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INTERVIEW

2020.09.08

変わらないための大きな変化! 夏川椎菜ニューシングル「アンチテーゼ」ロングインタビュー

2年ぶりのシングルCDを発表した夏川椎菜は、これまでの世界観を踏襲しつつも、非常に新鮮なビジョンを我々に提示してみせた。本人の希望による新たなクリエイターとのコラボと、さらに冴えわたる作詞のペンが描き出した純度100%の彼女の内面世界について、たっぷりと語ってもらった。

新しい出会いが導いた、超攻撃的な世界観

――4thシングルの表題曲となる「アンチテーゼ」について、作詞・作曲のすりぃさんは夏川さんの楽曲には初参加となります。まずはこの布陣になった経緯などから伺えればと思います。

夏川椎菜 元々シングルを作る予定はだいぶ前からあって、どういう内容にするのか、どんな曲を作るのかという話はチームでしていました。制作が現実的になったとき、私がちょうどすりぃさんの楽曲をよく聴いていて、YouTubeのチャンネルも登録してるような普通のファンだったんです。それで次に作る曲は、デジタルロックというかボカロ的な方向性でやりたいと、すりぃさんのお名前も出しながら話していたんですが、本当に偶然ご縁が繋がって一緒にやらせてもらえることになりました。

――オファーが決まった時点で、夏川さんからはどのような希望を出したのでしょうか?

夏川 すりぃさんの発表している曲の中からいくつかをピックアップして「こういう曲がやりたいです」とお話しさせていただきました。とはいえ歌詞の世界観やアレンジの方向性は、むしろすりぃさんの感性で作ってほしいと思っていたので、私のほうから細かくオーダーを出すことはしませんでしたね。

――直接顔を合わせての打ち合わせはされたんですか?

夏川 コロナ禍の直前ぐらいに、打ち合わせというか顔合わせの雑談のようなミーティングをしました。……いや、私的には雑談のつもりだったのですが、もしかしたら細かいオーダーをしにきてると思われた可能性はありますね(笑)。

――ご自身は雑談の感覚でも、実はその中に楽曲への希望が多く含まれていたと(笑)。

夏川 これまでは候補曲を集めるにあたって、こういう方向性がいいとか逆にこんな曲はちょっと……という希望をレジュメにまとめて制作チームに投げていたので、その工程と比べると直接のディスカッションは話が早かったと思います。

――楽曲の初稿が届いてみて、まず聴かれた第一印象はいかがでしたか?

夏川 最初に上がってきた第一稿は、完成版の「アンチテーゼ」よりもっと味が濃いというか、すりぃさん自身の持ち味がかなり強く出ていて、「おお、濃いのが来たな!」とワクワクしましたね。そこから久しぶりのシングルということもあるので、より盛り上がるアレンジになるように、もうちょっとテンポを速くしたいとか、細かい調整をお願いしてあの形に落ち着いたという感じです。第一印象は一言で言うなら「衝撃的」でした。

――濃い目の第一稿から完成形に至るまで、どのような道筋を立ててカスタムしていったのでしょうか?

夏川 歌詞の方向性や楽曲の基本形は私がやりたかったものにとても近かったので、簡単に言うと「一発で一目惚れしてもらえる曲」を目指して調整していった感じです。私の曲って聴いて一発でドカーンと好きになってもらえる曲と、何度か聴いてじわじわ気に入ってもらえる曲の両極端だと思っていて。今回の「アンチテーゼ」は前者にしたかったので、イントロをインパクトのあるものにしたり、そっちに寄せていく作業をしましたね。

――顔合わせのミーティング以降、コロナ禍で世の中の情勢が変わっていくわけですが、これまでと今回とで制作手法に変化はありましたか?

夏川 基本的な打ち合わせがオンラインになったり、実制作は3密を回避して最少人数で行ったくらいで、いつもより寂しくは感じましたけど、心持ちが変わるほどの特別な変化があったわけではないと思います。

――個人的な感想として「アンチテーゼ」はサウンド的にも歌詞的にも攻撃的な楽曲ではありつつも、自問自答のような空気も感じました。この情勢でこういった楽曲を作られたことが興味深いのですが、夏川さんは何か意識されていたことがあったのでしょうか?

夏川 「アンチテーゼ」は基本的にはすりぃさんの世界観に私が飛び込む形なんですけど、カップリング曲を候補の中から選ばせてもらって、自分で作詞をするとなったときには、少し意識した気がします。今のこの状況で、動きたくても動けなかったり、やりたいことが物理的にやれないとか、そういうストレスをぶつけられる曲を選びがちだったかもしれません。そういえば「アンチテーゼ」のレコーディングでも、スタジオで本域で歌うのがかなり久しぶりだったので、ライブもできないしリハーサルで歌う機会もない、レコーディングもしばらく見送りという、そういう積もったフラストレーションが作用したというか、自然に感情が乗っていたんじゃないかと思います。

――曲についてはアレンジの調整などがあったとおっしゃいましたが、歌詞の第一印象はいかがでしたか?

