REPORT
2021.04.16
「アイドルマスター シャイニーカラーズ」のライブイベント“THE IDOLM@STER SHINY COLORS 3rdLIVE TOUR PIECE ON PLANET / NAGOYA”DAY2が2021年4月4日、日本ガイシホール+オンライン配信で開催された。
DAY2にはイルミネーションスターズより櫻木真乃役の関根 瞳、風野灯織役の近藤玲奈、八宮めぐる役の峯田茉優、アンティーカより月岡恋鐘役の礒部花凜、田中摩美々役の菅沼千紗、白瀬咲耶役の八巻アンナ、三峰結華役の成海瑠奈、幽谷霧子役の結名美月、放課後クライマックスガールズより小宮果穂役の河野ひより、西城樹里役の永井真里子、杜野凛世役の丸岡和佳奈、有栖川夏葉役の涼本あきほ、アルストロメリアより大崎甘奈役の黒木ほの香、大崎甜花役の前川涼子、桑山千雪役の芝崎典子、ストレイライトより芹沢あさひ役の田中有紀、黛 冬優子役の幸村恵理、和泉愛依役の北原沙弥香、ノクチルより浅倉 透役の和久井 優、樋口円香役の土屋李央、福丸小糸役の田嶌紗蘭、市川雛菜役の岡咲美保が出演した。
公演前映像では、プロデューサーに厳しく発破をかけようとする天井努社長が、事務員の七草はづきにたしなめられる場面があった。一見微笑ましい光景だが、もしかしたら第7の新ユニット・SHHis発表時に流れた回想シーンと関係があるやりとりなのかも?などと考える余地があるのは現在進行系で状況が動いている時期ならではの楽しみかもしれない。
ステージ構成は会場奥のメインステージのみ。上下二段のステージを階段と、キューブ型の昇降リフターが繋いでいる。複数面の短冊型の縦長スクリーンが設定されており、キューブの背景にも小型スクリーンが。複数のスクリーンに渡って動きのあるひとつの映像を投影すると、見る側の脳が間を補完して全体像をきちんと結んでくれるのが面白い。短冊スクリーン間には発光するオブジェクトや照明がぎっちり据え付けられていて、全面スクリーンではできない演出が可能になっている。配信映像ではそこに様々なAR演出が加わって、虚実のあいまいな幻想のステージが繰り広げられる。
ライブの開幕を飾ったのはTeam.Stellaの「プラニスフィア ~planisphere~」。Stella、Sol、Lunaは「シャイニーカラーズ」初のユニットを越境した属性チーム。Stellaには各ユニットのセンターが多く所属しており、名古屋公演ではなんと5/6がユニットセンター(アルストロメリアは大崎姉妹のダブルセンターユニットだが、センターとして稼働する時は甘奈がセンター扱いになることが多い)。まさに綺羅星のごとき構成だが、むしろこうなると1/6が際立つ。6人目はノクチルの樋口円香を演じる土屋李央で、ステージで歌唱中は“笑わない”という独特のキャラクター表現を貫いて目下爆進中だ。キャストたちがステージにある程度慣れて、魅力的な笑顔がステージに溢れるようになったからこそ成立するギミックと言えるだろう。センターの星々に並んでもその存在感は増すばかりだ。
衣装はビヨンドザブルースカイ。最初の共通衣装であり、左肩から斜めにたすき状に入る黒いひらひらと、スカートの後ろについた黒い布地が目印。空と雲のような色合いの衣装の中で黒のワンポイントが際立っている。この曲では曲中のウィンクが印象的なのだが、ウィンクするよ、するよ……はいした!という感じの黒木と、ここしかないというタイミングでバチコーンとしてくる礒部では流派が違う感じがして楽しい。“目を閉じる”という行為とは逆の意味では、関根のような生粋のセンターは、ライブ中のまばたきの回数すら少ないイメージがある。
Team.Solの「SOLAR WAY」。8人は下手のステージに登場。歌い出し、サイドステージからセンターまで歩む時間の「タメ」をパフォーマンスに織り込んでいる点で、SolとLunaは対極のテイストでありながら一対になっている。セットリスト上の配列という意味では、Solが二番目に入るのは必然な気がする。ぴょんぴょんと飛び跳ねながら始まるアイドル歌謡は浮ついた異質さがあって、異質すぎるが故に前後の楽曲との落差を無効化する効果を持っているように感じる。
