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INTERVIEW

2022.02.16

【インタビュー】本人歌唱によって生まれた新たな可能性――“じん”活動10周年ミニアルバム『アレゴリーズ』に込められた創作の原点と挑戦

【インタビュー】本人歌唱によって生まれた新たな可能性――“じん”活動10周年ミニアルバム『アレゴリーズ』に込められた創作の原点と挑戦

世の中に対する問題提起、あるいは“自分”を確認するための音楽

――今作は1曲1曲がどれも鮮烈ですが、なかでも堀江晶太さんが編曲で参加した「消えろ」は、ピアノとアコギを軸にした爽快にしてアグレッシブなサウンドと、ある種の痛ましさを感じさせる言葉の連なりに衝撃を覚えました。

じん この曲は“自分を殺す”がテーマなんです。日常を生きていて「よし、今日は自殺しよう」みたいな日があるんですよ。今、自分が死んだらどうなるのか、結構本気で頭の中で想像するんですよね。もちろん死なないですけど。でも、それなんですよ。なんで自分は死なないんだろうと。だって死にたいなら別に死んでもいいじゃないですか。死んだあとのことなんてどうでもいいですし。でも死なない。毎回自分を止めてる自分がいて、「誰だ?邪魔すんな」って思ったんですよね。だから「俺は死にたいのに、俺の自殺を止めるな、自分よ」という意味合いの曲。別に特別な思想があるわけではないですけど、強烈な疑問ということですよね。

――それを音楽として形にしてしまえるところが、この曲のすごさと言いますか。

じん 「音楽ってそういうことじゃないの?」と思うんですよね。問題提起というか。これは別に自分が正しいとか誰が間違っているとかではないんですけど、強烈な疑問や「これは俺だけか?」というものを世界にバン!と鳴らして、その反響によって自分が人間になるという所作こそが、自分にとっての音楽なので。そういった原点の音作りをしたのが「消えろ」です。まあ、この中学生が考えるようなことを30歳になってもまだ考えているんですよ、僕は(笑)。でもそれは本当に自分だけか? 30歳になってもふと死にたいと思う人はいないのか? 本当にみんな大人なのか?っていうテーマの曲でもあると思いますね。

――そういった無常感、あるいは取り残されていく者の寂しさや悲しみを強く感じたのが、THE BACK HORNの菅波栄純さんがeijun名義で編曲に参加した「VANGUARD」です。

じん 「VANGUARD」はアーティストの友人が死んだことがきっかけで生まれた曲で。その友人が亡くなったとき、SNSとかで、いかに彼が魅力的だったのかを語っている人がたくさんいたんですけど、なんで死ぬ前にそれを言わなかったんだって思ったんですよ。そんなものは何一つ届かないし、すごく悲しいなと思ってしまって。そういう無常を形にしたかったんですね。もちろん亡くなった人を偲ぶのは生きている人間の責任でもあるわけですから、そういう現象が起きることを否定しているわけではないです。だからこれは僕の単純な疑問や感想なんです。別にそれが正しいとは思ってもらわなくてもいいけど、「おかしくないかって思ったよ、俺は」っていう。でも、僕は人生において、この確認が何事にもまして大事なことだと思っているので、そういうものに相応しいメロディと歌詞を選びましたし、正解かどうかもわからないことに時間をかけて作りました。

――生半可な気持ちで作ったわけではないと。

じん 僕は音楽をそういうものだと思って聴いていたので。それこそTHE BACK HORNもそうですし、僕が憧れていた方々の音楽に対するスタンス、それを僕もやっているだけなので、特別なことはしていなくて。だから普通のアルバムです。

――とはいえ本作には、今までにない特別なものを感じるのも事実で。先ほどのロックオペラの話を例にとると、そういった作品の場合、物語の壮大さに比例して、作り手本人のパーソナリティみたいなものは希釈されるわけじゃないですか。

じん それは絶対にありますね。

――その意味では、ロックオペラ的な作りだったこれまでのじんさんの作品と比べて、短編集的な本作ではじんさん自身のパーソナルがより濃く出ているのではないかなと。

じん 確かにあまり希釈されていない、僕の濃いものが出ていると思います。今回、1つ1つのテーマに関して非常に考えて作ったんですよね。難しい。音楽を作るのってめちゃくちゃつらいですね。なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう?と思って。普通に仕事して、定時に帰宅して、家でNetflixをぼーっと観る生活も全然悪いと思わないんですよ。でも、そう生まれてきちゃったんですよね。

――でも、モノを作ることが生きがいだったり、自分の存在意義と感じる部分もあるのでは?

じん まったくないです。モノなんか作りたくないですよ。普通にイケメンでスポーツ万能で頭が良くて女の子にモテモテで、僕が言っていることを誰もが理解してくれる状況なら、マジで作らないと思います(笑)。でもそうではないから、やらざるを得ないからやっている。体の中に溜まっているものを出さないと、パンパンになってしまうので。

――ただ、じんさんのように多くの人の共感を得られるものを作れる才能というのは、一握りの人しか持っていないものだと思うんですよ。作りたいと思っても作れない人がたくさんいるわけで。

じん なるほど。自分にその才能があるとは思っていないですけど、確かに作りたくても作れない人がいる。うーん……でも、それは何かしらの問題があるんだと思いますよ。自分がやっていることと目指すところとの差の中に、噛み合わない何かが起きているのかなと。僕は自分が作っている曲を母がいいと言ってくれるのがすごく嬉しくて、それだけで1つ満足するところがあるんですね。でも、社会性を獲得したいという意味で、人に自分の作ったものを知ってもらいたいという動機で、本気で創作をやっていて。きっと好きだけど作れない人は、ほかで自分を満たしているんだと思います。ゲームをやる、人と話す、アニメを観る、女の子と付き合うとか。あまり認めたくはないですけど、自分は幸福への飢餓感があるからこそ、より貪欲に、暴力的に音楽の実現を果たそうとするのが、良い音楽の醸造のされ方なんだと思います。

次ページ:『アレゴリーズ』の制作がもたらした気付きと手応え

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