INTERVIEW
2022.01.26
2022年1月30日にWOWOWで放送・配信される、WOWOWオリジナル新作長編アニメ『永遠の831』の主題歌を歌うのは『蒼穹のファフナー』シリーズをはじめ、数々のアニメソングを手かげてきたangelaと、多彩な歌声を持つフレッシュなシンガーソングライターのカノエラナだ。本作の監督・脚本を務めるのは、手がける作品はいずれも現代社会に対してのメッセージ性が高いことで知られる神山健治監督。それぞれが主題歌を作るうえでどのような読み解きをしたのか、楽曲作りとともに話を聞いた。
――『永遠の831』の脚本を読んだ際にどんな印象をお持ちになりましたか?
カノエラナ 神山監督の作品は『東のエデン』を観ていたのですが、主人公が世界や社会といった見えないものと戦っている印象がありました。人間というものは集団になったとき、良くも悪くも強くなります。『東のエデン』と同様に『永遠の831』でも、どういうふうに能力を使えば世界や国が変わるのかと考えることが、この作品を読み解くうえでのヒントになりました。主人公たちとも年齢が近いので、その意味でも作品に入っていきやすかったです。
atsuko カノエさんがおっしゃったように、舞台やテーマが現代社会とリンクしていて、学生の年代の方は主人公の浅野スズシロウと目線が近いぶん、今の生き辛さをより近く感じられると思います。私はいわゆる氷河期世代で、神山監督のほうに年齢が近いのですが、監督はこうした物語作りを通じて世の中をこんなふうにご覧になっているのだと感じました。そこも含め、すべての人が考えている現代社会に対しての問題をアニメーション作品にしたことがすごいと思いました。
KATSU 僕は『攻殻機動隊 S.A.C.』の神山監督というイメージがやはり強いですね。これは神山監督が一番作りたかった作品なのではないかと感じました。『永遠の831』という現代の東京を舞台に起こり得る問題をテーマにしたとき、この作品を通じて訴えたい相手は若者世代なのか、それともこの世代に問題を残してしまった大人世代なのか。観たあとも議論を戦わせそうなところが面白いなと思いましたね。そうした神山監督が伝えたいメッセージをいかに完結させるかが、今回僕たちが音楽を作るうえでの最初の着想でした。
――楽曲を作るうえでのキーワードみたいなものはありましたか?
カノエ 「もし自分がこの世界に入ったとしたら、誰の目線に立って書くかを意識してほしい」と。あと、精神世界のストーリーだったりもするので、ちょっと抽象的な表現や比喩表現、皮肉になるような表現も盛り込んでほしいとも言われました。
KATSU angela側にそんなリクエストあったっけ?
atsuko 全然なかった。あったのは、速すぎず、遅すぎず、明るすぎず、暗すぎず……と(笑)。
――(笑)。angelaはもうベテランだからお任せでいけると思われたんでしょう。それでこの楽曲はどんなふうに作られていきましたか?
KATSU やはり楽曲で監督のメッセージ性を表現するうえで、聴いたときに映像の世界観が浮かぶようにしたいなと思いました。僕の中で印象的だったのが、物語の最初にスズシロウが大久保で新聞配達をしているシーン。実は僕も中学生の時に友達の代わりで3日間だけ新聞配達をしたことがありまして(笑)。朝の4時5時の静けさと暗さ、そして冷たい空気感。配達しているうちに暗い景色から青い空になり、朝日が昇っていく光景を思い出したんです。そこで建物が金色に輝き、霧がかかるファンタジックな様子を表現したいと思いました。そしてサビになったとき、この物語のテーマを曲の中で完結させる必要がありました。『永遠の831』の「831」は8月31日を示しています。それを完結させる方法はただ1つ、季節を変えるしかないので、サビで8月31日から春になるよう急展開をさせました。従来のように徐々に盛り上げるのではなく、極端なベース音が入っているのが今回のアレンジの特徴ですね。この解釈が合っているかどうか監督に確認をいただいたなかでも「曲の中で季節が変わることで新しい 1 歩踏み出したことが表現できているなと思います」とおっしゃっていただきました。
――カノエさんはご自身で作詞作曲を手がけられたアニソンはこの曲が初めてですよね?
カノエ はい。やっぱりプレッシャーはあって、「どうすればいいんだろう?」とは思ったのですが、小さな頃からアニソンを作って歌うことが夢でしたので、お話をいただいたときはとても喜びました。普段自分のオリジナルソングを歌うときはディレクションをしてくれる人もいないので自分の世界を模索しながら歌うのですが、今回は作品の世界観や脚本から感じたことを歌にしていきました。私は主人公のスズシロウくんに共感を覚えたので、彼の怒りややり切れない感情を表現していくうえで、普段よりもゴツかったり掠れさせた声で歌い上げることを意識しました。
――編曲もかっこ良かったです。
カノエ 攻撃的でとてもかっこいいなと私も思いました。ギターリフは私が提出したものをそのまま使っていただいたり、イントロ周りもアコギで弾いたフレーズを汲み取っていただけました。最初は今よりももっと攻撃的なもので、そこに儚さや切なさを込めたくてピアノを追加でオーダーして現在の形になりました。とても気に入っています。
atsuko 今のお話を聞いていてすごいなと思ったのが、自分の世界を模索してお一人で作詞作曲をして歌うというくだり。それって、主観で歌いつつもそれを客観的に聴いて、これがアリかナシかを判断していく作業を1人で行なうわけですから、自分の中に主観と客観の両方を兼ね備えておかないとできないことなんです。angelaは2人いるので、KATSUさんが私を客観的に見てくれてジャッジしてくれたり、レコード会社の方が入ってくれたりと、そこを担保してくれるのですが、カノエさんはそれを1人でやってこられたことがすごいですよね。
KATSU 僕らの場合って、曲が出来たあとはatsukoが作詞に入るのと並行して僕がアレンジをしていくのですが、そのなかで「こういうふうに歌ってほしい」とイメージができるんです。
――atsukoさんは今回どんな想いを歌に乗せましたか?
