INTERVIEW
2021.08.05
バンダイナムコエンターテインメントが送る本格的なダンスミュージックを中心とした音楽原作キャラクタープロジェクト「電音部」。このプロジェクトが1周年を迎え、これまでの楽曲をまとめた初のアルバム『電音部 ベストアルバム -シーズン.0-』がリリースされた。
リスアニ!WEBでは、「DJ」と「キャラクター」をテーマに、アキバ、ハラジュク、アザブ、シブヤの4エリアに分かれてトラックメイカー、声優陣、イラストレーター、エンジニア、動画クリエイターなどが集結するこのプロジェクトの魅力を紹介するべく、コンポーザー&声優陣の対談企画を実施。
今回は第1弾として、ハラジュクエリアのセンター・桜乃美々兎役の小坂井祐莉絵と、美々兎のソロ曲「Do You Even DJ? (feat. Neko Hacker)」を手がけた音楽ユニット・Neko Hackerのかっさん&Seraに、このプロジェクトならではの魅力や楽曲制作時のエピソードを聞いた。
【第二弾】アザブエリア:秋奈(黒鉄たま役)×ケンモチヒデフミ
【第三弾】アキバエリア:天音みほ(東雲和音役)×TAKU INOUE
【第四弾】シブヤエリア:健屋花那(鳳凰火凛役)×Masayoshi Iimori
――まずは、皆さんが電音部の始動時に感じた魅力を教えてください。このプロジェクトにどんな印象を持っていましたか?
かっさん 電音部が始まったばかりの頃は、Neko Hackerは完全に外部の人間だったので、「めちゃくちゃ尖った、面白いコンテンツが始まったなぁ」と思って見ていました。クラブミュージックやDJの文化をここまで本格的に、メインに据えているコンテンツってなかなかないですし、商業作家ではない、アーティストとして活動しているトラックメイカーの方々もたくさん参加していて、その人たちが自分の作品かのように好き放題暴れ回っているのを見て「すごいなぁ」「めちゃくちゃいいプロジェクトだなぁ」と。
――かっさんさんは当時、「Neko Hackerも参加するのでは?!」というリスナーの皆さんの声にTwitterで反応していましたよね。
かっさん Twitterでそういう声をたくさん見かけましたし、とても楽しそうなプロジェクトだったので、呼ばれていないことに拗ねていたんです(笑)。
Sera 「いいなぁ。俺たちも呼んでくれませんか……!」って(笑)。なので、実際に呼んでいただけたときはすごく嬉しかったです。「電音部に参加したい……」「電音部から話来てますか……」って、ご飯を一口食べるたびに言っていましたから。
小坂井祐莉絵 あははは(笑)。
――小坂井さんはどうだったんでしょう?
小坂井 私はオーディションの際にプロジェクトを知って、キャラクターも今演じている桜乃美々兎ちゃんで受けました。ただ、音楽は元々すごく好きでピアノやクラシック、アニソンのように色んなジャンルの音楽を聴いてきたんですけど、DJやトラックメイカーの方の音楽は、聴いて踊ったりすることはあっても深く触れたことはなかったので、私にとってはまったく新しいところに飛び込むような感覚でしたね。「人生が変わりそうだな」「新しい世界が広がるだろうな」「新しい自分になれるんじゃないかな」と思っていました。
――声優陣の皆さんはCVだけでなくDJもされていますが、そう考えると小坂井さんにとっては新しいことの連続だったんじゃないですか?
小坂井 そうですね。まるで、知らない外国語をいちから覚えるような経験で、緊張はしていますけど、すごく楽しいです。私はそもそも、DJの方が音の速さを調節して曲を繋いでいくことも電音部に関わり始めてから知りましたし、「BPM」という言葉だって、最初は全然何のことかわからなかったんです(笑)。でも、電音部が始まってからは、「ボーカルの後ろの音の構成がどうなっているのかな?」とか、「曲の速さがどうなっているのかな?」とか、着目するところが少し変わって、音楽を聴くこと自体がもっと楽しくなりました。
――一方でNeko Hackerのお二人の場合、先ほどのツイートから約1年後にあたる今年の5月に、「Do You Even DJ? (feat. Neko Hacker)」で満を持して電音部に関わることになりました。
かっさん 外から見ていた時点では、どうやら4つのエリアに分かれていて、DJをやったり音楽を作ったりするらしい、というくらいの理解度だったんですけど、実際に関わっていくうちに「キャラの個性がすごいんだな」ということがよくわかってきました。自分の場合、「美々兎の曲を作らせてもらってよかった」と思えるくらい、美々兎というキャラクターに自分と重なる部分を感じましたし、電音部を通して、音楽を入口にしてキャラを深堀りしていく魅力をすごく感じましたね。
Sera まるで「やり込み要素がたくさんあるゲーム」みたいなプロジェクトですよね。色んなクリエイターの曲を聴いたり、歌詞を読んだり、コミックムービーに触れたりするなかで作品の背景を深く知るための要素が散りばめられていて、それを探すのも楽しいというか。
小坂井 そもそも、学校にDJの部活=電音部があるのって素敵ですし、「音楽が大切にされている世界だな」とすごく感じます。私自身、軽音楽部に入っていたこともあって音楽が好きな人間ですし、高校生が部活動に熱い気持ちで打ち込んでいる姿も、美少女も好きなので……「素敵な世界だな、この世界に行きたい」と思うくらいです(笑)。
――皆さんはハラジュクエリアに関わっていますが、アキバ、アザブ、シブヤに比べて、ハラジュクならではの魅力はどんなものだと思っていますか?