明るくていたずらな陽性のテイストが、涼本や八巻、永井のような“かっこいいアイドル”を演じる演者のキュートさを見事に引き出している。であれば、この楽曲そのものを体現するようなめぐる=峯田がさらに輝きまくるのは言うまでもない。時代がほんの少し違えばめぐるはセンターオブセンターと呼ばれたタイプなのではないだろうか。
青の一番星を思わせるライトが灯り、越境チームのトリはTeam.Lunaの「リフレクトサイン」。冒頭の群舞のあと、下手から田嶌を先頭に決然と歩いてくる姿のかっこよさについてはDAY1でも書いたが、実は「SOLAR WAY」では光の中、和久井が先頭に立って歩いていたことにDAY2になって気がついた。ユニットの枠を外したチームで、最新のユニットを代表する仲間たちが、凛として先頭に立つ姿は新時代を感じさせる。
“DAY2の”「リフレクトサイン」のポイントとして注目したいのが、アイドルたちがカメラを射抜くまっすぐな眼差しだ。最初にアップになった近藤の凛とした眼差しと目が合って、ドキっとした人は多いのではないだろうか。甜花、摩美々、霧子、小糸、凛世といった、役柄的にはそういうイメージがないアイドルを演じるキャストたちともばしっと目が合う。とにかく正面のあのカメラがターゲット、という意識が全員のパフォーマンスに通っている。
だからこそカメラを殺すショットで北原だけ横を向いていたのには少し心配になってしまったのだが、2番ではきちんと最高の凛々しさを見せてくれた。いずれにせよ、この意志のまなざしたちは、はっきりとした意図を持って映し出されていたということだ。彼女たちの迷いなきまなざしがどれほどまっすぐで美しかったか、いちばん理解しているのはカメラ越しのプロデューサーたちだろう。
チーム楽曲から、MCを挟まずに全員での「Spread the Wings!!」へ。DAY1と少し違うが、おそらくこちらが本来の構成だろう。メロディアスなピアノによる前奏をつけたスペシャルバージョンのイントロは、22人がステージにスタンバイして、立ち位置を整える間をつなぐものと考えれば辻褄が合う。全員が右手をそっと胸元に当てて片足を引き、薄明かりの中ではばたく瞬間を待つ時間は、涙が出るほど美しい幻想の光景だ。
歌い出し、見守る側も少し緊張してしまう。顔いっぱいを笑顔にした関根、控えめな笑顔で、でも全身の躍動に気持ちを込める近藤、ひとときも留まらないめまぐるしい表情に見入ってしまう峯田……というイルミネーションスターズのソロショットから始まる「Spread the Wings!!」は、このツアーで最後の光景だからだ。美しいARのエフェクトに目を奪われがちだったが、サビでステージに向かってうねるように咲き誇る客席の光の波は、ステージを支える強い意志がこの空間を満たしていることを感じさせた。
オープニング挨拶は、ツアー最初の公演地とは思えないほどハイテンションで、強い想いのこもったものが多かった。だからこそ、誰よりも自然体でふにゃっと「全宇宙のプロデューサーさんに、宇宙規模の感動をお届けします」とコスモ規模の挨拶をしてのけた涼本のスケールの大きさに、“あなたこそ有栖川夏葉そのもので賞”を贈りたい。
ここからのユニットメドレーゾーンは、各ユニットがDAY1で初披露された新衣装で登場。イルミネーションスターズは3人揃って「Twinkle way」を披露した。
近藤のボーカルのコンディションが、はっきりといい。本番以上の経験の場はないとはいえ、2DAYSでここまではっきり良くなったと言い切れるステージがどれほどあるだろうか。彼女にとってのツアー最終日、本当に大切に歌っているのだろう。3色に塗り分けられたステージの光が、虹の七色となって弾けて広がる。これから始まるツアーの幕開けを、イルミネーションスターズは最高の色彩で彩ってくれた。近藤の歌声はぐいぐいと伸びているのに、気持ちの高まりがこぼれることなくよく乗っている。彼女のパフォーマンスが研ぎ澄まされるほど、関根のきらめきや峯田の表現力も輝きを増していく気がして面白い。
