二十歳の誕生日を迎えた昨年11月にソロアーティストとしてデビューを果たし、この1年間を駆け抜けてきた声優の富田美憂が、3rdシングル「Broken Sky」を完成させた。自身も佐々木ユウカ役で出演するTVアニメ『無能なナナ』のOPテーマとなる表題曲は、かつてなく激しいサウンドに彩られたエッジーなロックチューン。初のバラードに挑戦したカップリング曲「インソムニア・マーメイド」と共に、アーティスト・富田美憂の新たな一面を提示するシングルと言えるだろう。成長著しい彼女が本作に込めた想いについて。話を聞いた。
――リスアニ!で直接インタビューさせていただくのは久々になります。コロナ以降の期間はどう過ごされていましたか?
富田美憂 自分と向き合う時間がすごく増えました。私は学生の頃からお仕事をしていたので、今までは自分のメンタルと向き合う時間があまりなくて。でも、緊急事態宣言もあり、おうち時間が増えるにあたって、初めて自分とちゃんと向き合える時間をもらえた気がしたんです。例えば、他人と自分を比べて落ち込んじゃうクセがあるから、それを直したいなあとか。他にも、自分が出演した作品を改めて最初からすべて観て、自分の良いところや悪いところを自己研究できた期間でもあったので、それなりに有意義に過ごすことができました。もちろん悲しいことではあるけど、そういう発見もさせてくれた期間だったと思います。
――ニューシングルの表題曲「Broken Sky」は、TVアニメ『無能なナナ』のOPテーマ。まずはタイアップのお話をいただいたときの感想をお聞かせください。
富田 実は去年の1stシングル「Present Moment」のリリース直後ぐらいの時期にタイアップのお話をいただいたので、順番としては2ndシングルの「翼と告白」よりも前にレコーディングを行っていたんです。なので、水面下では「皆さんに早くお伝えしたい!」という気持ちがずっとあって。オープニングということで、この「Broken Sky」は作品の顔になるんだろうなと思い、誰が聴いても「『無能なナナ』のOPテーマはこの楽曲以外にはありえないよね」という楽曲を作れたらいいな、ということが頭の中にありました。
――『無能なナナ』という作品のことは、お話をいただく前からご存知でしたか?
富田 私のマネージャーさんが『無能なナナ』の原作が好きと以前から言っていたので、存在自体は知っていました。そこから私も原作を読ませていただいて、今までに感じたことのないようなハラハラ感がある作品だなと思いました。私は推理ものが結構好きなので、一緒に考えながら読み進めていたんですけど、いい意味で何回も裏切られることが多くて、このスリリングな作品には一体どんな曲が合うんだろう?と考えましたね。
――作品に触れたなかで、どんな部分に魅力を感じましたか?
富田 推理サスペンスの要素がとても魅力だと思うんですけど、私は“正義”と“悪”について考えさせられた作品でもあって。誰かにとっての正義も、誰かにとっては悪いことになるというのが、作品の中ですごくはっきり描かれていると感じたんです。推理の要素だけではなく、キャラクター一人ひとりの考え方やドラマもしっかりと描かれていて、人間味のあるキャラクターたちばかりなので、どのキャラも応援したくなるような作品だと思います。キャラクター同士の関係性も、話数を重ねるにつれてどんどん築き上げられていきますし。特に(柊)ナナと(小野寺)キョウヤの、ライバルでもあり友達でもあるところは、読んでいてすごく気になるポイントでした。
――富田さんは本作に佐々木ユウカ役の声優として出演もされています。このキャラクターを演じてみての印象は?
富田 ネタバレになってしまうことが多いので、キャラクターについてはあまり語れないのですが……表向きには、天真爛漫で、明るくて、すごく面倒見が良い子です。(風間)シンジに対してすごく世話を焼くキャラクターでもあるので、シンジとユウカの兄弟っぽい関係はすごく魅力的に感じましたし、ユウカはシンジに想いを寄せているので、その甘酸っぱい感じもキュンキュンするなあと思っていて。オープニング曲を任せていただいているなかで、声優としてもユウカというキャラクターを演じさせていただいているので、アーティストとしていい楽曲を作りたいという目標がありつつ、声優としても、この作品を観てくださる方の頭にユウカというキャラクターがどうすれば残ってくれるのかを考えながら、役作りをさせていただきました。
――アフレコ現場はどんな雰囲気でしたか? 印象的なエピソードなどあればお聞かせください。
富田 作品はすごくピリピリした内容ですけど、アフレコ現場自体はすごく和やかでした(笑)。ナナ役の大久保瑠美さんが座長として、ムードメイカーになってくださっていて。音響監督さん(森下広人)も、私がデビュー当時からお世話になっている方なので、「成長したね」と言ってくださいましたし、今までやってこなかったタイプのお芝居を任せていただける嬉しさもありました。
――『無能なナナ』はいわゆる能力者バトル作品ですが、もし特殊能力を一つ手に入れることができるとすれば、富田さんはどんな能力がほしいですか?