かっさん ハラジュクの場合、落ちこぼれじゃないですけど、エリートであるシブヤエリアの受け皿になっているような雰囲気ですよね。そこから生まれたアンチテーゼというか。
小坂井 一番闇深い気がします(笑)。彼女にしたら面倒くさそうというか……! もちろん、それがハラジュクエリアのキャラクターたちかわいいところだと思うんですけど。
かっさん ハラジュクエリアの三人って、人間っぽさを感じる気がするんです。僕は普段、キャラクターに感情移入することはそこまでないタイプなんですけど、ハラジュクエリアの子たちは全員「わかる!」という感じがするというか。表と裏があって、すごく人間っぽいと思うんですよ。美々兎だって、人前での自分と本当の自分とはちょっと別のところにあって、その狭間で葛藤して苦しんだりしていますよね。そんなふうに、ハラジュクエリアの三人って、イケイケで裏表がない主人公的な感じとは違うというか、表では「主人公です私!」と言っていても、裏では全然そうじゃない、むしろ「上手くいかないな……」と思っているタイプの人間で。そういう部分がすごくいいなぁ、と思います。
Sera だからこそ、色んな愛の与え方ができるキャラクターなのかな、という気もします。ネガティブなところを切り取って自分と重ねる人もいるでしょうし、一方で、そんなふうにもがいている子を応援したい、というアイドル的な応援の仕方もできるでしょうし。三人の関係性も含めて、色んな面から魅力的に思えるところがあるんじゃないかな、と思います。
かっさん 三人の関係性、めちゃくちゃいいですよね。
――ハラジュクエリアの場合は、部活動にあまり乗り気じゃない(水上)雛と(犬吠埼)紫杏の二人を、小坂井さんが演じる美々兎が巻き込んでいくような雰囲気ですよね。
かっさん そうですね。でも、二人も嫌々美々兎ちゃんについていっているようでいて、結局楽しく思っているんじゃないかな、という雰囲気がすごくいいなと思います。
小坂井 わかります。あと、ハラジュクエリアって、本当に二面性のあるキャラクターが多くて、誰だって「そのどちらかならわかるよ」と共感できると思いますし、毒を吐いたりもしますけど、私と一緒に声を担当している二人もすごくかわいい声なので、ちょっと悪い歌詞を言っていても、それがかわいくなる気がするんです(笑)。いつもデモ音源をいただいた時点では、「えっ、こんな曲を歌って大丈夫ですか?」と思うんですけど、完成したものを聴くと、それがすごくかわいくなっていて。そんな、かわいいだけじゃない雰囲気が好きです。私は紫杏ちゃんと雛ちゃんのビジュアルも好きなんですよ。美々兎ちゃんのビジュアルも、演じていくなかでとても好きになりました。
かっさん Mika Pikazoさんのキャラクターデザイン、本当にいいですよね。
Sera ちなみに、キャラを演じると、自分自身もその性格に寄っていったりするんですか?
小坂井 そういう部分もあるかもしれないです。寄っていく、というよりは、私は元々美々兎とは正反対の性格だと思っていたのに、自分の中にも美々兎っぽさがあるな、と気づいたような感じでした。レコーディングのときに、「美々兎に似てるよ」と言われて「え?」と思ったんですけど、曲を歌っていくうちに、自分にも確かに似ている部分があるなぁと感じるようになって。最初より、美々兎との距離が近くなった感じがしますね。私は寝て食べたら落ち込んだことも忘れるような性格なんですけど、ときには色々と考えて悩むこともあって、「わかるよ、美々兎!」って思ったりしたんです。
かっさん 演じることで自覚が生まれたのかもしれないですね(笑)。あと、ハラジュクエリアの場合、音楽的には、僕らが参加する前にYunomiさんたちが原宿っぽい王道の「kawaii」雰囲気を壊してくれていて、奇抜なことをやっていいような雰囲気を作ってくれていたのも大きかったと思います。「このジャンル」という括り方をあまりしなくていいというか、「kawaii」に振っても、「Hyper Bass(feat. Yunomi)」のような攻めた方向に振っても成立するようになっていたことは、「Do You Even DJ? (feat. Neko Hacker)」を作る際にもすごく助かりました。
――では、その「Do You Even DJ? (feat. Neko Hacker)」の制作過程について詳しく教えてください。
かっさん 最初にアイデア出しの時点で思っていたのは、僕らもYunomiさんの「Hyper Bass(feat. Yunomi)」ぐらい攻めたことをやりたいな、ということでした。と同時に、せっかくDJをテーマにしたコンテンツなので、本当にDJしやすいものにしようと考えた結果、「Hyper Bass(feat. Yunomi)」と繋ぎやすいようにBPMとキーを一緒にして曲をつくるアイデアが出てきたんです。
――なるほど!