ラストのサビで、近藤と峯田が間に立つ関根を見つめながら歌い、関根がにこにこしながらふたりに視線を返す。そこで3人が歌うのが“心の中でいつでも繋がる 突き進もう 胸が高鳴る世界へ 夢が呼んでいる場所へ”である。駆け寄った3人が指差す先に星を見ながら、上質な物語を読んだ気がした。
アルストロメリアは「ダブル・イフェクト」を披露。いつもは黒木と前川が天使と悪魔のモチーフの衣装で左右に立つことで並びのバランスがとてもいいアルストだが、3人ともがデザイン違いの新衣装をまとうと一旦その固定観念がリセットされる。
ピンクの羽が舞うなか芝崎の輝く笑顔から歌に入ると、後ろを向いていた黒木と前川がくるりと振り向きながら歌い継ぐ。かなり難解で抽象的な歌詞のこの歌が、翼を失った天使の詩である……ということがすとんと落ちてくるのは、彼女たちの笑顔と歌声の力が大きいように思う。芝崎のロングソロでの彼女の“笑顔を魅せる”ことに特化した画面構成を見ていると、「ダブル・イフェクト」は千雪センター曲とみなしたい。
そして、DAY2の裏テーマである(と勝手に決めた)目線によるコミュニケーションだ。「ダブル・イフェクト」のラストのサビ、動きながら歌う3人が視線を交わしながら歌っていることがわかる。そこに現れるのがサイドカメラだ。センターに入って歌う黒木を、芝崎と前川が挟み込むように歌う姿を一直線上に捉える特異なアングル。「キミ」である黒木はまっすぐ前を見つめたままで、それでも見守る2人の想いと笑顔は変わらない。
放課後クライマックスガールズの「五ツ座流星群」。「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 2ndLIVE STEP INTO THE SUNSET SKY」を含めると短期間で4度目の披露となるが、新たな衣装、そして前日のMCを聞くと少し解釈が変わる。自分の場合は、丸岡の衣装が“ヒロイン”であることを意識すると、「ふれふれヒーロー!」といった台詞の解像度が少し上がった気がする。今回参加できなかった白石演じる園田智代子の役柄は少し曖昧だが、歌詞の流れからすれば「応援する側」。凛世は、今回激闘を繰り広げるヒーローや海賊、カウボーイを応援する役割を一手に引き受けるわけだ。
今回のステージで丸岡は智代子パートの多くを担う。応援だけでなく、スペースカウボーイと丁々発止の掛け合いを見せるのである。洋風のアイドル衣装で大暴れする戦うヒロインの姿は、4人の放クラでしか見られない光景かもしれない。なお、「五ツ座流星群」のラストの“5つのピースで形作る星マーク”について、1人足りない時は「プロデューサーさんが5つめ作ってくれたら嬉しいよねぇ(河野)」とのことなので、でっかいピースを元気に作る心の準備をしておきたい。
アンティーカの「Black Reverie」。DAY1が引いたアングルで“世界”を見せていたのに対して、DAY2は寄ったカメラで“表情”と“個人”を見せる比率が高かった気がする。つまり、両方見なければならない。荘厳なるイントロ、キューブの中で背中を向けて静止する5人。彼女たちが背中でどんな芝居をしていたか、DAY2を見なければわからないのである。
今回のアンティーカの見どころとして、ダンスとサウンドの細かいシンクロがある。その最たる例のひとつがこの曲での成海のソロパートであり、リズミカルなドラムに合わせて彼女が見得を切ると、照明が、音楽が、彼女に追随するように色を変える。まるで成海が空間を支配しているようだ。
名古屋のアンティーカには、個人的には成海と八巻に強い“圧”を感じた。圧倒的な存在力と表現力を兼ね備えた稀有なボーカリストである礒部花凜に並び立ちうる4人となる。それがアンティーカが今乗り越えつつある課題なのではないかと思う。
ライブのベストアクトを決めることは難しい。しかしDAY2のベストシーンを問われたなら、迷わずにストレイライトの「Hide & Attack」を挙げたい。サイバーパンク+和テイストの衣装をまとった3人は、般若、翁、ひょっとこの面でおもてを隠して登場。このシーンはDAY1でも鮮烈だったが、ポイントはそのあと。面を取り去った3人が投げはなった仮面が、回転しながら美しい放物線を描いて消える──。
そのカメラ、どこから持ってきた!?