atsuko 作中でストーリーが進んでいくように、歌でも場面が変わっていくような楽曲にしたつもりです。スズシロウは新聞配達のアルバイトをする学生なのですが、物語の始まりは春なので、まだ朝も暗くてだんだんと明るくなって、自分で決めた道に自分で踏み出していく。そういった場面の転換を歌詞とアレンジ、音色やエフェクティブなものなどで表現していければと思いました。
――「自分の道を踏み出していく」様子は、曲のタイトルである「ひとひらの未来」の志向と重なりますか?
atsuko この作品における未来志向って、必ずしも明るくて光輝く明るいものではないと思うんです。この「ひとひらの未来」という言葉は、サビ頭の“舞い散る桜”の歌詞から切り出していったものです。散りゆく桜に対して皆さん、郷愁を感じられると思うのですが、それは季節に急かされる感じもあると思うんです。寒さが収まったらいつの間にか桜が咲いていて、気づいたら夏になって、暑さが収まったと思ったら紅葉で、もう年末で、と。そんな目まぐるしいなか、たくさんの桜の花びらが散っていくのですが、ひとひらでもいいから未来を感じられるようなものを常に自分の中に持っていたいなという思いから、このタイトルにしていきました。
――カノエさんの『キンギョバチ』も、Dメロの歌詞のなかに“誰かがやらなくちゃ 誰も動かせない未来”という歌詞が出てきますね。
カノエ 登場人物たちが何かを動かすために1歩踏み出すか、それとも踏み出さないかの選択肢の一歩を曲の中にも落とし込もうと、Dメロに添えました。少しでも光を感じてそれを掴めたら何か変わるのではないかという希望を持たせています。
――同じくDメロのところに歌のタイトルと同じく「金魚鉢」という言葉が出てきます。これはどういう思いで付けられたのでしょうか?
カノエ 順番としては逆で、この部分からタイトルにしたんです。「金魚鉢」は、忘れ去られてしまった存在の象徴。お祭りの出店で金魚を獲ったりするけれども、そのあと覚えていないことってあるじゃないですか?社会や季節に取り残されてしまった人たちが、狭い空間で見えない壁に向かって戦っている様子がまるで金魚鉢に似ているなと思って書きました。もがき苦しみたいけど、自分がどうなっているかもわからない様子を綺羅びやかな金魚に例え、タイトルにも落とし込みました。
――この作品のどんな部分を見てほしいと思いますか?
カノエ 脚本を読ませていただいたとき、自分の中にとてもすんなり入ってきたんです。何でだったんだろうと思い返したときに、主人公のスズシロウくんやヒロインの(橋本)なずなちゃんと考えていることが同じだったんだなと気づいたんです。今の社会に対する怒りや苦しさ、「どうしたらいいの?」という思いを私自身も感じたので、同じ世代の方には必ず響くと思いますので、ぜひそうした方々に観てほしいですね。
atsuko 私は大人の目線で観ました。日本には失われた30年と呼ばれる時代がありますが、そこで苦しんでる人や大変な思いをしている人がいるにも関わらず、変わらない日々を過ごしている。そんな現在の日本社会とこの物語がリンクしている部分に共感を覚えました。何かを変えなければ未来も変わっていかないし、それぞれの年代がどういった一歩を踏み出すべきか、監督がアニメの作品にして発信されたのは、そうした問題を伝えたかったんじゃないかなと思います。老いも若きもこの作品をご覧になった方が「これからどう動きべきか」と考えるきっかけになってほしいですね。
KATSU 今回、神山監督の作品に携わることができて、今までのアニメ作品のエンターテインメントの切り口とは全く違う作品作りがあるのだなと思いました。観終えたあとに「わー、楽しかった」ではない部分があるんですよ。この2年間に世界中のみんなが感じた苛立ちやギスギス感をダイレクトに作品にしてくれましたし、その発散の気持ち良さを感じられる作品です。そうした意味でもとても面白かったです。アニメーション作品は今の日本が海外に輸出するものの1つです。そうしたエンターテインメントの形で作ったということが『永遠の831』のテーマなのかなと感じました。
INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
●作品情報
WOWOW開局30周年記念オリジナル長編アニメ
『永遠の831』
放送・配信:2022年1月30日(日)夜8時~
[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]※WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中
【スタッフ】
監督・脚本:神山健治
キャラクターデザイン:河野紘一郎
CGディレクター:松浦宏樹
テクニカルディレクター:田尻真輝
美術監督:滝口比呂志
音楽:椎名豪
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:CRAFTAR
製作著作:WOWOW
【キャスト】
浅野スズシロウ:斉藤壮馬
橋本なずな:M・A・O
亜川芹:興津和幸
アキナ:日笠陽子
室戸:大塚明夫
双六:粟津貴嗣
坂田兄弟(兄):近藤孝行
坂田兄弟(弟):岩崎諒太
ドンキ:山下誠一郎
各務恭子:五十嵐 麗
主題歌:angela
オープニングテーマ:カノエラナ
(C)神山健治・CRAFTAR・WOWOW/「永遠の831」WOWOW
『永遠の831』公式サイト
https://eienno831.com/
『永遠の831』公式Twitter
https://twitter.com/eienno831
angela 公式サイト
http://king-cr.jp/artist/angela/
カノエラナ 公式サイト
https://www.kanoerana.com/
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