INTERVIEW
2020.10.09
サイバーエージェントグループ、ミュージックレイン、ストレートエッジの3社による大型アイドルメディアミックスプロジェクト「IDOLY PRIDE」。TVアニメの放送を2021年 1月に控えるなか、物語の軸を担う芸能事務所・星見プロダクションに集った10名の新人アイドルたちによる楽曲「サヨナラから始まる物語」のアニメーションMVが、YouTubeにて公開された。アイドルらしい華やかなサウンドと共に、やがて訪れるであろう運命のドラマを予感させるこの楽曲を提供したのが、シンガーソングライター/クリエイターとして大活躍する大石昌良。その制作秘話について、語ってもらった。
――まずは「IDOLY PRIDE」という作品の印象についてお聞かせください。
大石昌良 実は最初にお話をいただいたのが、かれこれ2年近く前のことでして。その時点から「2年後に本格的に立ち上がるコンテンツの楽曲を書いてほしい」というお話だったので、助走期間の長さからも「これは本気のコンテンツやな」と思いました(笑)。そのあとに資料をいただきまして、中身の設定やキャラデザを含めて見させていただいたのですが、一番印象的だったのが、いわゆるアイドルものであるにも関わらず、ただ女の子たちがキャッキャウフフしているだけではなく、シリアスで芯の通ったドラマがそこにあるということ。もちろん華やかなアイドルシーンを描いてはいるのですが、そこに至るまでの険しい道のりを抽出していて。アイドルものというとシンデレラロードを思い浮かべますが、そういう一筋縄ではいかない物語がたくさん用意されているコンテンツだと思いました。
――大石さんと言えばクリエイターとしても数多くのコンテンツやアーティストに楽曲提供していますが、女性アイドルコンテンツに参加するのは珍しいですよね。
大石 そうなんですよ。その意味でも新鮮さはありましたし、いずれは書いてみたい気持ちを持っていたので、今回のお話はすごくありがたかったです。それに立ち上げのタイミングから参加させていただく経験もあまりなかったので、余計に僕を必要としてくれていることを肌で感じましたし、その気持ちにお応えしたいなと思いまして。男性にはないキラキラ感や可愛い感じを演出できればと思いながら曲を書きました。
――大石さんが手がけたのは、星見プロダクションの10人が歌う楽曲「サヨナラから始まる物語」。楽曲提供にあたり、作品サイドからはどのようなオーダーがありましたか?
大石 あまり語りすぎてしまうと、ネタバレになるのですが……まず、一筋縄ではいかないシンデレラロードを描くということで、ちょっとエモい感じという要望をいただきましたね。オタク用語で言うところの“高まる”系と言いますか。なおかつ、踊りやすくて、爽やかなロック風ということ。それと、この曲がモーション付きで公開される最初の曲になることも決まっていたので、「ここから物語が始まっていく感じに」「このアニメの顔にふさわしい曲にしたい」ともおっしゃっていただきました。なので、とにかく誰が聴いても感動できるいい曲を目指しました。
――星見プロダクションの楽曲を書くうえで、各キャラクターの設定にも一通り目を通されたと思うのですが、彼女たちの印象はいかがでしたか?
大石 このグループで大丈夫かな?というのはありました(笑)。というのも、メンバーには、ただの幼馴染の子とか、道で拾ってきたネコみたいな子もいて、言ってしまえば寄せ集め集団みたいなところがあるじゃないですか。もちろん彼女たちは運命に沿ってそこに集まってはいるんですけど、「このプロダクション、ちゃんとできるのかな……?」という、いい意味での不安感が第一印象でしたね。あとはシンプルにキャラデザが可愛すぎて。学生時代によく友達と漫画誌を見ながら「お前はどの子がタイプ?」って話したりしますけど、それと同じ感じで、一人でキャラデザを並べて「この子が可愛い!」って勝手に推しを決めましたから(笑)。
――ちなみにその大石さんの推しのキャラクターは?