夏川 歌詞については何も心配していなかったというか、むしろこういう感じでくるだろうなと少し予測していたんですよ。すりぃさんの歌詞の世界観は知っていましたし、最初の打ち合わせのときにも少し雑談みたいな感じで、私の考え方だったりをお伝えしていたので、きっと大丈夫だろうと思っていました。結果、初稿から何の違和感も引っ掛かりもなくスッと入ってきたというか、感情が込めやすく、自分的にも強く力を込めて歌いやすい、偉そうですけどすごく共感できる歌詞でした。内容はほぼそのまま、細かい語尾や強すぎる言葉を調整したりとか、その程度ですね。

――調整というのはどのようなものだったのですか?

夏川 初稿は本当に言葉選びが攻めていたというか、トゲのあるものでした。NGを出されてもいいから、本当に自分の言いたいことをそのままの形で、いつも通りの活動の延長で書いてくださったんだなと感じて、安心しました。変に身構えられて、綺麗な言葉で整えられたりしていたら逆にどうしようかと思っていたので。

――綺麗な作品になっていなくて安心したというのは、元々の活動を知っているからこその感想ですね。特に夏川さんに刺さった言葉はありますか?

夏川 やはりサビが言葉的にも子音が強めのワードが多くて、文章で見ても耳で聴いても刺さりますね。サビの最後の“吠えるんだろ”という言葉が好きなんです。「吠える」ってすごく泥臭いというか、表現として野性味があると思って。私はそういう野性味のある歌をやってみたいと思っていたし、今までの楽曲にはない要素だなと感じたので、“吠える”はかなり今回のキーになってるんじゃないでしょうか。

――全体的にリズムや譜割りに対して難解に言葉が詰め込まれていて面白いですが、歌の難しさはいかがでしたか?

夏川 基本的には難しかったですね。速いし言葉も詰まってるし、サビが一定の高い音で張らないと伝わらないようになっているので。でも私が単純にすりぃさんのファンで曲をよく聴いていたからというのもあると思うんですけど、彼の楽曲だったら、彼だったらこう歌うかなという想像ができたし、私の中でもこう歌いたいという意志があったので、至りたい到達点はレコーディング前にはもうはっきり見えていました。あとはそれを私の力量で頑張って再現するだけというレコーディングでしたね。

――私自身がボカロ世代ではないという観点から伺いたいのですが、夏川さんは聴き手として、こういった高密度な世界観の歌詞は、最初に読んだ時点ですんなり身体に入ってくるのでしょうか?

夏川 あまり意識したことはなかったですね……。もしかしたら世代的な要因があるのかもしれないです。私は完全にボカロ世代で、中学生の頃なんかは米津玄師さんがボカロ曲ですごく人気のあった時期なので。あの時期の曲ってめちゃくちゃに速いし歌詞が聴き取りにくいものも多かったですけど、聴きすぎてそういう曲に抵抗感がないのもあるし、耳も歌詞を追いやすいように育ってるのかもしれないです。普段も歌詞が詰まっている曲とか、疾走感のある曲が好きなので、そんなに戸惑うことなく入ってきますね。

――過去の夏川さんの楽曲からもボカロ世代のテイストのようなものを感じるので、同時代を通ってきたリスナーにも届きやすいんだと思います。

夏川 そうなんですよね。聴き慣れると歌えそうな気がしてくるけど、カラオケとかで歌ってみると「なにこれめっちゃ難しい!」ってなるのは、私の曲とボカロ曲に共通したイメージだと思います。

――そうして完成した楽曲について、聴き所や注目してほしいポイントなどがあればお聞かせください。

夏川 既にすりぃさんを知っている方なら、イントロに聴いたことのあるフレーズが忍ばせてあったりするので、そういう部分にも注目してもらいたいですね。それから私がすりぃさんの楽曲で好きな部分が、ビブラフォンやマリンバの使い方が独特なところなんです。歌はもちろん、そういった作家さんが持つ個性にも注目して聴いてもらえると楽しいと思います。

――すりぃさんの作家性を感じるのと同時に、夏川さんご本人が制作に深く携わられている雰囲気も感じます。他人からの提供曲と、ご自身の作詞曲を歌ううえでの意識の差はありますか?

夏川 自分が歌詞を書いた曲は、感情の組み立てがはっきり出来ていて、いちばん伝えたい言葉も自分の中で決まっていますし、自分の実体験をもとに作詞していることが多いので、感情が入りやすいというのはあります。対してほかの作詞家の方に提供いただいた歌詞は、私の好きな作家さんにお願いしたり、候補の中からグッとくるものを選ばせていただいたりして、歌詞への共感をより強調して歌っているかもしれません。微妙な違いはありますけど、自分がいちばん伝えたいことをはっきりさせたうえで感情を込めるという本質は、そんなに変わらないと思います。

――大前提として共感があるわけですね。

夏川 そうですね。やっぱり共感できない歌詞は歌うのが難しくなると思います。楽しくないというか。

偶然の雨が生んだ完璧なMV

――MVのお話もお聞きしたいと思います。以前は曲に対して映像的なイメージを膨らませて自分から提案すると話していましたが、今回はご自身からオーダーはされたのですか?

