REVIEW&COLUMN
2022.02.11
「ステージ・バイ・ステージ」からは、今のところ2曲が発表されている。第1弾楽曲「Synchronicity」は、杏道リア(CV:夏吉ゆうこ)によるキャラクターソング。シャープなギターカッティング、軽やかなエレピ、タイトなドラムなどが絡み合って疾走感溢れるグルーヴを形成する洒脱なナンバーで、作詞はモリタコータ、作編曲・演奏は気鋭の音楽クリエイター集団・Art Necoのメンバーたちによるもの。「自分らしさ」を探して自問自答しているような歌詞は、杏道リアがどんな女の子なのか想像を膨らませてくれるし、リアルとフィクションの狭間を揺れ動く「自分」という存在の描かれ方は、バーチャルアーティストを題材にした「ステージ・バイ・ステージ」の作品性ともリンクするものだ。
そして何より、夏吉ゆうこの(杏道リアの18歳という設定にしては)やや大人びた歌声が、彼女のキャラクター像にさらなる深みを与えている。現時点で公開されているMVは15秒バージョンのみだが、フルバージョンではリアルとフィクション、2人の杏道リアが交差するギミックで、彼女の心情の変化と成長が見事に表現されているので、公開を楽しみにしていてほしい。
もう一方の第2弾楽曲「ただしい感情」を歌うのは、midoとあかまるによる音楽ユニット・THE BINARY。彼女たちは普段から「第三のスキン」と呼ばれる3Dアバターを用いて活動しており、仮想空間でのバーチャルライブを行ったり、リアルライブでも最新技術を駆使した2.5次元的なステージ演出を展開するなど、「ステージ・バイ・ステージ」の世界観を実際に体現しているような存在と言えるだろう。
たなかと白神真志朗が楽曲提供した「ただしい感情」は、チル&レイドバック感のあるトラックに乗せて、THE BINARYの2人が憂いを帯びた歌声とラップを聴かせる、今までの彼女たちにはあまりなかったスタイルのナンバー。全体体に夜の雰囲気を纏ったサウンド感がアダルトなムードを演出する。過去を後悔するような切ない歌詞は、midoとあかまるがキャラクターボイスを担当する井伊嶋美沙と府良わらびの心境にそのまま当てはまるものではないかもしれないが、“わたしの言葉にはわたしが住んでないみたい”といったフレーズからは、自分の本当の気持ちを確かめるために新しい世界に飛び込む美沙とわらびの姿が自然と浮かぶ。
そのシンクロをより鮮明に体感できるのが、本楽曲のMVだ。仕事ばかりの毎日に疲れを感じている様子の美沙、ピアノを前にしながら浮かない表情のわらび。鬱屈した気持ちを抱える2人が、思い切って新しい一歩を踏み出すことで、今まで知らなかった「自分」を見つける。そんな心情の変化が、リアルとバーチャルアイドルの両方の姿を映し出すことで表現されており、僅か90秒ながら何度でも観返したくなるほど濃厚な映像作品に仕上がっている。
2次元らしいキャラクターデザインと、3DCGで描かれた写実的な背景の不思議な親和性、実写の映像作品を意識したようなカメラワークの妙を含め、 バーチャルアーティストという題材を最大限に活かすべくたくさんのアイデアが盛り込まれている「ステージ・バイ・ステージ」。この先も楽曲やアニメーションMVだけでなく、作品内容的にVRライブやAR(拡張現実)コンテンツなど様々な試みも期待できるし、リアルとフィクションの垣根を超えた新しい映像表現が、ここから生まれるかもしれない。
TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
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●作品情報
「ステージ・バイ・ステージ」
既にトップアイドルとなったアイラ、シマ、はなたちに憧れた女の子たちのミュージックライフが今始まる―。
TVアニメ「でびどる!」のその先の、さらに未来を描くスピンオフアニメシリーズ!!
バーチャルライブ等の技術が著しく発達し、バーチャルでのアーティスト活動がカルチャーとして定着した世界。
育った環境も経歴もそれぞれ異なる3人の女の子達が、同じバーチャルアイドルとして日々成長していく物語。
「ステージ・バイ・ステージ」オフィシャルサイト
http://sta-by.com/
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