実物の面を着用すること自体がかなり直前に決まったそうだが、DAY1のあのライブが終わってから約半日の間。どう仮面を投げたらかっこよく見えるか、を役者と大人たちが真剣に相談していたと思うと嬉しくなってしまう。もっともフォトジェニックなユニットが予想を超えてきた時点で、彼女たちの“勝ち”は決まった。衣装や演出がとてもかっこいいので、そのあたりはDAY1レポートを参照してほしい。
ユニットメドレーのトリはノクチルの「いつだって僕らは」。空と水面の色の衣装をまとって、幼馴染4人の関係性を歌う。
関係性は、時間とともに色を変える。歌い出し、広大なライブ会場に染み渡るような和久井の歌声ののびやかさに息を呑む。驚いたのは続く土屋の歌声も明らかにDAY1より質と安定感が増していたことだ。樋口のキャラクターボイスをまとい、抑制した歌い方で“のびやかさ”に進化を感じるのは小さな変化ではありえない。ここまで来たらわかるだろう。良くなっているのは、“ノクチル”だった。それにしても、4人が4人ともこんなに良くなるって、ありえるのだろうか。
彼女たちの初配信ライブである“MUSIC DAWN”から“THE IDOLM@STER SHINY COLORS 2ndLIVE STEP INTO THE SUNSET SKY”までのノクチルは、お互いに作用し合う“円”の関係性だったように思う。水面に水滴が落ちれば、円は一部が欠けることもある。ところが名古屋でノクチルが見せたのは、和久井と土屋、田嶌と岡咲がお互いの存在を響き合わせるような2on2のセッションだった。
それが顕著だったのが田嶌と岡咲で、ふたりは一見、超ハイトーンでキャラクターボイスに特化した声優ならではの歌で表現する点で似ているように見える。しかし田嶌が内面もテンションも全てが歌声に乗る率直さが好ましく感じられるのに対して、岡咲の歌唱の“安定感”から見えてくるのはただただ限りない修練だ。田嶌の全身全霊の想いを込めた歌唱を岡咲が柔らかく受け止めて、ちょっとニュアンスを乗せて投げ返す。
“アイドル”たちが羽化する瞬間を見ている。そんなステージが今、ここにあるのだ。
後半戦はアンティーカの「純白トロイメライ」からスタート。メンバーそれぞれがダンスが高難度と口を揃えた「Black Reverie」の次を受けるステージで、礒部はあえて「成長したアンティーカで、もう1曲」と自らにハードルを課す覚悟を見せた。「純白トロイメライ」は、衣装と密接に結びついた物語性が非常に強い楽曲だ。
黒いリップと攻撃的な衣装をまとった八巻が、間奏で礒部を抱き寄せるように舞踏を踊る。5人全員が演劇のように確固たるキャラクターをまとうことで、舞台はミュージカルに変わる。キャラクターをまとい、物語を演じることは菅沼の独壇場と言ってもいいフィールド。クラウンに扮した成海の表現は、彼女自身の“らしさ”を三峰結華というアイドルに取りこんだように見える。そして彼女たちの色が濃いほど、黒でも白でもない灰色のメイドを演じる結名の存在が際立つ。それでも個性の洪水に存在をかきけされないのは、結名自身が前日と比べてもより深く物語に潜り、より魅力的な表現を見せているからに他ならない。
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