富田 ヒーリングの能力がほしいです。(犬飼)ミチルちゃんというキャラクターが、傷を治せる能力を持っているのですが、私はダンスレッスンとかで、すぐ膝にあざを作ってしまったり、結構せっかちな性格なので、常に小走りで移動するクセがあって、勢いよく立ったときに、どこかに体をぶつけることが日常茶飯事で(笑)。あざを作るたびにマネージャーさんにも注意されちゃうので、ヒーリング能力があったらすごく便利だなと思います。
――楽曲の話に戻って、「Broken Sky」は今までのシングル表題曲よりも影のある、エッジの効いたロックサウンドが印象的です。最初に受け取ったときの印象はいかがでしたか?
富田 (1stシングルの)「Present Moment」とそのカップリング曲の「Ageha Twilight」を歌った後に、この「Broken Sky」のレコーディングだったので、それまでとは真逆のタイプの楽曲をいただけたと感じました。楽曲自体の難易度もすごく高いですが、Bメロは1番と2番でリズムが違うところがあったり、曲の端々に感じられるちょっとした遊び心、トリッキーな部分があったので、楽曲としての面白みを強く感じつつ、『無能なナナ』の世界観にすごく合っていると思いました。
――他に作品とのリンクを感じた部分はありますか?
富田 ナナちゃんは特殊能力を持っていないということで、強いキャラクターではあるんですけど、作品の中では孤立しているキャラクターでもあると思うんです。なので、楽曲を聴いたときに歌詞から感じられた孤独感が、まさしくナナちゃんの気持ちを歌っているように思いましたし、その意味で歌詞と登場人物の世界観のリンクをすごく感じたので、オープニングにぴったりな楽曲だと思いました。
――楽曲や作品の世界観を歌で表現するために、こだわったポイントがあれば教えてください。
富田 今までは、自分のデビューに対するワクワク感とか前向きな気持ち、それと誰かの背中を押してあげたいという、自分の気持ちを歌声に乗せて発信していたのですが、この楽曲は、自分の気持ちというわけではなく、レコーディングするときにもちょっと客観的に歌うことによって、さっきお話したような孤独感みたいなものが表現できるかなと思ったので、そこはこだわりました。今まで歌ってきた楽曲とはまた違ったタイプの曲なので、自分の中でもすごくチャレンジでしたし、レコーディングも楽しかったですね。
――作品の世界観とは別に、自分自身の心情やスタンスなどと重ねられる部分はありましたか?
富田 「Present Moment」のときは『放課後さいころ倶楽部』という作品の登場人物たちの気持ちと、自分のデビューに向けての意志みたいなものを重ねて歌わせていただいたのですが、今回は歌詞の中にも“監獄”とか、あまり普段は耳馴染みのない言葉が盛り込まれているので、その意味では、今までの自分が体験してきたことを頭の中で考えて、その引き出しを開けていく作業よりは、作品の世界観を全面に背負おうという気持ちで歌いました。
――歌詞のフレーズやサウンドでお気に入りの部分は?
富田 ラスサビ前に“ムノウ ナ ボクハ ザンコク?”というフレーズがあるのですが、そこはすごく好きなポイントで、レコーディングのときにすごくこだわりました。私は楽曲を歌うときに、1曲に1か所はゾワッとくるポイントを作るようにしていて。前回の「翼と告白」であれば、落ちサビ前の“今の私を知っていて”というフレーズだったのですが、今回も仮歌の段階からそういうポイントを探してみたところ、この“ムノウ ナ ボクハ ザンコク?”のところは一回音がパッと消えますし、ラジオボイスの加工も加えて、この曲のなかでいちばんの鳥肌ポイントにできるんじゃないかと感じたんです。なのでそこはわざと台詞っぽくやってみたり、いろんな歌い方で4パターンぐらい録っていただいて、全部通しで流れの中で聴いて、どれがいちばんゾクッとくるかをスタッフさんと一緒に考えました。最終的には割と無機質に歌ったバージョンが使われています。
――「Broken Sky」のMVは、バンドとの撮影シーンなども含め、今までになくクールな世界観が楽しめる映像に仕上がっています。本MVのコンセプト、撮影時の印象的なエピソードなどをお聞かせください。
富田 今回のMVはバラがキーになっていて、そのバラが入ったガラスが割れてしまうと死んでしまう、という内容が軸になっています。そもそも表情作りが今までと違っていて、「Present Moment」や「翼と告白」のときは、全体的に淡い光の中で、柔らかい表情を作るように心がけていたのですが、今回はにこやかに笑うというよりはニヤッと笑うだとか、ちょっと目つきを鋭くしてみたりとかしていて。観てる側がいい意味でゾワッときたら、すごくかっこいいMVになると思ったので、表情にこだわるという点では今までと共通ですけど、表情の作り方は今までとまた全く異なるポイントです。
――撮影自体は順調でしたか?
