよね」ということ。なので、今作はバンドのビートを意識することも多くて。
――原点回帰の一方で“進化”という言葉もすごく似合う作品ですよね。それって最強なんじゃないかなと。
松本 嬉しい。自分はプレイヤーとして目の前の楽曲に向き合ってきたので、変化というものにはあまり気づけないこともあるんですけど、今回はクセの方向性が変わってきたなと感じています。例えば、今まではスライド的なフレーズをよく使っていたのですが、一番新しい「夏の深雪」はロックなテイストな割にスライドを全然使わないようにしていて。フレーズの構築の仕方が変わってきたのかなと思っています。
中村 曲によって自分のチャンネルを変えられるようになったのかなと。松本は芯の通ったブレないプレイヤーなので、私の曲の広さを汲み取りつつ、自分にとって、Cö shu Nieにとって、何が一番ベストなのか両方考えてくれるんですよね。感覚が鋭いので、直感で、細かいシフトチェンジが行われているのかなと。
松本 なるほど。じゃあより曲に最良なフレーズをつけられるようになってきたってことなのかな。
中村 うんうん。
松本 こういうことって自分で言葉にするのが難しいんですよね(笑)。
中村 自分のことを語るのって特に難しい気がする。一番側で見ている人がしゃべったほうがいいかなって思って、ついしゃべっちゃった(笑)。
――話題に上がった「夏の深雪」をはじめ、本当に色々なカラーの曲が揃っているなと思いました。今回のアルバムタイトルは『Flos Ex Machina』。フロース エクス マキナと読むこの言葉は「機械仕掛けの花」という意味を持つそうですが、由来を教えていただけますか?
中村 「デウス・エクス・マキナ」ってご存知ですか?
――今思い出せないのですが、ゲームなどでよく聞くような……。
中村 あ、そうです。ゲームでも使われることがあるのですが、元々は舞台用語なんです。ラテン語で、舞台の演出技法を指しています。古代ギリシアの演劇において、話がカオスになってきたときに、絶対的な力を持つ機械仕掛けの神が登場し、解決に導いて、物語を収束させる……というような役割で。そのオマージュというか、「デウス・エクス・マキナ」が、神が物語を解決するような存在であれば、『Flos Ex Machina』はどんな困難な物語でも輝き、華やがせるような一輪の花。眩しい光であり、革命である。そういう意味合いをつけたくて、この名前にしました。
――収録曲の中にも花に関連する言葉が出てきますね。
中村 「病は花から」「fujI」もそうですね。私の中で花って特別な存在なんです。一度生花をドライフラワーにしたことがあったのですが、そのときに生命が消えていく感覚があって。花って人間や動物のように動いてしゃべらなくても、ものすごくエネルギーを発しているじゃないですか。あんなに静かに命を感じるものってあまりないなぁと……その経験が私の中に残っていたんですね。
――ドライになっていく瞬間の切なさってありますよね。
中村 ありますよね。美しいしすごく好きなんですけど。
――あと個人的に思ったことなのですが、「キミ」や「あなた」という存在が曲の中に入っているなと感じました。
中村 あ、やっぱりそうなんですね。
――ほかの方にも言われました?
中村 はい。「第三者が確実にいることを感じる」って言われて、あ、そうかって。
――『PURE』にももちろんあったとは思うのですが、もう少し内省的だったような気がするんです。でも今回はその輪の中に第三者がいて、開いていることを感じるというか。
中村 ああ、なるほど!たしかにそういうモードだったとは思います。
――そのモードになったのはコロナ禍も関係していますか?
