2021年1月27日、アーティストデビュー3周年を迎えた渕上 舞が6thシングル『操り人形クーデター』と2ndアルバム『星空』を同時リリースした。シングル表題曲「操り人形クーデター」は、自身もドーチン役として出演する現在放送中のTVアニメ『魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編』のED主題歌。そして、デビューアルバム以来約3年ぶりのリリースとなるフルアルバムは、夜や星空をイメージしたコンセプトアルバムに仕上がっている。ここではそんな両タイトルの制作について、渕上にインタビュー。自作詞に込めた楽曲の世界観や今後の展望を語ってもらった。
――まずは6thシングルの「操り人形クーデター」について、楽曲が上がってきたときはどのような印象を受けましたか?
渕上 舞 すごくかっこいいし、今までに歌ってきたことのないようなテンション感の楽曲で、歌詞を書くにあたってもすごく楽しみだなと思いました。実はほかにも候補の曲が何曲かあったんですが、即決でしたね。
――「操り人形」というテーマはどこから着想を得たのでしょうか?
渕上 『魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編』の世界観からです。いただく作品資料の中でいちばん頼りになるのが絵コンテで、今回その絵コンテを読み進めていくなかで印象的だったのが、人間ではない、人形みたいなキャラクターなんですよ。マリオネットや傀儡師、人のいない劇場、古びた劇場、不気味なサーカス、ピエロ……、そういった世界観が元々好きなんですけど、絵コンテを読んだらそういうキャラクターが出てきて、しかも閉ざされた劇場みたいなところが舞台になっていたので、それを見た瞬間に「これを題材にしよう」と思いました。本当に自分の好みですね(笑)。
――好きを詰め込んだ歌詞ということは、このタイアップがなくても、いずれそういう曲が生まれていたかもしれない。
渕上 そうですね。4thシングルの「バレンタイン・ハンター」もビジュアル先行の楽曲なんですけど、そうやって絶対的なテーマのもとで曲を作っていくのが好きなので、ずっと「いつか白塗りのピエロメイクとかしたいな」みたいなことを考えていたんです(笑)。だから、絵コンテを読みながら「やばい、人形出てくるじゃん!劇場じゃん!最高です」と。すごくいいタイミングでしたね。
――どの部分が特にお気に入りですか?
渕上 “粉々に砕けた欠片が「美しい」と思えたんだ”というDメロの歌詞です。闇深発言になるかもしれないんですけど、私はきれいなものをきれいだと思える人ってすごいなと思っていて。きれいなものをきれいだと思う感覚って人間らしいと思うんですけど、私自身そうではなくて、よく「温かみがない」って言われるのも多分そのせいなんです(笑)。人形が人間を凌駕していくストーリーの中で、その人間像をもとに“人形に人の心が芽生えた瞬間”をこのDメロで描いているので、すごくお気に入りの箇所です。ただ、自分で書いておいてなんですけど、壊れたものを美しいと思う表現はちょっと気持ち悪いなと思います(笑)。
――レコーディングでは何が印象に残っていますか?
渕上 キーを調整するときに、スタッフさんたちから「キーを下げたほうがいいんじゃないか」と言われたんです。下げるとそのぶん重厚感は出るんですけど、歌っている私としてはちょっと落ち着いてしまうので、「正直ちょっときついけどこのキーでいきたい」という意思表明をして……。それがすごく思い出に残っていますね。ただ、いざレコーディングが始まってみると本当にきつくて、後悔しました。
――たしかにキーが全体的に高めですね。これまでにもキーのレンジで苦労した楽曲はありましたか?
渕上 いくつかそういう曲はあったんですけど、「ああ、やめておけばよかったな」と思ったのはこの曲ぐらいです(笑)。でも、ちょっと苦しいぐらいが歌の雰囲気に合っているのかなって。完成した音源を聴いたときもちゃんと厚みや疾走感、戦いの激しさを感じられたので、間違ってはいなかったと思います。
――ミュージックビデオの撮影はいかがでしたか?