富田 そうですね。でも、朝7時に集合して、夜の20~21時くらいに終わったので、本当に一日中かかりました。監督さんもとにかく私の表情にこだわってくださったので、特にアップのシーンでは何テイクも撮っていただきました。
――そのMVや、アーティスト写真、ジャケット写真は少しゴシックな雰囲気で、前2作とはまた違った魅力を感じました。ビジュアルやメイク・衣装面でのこだわりは?
富田 MVもそうなのですが、赤と黒が、ジャケットやアーティスト写真、衣装のメインになっていて。今まではナチュラルなメイクが多かったのですが、今回は衣装に合わせて目元にがっつり赤を入れてもらったり、今までの柔らかくてふんわりした感じとは違った、パキっとした雰囲気が、ビジュアル面でも出せていると思います。
――カップリング曲のバラード「インソムニア・マーメイド」についても伺わせてください。こちらはどんなコンセプトで制作された楽曲ですか?
富田 どこかのタイミングで「バラードを歌ってみたいです」とずっとお話させていただいていて、今回、表題曲の「Broken Sky」がロックでハードな楽曲だから、カップリングには真逆のものを持ってこよう、というお話になり、今回の「インソムニア・マーメイド」を収録することになりました。ずっと色々な場面でお世話になっていた、園田(健太郎)さんと、こだま(さおり)さんの作った楽曲を、ソロアーティストの富田美憂として歌わせていただけることがすごく嬉しかったです。
――楽曲を初めて聴いたときの印象、歌詞やサウンド面でお気に入りのポイントをお聞かせください。
富田 まさしくひとめぼれというか、最初に聴いたときから「なんて素敵な曲なんだ! 歌いたい!」という気持ちにすごくなった楽曲でした。歌詞の世界観もマーメイドがモチーフになっているので、女子としてはすごくワクワクする、キュンキュンする詞だなあと思って。失恋の曲になるのですが、ただ悲しい・寂しいだけの楽曲になるともったいないと思ったので、それだけではない、温かい気持ちや柔らかい雰囲気をこの楽曲で出せればいいなと思い歌いました。「Broken Sky」とは対照的な楽曲なので、表と裏みたいな2曲が収まっている、いいシングルになったと思います。
――作編曲の園田さんとは、過去にStudyの楽曲「Can now,Can now」(『ぼくたちは勉強ができない!』OPテーマ)や、『となりの吸血鬼さん』のOPテーマだったキャラソン「†吸tie Ladies†」などでご一緒されていたわけですが、どのような印象をお持ちですか?
富田 私が今まで歌わせていただいた園田さんの楽曲は、ガヤがいっぱい入るような賑やかでかわいらしい曲ばかりだったので、私の中ではそういうタイプの楽曲を作られるイメージが強かったんです。で、今回の「インソムニア・マーメイド」はコンペで楽曲を選ばせていただいたのですが、最初は園田さんの作ったものだとは知らずに、楽曲を聴いた印象で「この曲がいい」と感じてセレクトして、ふたを開けてみたら園田さんの楽曲だったので、意外な気持ちでしたね。
――園田さんご本人とはお会いしましたか?
富田 レコーディング当日に来てくださりました。作家さんは皆さんそうだと思うんですけど、本当にいいものを作ろうと強く思っていらっしゃる方で。その探求心だったり、職人気質なところは、職種は違えど自分ともちょっと通ずる部分はあるのかなあと感じました。
――こだまさんとも、KleissisやStudyなどの楽曲で以前からご一緒しています。
富田 こだまさんは今回のレコーディングではお会いすることはできなかったんですけど、ユニットの楽曲でずっとお世話になっていまして。私はこだまさんの書く女性らしい歌詞が大好きで、「この女性らしさは絶対にこだまさんしか出せない!」と思いますし、こだまさんの歌詞を見ると毎回ときめくんです。今回の「インソムニア・マーメイド」の歌詞をいただいたときも、やっぱりときめきがすごくあったので、「この歌詞で歌いたいです!」と強く言った覚えがあります。
――こだまさんご本人の印象はいかがですか?
富田 おっとりした方という印象です。でも、いろんな作品を手がけてらっしゃる方なので、速いときは1曲3時間ぐらいで書けちゃうというお話も聞いたことがあって。短い時間で作っているのに、クオリティは最高なので、本当に尊敬しかないです。
――レコーディングでは、どんな部分にこだわって歌いましたか?
富田 バラードなので、歌に強弱をつけすぎたり、感情を入れすぎてしまうと、ちょっとくどくなってしまうかなと思って、最初はレコーディングのときに、ちょっと控えめなバージョンを用意して持っていったんです。いざテストでそれを歌ったら、「もうちょっと年齢を重ねてから強弱のある付け方をするとくどくなるけど、今のフレッシュな富田さんであれば、感情を存分に盛り込んでもらってもくどい感じにはならないと思うので、もっと感情を出してください」とおっしゃっていただいて。他の楽曲では、ちょっと感情を抑えたり、引き算していく作業が多かったんですけど、今回は逆にプラスしていく作業が多かったです。だから今の年齢だからこその聴き応えがある楽曲になったと思います。
――3rdシングルが完成した今、改めてどんなお気持ちですか?
富田 毎回、楽曲をいただくごとに、本当に宝物をいただいたような気持ちになるのですが、今回も2曲出させていただき、自分の大切な宝物がまたふたつ増えました。これだけ素晴らしい楽曲をいただいて、素晴らしい曲になったので、今はやっぱり皆さんの前で直接歌って聴いてもらいたい気持ちがいちばん大きいですね。
――本作のリリース日の直後に、富田さんはアーティストデビュー1周年を迎えられます。今までの活動を通して、アーティスト、シンガーとして新たな気づきはありましたか?
富田 「砂の世界」(2ndシングル「翼と告白」のカップリング曲)を歌わせていただいたときに「自分はこういう楽曲も歌えるんだ!」という発見があったのですが、その自分の新しい可能性を見つけていくことは、今後何歳になってもやっていきたいことだと思っていて。今後、新たな楽曲を出すことになっても、毎回、皆さんに驚いてもらえるような歌をうたっていけたらなと思っています。
――デビュー2年目は、どんな挑戦をしていきたいですか?
富田 やっぱり楽曲が増えてきたので、富田美憂としてのワンマンライブはすごくやってみたいですし、それにあたってグッズのデザインもやってみたいと思っていて。声優業だけではわからなかった自分のやってみたいことが、アーティスト活動を通してたくさん見つかったんです。今まで作品のインタビューでキャラクターのお話をさせていただく機会はたくさんあったのですが、アーティストデビューさせていただいてから、自らの話をする機会が格段に増えたことで、私は自分の思っていることやお仕事のことを発信するのが好きだということにも気づいて。それは多分、歌のお仕事をしていなかったら気付けなかったことだと思うんです。これからもいろんな歌をうたって、いろんなステージに立って、自分の好きなことや得意なことを発掘していけたらと思っています。
――では、最後に読者へのメッセージをお願いします。
富田 3枚目のシングル、かつ、1stシングルから数えてちょうど丸1年経ったタイミングでもあるので、私の一年間の成長を見ていただけるような一枚になったと思います。この二十歳の一年というのは、自分の中では目まぐるしいぐらいにいろんなことがあって。歌を通して、いろんなファンの方と会って、いろんな経験をしてきたので、今までやってきたこの一年間の経験が、今回のシングルにはすごく乗っていると思うんです。歌声やMV、CD全部で、富田美憂という人間が二十歳という期間に経験してきたことを感じていただき、楽曲を通して想いを届けられたら嬉しいです。
INTERVIEW BY 星野康直 TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
富田美憂 3rd SINGLE
「Broken Sky」
11月11日発売
<CD>
1.Broken Sky
作詞:大西洋平 作曲・編曲:VaChee、Ryo Yamazaki
2.インソムニア・マーメイド
作詞:こだまさおり 作曲・編曲:園田健太郎
3.Broken Sky(Instrumental)
4.インソムニア・マーメイド(Instrumental)
<DVD>
「Broken Sky」ミュージックビデオ +メイキング
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