中村 そうですね。それもあるんですが……「SAKURA BURST」をリリースしたときに色々なところでお話ししたのですが、大切な人を亡くしたんです。失ってから気づくことってどうしてもあって。後悔しないようにと1つ1つ大切にしていても、多かれ少なかれ(あとから気づくことが)あるんですよね。だから今回のアルバムには「今を大事にしたい」という想いを込めたくて、「今が美しいだろう」と歌っているんです。喪失するとこれまでに増して今がキラキラ輝いて感じるというか………今、この瞬間がかけがえのないものなんだろうな、と感じる気持ちが強く表れたんだと思いますね。「私の心の中」というよりも、「私とあなたのこと」を描く作品になったんじゃないかなと。
――そういったモードを強く感じさせるかのように、アルバムは「red strand」(『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』EDテーマ)の“いくつもなくした それでも進み続けると決めたんだ”という、決意表明のような言葉から始まりますね。
中村 以前発表した『PSYCHO-PASS』の映画用に描きおろした楽曲ではあるんですけど、今の私たち、『Flos Ex Machina』の始まりにぴったりだなと思って頭に入れました。
――2曲目の「BED CHUTE!!」の「CHUTE」はフランス語で秋という意味でもありますが……。
中村 あ、このシュートはダストシュートとかの意味です、急流というニュアンスの。そしてこの楽曲は夢の話ですね。寝ているときに夢と現実が繋がることってありませんか?誰かが叫んでいる夢を見ていたら電話が鳴ってたとか、悲鳴が救急車のサイレンの音に変わったとか、そういう始まりですね。
――私は起きた夢を見ることがよくありますね……。
中村・松本 (笑)。
中村 ありますよね。起きた夢を見てるけど寝てるっていう。この「BED CHUTE!!」自体も起きたつもりが起きれてなくて、夢の深い回想に潜っていくという話にしようと思っていたんです。でも少し違う感じに仕上がりましたね。
――後半は夢見心地というよりかっこいい方向にいきますよね。
中村 サイバーパンクのイメージで、金属っぽい音を入れています。サイバーパンクは元々好きで、アルバムの中でもイチオシの曲ですね。
――先ほど話題に上がっていた「fujI」に関してはどうでしょう?
中村 藤の花言葉が…ええと、なんだっけな。
――優しさとか、恋に酔う、とかだと思います。
中村 そうでしたっけ、ど忘れしちゃった(笑)。「iB」という曲があるんですけど、アイビーの花言葉には「死んでも離れない」という意味があって。私は恋の話をあまり書かないので、そのシリーズとして作った曲なんです。
――恋の曲はあまり書かないということですが、「undress me」(テレビ東京“サタドラ” 「女の戦争~バチェラー殺人事件~」主題歌)から繋がっているのでドラマチックだなと。
中村 そうなんですよね(笑)。あそこにも流れがあって。
――「fujI」では“君しかいらない”って言っていたのに、次の「病は花から」で“わたしを放っておいて欲しいの 今は”ってなるのが面白いなと(笑)。
中村 (笑)。
松本 花の曲が続く中でこの起伏はたしかに怖い(笑)。
中村 曲同士の世界観はセパレートされてるんですけど、たしかに怖い(笑)。この曲は花が生えてくる病の曲で。なんて言ったらわかりやすいかな……自分の世界に入り込むような、そういう曲ですね。これについて説明するととても長くなってしまうんです(笑)。ほかの曲にも言えることなのですが、説明するのも野暮かなと思ってしまうこともあって。
――なるほど。たしかに想像を膨らませてほしいところもあるでしょうし、受け取った方の答えが正解というか。
中村 そうですね。リリースしたらリスナーたちの曲なので。
――「青春にして已む」は“時よ止まれ 今が一等 美しいだろう 光るしぶき 僕らは青春にして已む”という言葉があって、まさに最初にお話してくれたモードが反映された曲。すごく深い愛の歌ですね。ファンの方に伝えたいメッセージがあるのかなと思いました。
中村 万物に対して……大切にしたいものすべてに対してですね。青春のことを歌っているので学生さんが聴くと今やっている部活動や放課後の時間などを思い出すかもしれない。私たちにとってはバンド活動。みんなそれぞれ青春の瞬間があると思うんですけど、それを能動的に続けて「死ぬまで青春」というか。
――青春ってすごく良い言葉ですよね。年齢に限ったことではないですし。
中村 良いですよね。私たちが思う青春という言葉が内包する意味合いは、英語にしてしまうと含まれなくなってしまうんですよね。だから英語のタイトルで出すときも、そのまま「Seisyun」に。みんな同じ時代に暮らしているからこの言葉の意味を知ってますけど、別の時代に生きていたら言葉の意味も変わってしまうかもしれませんしね。今歌うからこそ、私が想う青春の意味が伝わるのかなと。
松本 日本語の良いところ。
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