渕上 楽しい撮影でしたけど、身体的には大変でした(笑)。マリオネットパートで普段使わない筋肉を駆使したせいか撮影の翌朝には全身筋肉痛で、特に首が激痛だったんですよ。でも、そのおかげでいい具合に華やかで不気味な映像になったので、とても満足しています。
――ショートバージョンを拝見したんですが、あの人形使いのニヤァっとした表情が忘れられなくて。
渕上 それは自分でもびっくりしたんです、『笑ゥせぇるすまん』みたいな……(笑)。口角の上がり具合もそうですし、何人か殺していそうな目をしていますよね。撮影中はなりきっていたので、映像をチェックしたときに「あ、私こんな笑い方するんだ。こわっ」と思いました。それと今回、すごくメイクにこだわっていただいて。マリオネットのほうはブルーのパウダーを乗せてあえて不気味に見せているので、メイク中はどんどん自分が形作られていくのが面白かったです。
――人間らしさ、血色を打ち消すためにブルーを。
渕上 はい。最初はお人形さんみたいなかわいい雰囲気にしてくださっていたんですけど、「かわいくなくていいんです。もっと不気味でいいし、もっと具合悪くていいんです」っていうので最終的に出てきたアイテムが、ブルーのパウダー。夏に発売されるようなお肌に透明感を足すためのものを顔全体に塗るっていう(笑)。唇も、一時期流行ったグラデリップの延長ですけど、かわいくならないように少し雑に塗ってもらったんです。映像とか写真だときれいに見えますけど、リアルで会うとめちゃめちゃ怖いですよ。ハロウィンみたいな感じでした(笑)。
――カップリングの「追想Colors」はどんな第一印象でしたか?
渕上 「すごいおしゃれ!」と思いました。歌詞も大好きで!最初はワンコーラスだけご用意いただいていたので、「“今日のジャムはブルーベリー?”がすごく好きなので、あれを延長して作ってください」ってお願いしたぐらいなんですよ(笑)。曲も歌詞も全部お任せではあったんですけど、私が今までに書いてきた詞を踏まえて作詞してくださったみたいで、そのお話を聞いたときはだからこんなにも好きなんだなと感動しました。情景がすぐに浮かんでくるし、あまり楽しい歌詞ではないっていうのがいいですね。
――この歌詞にも若干闇が……。
渕上 そう、女も男も闇ですよね。離れられないけど、かといって結婚するわけでもなくずるずる一緒に暮らしていくパターンなんだろうなとか、いろいろと想像しちゃいます。
――ラストの「もっと」の繰り返しなんか、すごく重い人みたいな(笑)。
渕上 最初はかわいいんですけど、「もっともっと。ねえもっともっと!ねえ!!」ってどんどん圧が(笑)。そういうニュアンスで歌いました。でも、サウンドとしては本当に軽やかでおしゃれに聴いていただけるので、歌詞とのギャップが楽しめる面白い1曲です。
――ここからは2ndアルバム『星空』についてお聞かせください。ミニアルバム『Journey & My music』に収録された「Journey」のワンフレーズ“一休みしたら次は星の海 渡ろう”から今回のテーマを決められたそうですが、「Journey」の制作段階から次のアルバムを構想されていたんですか?
渕上 いえ、あの詞を書いていたときはアルバムの計画もまだなかったですし、まったくですね。ただ、書いたあとに「もし次があるならもうこれで決まりですよね」なんていう笑い話はしていて、自分の中でも「次は“星”だ」と勝手に決めていたので、2ndアルバムのテーマ決め会議では「いや、あれしかなくないですか?」っていうところからスムーズに進みました。
――新曲をそれぞれご紹介いただきたいんですが、どの楽曲から制作に取り掛かられたんでしょう?