大石 第一印象では伊吹(渚)ちゃんが一番好きでした。おっとりした感じがいいし、僕はガーリーで女の子らしいタイプの子に惹かれるみたいで……すみません、しょうもない話をしてしまって(苦笑)。
――具体的にはどのような流れで楽曲制作を進めましたか?
大石 実はシナリオもすべて読ませていただいたうえで楽曲を作らせていただいて……そのシナリオを読んだことで、一つの感動を呼ぶ楽曲にしたいという気持ちがさらに高まりました。そこから、まずギターの弾き語りでも歌えるようなメロディをワンコーラス作って、それに歌詞を当て込んでいく作業をして。今回の物語に関しては、言葉にしてしまうと陳腐に聞こえるかもしれないですけど、“奇跡みたいな出会い”が一つのテーマだと感じたので、みんながその“奇跡の出会い”を大切に抱きしめるようなお歌にできたら、と思いながら書きました。
――たしかに、この楽曲にとって“出会い”は象徴的なワードになっていますが、それとは逆に“別れ”の要素も込められているように感じました。
大石 タイトルからして「サヨナラから始まる物語」ですからね。要は新しい出会いだけではないところを、この曲では書き切りたいなと思ったんです。あと、僕はサビの頭の箇所のフレーズ(“めぐり逢えた奇跡の真ん中で 少しくらいわたし泣いたっていいよね”)がお気に入りなんですよ。最高の涙というのは、感極まってしまって、笑いながら泣いてるときの涙だと思うんですよ。喜びすぎて泣いてしまうだとか、前向きでポジティブな涙は、本当の涙だと感じるんですね。お涙頂戴もそれはそれでいいんですけど、この曲ではそれとはもっと別の種類の涙というものを歌詞で演出できればいいなと思って。“少しくらいわたし泣いたっていいよね”というフレーズも、今まで辛いことを我慢していたキャラクターたちが、この場所だからこそ泣ける、というのを表現できればと思いながら書きましたね。
――サビの歌詞で言うと、“駆け出したら いつでもそこがスタートライン”というポジティブなフレーズの前段に“胸の奥に刺さった切なさが痛いけど”とあるのも象徴的で。彼女たちのただ眩しいだけではない道のりが表現されているように感じました。
大石 そうなんですよね。喜びだけじゃないということは、「IDOLY PRIDE」の特筆すべきところであり、物語の核になるところでもあると思うので。そこは逆にこの楽曲を先に聴いていただいた方が、アニメを観て、物語が進んでいくなかで、「あれ? この歌でうたわれていることはこういうことだったのかな?」という感覚になればいいなと思っていて。すごく生意気なことを言いますと、例えば『まどマギ(魔法少女まどか☆マギカ)』の「コネクト」(ClariSが歌った同アニメのOPテーマ)みたいな曲、物語が進むにつれて歌詞の内容がわかっていくという、化学反応が起こればいいなと思いながら書いたところもあります。
――現段階では聴きながら想像を膨らませるのも面白いですし、2021年1月より放送予定のTVアニメを観終わったあとに改めて聴くことで、また新しい発見や驚きに出会える楽曲になっていると。
大石 それと僕のお気に入りがもう一つあって。この曲、歌詞のド頭が“ねえ偶然ってなんだっけ? 必然ってなんだっけ?”という投げかけから始まるんですよ。「もっと自信を持てよ!」って思うんですけど(笑)、僕はそれが逆にいいなあと思うんですよね。
――そこは星見プロダクションのメンバーの、まだ走り始めたばかりという不安な気持ちのようなものが、イメージとして反映されているのでしょうか?
