INTERVIEW
2021.03.24
――改めて、第2クールのEDテーマ「give it back」についてお聞きします。この楽曲はそもそもどういったテーマのもと作り始めたのでしょうか?
中村 伏黒(恵)の八十八橋のエピソード(「起首雷同編」)が、今回アニメ化する物語の中でも特にエモーショナルな部分だと思うので、そこに焦点を置いて描こうと思いました。これは『呪術廻戦』の人物そのものの構図でもあると思うんですけど、過去を辿ると何かしら抱えているものがあって、失われていくものもあるけど、周りの人たちと愛を育んだりしながら、先に進んでいく。で、また次の目的地に向かう。今回はそういう物語を描きたかったんです。
――先ほど、この曲が完成するまでにたくさんのデモを書いたとおっしゃっていましたが。
中村 はい。本当にたくさんの曲を書いて、その1つ1つが、今自分の書きたい曲でもあったし、TVアニメ『呪術廻戦』のエンディングに流れたら素敵だろうなあと思えるものだったんですけど、その中でも「絶対にこれだろうな」って思う曲が、「give it back」だったんです。私はいつも、音から曲を作ることがほとんどなんですけど、この曲もそうやって出来た曲で。でも、この曲は言葉もスルスルと出てきたんですよね。“ひとりじゃないって 信じてみたい”という言葉が、まるで引っ張り出されるように出てきて。ちょうどその時期、個人的なことで、大事なものを失うような出来事があって……そこで(自分と作品が)リンクしたというか、運命を感じたというか。その分、歌詞により気持ちが込められました。
――作品のことを考えながら曲を作るなかで、奇しくもご自身の心情と重なるものが生まれたと。
中村 そうですね。これまでもそういうことが多くて。自分が作ろうとしている音楽に引っ張られていくみたいなことを感じたりもしますし……今回は本当にたまたまなんですけどね。
――その意味で言うと、この楽曲は中村さんや伏黒だけでなく、色んな人の気持ちにも寄り添うことができる曲だと思うんですよ。『呪術廻戦』に登場するキャラクターたちも、それぞれが仄暗い過去や複雑な事情を抱えていたりする。だからこそ、毎話、「give it back」がエンディングで流れるたびに、その放送回で描かれたキャラクターたちの心情にも重ねて聴くことができて、作品との相乗効果をものすごく感じるんですよね。
中村 嬉しい。それはすごく意識していて。やっぱり、みんなの曲になってほしいという願いがあったので。アニメや漫画に触れたときに、自分はこのキャラクターに似てるなって思うのと一緒で、きっと色んな人がこの曲から、そういう親和性や共通点みたいなものを見つけると思うんです。その意味では、広い意味で受け取れる曲でもあるし、場面は限定的でもある。でもたぶん、私たちのリスナーの人たちにはわかってもらえるし、刺さる曲でもあると思っていて。きっと『呪術廻戦』をご覧になっているような、心の機微を感じ取れる人たちにも、わかっていただける曲だと思います。
――ちなみにタイトルの「give it back」は直訳すると「返して」という意味で、ある種、命令するような強い語調にも取れますし、もしくは心からの願いの言葉として取ることもできます。このタイトルはどんな理由で選んだのですか?
中村 うーん……強く願う、っていうのは確かにあります。あと、人にはみんなそれぞれ、「返して」と言いたくなることがたくさんあると思うんですよ。物語の登場人物たちは、何かを守ったり、守りきれなかったものを取り戻すために、色んなことを頑張るわけじゃないですか。それは私たちの人生も同じで、本当にこの手に持っていたのかどうかすら今となってはわからないのに、返してほしいと願うものがあって。それを簡単に「返して」って一言で言えたらすごく楽なんですけどね(笑)。でもみんな黙って頑張ってますから。
――なるほど。曲の中にも“Please, give it back”というフレーズが繰り返し登場しますけど、最後だけはその箇所が“Give it a shot(=挑戦してみる)”になっていますよね。ここに少し希望のようなものを感じました。
中村 そうですね。希望と言うにはすごくふんわりしてるんですけど……人と関わったり、温かみを感じることって大事だと思うんですよ。そういうものに光を見出せたら、きっと先に進めるのかなと思って。そういう歌詞にしました。終わりの部分は、すごく悩んだんですけどね。私はほっといたらすぐバッドエンドにしちゃうので(笑)、今回はせめて希望を見てほしいなと思って。
松本 でも、作品のタイアップという前提なしで聴いても成立する曲だし、Cö shu Nieらしい、中村らしい曲だなと思いましたね。あと、タイアップ曲でバラードというのは今回が初めてだったので、どんな反応があるのかも含めてすごく楽しみでした。
中村 バラードという表現は、私たちCö shu Nieの中でも温めてきた武器の1つなので、それをタイアップ曲で発表できたのはすごく嬉しいですね。
藤田 僕も送ってもらったデモを聴いた瞬間に「なんていい曲を作ってくださったんだ!」と思ったので、まずはそれを伝えました(笑)。バラードが大好きなんですよ。
――そうやって出来上がった楽曲をバンドとして組み立てていったわけですが、松本さんと藤田さんはプレイヤーとして、この曲をどのようなアプローチで演奏しましたか?
松本 Cö shu Nieの曲の中では音が少なくてシンプルな曲で、なおかつ曲調も落ち着いた雰囲気なので、まずは耳が痛くならないようなベースにしようと考えて。音を伸ばすタイミングにしても、どうやったら気持ち良く音に混ざれるかを研究して、左手のニュアンスも「抱きかかえる」じゃないですけど、音の長さとかザラつき感に生々しさが出るようにして、繊細さを意識しました。かといって、音を平凡に1音ずつ鳴らすのではなく、自分なりの個性を出すためにどうフレーズを展開させていくかも考えながら演奏して。結構、今の自分の中での正解というか、Cö shu Nieで育ってきた自分のベースのいい答えが出せたと思います。
藤田 楽曲の雰囲気に合うドラムを作っていくのはもちろんですけど、この曲は、曲の中で感情がすごく変わっていくんですよね。なのでまずは歌詞を聴いて、自分も感情をリンクさせて、それこそ音数は最低限まで絞りつつ、どれだけ音で感情を伝えられるかを意識して組み立てていきました。
――皆さんの楽曲は、3人のプレイヤーそれぞれの演奏が主張しながらぶつかり合うイメージが強かったのですが、「give it back」は楽器隊と歌が混ざり合って1つのハーモニーを形成しているような印象があって。Cö shu Nieらしいバラード曲のある種の到達点にもなったのではないでしょうか。
中村 そうですね。私たちは3ピースバンドですけど、それ以外の楽器の音も入れたり、ストリングスのアレンジも自分でやっていて。今までバラードを何曲も作ってきたなかで色々学んだことの答えが、この曲で出たように思います。もちろんまた次の課題ができて、っていう部分はありますけど。
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