渕上 リード曲の「星空」から制作が始まりました。『Journey & My music』がいろんな場所を旅をしていくというコンセプトだったので、今回はその旅の続きと、自分の今の気持ちみたいなものを書いています。
――「星空」とは言いつつも明るすぎず、“抱えきれなくて荷物を そっと下ろすけど”といったネガティブな感情も救ってくれるような表現が印象的でした。
渕上 リード曲だし、星空だし、キラキラした感じにはしたいけど、「希望」「みんなで頑張ろう」みたいなものがあまり好きではないので、”キラキラ輝く未来”を見るような星空にはしたくないなと思ったんです。自分自身のアーティストとしての旅、歩みっていう部分で言うと、まだ先の未来も見てみたいのですごく複雑なところなんですけど……。だから、「頑張りたくないときは頑張らなくてもいいよね」というニュアンスを込めて、それこそ“抱えきれなくて荷物を そっと下ろすけど”とか、そういう言葉で表現しました。掴みすぎても結局、一人で抱えきれないぶんはこぼれていっちゃうじゃないですか。欲しくないものは要らないし、欲しいものは欲しいし……、っていうすごくわがままな歌です。最後の“叶いますように”という一言は、ニュアンスにこだわって何回も録りました。
――最後はアカペラのようになっているので歌声がすっと入ってきますね。残りの5曲についても、1曲目の「廻り廻る奇跡」から順に教えてください。
渕上 「夜」「星空」がテーマになっている新曲の中で、この曲の立ち位置は空の上というか、渡り鳥が空を飛びながら体中で夜空を感じているイメージです。疾走感のある爽やかな楽曲で、歌詞には「Journey」に登場したワードが散りばめられた素敵な仕上がりになっているので、「Journey」からの流れで聴くとより旅の続き感を味わっていただけると思います。
――4曲目の「Meteor」については、YouTubeにアップされているレコーディングコメントでも少しお話しされていました。
渕上 はい。仕事はできるけど、仕事で生きていこうっていうわけではなくて。彼氏はいないけど、そこに引け目や寂しさを感じていなくて。そんな30代前半ぐらいの女性が、一人暮らしをしている6畳くらいのワンルームのベランダから星を見上げているような……。そういう歌を細かくリクエストして書いていただきました(笑)。「君色夏模様」もそうなんですけど、六ツ見純代さんは私が書くと絶対に出てこない、それこそ“ToDoリスト”のような今っぽい言葉を交えつつドラマチックな展開で書いてくださるんです。曲を聴いてぱっと映像が浮かぶ、そんな歌詞がすごく素敵な楽曲です。
――そこから「恋なの?」へと続きます。
渕上 恋をしたときの、なんでも楽しくてハッピーな気持ちを歌っています。あの人が私のことを好きな気がするけど、でもまだわからない。付き合ってるわけでもない。……一番どきどきわくわくする時期ですね。自分が歌詞を書いた中ではこういうネガティブ要素がほとんどない曲って珍しいんですけど、意外とするりと書けた楽しい楽曲なので、その新鮮さを味わってもらえたら嬉しいです。
――6曲目の「揺れるMoonlight」は、個人的に今回の新録曲の中で特に好きな楽曲で。
渕上 ありがとうございます。私もこの曲がナンバーワンで、レコーディング期間中いつもはおうちで何曲か歌って声出しをしてからスタジオに向かっていたんですけど、そのときに毎日歌っていました。
――ここで表現されているのはどのような星空ですか?
渕上 曲を聴いたとき、海の底に沈んでいくようなイメージが頭に浮かんだので、海の中から見た星空を書いています。だからどんどん沈んでいって見える世界が暗くなっていく映像を思い浮かべながら作詞したんですけど、レコーディングの日にスタッフさんから「いけない恋の歌なんですか?」って言われた瞬間、そうとしか思えなくなってしまって(笑)。2番の“もう何も見えない聞こえない”というフレーズなんて、浮気でも不倫でも何でもいいんですけど、いけない恋だと思うと「誰が何を言ってきても聞こえない、あなたしか見えない」っていう歌詞にしか見えないんです(笑)。人から言われた言葉でこうも印象が変わるんだなと初めて実感した楽曲です。でも、より深みが増したというか……。最高に好きですね。“背中ぎゅっと包み込んだあなたのその温度が心溶かしてゆく”も、自画自賛ですけど大好きです。なんか、そういう人に限って優しくしてくるんですよ。あははっ(笑)。
――そんな裏側が(笑)。ここは新録が3曲続いていますが、収録順にも何かこだわりがあったんですか?
渕上 ここは恋愛三部作なんです。だから「Meteor」「恋なの?」「揺れるMoonlight」の順番は絶対に変えたくない、というのが私のこだわりでした。”恋にそこまで興味のない独り身の女性”みたいなところから、「あれ?もしかして恋なの?」という気持ちがあって、でも、何かいろいろあったんでしょうね。恋するべき人ではなかった人を好きになってしまったのが「揺れるMoonlight」です(笑)。
――そして最後、10曲目の「QT Show」はどんな楽曲でしょう?
