INTERVIEW
2021.07.05
長い時間を紡ぐストーリーの上を、謎と多彩な登場人物が躍動していくオリジナルアニメーション『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』。SFヒューマンドラマとして脚本も映像演出も練り込まれ、観る者を惹きつけ、高い評価のままに完結を迎えた同作だが、その魅力的な物語の中心に置かれていたのが“「AI」が歌う「歌」”というファクターだった。その重要な側面となる劇伴音楽・主題歌・劇中歌を担当したのが神前 暁率いるMONACAチーム。作品に対する理解を深めながらどのように音楽制作を進めていったのか、音楽制作面を統括した神前のインタビューを2回に分けて掲載。その貴重な談話を共有することで、『Vivy』という作品をより一層愛でる助けになればと思う。
▼後編はこちら
――まずは、神前さんが最初にオファーを受けたとき、この作品についてどのような説明を受けたのか、どのような印象を持ったのかを教えていただけますか?
神前 暁 僕が最初に伺ったのは、「歌うAIが登場するSFものであり、歌物と劇伴の両方を担当してほしい」というお話でした。そのうえで、小説の形で膨大な量の資料をいただきました。ストーリーを掴むうえでは、プロットみたいなものもいただいたので、まずはストーリーの縦軸を追っていきました。そしたら、非常に長いスパンで展開するスケールの壮大なドラマチックな物語だと感じましたし、キャラクターたちの内面が描かれる部分も成り立っていて。その反面、横軸にあたる各エピソードが映像としてどう肉付けされていくのがその時点では見えておらず、イメージを掴むのが難しかったですね。
――そのうえで、どのような制作体制で進められたのかも教えていただけますか? EDクレジットを見ると、音楽周りで多くの名前が見つけられますが。
神前 基本的に制作はMONACAの中で進めていて、劇伴は私と高田龍一、帆足圭吾、石濱 翔の4人が担当しました。劇伴に関しては音楽メニューをいただいた段階で、誰が担当に向いているのか、どういう方向性の曲にしたいかを僕のほうで考え、それを四人で相談しながら振り分けていき、改めて各人にオーダーを僕から出し、デモが上がってきたらチェックし、最終的にレコーディングまで立ち会っています。なので、音楽プロデューサーの立場に近い感じですね。
――制作面での、ということですね。『BEASTARS』でも神前さんとMONACAのメンバーが共同する部分もありましたが、それと近い形でしょうか?
神前 『BEASTARS』は私がメインで高田に手伝ってもらうという形でしたが、『Vivy』に関してはがっつりと四人で作品と組み合っています。以前担当した『STAR DRIVER 輝きのタクト』や『Fate/EXTRA Last Encore』と同じメンバーなんです。
――なるほど。劇伴や主題歌の制作担当を振り分ける際は、どのようなイメージで行ったのでしょうか?
神前 あくまで各自の得意分野を活かす形でした。そこがはっきりしているので特に悩むことはなかったですし、割り振ったあとで精一杯考えようというところもありましたし。ただ、劇中でヴィヴィ/ディーヴァが歌う曲に関しては私が担当するようにしています。やっぱり、音楽担当として最初に名前を上げられる立場である以上、責任がありますし、あとは単純にやりたかった気持ちと、そこでブレを作りたくなかった気持ちですね。楽曲によるイメージコントロールをしっかりしたかったので……「A Tender Moon Tempo」については井上(馨太)に任せたのですが、ヴィヴィの楽曲ということもあり、かなり細かくディレクションしてつくってもらいました。
――「A Tender Moon Tempo」に関しては、ブラスアレンジも神前さんが担当されていますね。作品で使用する劇伴音楽も歌物も両方担当するうえで、棲み分けはどのように意識されましたか?
