INTERVIEW
2020.09.29
――通算3枚目のアルバムになりますが、どんな作品にしたいと考えてましたか。
みあ 前作『ガールズブルー・ハッピーサッド』で、三パシ(三月のパンタシア)のブルー感みたいなものをちょっとずつ世の中に浸透させることができたかなと思っていて。さらにもっとこのブルーを広めたいっていう思いがあったんですね。三パシのアルバムの制作は、“タイトル=テーマ”みたいなところがあるので、大体タイトルを最初に決めるんですけど、そこに、前回のアルバムに引き続き、“ブルー”か“青”っていう言葉は絶対に入れたいなと思っていて。そんなことを考えていたとき、ふと、三パシの音楽性をひとフレーズで表現するとどうなるのかなと思い、「ブルーポップ」っていう単語が思い浮かんだんです。“ブルーポップ”はいいんじゃないかと思いついたんですね。三パシのブルーポップをずっと鳴り響かせたい。それが、今回のテーマであり、タイトルになってますね。三パシのブルー感をもっと浸透させたいし、誰かの心に鮮やかなブルーを残せるようにっていう思いも込めて、アルバムの制作は始まっていきました。
――改めて、“ブルーポップ”とはどんな音楽だと言えばいいですか。
みあ 青春的な衝動感だったり、青臭い気持ち、日々の中にあるちょっとブルーな気分や憂鬱な気持ちを音楽の中でポップに昇華することができたらいいなという思いを込めてますね。でも、タイトル自体は昨年末あたりで決まっていたんですけど、今のコロナの影響を受けて、憂鬱な気分とかブルーという言葉がより具体性を帯びてくるようになって。そういうなかで、じゃあ三パシの音楽で何ができるのかって考えたときに、ちょっと塞ぎ込んでしまうような気持ちだったり、憂いた気持ちを、自分たちの音楽が拭い去ってあげることができたらいいなっていう思いも考えるようになりました。
――このコロナ禍で書いたものもありますか。
みあ 小説で言うと、「サマースプリンター・ブルー」がそうですね。テーマとして、今の状況で作品に触れてもらうのだとしたら、何か明るい気持ち、前向きな気持ちを届けられたらいいなっていう漠然とした思いがあって。なので、小説の中の主人公の女の子は、夏に始まった恋をひたむきに、暴走に近い爆走をしていく。転んだり、立ち止まったりしながらも、全力疾走する女の子に前向きな気持ちを託して、その明るさが届けばいいなって。
――三パシの小説や音楽の中の女の子は言えない思いや忘れられない思いを抱えたままであることが多いんですが、この“まどか”さんはちゃんと気持ちを伝えてますね。
みあ 「今まで描いたことのないようなハッピーエンドを書いてみよう」とはっきりと意図していました。だから、……自分が書いてるものではありますが、主人公の一生懸命さや全力さ、走り抜ける気持ちに自分の気持ちも引っ張られていくような不思議な感覚がありました。自分で書いてる自分の物語に気持ちが引っ張られる、今までに感じたことのないような感覚でしたね。
――そして、この小説をもとにした40mPさん提供の「サマーグラビティ」はバンドサウンドの青春ロックになっています。
みあ 40mPさんには、「三パシらしい、言いたくても言えない切なさがありながらも、夏を駆け抜けるような疾走感のある、爽やかな楽曲になったらいいな」という思いを伝えさせてもらって。まさに、キラキラもしてるし、でも、ちゃんとその裏側にある切なさも描いてもらえたなって思っています。メロディも美しいし、ライブで歌ったらめちゃくちゃ気持ちいいだろうなって思うようなキメもたくさん入ってるし。すごく盛り上がる曲だと思うので、早くみんなと一緒に歌いたいなって言う気持ちも強いですね。
――小説に出てくる映画「まどろむ教室」が曲では“教室がまどろんでいる”になっていたり、“読みかけの小説”や“夏の重力”など、小説と繋がったフレーズもたくさんありますね。
みあ 40 mPさんが小説の世界とリンクする歌詞を書いてくださって。私は勝手に、あの主人公になった気持ちで受け取りました。だから、レコーディングでもちょっと自分も走り出したくなるような衝動的な気持ちや爆走感が乗るといいなと思って。波があるようなメロディなので、跳ねる感じも意識して歌いました。
――今、「主人公の気持ちで」とありましたが、小説内の“青葉まどか”の気持ちで歌ってますか? いつも楽曲の主人公になりきって歌うのか、それとも物語の主題歌として寄り添う気持ちなのか、どう言うアプローチなのかなと思っていたのですが。
みあ 曲によってっていう言い方がいちばんしっくりくると思います。楽曲は自分が書いた小説が基になっていて。その小説の主人公も、そんなに自分とかけ離れた人物は出てきてないのかなという感じもしています。なので、完全に小説の主人公になりきって演じているっていう感覚ではないのですが、その主人公の思いは自分で書いたものだし、自分の中には確かに残っている。その思いを引っ張り出しつつ、その物語の主人公にしか生まれない気持ちと自分の気持ちを繋げながら歌っている感じですね。
――主人公は自分とはそんなにかけ離れてないんですね。では、いちばん自分に近いなと感じる子は?