渕上 この曲は夜遊びな星空ですね。クラブでギラギラきらめくミラーボールだったり照明だったり。なので、「おばかに騒いじゃおう」という楽曲になっています。「バレンタイン・ハンター」「フラミンゴディスコ」のようなディスコサウンドが好きなので、今回もまたちょっと違う方向性で、作詞作曲すべてお任せして作っていただいて。特に2番の“ごめんあそばせ”とか、歌詞がすごく好きで、ほかに提案していただいた何曲かを押しのけてこれに決めました。ただ、ずっとテンションが高い曲なので、レコーディングは正直きつかったです。「このテンション……、つらい!」って言いながら歌っていました(笑)。
――ありがとうございます。シングルとアルバムの制作を終えた今、新たに挑戦してみたい音楽など、今後の展望は何か生まれましたか?
渕上 「操り人形クーデター」をやってみて、ビジュアルで遊べるようなトリッキーな楽曲はこれからも作っていきたいなと思いました。まだ着物もナース服も水着も着てないし、バニーガールもやってないし、いっぱいやりようはあるんですよ! “好きなことを楽しくやる”って大事だと思うので、コスプレを楽しむぐらいの感覚でいろいろやってみたいですね(笑)。本気のおふざけって支えてくれる人たちがいないとできないことなので、それを受け入れてもらえるようにもっとスキルアップしていきたいなと思っています。4月24日に開催する「渕上 舞 3rd LIVE “星空”」でも、アルバムを引っさげて素敵な夜空、星空をお届けできるように頑張っていますので、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。
INTERVIEW & TEXT BY 友安美琴(セブンデイズウォー)
●リリース情報
TVアニメ『魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編』ED主題歌
「操り人形(マリオネット)クーデター」
1月27日発売
品番:LACM-24077
価格:¥1,200+税
<CD>
1.操り人形クーデター
作詞:渕上舞 作曲:夜兎、藤井亮太 編曲:藤井亮太
2.追想Colors
作詞:鳳神(Art Neco) 作曲・編曲:森田友梨
3.操り人形クーデター(Off Vocal)
4.追想Colors(Off Vocal)
2ndアルバム
『星空』
1月27日発売
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
品番:LACA-35857
価格:¥4,800+税
【通常盤(CD)】
品番:LACA-15857
価格:¥3,000+税
<CD>
01.廻り廻る奇跡
作詞: micco 作曲・編曲:菊地達也 ストリングスアレンジ:川本 新
02.予測不能Days
作詞:渕上舞 作曲・土田拓郎 編曲:福富雅之
03.Rainbow Planet
作詞:坂井竜二 作曲:本多友紀(Arte Refact) 編曲:酒井拓也(Arte Refact) ストリングスアレンジ:川本 新
04.Meteor(ミーディア)
作詞:六ツ見純代 作曲・編曲:酒井祐輝
05.恋なの?
作詞:渕上 舞 作曲:齋藤 大 編曲:櫻澤ヒカル、齋藤 大
06.揺れるmoonlight
作詞:渕上 舞 作曲・編曲:森本貴大
07.リベラシオン
作詞:渕上 舞、松井洋平 作曲:KOHTA YAMAMOTO 編曲:矢鴇つかさ(Arte Refact) ストリングスアレンジ:川本 新
08.Love Summer!
作詞:渕上 舞 作曲・編曲:中土智博
09.バレンタイン・ハンター
作詞:渕上舞 作曲:山本恭平(Arte Refact) 編曲:大熊淳生(Arte Refact)
10.QT Show
作詞・作曲・編曲 : Shinnosuke
11.Crossing Road
作詞:松井洋平 作曲:小高光太郎、UiNA 編曲:石倉誉之、小高光太郎 ストリングスアレンジ:山本慶太朗
12.星空
作詞:渕上 舞 作曲:TO-me 編曲:TO-me,Empass ストリングスアレンジ:rionos
<Blu-ray>
《渕上 舞 2nd LIVE “Journey & My music”at 中野サンプラザ》
1.BLACK CAT
2.フラミンゴディスコ
3.アイTACTICS
4.雪に咲く花。蜃気楼。
5.ラララ~君へ贈る歌~
6.部屋の窓から見る花火
7.ファインダー
8.Cute♡Appeal
9.Beautiful Sunday
10.Migratory
11.バレンシアガール
12.リベラシオン
13.Fly High Myway!
14.Journey
En1.Rainbow Planet
En2.Good morning!Hello?Good bye.
En3.トロピカルガール
●ライブ情報
『渕上 舞 3rd LIVE ”星空”』
出演:渕上 舞
2021年4月24日(土) 開場17:00/開演18:00
会場:中野サンプラザホール
チケット価格 ¥7,700円(税込)※未入学児入場不可
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