神前 今回は、作品として音楽が目立つシーンは劇中歌が担う比重が大きいので、劇伴に関してはオーソドックスに、作品世界の背景に溶け込むような音楽に、と考えていました。そんな中で、難しかったのは日常曲ですね。
――日常シーンの音楽は劇伴を担当される方を悩ます、難しい部分だとは聞きます。
神前 難しいですね。例えば、『Vivy』はギャグ要素は皆無ですし、結果的に笑えるシーンはあっても等身が下がることもないですし。そういった部分でのさじ加減を掴む作業や温度感を探る部分がなかなか難しかったですね。
――そんななかで、作品の完成形や世界観を掴むきっかけはありましたか?
神前 絵の資料をいただけたのと、1年前くらい、音楽制作を始める前にすでにアフレコが始まっていたんですよ。先んじて声のイメージを得られることができたので、その会話の温度感はすごく参考になりました。ただ、シナリオが全部は完成してなかったので、途中で一旦お休みして、シナリオが完結してから再開、という流れでしたね。
――小説を渡されたというお話でしたが、音楽制作が始まる段階ではまだ結末に至っていなかったんですね。
神前 小説としては完結していましたが、シナリオでは変更される可能性があると伺っていました。
――エピソードが積み上げられ、壮大な物語となっているだけに、結末を知るか知らないかで作品全体の印象が変わりそうですね。
神前 そうなんですよ。しかも、映像と芝居が多層的になっていて、セリフと絵であえて別々の描写をしているシーンなどもあって。それらすべての情報を受け取ってから初めて理解できる、という作りになっていましたね。
――音楽の制作に着手後、どのようにして作品の世界観を掴んでいきましたか?
神前 まず参考になるようなイメージ曲をピックアップして、頂いている資料と合わせてみる、というところから始めました。私が5曲ほどデモ曲を先行して提出し、そちらを監督や音響監督さんにチェックしていただきながら「この方向性で大丈夫です」というやり取りを交わしながら進んでいきましたね。
――掴んだ方向性というか、『Vivy』の世界に流れる音楽としてはどのような劇伴を意識されましたか?
神前 80年代のニュー・ウェイヴやテクノが合うと思ったので、あの感じを出したいとは思いました。EDMではなく。この作品が持つ、テクノロジーに対する描かれ方ってちょっと懐かしい空気感があるんですよね。そこを日常としてとらえ、『Vivy』のレトロフューチャーな世界観を反映していこうとは思いました。ちょっと昔のSFに対するオマージュを持っているような感覚がありました。
――劇伴の使われ方に関してはどのような印象を持ちましたか?
神前 本当に素晴らしかったです。今回、40曲くらいの劇伴を作ったんですが、1クールTVアニメの劇伴としてはだいぶ少ないものの、1曲1曲が非常に印象的に感じる使われ方をしていましたね。ほぼ毎話同じ曲が流れるんですけど、良い意味で「いつもの曲だ」と思ってもらえる使われ方をしていただけてとても嬉しかったです。
――神前さんとしては、同じ曲を色々なシーンで割り当ててもいい、むしろその方がいいと考えられますか?
神前 そうですね。もちろん必要があれば曲数は作りますし、アレンジ違いやテンポ違いといった「バリエーション曲」も、テーマを印象的にするために効果的だと思います。ただあまりに毎回違う曲が流れると印象が薄くなるとも感じています。その点、今回はとてもいいバランスだったかなと。サウンドトラックCDを聴いたときも、「あ、これこれ」ってなると思います。
――クライマックスに繰り返し使用されたり、同じメロディが何度も登場することで作品の世界観やイメージを強化できます。
神前 それから、編集のタイミングもすごかったですね。4話でヴィヴィとエリザベスが会話から戦闘に移るシーンがありますが、あのタイミングはまるでフィルムスコアリングしたかのようにピッタリ合っています。9話でのアントニオ/垣谷戦もそうですね。音響監督である明田川(仁)さんチームのこだわりを感じました。バトルって効果音が入るので、タイミングがずれると気持ち悪く感じることがあるんですが、そこもジャストで合わせていただきつつ、なおかつ音楽的にも演出的にも違和感がないので。すごかったですね。
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