みあ どれだろ。うーん。全部、ちょっとずつ“みあ”だなっていう手触りはあるんですが……年齢とかは別にして、「サマースプリンター・ブルー」の主人公の、とりあえずやってみようみたいな、向こうみずに踏み込んでいく部分は、自分にもあるのかなと思っていて。でも、結局、肝心なところはひよって聞けない、みたいな。それは、自分に近いキャラクターというか、マインドかもしれないなって思いますね。いちばん最近書いたものだからそう思うのかもしれないですけど。
――逆にいちばん自分から遠いのは?
みあ みきとPさんが書いてくれた「不揃いな脈拍」の基になっている「情緒10/10」かな。これが曲としてはいちばん最後に出来たのですが、前回のアルバムに引き続き、“いちアルバムいち病み曲”を収録できたらいいなと思って。前回のアルバムでも、「ビタースイート」の立ち位置が面白かったので、またそういう楽曲が収録できたらいいなと思ったんですね。じゃあ、どういう状況だったら病んじゃうだろうか、と考えたときに思い浮かんだ設定で。幸せすぎて怖いっていう表現の極限にいる人を想像して物語を構想していきました。自分が好きな人はちゃんと自分のことを見てくれているけれども、本当は心の奥に別の人がいる。その状況は辛いけど、好きだから離れられないっていう、限界な状態にいる主人公の女の子を物語として書いてみました。自分から引っ張り出すっていうよりも、かなり想像力を駆使しながら書いたものなので難しかったですね。
――主人公は大学2年生ですけど、とても大人っぽい表現もありますね。
みあ そうですね。あんまりそこまで深いものを書いてこなかったのかなと思っていて。なので、どういうふうに受け取られるのかわからないんですけど、それが楽曲になったときはすごく艶っぽいというか。またこれまでにない三パシを感じてもらえるんじゃないかなと思います。
――みきとPさんにはどんなオファーをされたんですか。
みあ 小説をお渡ししてから、トーンは落ちるところまで落ちてもいいとお伝えしたんですけど、みきとさんからは、「ポップっていうタイトルでもあるし、三パシさんは最近明るい曲が多いので、どのくらいまで暗い曲にしていいんですか?」って聞かれたんですね。だから、みきとさんには「アルバムの中でも、病み曲という立ち位置にしたいので、あまりポップさに寄り添うというよりも、みきとさんの世界観で、深い憂鬱の中にいる女の子の物語を描いてもらえたら嬉しいです」ってお伝えしました。そこから楽曲制作が始まり、今回、初めて、歌詞の共作にチャレンジをさせてもらって。共作のやり方っていろいろあると思うんですけど、今回は1番をみきとさんが書いて、2番をみあが書いて、続きをまたみきとさんが書くっていう交換日記のようなやりとりをしました。続きを書くという経験がこれまでなかったので、すごく面白かったですし、新鮮でしたね。
――曲も新機軸ですよね。ジャジーなアーバンポップになってます。
みあ この曲が全12曲の中でいちばん難しかったです。全体的に、虚無感が滲む楽曲なんですけど、時々、情緒が暴発して感情的になったりする。虚で大人びてるような、達観してるような気分のところと、感情的に全部さらけ出してしまうようなフレーズが、1つのサビの中でも混在してる強弱を歌で表現するのが難しくて。納得いかなくて何回も録り直したし、レコーディングもいちばん時間がかかった楽曲だったなっていう印象があります。
――小説から感じた大人の感情が曲でも歌でも表現されてると思います。それにしても、決して叶わないという恋が多いですよね。「情緒10/10」は同性が好きな子を好きになってしまっていますし。
みあ そうなんですよね。最近、改めて気づいたんですけど、好きな小説や映画、漫画を並べてみたときに、自分が好きなものが、叶わない恋をテーマにしているものがほとんどだったんです(笑)。もう一歩、踏み込むと、どうしても叶えられない恋というか。出会い方が違えば、絶対にお互いに好きになれていたのに、こういう運命だから、向き合ってるのに気持ちが重ならない、みたいな。その、どうしようもなさに私はエモーショナルや切なさを感じるんですよね! そういう切なさを伝えられたらいいなっていうのは、小説にはより色濃く出てるのかなって思います。
――小説「真夜中の水底」もそうですよね。
みあ もう性癖なんです(笑)。恋人がいるけど、勝手に思うだけならいいかっていう気持ちで好きになって。傷つく資格はないってわかってるのに、やっぱり苦しいなっていう。そういう切なさ。でも、それって、誰もが一度は経験することではないのかなって思うんですね。私はそんなに特別なものは書いてなくて。わりと、よくある話ではあるんですけど、1つの別れや失恋にしても、普遍的なお話をみあの感性で表現ができたらいいなって思いながら書いていますね。
――これは彼女がいる大学の先輩を好きになってしまった女の子の話になってます。
みあ 真夜中にボーッと考えてるイメージと、別れの切なさが書けたらいいなっていう漠然としたテーマがあって。私は寝るときに、1個も照明をつけないで真っ暗な部屋で寝るんですけど、まどろんでるときに暗い部屋の中にいると、どこか深海みたいというか、暗い海に沈んでいくような気持ちになるんですね。そういう感覚を頼りに、真夜中の海に沈んでいく感じと、記憶の中の先輩の記憶に沈んでいく感じをうまくリンクさせられたらいいなと思いながら、回想みたいな形式で小説を書いて。そういう真夜中の浮遊感みたいなものを楽曲にしたいと思っていました。
――楽曲「ミッドナイトブルー」はフューチャーベースを導入したエレクトロになってます。
みあ このアルバムの中でも変化球になるような、周りのバンドサウンドの曲に対して、冷たい電子音がたくさん織り交ぜられているエレクトロにしたいなと思って。Norくんとは初めてだったんですけど、Norくんも最初は三パシのバンドサウンドを意識してくださって、バンドサウンドを織り交ぜた形のものを提案してくださったんです。でも、私はNorくん自身が普段作っている音楽がおしゃれでかっこいいなと思っていたので、「浮遊感のあるちょっと切ない感じ」っていうテーマはありつつ、自由に作ってもらえたら嬉しいですっていうお話をして。
――真っ暗な部屋が水で満ち満ちていくような雰囲気がありますね。
みあ すごく面白い音がたくさん入ってるので、夜中にヘッドフォンやイヤフォンで家で聴いてもらいたい楽曲だなって思います。あと、歌唱も、最初から最後までウィスパーボイスを駆使してて。それも初めてのチャレンジなんですけど、イメージとしては、耳元でずっとひそひそ話をしてる感じでレコーディングしました。歌も含めて、新しい表現ができたのかなって思います。
――今作では様々な新しい表現にチャレンジしてますよね。特に「ミッドナイトブルー」「青い雨は降りやまない」「不揃いな脈拍」の並びは刺激と驚きがありました。
みあ そうですね。その3曲はアルバムの中でも、チャレンジした楽曲になっているので、これまで聴いてくれたリスナーも新鮮な気持ちで聴いてくれるんじゃないかと思います。
――小説「春が過ぎ、夏が来るまでの憂」の楽曲「青い雨は降りやまない」はバラードになってます。
みあ 最初に小説を書き始めたときは、まず、“雨”をテーマに書けたらいいなっていうのがあって。雨で、切ない別れを彷彿させる物語を考えていたときに、家庭教師の先生だけど、お姉ちゃんの彼氏だっていうお話が浮かんで。叶わなかったなっていう切ないままの終わり方もあったと思うんですけど、そうじゃなくて、最後には何か救いが描けたらいいなと思って。光はまだ差してないかもしれないけど、確かにそこに光がある気がするような終わり方ができたらいいなという思いで小説を書きました。そこから、“雨”をテーマにしたバラードを制作しました。
――1番と2番では過去に思いを馳せてますよね。まだ引きずってるというか。
みあ そうですね。心の中の雨は止んでないけど、最後まで切なくて重たい曲にしたいわけではなくて。ちゃんと小説と同じように、最後に光は書きたいっていう思いはあったので、今はまだ忘れられないし、切なくて痛いけど、きっといつかは、あの頃こういうことがあったなって笑えるような日が来るというか。胸の隅でそっと輝けるような思いにいつかはなってるかもしれない。そういう日が来ることを願うというか、予感を感じてもらえる曲になったらいいなという思いで、最後の1行を歌いました。
――Dメロあたりで、小説内にあった、家庭教師の先生と二人で傘をさしてるシーンが思い浮かびました。
みあ すごく嬉しいですね。自分で歌詞を書かせてもらうようになってから、小説と楽曲がよりリンクするようにできれば面白いだろうなという意識で書いてて。だから、そういうふうに小説と楽曲で情景が行ったり来たりしてくれるのは嬉しいです。
――全12曲が揃ってご自身ではどんな感想を抱きましたか。
みあ めちゃくちゃバラエティに富んだアルバムになったなと思いました。三パシの様々なブルーを表現したアルバムになっているんですけど、青春の青もあるし、青臭い気持ちだったり、ブルーで憂鬱な気分、青の中でも、水色に近い、明度の高い爽やかな青さもあれば、どんどん明度が低くなって、憂鬱で虚無っぽい気持ちに近いような気持ちを楽曲にしたものもあって。すごく多様性に溢れたアルバムになったんじゃないかなと思っています。たぶん、アルバムを手に取ってくれた人の中で、いわゆる推し曲みたいなものにかなりバラつきが出てくるんじゃないかなって想像するんですけど、みんなはこの中でいちばんどれが気にいってくれるのかなってことにすごく関心があります。
――昨年の夏にリリースされた「いか天」から始まって、最も明度が高い「サマーグラビティ」があり、もっとも明度の低い「不揃いな脈拍」があり、ライブで一緒に盛り上がるラストナンバー「ランデブー」は“物語はまだまだ続いていく”というフレーズで締め括られています。
みあ そのフレーズにすべての思いを込めていますね。この曲は、みあとリスナーの一対一の物語を描いたものでもあって。この関係性の中で物語はまだまだ続いていくし、これからも一緒にいろんな景色を見ていきたいねっという想いも込めてるし、三パシの物語はまだまだ終わらないぞっていう決意が伝わるといいなと思います。
――その“これから”はどう考えていますか? 小説「コーヒーと祈り」と楽曲「たべてあげる」のように、日常の安心感や癒し、優しさや小さな幸せを見つけた主人公もいます。音盤の中の主人公たちも少しずつ大人になっていくんでしょうか。
みあ これまでと比べて、ちょっと大人の感情を描こうと思って描いてるわけではなくて、自分がそのとき思った気持ちを素直に書いた結果、こうなってるんですね。だから、もしかしたら、自分が経験を重ねていくなかで、意識しなくても、色味が変わっていったりするのかなと思っていて。なので、1年後、2年後には、もしかしたら、職場で悩んでるOLの話とかを描いているかもしれない(笑)。自分ではわからないというのも変な話ですけど、自分がいったいこれからどういう物語を紡いでいくのかにちょっと興味がありますし、リスナーやファンの方と一緒に紡きながら、三パシの物語をもっと広げていけたら嬉しいです。
INTERVIEW BY 永堀アツオ
★インタビューで出てきた小説は、アルバムの初回生産限定盤に同梱される文庫本(小説)よりご覧いただけます。
●リリース情報
ニューアルバム
『ブルーポップは鳴りやまない』
9月30日発売
【鳴りやまない盤(初回生産限定盤、CD+BD+小説付き豪華仕様)】
品番:VVCL-1740~1742
価格:¥6,300+税
【通常盤(CD)】
品番:VVCL-1743
価格:¥3,000+税
<CD>
01.いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら
作詞・作曲・編曲:buzzG
02.恋はキライだ
作詞・編曲:堀江晶太 / 作曲:堀江晶太、hirao
03.サマーグラビティ
作詞・作曲・編曲:40mP
04.逆さまのLady (遊星高校「オトメフラグ ~遊星高校 前夜祭~」テーマソング)
作詞:yuiko / 作曲・編曲:堀江晶太
05.醒めないで、青春 (ポカリスエット 「2分30秒の青春」篇CMソング)
作詞:みあ / 作曲・編曲:石倉誉之
06.たべてあげる(Nintendo Switch™ソフト「毎日♪ 衛宮さんちの今日のごはん」主題歌)
作詞:みあ / 作曲:堀江晶太 / 編曲:江口亮
07.ミッドナイトブルー
作詞:みあ / 作曲・編曲:Nor
08.青い雨は降りやまない
作詞:みあ / 作曲:石活水 / 編曲:石倉誉之、石活水
09.不揃いな脈拍
作詞:みあ、みきとP / 作曲・編曲:みきとP
10.煙
作詞・作曲・編曲:n-buna
11.透明色
作詞・作曲・編曲:ぷす
12.ランデヴー
作詞:みあ / 作曲・編曲:やいり
<Blu-ray>
01. いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら -Lyric Video-
02. 恋はキライだ -Lyric Video-
03. サマーグラビティ -Lyric Video-
04. 逆さまのLady -Lyric Video-
05. 醒めないで、青春 -Lyric Video-
06. たべてあげる -Lyric Video-
07. 青い雨は降りやまない -Lyric Video-
08. 煙 -Lyric Video-
09. 透明色 -Lyric Video-
10. ランデヴー -Lyric Video-
【ライブ情報】
三月のパンタシアLIVE2020「ブルーポップは鳴りやまない」
配信日時:2020年10月23日(金)
18:00 OPEN / 19:00 START
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