かっさん でも、「Hyper Bass(feat. Yunomi)」とほとんど同じになってしまうのは面白くないですから、Yunomiさんが「Hyper Bass(feat. Yunomi)」ではまったく使っていないギターを主体にした楽曲にしちゃおうと思ったのがベースになっています。
――それで激しいギターサウンドが前面にフィーチャーされているんですね。ちなみに、この曲のギターの雰囲気は、メタルの新しいサブジャンルの1つであるジェント(Djent)を意識したものですか?
Sera はい。この曲を聴いてもらったときに、「何だこれ?!」と驚いてもらえるようなものにしたいと思い、まずはイントロのところによくわからないギターフレーズを入れて、そこから曲が始まった瞬間にジェントっぽいテクニカルなフレーズを入れてみたんです。エレクトロ界隈でやっている人はそうそういないだろう、という音を目指していきました。
かっさん そういう冒険って、電音部くらいの規模感のメディアミックスコンテンツだと、普通なら怒られるんじゃないかと思うんですけど、僕らの場合は「『Hyper Bass(feat. Yunomi)』がOKならいけるだろう」と思ったんです(笑)。
Sera でも、やっぱり結構ドキドキしましたよ。「次の案も考えておこうかな」と思っていたので。後半のギターソロのところも、「弾けるもんなら弾いてみろ!」くらいの感覚で、盛り上がってもらえるように考えていきました。
――歌詞はどんなふうに考えていったんでしょう?
かっさん 歌詞に関しては、さっきも言ったように、表と裏の両面があるところが美々兎のすごくいいところだと思ったのと、表の部分に触れている曲は既に色々と出ていたので、この曲はあえて思いきり裏に振ってしまおうと思いました。それで、心の葛藤をかなりメインに据えて書いています。ただ、それでも結局美々兎は美々兎だよね、という部分も表現したいと思っていたので、かわいさと激しい感情の両方を表現できたら、と思っていました。
――美々兎の「人気者になりたい」「一番になりたい」という気持ちは、「Princess Memeism (Prod. Snail’s House)」などでも表現されていたと思うのですが、「Do You Even DJ? (feat. Neko Hacker)」の場合は、たしかに同じテーマでもより感情の激しさが伝わってくるような雰囲気ですね。
小坂井 ああ、すごくわかります。
かっさん そうやって、似ているテーマでも色々な表現の仕方ができると思うんです。僕らの場合は「本当の闇の部分って、やっぱりかわいくはないよね?」という雰囲気を出したいと思っていました。あとは、僕らが美々兎に共感する部分がかなりあったので、僕ら自身の感情もそのまま曲に出してみたいと思っていたんです。例えばこの曲の最後のセリフの“なんでなんで?/早く時代が追いついてくれないかな”の部分はまさにそうで、僕らは元々Neko Hackerを始める前にバンドをやっていたんですけど、そのときも「自分たちではめちゃくちゃ良い音楽をしているはずなのに、全然聴いてもらえないな。なんでだろう?」ってずっと思っていて。当時は「俺たちが悪いんじゃなくて、時代が悪いんだ!!」って思っていたんです(笑)。冷静に考えたら自分たちが悪いんですけど、きっとそうやって、自分たちの気持ちをなんとか納得させようとしていたんですよね。
Sera それって、ハラジュクエリアとすごく近いと思うんですよ。電音部の世界ではシブヤエリアの帝音国際学院が圧倒的で、ハラジュクエリアのメンバーが通う神宮前参道學園はその分校として設立されていると思うので。
――小坂井さんが最初に楽曲を聴いたときの感想はどうでしたか?
小坂井 私は音源をもらうと、お仕事に行くときにもずーっと聴いて覚えていくタイプなんですけど、「Do You Even DJ?(feat. Neko Hacker)」はかわいすぎて、自分の曲で一番聴いているんじゃないかな、と思うくらい聴いています(笑)。もちろん、どの曲もすごく好きなんですけど、この曲は1曲で美々兎の色んなことがわかるというか、闇の部分も表の部分も、どっちも伝わってくるような魅力がある曲だな、と思っていて。1曲で美々兎の感情の振れ幅を360°表現してくださっているので、歌っていてもすごく楽しいです。制作中は「このセリフ、こんな感じで言っていいですか?」と、私からも色々提案させていただけて楽しかったですし、韻も踏んでいるので、完成したものを聴いていても楽しくて。最初にデモをもらったときから、この曲のファンだったのかな、と思います。
Sera めちゃくちゃ嬉しいです……!
かっさん この部分、ぜひ太文字にしておいてください……!!(笑)
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