今年4月にデビュー9周年を迎え、ますます精力的に活躍する鈴木このみが、ニューシングル「Missing Promise」をリリースする。表題曲はTVアニメ『ひぐらしのなく頃に 卒』のEDテーマ。声帯結節の手術とリハビリを経て、新たな歌声を手にした彼女の繊細な表現を堪能できる、作品の世界に寄り添った美しくも切ない“約束”の歌となっている。デビュー以来、アニソンシンガーとして進化を続けてきた彼女が一度立ち止まり、改めて「歌うこと」と向き合った末に辿り着いた境地とは? 今の想いを包み隠すことなく話してくれた。
――鈴木さんは昨年12月に声帯結節の手術治療をされましたが、術後の経過はいかがですか?
鈴木このみ もうだいぶ良くなりました。実は手術をする前に色んな方にお話を聞いて、裏でこっそり情報収集していたんです(笑)。それこそ亜咲花ちゃん、(伊東)歌詞太郎さん、(草野)華余子さん、私の周りには手術経験者の方がたくさんいたので。でも、皆さんから聞いていたよりも回復が早かった印象があります。
――それは良かったです。リハビリも順調でしたか?
鈴木 最初はとにかく大変でした。術後は(歌声の)キーが全体的に上がって、高音は何曲でも歌えるぐらい気持ちよく伸びてくれるんですけど、逆に低い音が出づらくなって、一定の音から下にいくと、急に息が8割みたいな感じになってしまって、声がマイクに乗らない状態がしばらく続いたんです。そこから徐々に歌い馴らして、今は低音も出るようになりました。多分、これからもまだ伸びる気がするので、練習していて楽しいです。
――手術前は思うように歌えないこともあったのですか?
鈴木 すごく歌えないわけではなかったのですが、喉を休める日をしっかりと取らなくてはいけなくて。お仕事的に調整が必要だったり、レコーディングの場合も練習しすぎるとすぐに喉が枯れてしまうことがあったのですが、今はそういう心配をしなくてもよくなりました。自分が歌いたいと思ったらすぐ歌えることがめっちゃ幸せです!
――鈴木さんにとって歌は、切っても切り離せない存在ですものね。
鈴木 自分が思っていたよりも歌が好きなんだなって、今回休養してみて初めて感じました。私は小さい頃からずっと歌い続けてきて、デビューしてからもありがたいことに定期的にリリースが続いて、シングルも今回で21枚目になるので、今までほとんど休むことがなかったんです。だから2ヵ月休養したときに、「私、めっちゃ歌うの好きじゃん!」ということに気づいて(笑)。
――やはり休養中は歌いたい気持ちが強まった?
鈴木 早く自分の声を聴きたくなりました(笑)。ただ、術後に初めてスタジオに入ったとき、最初はもう意気揚々だったんですけど、声を出してみたら、「なんだこの声は!?」って思うぐらい全然声が出なかったんですよ。そのときにスタジオでワンワン泣いたのを覚えています。
――そうだったんですね。
鈴木 しかも“ANIMAX MUSIX 2021 ONLINE”でステージ復帰することが決まっていたので、焦りがすごかったですね。ファンのみんなも色んな言葉を届けてくれて、楽しみに待ってくれていることが、ひしひしと伝わっていたので。でも、ステージ復帰の日が決まっていたからリハビリをすごく頑張れたんだと思います。私は夏休みの宿題も最後まで残すタイプなので(笑)。
――高音が出やすくなったとのことですが、そのほかに、ご自身の歌声に変化を感じることはありますか?
鈴木 今回のシングルが、術後にレコーディングした最初のリリース作品になるんですけど、圧倒的に声の透明度が上がったと思います。以前の自分の声はハスキーさが強めで、ボーイッシュな方向に振りやすい感じでしたけど、今は透明度や純度が増したことをレコーディングしながら感じました。ただ、今が100パーセント完成体というわけではなくて、多分まだいけると思うんですね。声帯自体が前とは変わったので喉の使い方も違っていて、これからもっと歌えば歌うほど、それにどんどん慣れていくと思うので、もっと上手くなれる予感がしています。今のところ歌っていてすごく楽しいので、手術して良かったです。
――ニューシングルの表題曲「Missing Promise」は、TVアニメ『ひぐらしのなく頃に 卒』のEDテーマ。鈴木さんが『ひぐらしのなく頃に』(以下、『ひぐらし』)シリーズの楽曲を歌うのは今回が初ですが、作品自体にはどんな印象をお持ちでしたか?
