リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2021.10.02

【スペシャル対談】ついに放送開始!TVアニメ『海賊王女』監督・中澤一登と音楽担当・梶浦由記に作品の魅力を聞く

音楽から湧きだしたイメージに合わせてあらためて作画を

――梶浦さんは『海賊王女』という作品にはどんな音楽が求められていると感じましたか?

梶浦 「ワクワク」です。「これはワクワクだな」って思いました。

中澤 そうですね。

梶浦 話の進展が速く、どんな未来かはわからないけれどもみんなが積極的にどんどんと未来へ向かって前進していくストーリーなんですよね。積極的ではなかった人もフェナに巻き込まれて。だからやっぱり、音楽でも「次はどこへ行くんだろう」というワクワクがないと、あるいは辿りついた場所でワクワクしてもらわないといけない。だから、「この場所に行きたい」とか「ここで遊びたい」とか「この船に乗って海の上を走ってみたーい」とか、そういったワクワクを届けられる音楽にしたかったですね。

――現実世界には存在しない異世界感を持つ作品でもありますが、その点で意識された点はありますか?

梶浦 旋律を曖昧にするというか、わずかな異世界感を必ず入れておくというところですね。『海賊王女』はいろいろなバックボーンがある作品ですが、向かう場所は誰も知らない場所というか、いつも異世界な雰囲気にしたかったんです。冒険の始まりとなる娼館の島もすごくいろいろなものが混在しています。イギリス海軍のような兵士も登場しますが、侍も出てきます。混沌とした雰囲気の中に響く音楽という意味で、ヨーロッパではない、東南アジアでもない、中近東でもない、かといってチャイナでもない、そんな異世界感を絵にしたような音にしたいと思いました。むしろ特定の国籍を感じさせてはいけないんですよね。私たちが夢見る異世界、ですね。

中澤 本当にそうですね。

梶浦 どこにもない異世界と言ったらこれでしょ、みたいな。久保田早紀みたいな。

――「異邦人」ですね(笑)。

梶浦 あの曲も「どこでもない」じゃないですか?イスタンブールを感じさせますが少し違いますし。やっぱり私たちが一番ワクワクするのはどこの国でもない異世界、「ここではないどこか」ですよね。そういうものが漂う音楽にしたいとずっと思っていました。だから、違和感がちょっとある旋律を目指しました。海の上で聞こえる音にしても街の音にしても、ここから先の何かを夢見るような音楽にしても、素直なテンションではないというか、「ここだけどうしてマイナーノートに?」「どうしてシャープに?しかもここだけ1音低いのはなぜ?」というように。でも、ちょっとでいいんですよ。違和感を意識させてもいけないので。「よく聴いたら何か違うね」という音楽を狙っています。

中澤 今回、一度に全曲が上がってきたんですけど、聴いていたら鳥肌が立ち過ぎて風邪引きそうでした(笑)。思わず「CDはいつですか?」ってすぐに聴きましたからね。12/8らしいんですが(笑)。でもずーっと聴き続けていると(The Beatlesの)『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の頃のコンセプトアルバムの雰囲気を感じたんですよ。それぞれが独立した曲ではありつつも全体として作品のように仕上がっていたんですね。

――あるアニメ作品のサウンドトラックという共通点以上にコンセプトを感じるような?

中澤 そうですね。特に核となる「Vice Versa」となる曲を聴いたときはもう「ああああぁ……」ってなりましたね。なんて言うか……。どう言ったらいいんでしょうね。

――魂が抜けてしまうような感じでしょうか?