大石 最初はそう紐解かれると思うんですけど、また後々、別の意味合いで響いてくるフレーズになると思います。今の時点で聴く“偶然ってなんだっけ? 必然ってなんだっけ?”と、物語が終わったあとに聴くそれとでは、きっと聴こえ方が変わってくると思うので。そういう仕掛けが出来ればと思いながら書いた歌詞になります。
――何重にも仕掛けが施された楽曲のようですね。あとは“運命”“デスティニー”という言葉が歌詞で印象的に使われているのも、テーマの一つとして大きいのかなと思いました。
大石 そうですね。基本的には彼女たちが歩んでいく物語なのですが、その運命に気づかずに歩いている感じというか。一生懸命なときというのは、自分が運命の渦中にいることがわからないものじゃないですか。運命というのは振り返ったときに気づくものだと思うんです。そういうメッセージ感も入れ込んでいますし、感じていただければいいなと思いました。
――サウンド面のこだわりについてもお聞かせください。この曲の編曲は大石さんと岸田勇気さんの共作となっていますが、今回、岸田さんを共同アレンジに迎えたのは?
大石 僕が提供した曲の場合、バンドサウンドでアレンジすることが多いのですが、今回は、より女の子のキラキラ感をサウンド表現したいと考えたときに、周りにいるアレンジャーのなかで一番力を貸してくれるのは岸田くんだと思ったんです。岸田くんはちょうどその時期から、実際のアイドル(わーすた)のプロデュースを担当していましたし、自分もその楽曲を聴いていたので、今回の楽曲に関しても、色彩感を足してもらえるかなと思ってお声がけしました。僕だけではまだ足りないと思うところを補ってもらうために招集した感じですね。
――実作業としてはどのようにアレンジを進めたのでしょうか?
大石 まずベーシックのアレンジは僕で進めて、岸田くんには、そこに改めていろんなものを上に乗せてもらう感じでした。下地の生地は僕が作って、その上にホイップクリームとかフルーツを乗せてもらう感じと言いますか(笑)。おかげさまですごくキラキラしたものになりました。
――サウンド的には爽やかでテンポが速いので、一聴すると華やかで爽快感がありますが、メロディ的には決して明るくはない作りになっていて。そこはエモさを意識した部分でしょうか?
大石 ちょっとした切なさだとか、抱えきれない悲しみ、それでも前を向こうとしている少女たち。そういうメロディ感を目指して書いていましたね。ほかにも意識したことで言うと、この曲はライブで歌われると聞いていたので、いわゆるアイドルオタクの決まりごと的なキメを意識して入れました。ここは阿吽の呼吸でステージに向かって「フッフー!」と叫ぶのがわかるでしょ?みたいなリズムを随所に入れたつもりなので、今でこそこういうご時世になってしまいましたが、今後ライブの現場があれば、僕も観に行って、ファンの方と一緒になって応援したいなあと思っています。
――この楽曲のオケは生演奏メインで録られたとのことですが、その部分でのこだわりは?
大石 打ち込みのほうが踊りやすくなる部分はあるんですけど、今回の楽曲に関してはエモさや感動を呼ぶというテーマがあったので、より人の血が通っていたほうがいいなと思いまして。なのでドラム、ベース、ギター、ピアノは生演奏で録音しました(Drums:髭白健、Bass:二家本亮介、Guitar:奈良悠樹(F.M.F)、Piano,All Other Instruments & Programming:岸田勇気)。おかげさまで、たくさんの方が関わることで生まれる魔法、レコーディングマジックがたくさんかかった楽曲になりました。たぶん何回聴いても飽きない曲になったと思います。
――個人的には、間奏からDメロにかけての、ギターソロから落としつつ畳み掛けるような展開がドラマチックで好きでした。楽曲としても物語としても転換点を迎えるような印象で。
大石 そうだ! 曲を作り始める前から、Dメロの展開を作る大サビは絶対に入れようと思いましたね。それを入れないと彼女たちの物語に失礼だと感じたんです。A→B→サビだけの構成では終わらせたくない、一筋縄ではいかない感じ。物語の起伏みたいなものは、シナリオを読んだ段階から構想が沸いてきました。あとは複数歌唱による煌めき感というのもイメージにあって。10人で歌唱することは最初から決まっていたので、それに対する期待感はありましたし、実際にキャストの皆さんにはその期待に応えていただきました。
――キャストの皆さんの歌録りには立ち会われたのですか?