鈴木 名前はもちろん存じ上げていたのですが、作品は今回のお話をいただいてから初めて観ました。元々はとにかく怖そうなイメージがあって、それも人の手がかかっていない感じのホラーなのかなと思っていたんですけど、実際に観てみたら、人が意識的に起こしている怖さや事件が多くて、私が思っていた印象とは結構違っていました。登場人物たちも最初はピュアだけど、そこから愛情がこじれて、ねじれてしまうところがあって。
――そういった要素は、この楽曲にも落とし込まれているように感じました。
鈴木 ありがとうございます。今回は作品の内容的に歌詞がすごく大切になると感じたので、楽曲を制作する前に、「『ひぐらし』で私が歌えることは何だろう?」ということを考える会議を、作詞家のhotaruさんも交えて行ったんです。私はそこで、『ひぐらし』のみんなが元に持っているピュアな愛情、結果的には許せなくてねじれてしまうけど、(北条)沙都子の(古手)梨花への愛情を否定しないものを歌いたいというお話をして。希望の見える楽曲にすることに関しては全員意見が一致していましたし、アニメの原作サイドからも今回は希望が見える形のEDテーマでも大丈夫と言っていただけたので、そこはスムーズに進みました。
――タイトルの「Missing Promise」にも象徴されているように、この楽曲は、沙都子と梨花が劇中で交わした“約束”と、それに起因する“すれ違い”がモチーフになっているように感じました。
鈴木 まさにその通りだと思います。個人的には、ワンコーラス版の歌詞は“君ともう一度約束を”で終わるんですけど、フルサイズだと最後は“君ともう一度約束を交わそう”とちゃんと言って終わるところが、1曲の中で気持ちの変化が見られるし、歌っていても気持ちが良くて。いつもはOPテーマで着火剤みたいな部分を請け負うことが多いですけど(笑)、EDテーマはいかに余韻を残すかが大事だと思うので、エンディングならではの楽しさを感じながら歌いました。
――アレンジ的には、ストリングスを大々的に取り入れた、ドラマチックかつスケール感のあるサウンドに仕上がっていますが、楽曲を受け取ったときの印象はいかがでしたか?
鈴木 美しいけど、どこか陰りもあって、絶妙なバランスだと思いました。歌い出し前のイントロから、何かが背後からぞわぞわとにじみ寄ってくるような感じがして、「なんか黒いものが滲んでますよね?」みたいな(笑)。歌詞で描かれている「何回間違ったとしてももう一度」という部分は、自分らしい考え方でもあると思いましたし、『ひぐらし』にも当てはまっていて、すごくいいところに辿り着けました。
――ただ、この楽曲、メロディや譜割りに独特の揺らぎが感じられて、歌いこなすのは相当難しいかと思います。
鈴木 そうなんですよ! レコーディングする前から「この曲、どこで拍を取るんですか? 取れないんですけど……」という相談をしたぐらいで(笑)。でも、私は感覚的に捉えていたのですが、確かに言葉とメロディの揺らぎが、この曲の絶妙なバランスに繋がっているのかもしれないですね。
――その難しい楽曲を、どのように自分の中に落とし込んで表現しましたか?
鈴木 とにかく丁寧に歌いました。前作の「Bursty Greedy Spider」は雑味があっても嬉しい楽曲だったので、「荒く歌う」というのが課題だったのですが、今回は逆にめちゃくちゃ丁寧に歌うことが目標だったので、かなり振り幅が大きくなりました。自分が今まで歌ってきたものと比べてテンポが遅めなので、だからこそ声が消えてなくなる瞬間までちゃんと命を吹き込まないといけないなと感じて、かなり細かくやっていきました。
――術後のレコーディングという意味で、今までとの変化はありましたか?