中澤 あ、そうそう、そうです。聴いていたら「いや、そうなんだよね」という感じになりましたし、同時に「癒し」でもありました。ただ感動したと同時に、この曲がはまる場面を作らなければいけない、と負けたくない気持ちも少し出てきました。聴きながらずっと、「どういう色なんだろう」というようなことを考えながら作業していました。今までそんな感覚で仕事をしたことはなかったですね。多分日本で一番聴いているのは僕だと思います。1年以上にわたって1日6ループくらいを続けていますからね。それも今後15年くらいにわたって。

――宣言、ですね(笑)。

中澤 それから先ほど仰られた隠し味みたいなのが入っているんです。それによって聴いていたら「ここに向かうだろうな」という予想を裏切られて驚かされるんですよ。面白いというか不思議な感覚でしたね。

梶浦 でも、コンセプトアルバムっぽい作り方を少ししちゃったかもしれないという自覚はあります。

中澤 やっぱりそうですか。

梶浦 (『海賊王女』は)非常にドラマチックな作品ということで、作っていたらだんだんサントラ曲なのになぜか4分くらいの長さになることがあって。

中澤 そうなんですよ。サントラっぽくない感覚でした。

梶浦 「作り込んで長くなったらサントラとしては使いにくいのでは?」というところに少し入り込むことがありました。多分、物語の世界観や海賊王女というコンセプト、海の上を旅するイメージによるところだと思うんですが。なにせ船がめちゃめちゃかっこいいし、しかも(第2話の)その登場シーンがめちゃめちゃドラマチックですから。そこに安っぽい音楽を流せないじゃないですか?(笑)。「これは力を入れなければ」と引っ張られた結果、少しだけサントラの域を逸脱し、饒舌になり過ぎたところが無きにしも非ずかもしれません。

中澤 いやいやいやいや。

梶浦 コンセプトアルバムに聴こえたのも、そちらに寄ったからかもしれないです。

――でも、そうなるとどうシーンに当てはめてくれるか楽しみですね。4分をそのまま使うことはないでしょうし。

中澤 ところが。使っているんですよね(笑)。終盤ではフィルムスコアリングまでやっていただきましたし。

梶浦 最後の話数ではフィルムスコアリングをやりたいですね、という話になったんです。だから、あとからシーン合わせで音楽作ったところもありました。

――では、『海賊王女』の魅力の一つとして、梶浦さんの音楽との一体感を見てほしいというところでしょうか?

中澤 いや本当に。そう、本当にそうですよ。だって音に合わせて作っているんですからね。

梶浦 あと、実は不思議なご縁もあったんですよ。作品の中に登場する街の一つが、私が遊びに行ったことのある街で。

中澤 モデルにした街に行ったことがあるらしくて。

梶浦 その街の雰囲気をよく覚えていたので、「わ、あそこだ」ってすぐにわかりました。イダー=オーバーシュタインという鉱石で有名なドイツの観光地なんですが、そこにサマースクールのような形で行ったことがあるんです。元々は鉱山都市で、今も鉱石や宝石では有名な街なんです。子供が行って水晶を掘る体験もできるんですね。山のほとりにある、すごく綺麗な街ですし、楽しかったし、多分、一週間くらい滞在したと思うので覚えていたんです。でもまさか、自分の関わる作品に思い出のある街が出てくると思わなかったですね。

――中澤監督がイダー=オーバーシュタインを登場させた理由というのは?

中澤 ヘッジスの水晶ドクロが作られた街なので。

――オーパーツとして有名でしたが、実は近代に作られた加工品であると判明した。

中澤 そこは職人気質の街なので作品に銘を掘らないということも聞いて、「なんて神秘的な街だ」とも思ったんです。そうしたら梶浦さんに「行ったことがあって」「観光地なんです」と言われて、「えぇっ?」となりました(笑)。ネット上にあまり情報がないのも、神秘的で謎めいた街だからかと思っていたんですが、ただ小さい街らしくて。

梶浦 観光地といってもあくまでドイツ国内での観光地で。それにすごく綺麗な街なんですよ。でも、そんなマイナーな地名がまさか出てくるとは思いませんでしたし、作中で一瞬立ち寄るだけではありますが急に親しみが湧いてきました。