大石 岸田くんと分担してディレクションを担当させていただいて、僕は佐々木(奈緒)さんと首藤(志奈)さんのレコーディングに立ち会いました。佐々木さんはめちゃくちゃ上手で、たしか現場で譜面について言及していたので、音楽の経験があるのかなあと思って。首藤さんも、僕がディレクションをするまでもなく、上手に歌えていましたね。
――先日配信された特別番組「IDOLY PRIDE ミュージックプログラム #1」で、キャストの皆さんが「サヨナラから始まる物語」をバーチャルライブで披露されましたが、ご覧になりましたか?
大石 観ました! めちゃくちゃ作り込まれていましたし、皆さんすごく練習してきたんだろうなと感じましたね。そもそもああいう空間でライブすること自体、あまり見ない試みだと思うので、映像や技術的な面白みも感じながら拝見させていただきました。これは推測ですが、キャストの皆さんもコロナ禍の状況でイベントが出来なくなってしまったので、「ここしかない!ここで表現してやるんだ!」という気合いがあったと思うんですね。キラキラした表現のなかにも、内なる魂的には鬼気迫るものがあったというか、「このステージは私たちが守るんだ!」というドキュメントが、彼女たちのパフォーマンスから感じることができて。それがすごく感動を呼んでいたと思います。
――それはある種、「IDOLY PRIDE」らしい部分でもありますね。
大石 そうなんですよ。気持ち的な意味でも、まさにフィクションとノンフィクションがリンクした瞬間に感じましたね。アニメーションMVもめちゃくちゃ良くできていて、振り付け、モーション、作画、すべてにおいて一級品だったので、「これは楽曲も喜んでるわ」と思いながら楽しみました。
――改めて、今回「IDOLY PRIDE」にクリエイターとして参加したことで、新たに気づきはありましたか?
大石 先ほどもお話させていただきましたが、今回初めて女性アイドルコンテンツに楽曲提供したことで、自分の中で自信になりましたし、とてもいい楽曲が書けたという手応えもありました。これからどんどんファンの方にコンテンツが浸透していったときに、また改めて曲が評価される瞬間がくると思うのですが、そのときにまた答えのようなものを、ファンの皆さんからいただきたい……というか、勝手にエゴサするだけなんですけど(笑)、どういう反応をいただけるのか、改めて見てみたいなと思います。
――最後に「IDOLY PRIDE」の今後の展開を期待している皆さんに向けてメッセージをいただければと思うのですが、ほかに言い足りないことはありますか?
大石 そうだ! 横に並ぶ作家さんが本当にすごすぎて、いやいやどんだけ集めるねんっていうのはありますね。これはもう、クリエイターバリュー暴力ですよ(笑)。ここまで豪華な名前が並ぶと、好きな人が見たら食いつかざるを得ないじゃないですか。でも、参加クリエイターをきっかけに入ったとしても楽しめるコンテンツになっていると思うので、仮に僕に信頼を寄せている奇特な方がいらっしゃったら、ぜひ、この「IDOLY PRIDE」に足を突っ込んでみてはいかがかなと思います。
★キャラクターへのQ&A形式インタビュー連載「IDOLY PRIDEの“一問一答”」はこちらにて公開中!
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●作品情報
TVアニメ『IDOLY PRIDE』
2021年1月より放送予定
【STAFF】
原案:水澄佳希(QualiArts)、安達薫(ストレートエッジ)、花田十輝(SATZ)
原作:Project IDOLY PRIDE
キャラクターデザイン原案:QP:flapper
監督:木野目優
シリーズ構成:髙橋龍也
キャラクターデザイン:木野下澄江
アニメーションプロデューサー:秋田信人、村松裕基
アニメーションプロデュース:CAAnimation
アニメーション制作:Lerche
© 2019 Project IDOLY PRIDE
© 2019 Project IDOLY PRIDE / 星見プロダクション
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