鈴木 この神秘的で澄んだ感じは、前のハスキーな声質では表現できなかったと思うので、その意味では自然と声質がベストマッチになったと思います。でも、逆にBメロの音が低くなるところは、重みを表現しづらくなっていたので苦労しました。
――幻想的なコーラスを含め、透明感が増した歌声の魅力を存分に発揮されていますね。
鈴木 個人的には浄化エンディングみたいな立ち位置になればいいなと思っていたので、ある意味、人間っぽくないというか、神々しさのあるボーカルを意識して歌いました。個人的にはサビ前の“その笑顔なのに”のところも好きですね。そこで一瞬フワッと笑ってみたりして、神々しいけど一瞬人間に戻るイメージでレコーディングしました。
――アニメ本編では、沙都子と梨花の関係性は常に揺らいでいますが、エンディングのアニメーションを観たときに、その二人の関係を繋ぎ止める役割を、この楽曲は担っているようにも感じました。
鈴木 ありがとうございます! 私もエンディングのアニメーションを観たときに、すごく愛情を感じたんですけど、二人が仲良くしている場面が中心だったので、それを見ていると逆に苦しくなってしまって(苦笑)。今回は二人のための楽曲という部分もあるので、個人的には沙都子にはハッピーエンドを迎えてほしいですね。
――ちなみに「Missing Promise」を作編曲した半田 翼さんは、鈴木さんと同い年らしいですね。
鈴木 そうなんです! 楽曲的に完成度が素晴らしすぎて、勝手に年上の方が作られたと思っていたんですけど、レコーディングのときに同い年ということをお伺いして。多分、同い年の作家さんに楽曲提供していただいたのは初めてのことで、自分もそういう年齢になってきたということも含めて、ダブルでビックリしました(笑)。
――半田さんはどんな方でしたか?
鈴木 菅野よう子さんがお好きということで、私も好きなので、二人でそのお話で盛り上がったりして。そのお話を聞くと、この楽曲にもルーツを感じて「たしかに!」と思いました。
――なるほど。しかし、この美しくも独創的な楽曲には驚かされました。
鈴木 でもサビはキャッチーなので、それもまた絶妙ですよね。そもそも今回のEDテーマは、もっとバラードみたいな曲調にする予定だったんですけど、(コンペで集められた楽曲の中で)この曲だけ全然違う系統だったんですよ。でも、みんなこの曲が気になってしまって、色々お話していくなかでこの曲に決まった経緯がありまして。このひと癖ある感じが『ひぐらし』らしいのかなと思います。
――MVについてもお聞かせください。こちらも神秘的な雰囲気の映像に仕上がっています。
鈴木 “すれ違う二人”“運命”といったキーワードを軸に、監督さんに作っていただきました。今回は3拍子系の楽曲ということもあって、特にサビの部分は“踊っている女性”のイメージがあったんですけど、MVの打ち合わせでスタッフさんからコンテンポラリーダンスのアイデアが出たときに、まさにそれ!と思って(笑)。やっぱり今回は二人(沙都子と梨花)の楽曲なので、私一人では完結させられないと思って、ダンサーの方にも参加していただきました。
――鈴木さんの衣装は白、ダンサーの方の衣装は黒で統一されていて、対照的な存在になっていますね。
鈴木 目線とかも、自分が見ているときに相手は振り向いてくれなかったり、ずっとすれ違ったまま進んでいくところがニクいなと思います。手を繋ぎそうなところでも、繋ぐかと思いきや場面が切り替わったりして。
――撮影場所の湖畔も、とても趣きのある雰囲気でした。
鈴木 群馬の山奥で撮影しました。午前4時ぐらいから撮影して、朝の冷え冷えとした湖の中に入水したり。でも空気がすごく澄んでいたので、すごく綺麗な映像になりました。
――『ひぐらし』の舞台となる雛見沢村は、ダムの建設予定地だった設定なので、その意味ではあのロケーションも作品に合いますね。
鈴木 たしかに。監督はそこまで考えてくれたのかな? だとしたら、ちょっとぞわっとするけど。
スタッフ あの湖は、それこそダムを作ったときに溜まった水を逃がしてできたものらしいので、あながち外れじゃないかもしれないですね。
鈴木 えっ、怖い!(笑)。でも楽曲的にも作品的にも、あの自然に囲まれた雰囲気は合っているなと思いました。
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