中澤 いや、でも、その街で流れる曲がめちゃくちゃいい曲で。

梶浦 これ以上、光栄なことはないです。作曲家冥利に尽きすぎています。

中澤 こちらこそ絵描き冥利に尽きるという感じです。作りながら、「見ていて楽しいと思えるのは何十年ぶりだろう」と思いました。背景を頼んだ竹田(悠介)さんは、個人的に今の日本で一番上手いだろうという方なんですが、僕の意図を理解してくれて、すごく綺麗に仕上げてくださったので嬉しかったです。話の筋なんかどうでもいいように思えてくるというか(笑)、絵が綺麗だから見ていられる感覚はすごく久しぶりでした。昔のファンタジー映画のように、よくわからない部分もひっくるめて目の前にある映像をただ受け入れられる、というところが懐かしかったです。

梶浦 私はいつも背景を先にいただくんですが、今回も音楽を作り始める前に「あるだけください」と言ったんですね。で、背景画をいただくと作品のキーになると思う絵をカラープリントして、見えるところに貼ってから作曲するんです。それを見れば、「この世界だったらこういう音楽が聴きたいな」とすごく思えるので最後のサウンド感に悩まないんですね。今回は、第1話に登場する紫色の街並みは早くからいただいていたので、それを貼って作っていました。あと、夜景もいっぱい貼っていましたね。だから『海賊王女』は、タイトルだけでワクワクするコンセプト、ストーリー、そしてすごく美しい背景画というところがすごくエネルギーになりましたし、これでもかというほどにインスピレーションをいただきながら音楽を作ったんですね。その音楽が作品にピッタリだと言ってもらえるなんて、これ以上の名誉は作曲家にとってありませんね。

中澤 こちらでも、「(音楽に)これ以上は望めないよね」という話は作りながらしていました。だからこそ色も雰囲気もシーンも音に合わせて作っているんです。

――音楽に合わせて作画を? サントラ曲をもらってから作画に入ったということでしょうか?

中澤 そうです。撮影のフィルターも音に合わせています。でも、それが一番確実ですよ。僕が音楽から受け取ったイメージを絵にしているので。だから声を大にして言いたいですが、全アニメがそうするべきです。

――作画作業に入る前に劇伴を作ってもらうべきだ、と。

中澤 作業前に音楽が上げられる状況を整えた上で発注し、上がってきた音楽を元にあらためて作るというやり方をとるべきだと思いました。アフレコではなくプレスコで行っていますしね。

梶浦 普通、音楽が絵に合わせてカラーやトーンを変えることはままありますが、絵の方で合わせていただけるなんてことはまずないので、本当に光栄です。

――いわば、一度できた作画を作り直すというのは、スケジュール的にも労力的にも大変だったのではないかと思うのですが。

中澤 スケジュールに関しては最初からその想定でしたし、そこに余分な労力がかかったという感覚もありません。一度組み立てたものをばらしてもう一度組み直した方が良くなるのは当然という感覚ですね。むしろ「一度ではできない」ですよ。

――作画と音楽、どちらの作業が先行したとしても、整えるなりすり合わせるなりの工程が必要ということでしょうか?

中澤 正直なところいただいた音楽のイメージに絵が追いついていないという感覚だったんですよ。だから絵をそのレベルまで持ち上げないと失礼ですし、単純に負けたくないという気持ちですよね。「音楽はいいんだけど」と言われるのが本当に辛いので。だから徹底的に絵はブラッシュアップしましたし、逆にフィルムスコアリングのシーンも編集し直しました。

――『海賊王女』の世界観構築に梶浦さんの音楽が大いに寄与しているというところでしょうか。ある意味、クレジットの「原作」に「梶浦由記」の名前があってもいいくらいの。

中澤 ええ、入っていてもいいと思います。

梶浦 いや、とんでもない(笑)。

中澤 音楽のほかに「Special Thanks」と入るとか。でも、そんなことをしたら梶浦さんが一番困惑するでしょうが(笑)。

次ページ:深みのある奥行きが描き出された美しい絵がそこに

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP