ここからは「今日だけのあの人が来ますよー!」と、日替わりのゲストを招く。1日目は原昌和(the band apart)がにこやかに登場し、そのままセンターステージで一人せり上がり「Be mine!」で華麗にベースを弾き倒す。
デュエット曲「でも」では、原いわく「高級すぎるスナックに来てる気分」と心底楽しそうにふたりで歌ったが、アルバム『Duets』の制作を通じて「原さんと私の声の相性が本当に良いんですよ!」と言っていた通り、抜群のハーモニーを生で聴かせてもらった。
2日目に登場したのは土岐麻子。デュエット曲「ひとくちいかが?」を、誰もが一聴して「素敵!」と心踊るような声で披露すると、お洒落でポップなムードが会場いっぱいに広がる。坂本も「幸せだな〜!」とうっとり。土岐に対し「私、見つめ合うと何だか女性の方が緊張します」と高揚した表情で言っていたが、1日目に汗だくの原にお水やタオルを手渡すサービスをしながら「使ったタオルは自分で何とかして!」と最後に雑にあしらっていた姿を思い出して笑ってしまった。2曲目は土岐もカバーしている「DOWN TOWN」をふたりでチャーミングに披露すると華やかなサウンドと共に幸せいっぱいのハイライトとなった。
まるでお祭りのようなひと時が終わると、再び8面LEDがセンターステージに降りてきて25周年の軌跡をランダムに辿るように「gravity」、「序曲」、「birds」と続けて披露し、じっくり聴かせた。「気付けばこの25年の間に200曲以上リリースしてきました。ライブで全てを網羅することはできなくてもみんなが好きな曲がひとつでも入っていたら嬉しいです。限られた時間の中で1曲でも多く聴いてもらいたくて、この日のためにメドレーを作ってきました」と始まった25周年メドレーでは自身のキャリアの中でも節目の一歩を踏み出した「ループ」や、数々のライブを彩ってきた「Private Sky」や「マジックナンバー」、「ヘミソフィア」や「トライアングラー」などの人気曲まで聴かせた。オーディエンスは、時に懐かしくなって心がキュンとすることもあったのではないだろうか。坂本真綾の25周年は、彼女を応援してきたみんなの25周年でもある。ファンとしての歴史がいつ始まったとしても、大好きな曲と思い出を共有しながら、みんなが2日間ここに集まったことが意義深い。メドレー最後の「光あれ」では彼女の、歌手としての風格すら感じさせる神々しさだった。〈もしも今この声が誰かに届いてるなら/手を振ってくれないか〉のフレーズで観客が手にしたLEDバンドが白く光り、みんなで彼女に手を振った。音と光のコール&レスポンスはひときわ美しい名場面だった。声を出せなくても、拍手をして、手を振って、拳を振り上げて、みんなでステージに想いを伝えた。それはステージから坂本真綾が溢れんばかりのたくさんの想いを伝えてくれたからだ。
「今回のライブは満席というわけにはいかない形で開催しましたが、みなさんがここに来てくれたことが本当に嬉しいです。ステージがせり上がったり、火が出たり(笑)、私自身お祭りだと思って準備してきました。空席に貼ってあるメッセージは、実は2日ぶんの枚数を印刷したんですが、1日目のお客さんはほとんど持って帰らなかったそうです。きっと2日目も使うだろうからとみなさんが気を遣ってくださったんだと思います。いつも人を想いやる方達に支えられているなとあらためて感じました。よろしかったら今日は持って帰ってください」。そんなエピソードにも坂本とファンの関係性をしみじみと感じた。そして今回のライブは映像収録されて後にリリースすることを発表し、「少し先の未来でこの映像を見る人へ」向けたメッセージをライブ中に話してくれたので、参加できなかった人も楽しみに受け取ってもらいたい。そんな風に坂本真綾自身がいつだってファンへの思いやりを忘れずに活動してきたからこそ、人を思いやり、マナーを守るファンばかりなんだと思う。25年という長い歳月の中でそうやってひとつひとつ、築き上げてきたからこそ、観客全員がマスクをして歓声を上げられなくても楽しい祝祭空間を生み出すことができるのだ。
いよいよ終わりが近づいてくる。たくさんのシャボン玉の中で熱唱した「誓い」は、「10年前に世の中が大変だった時に作った曲です」と紹介された。〈何を失っても 僕は生きていくだろう〉という歌詞に、また新たな今とこれからへの想いを込めて歌われている気がした。そして最後は活動初期から愛され続けてきた人気曲「プラチナ」を披露して幸せ最高潮の状態で締めくくる。「また会う日まで、元気でねー!」と笑顔で最後の挨拶をすると、会場内には「ポケットを空にして」のインスト・バージョンが流れ、バンドのメンバーとみんなでステージの周りや花道をゆっくりと歩きながら別れを惜しんだ。いくつものライブでアンコールを彩ってきた「ポケットを空にして」だが、今回は坂本も観客も全員が心の中で歌っていた。今は歌うことができなくても、私たちには記憶の中のピースフルな大合唱が胸に響いていた。2日間でそれぞれに2時間半強、途中でステージを去っての衣装チェンジも、アンコールもなしで、しかし曲数はたっぷり、という構成にも工夫が感じられた。坂本真綾のキャリアにおいて、これまでにもライブで様々な挑戦やコンセプトがあったが、今回はシンプルに「みんなを楽しませたい!」という気持ちが伝わってきて、それが25周年記念公演だったことも何だか感慨深い。様々な困難を乗り越えて実現した、この2日間のステージはいつか振り返った時にもきっと忘れられないものになるはず。そしてタイトルの「約束はいらない」は、ファンと坂本真綾の絶大なる信頼の上に成り立つ、「またいつか会おうね」を意味する合言葉なんだ。
TEXT BY 上野三樹
坂本真綾 25周年記念LIVE「約束はいらない」
SET LIST
M01 約束はいらない
M02 CLEAR
-MC-
M03 スクラップ〜別れの詩
M04 ユーランゴブレット
M05 オールドファッション
-MC-
M06 いつか旅に出る日
M07 独白
M08 躍動
M09 色彩(with 内村友美)
-MC-
M10 sync(with 内村友美)
M11 あなたじゃなければ(with 堂島孝平)
-MC-
M12 レコード(with 堂島孝平)
【Day 1】
M13 Be mine!(with 原 昌和)
-MC-
M14 でも(with 原 昌和)
【Day 2】
M13 ひとくちいかが?(with 土岐麻子)
-MC-
M14 DOWN TOWN(with 土岐麻子)
M15 gravity
M16 序曲
M17 birds
-MC-
M18 25周年メドレー
・ループ
・ヘミソフィア
・逆光
・奇跡の海
・Private Sky
・トライアングラー
・マジックナンバー
・指輪
・光あれ
-MC-
M19 誓い
M20 プラチナ
※こちらの公演は、上限5,000人以下で開催されました。
各配信サイトで、このセットリストのプレイリストを聴くことが出来ます。
●リリース情報
4thコンセプトアルバム
『Duets』
発売中
価格:¥2,500+税
品番:VTCL-60544
<収録曲>
1. Duet! / 坂本真綾×和田弘樹
作詞:坂本真綾 作曲・編曲:h-wonder
2. あなたじゃなければ / 坂本真綾×堂島孝平
作詞・作曲・編曲:堂島孝平
3. ひとくちいかが? / 坂本真綾×土岐麻子
作詞:土岐麻子 作曲・編曲:TENDRE
4. でも / 坂本真綾×原昌和(the band apart)
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:原昌和
5. sync / 坂本真綾×内村友美(la la larks)
作詞:内村友美・坂本真綾 作曲・編曲:江口亮
6. 星と星のあいだ / 坂本真綾×井上芳雄
作詞・作曲:坂本真綾 編曲:山本隆二
7. ひとつ屋根の下 / 坂本真綾×小泉今日子
作詞:坂本真綾 作曲:鈴木祥子 編曲:山本隆二
「Duets」楽曲試聴ページはこちら
●放送情報
25周年LIVE直前スペシャル!
CS日テレプラスにて、15周年&20周年記念LIVEの放送が決定!
坂本真綾15周年記念LIVE “Gift” at 日本武道館
3月30日(火)21:00~
詳細はこちら
坂本真綾20周年記念LIVE “FOLLOW ME“ at さいたまスーパーアリーナ
3月31日(水)21:00~
詳細はこちら
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