夏川 それが今回はいろいろとイレギュラーなことが重なりまして……。これまでのシングルはジャケットとMVでそれぞれ違う衣装を用意して撮影しているんです。今回はこれまで違っていたその衣装を統一して、ビジュアルイメージを固めようとしました。MVを撮る前に私のイメージとか希望をチームに伝えていたんですが、その後にジャケット内容の話し合いで、デザイナーさんがいろいろ案を出してくださったんです。私の希望を反映してくれたA案と、別案として新規に考えてくれたB案があったんですけど、そのB案がとても良くて。警報灯を肩に担ぐっていう大型アイテムが存在するのがB案だったんですけど、それがとてもインパクトがあったので、これに勝てる案はちょっとないんじゃない? という話になり、それまでいろいろ考えていたMVやジャケットなどのアイデアを一度全部白紙にしたんです。歌詞の中にも入っているし、見た目もアイコン的だしで、ぜひ警報灯をメインでMVも撮りましょうということになりました。

――ジャケット撮影はいかがでしたか?

夏川 とても順調でした。やはりラフの時点でビジュアルイメージが固まっていたというのが大きくて、ポーズもほぼラフのままだし、警報灯をどの角度で持つかとか、私の体がどれぐらい沈み込むかとか、そういう細かい部分を微調整したぐらいで、あとはたくさん撮ってもらった写真の中からより良いものを選ぶだけみたいな。やはり完成図が見えていて、全員がそれを共有できていたので、とても有意義な撮影でしたね。

――そこでMVに関してもイメージを共有できたと。

夏川 そうですね。MVはジャケットの衝撃があったので、結構ギリギリになって警報灯メインで構成を一度考え直しました。最初に私が持っていたイメージというのが、MVの中で私がタイプライターを打っている「情報が散乱している部屋」だったんです。それと平行して警報灯を映えさせるために自動車教習所をお借りして、そのコースを私が警報灯を担いで歩くっていう、A案とB案のアイデアをミックスしてMVにしました。

――映像の中での夏川さんの歌いっぷりが印象的でした。

夏川 今回はなにしろ楽曲がかっこいいので、私がちゃんとかっこよく動かないと浮いてしまうなと思ったんです。警報灯も衣装も楽曲もあれだけかっこよく仕上がってるのに、私がのほほんと歌ってたらきっと成立しないので、眉間に皺を寄せて、これまでで一番怒ってる表情を作って歌いました。

――まさに歌詞にもある「吠える」イメージですね。

夏川 そうですね! 「吠える」は今回のキーワードなので、かなり顔を歪めて口を大きく開いて、本当に吠えるような歌い方は意識しましたね。予定にない土砂降りの雨も降ってくるしで、最後の方はかなりヤケクソみたいな部分もありました(笑)。

――えっ、てっきりあの雨も演出で降らせたものだと思っていました。

夏川 あれは本当の雨なんです。ロケ地の教習所が都内からちょっと遠い場所にあったんですが、撮影日のそこの地域が大荒れの天気で。撮影の2時間前くらいまでは晴れていたんですが、瞬く間にあの量が降っちゃって、予定していた照明も使えなかったんです。カメラワークも機材を用意していろいろ演出する予定だったんですが全部できなくなってしまったので、本当にその場でやれることだけで撮影をしたんですよ。照明は自動車のヘッドライトを使い、スタッフさんもみんなずぶ濡れで撮影してという感じで。

――最初からああなる予定のMVだと思っていました。でも結果的に非常に見応えのある映像になっていると思います。

夏川 そうなんです。結果的に曲に救われたなと思います。他の可愛い曲だったら絶対OKにならなかったところを、「アンチテーゼ」だったからこそ上手くいったというか。完成した映像は良い感じに映ってますけど、現場では前髪が顔に張り付くぐらい雨が吹き付けてきてました。衣装も最初はカーキ色ぐらいの淡い緑色だったのが、最終的に深緑になるぐらい濡れてしまって。それぐらい強い雨だったので、限られた短い時間で必要なテイク数だけ撮るぞとなって、私も失敗はできないし、スタッフのみなさんのためにも早く終わらせなきゃと思って。だから最後のサビなんか本当に吠えてました(笑)。

■夏川椎菜、大いに怒る!

――では続いてカップリング曲「RUNNY NOSE」のお話も伺いましょう。この曲はご自身で選曲されたのですか?

夏川 そうです。たくさんの候補の中から選ばせていただいたのですが、今回は集まった曲数がとても多くて、いろいろなタイプの楽曲が揃っていました。その中から選んだ理由としては今回「アンチテーゼ」が喜怒哀楽でいう怒の感情が強くて、その怒はそのまま貫きたいと思ったんです。このシングルをリスナーが聴いたときに、「アンチテーゼ」の次に可愛い曲がきたら感情をどうしたらいいか分からなくなると思うんです。だから「アンチテーゼ」から続けて怒りに染まってもらうぐらいのシングルにしたいと思ったので、集まった曲の中で最も怒の感情を感じたものを選びました。表題曲とカップリングで差は出しつつ、根幹の感情は同じものにしたいと思ったんです。

――まさしくシングルを聴いて「夏川さん怒ってるなあ」と感じました。作詞は元々される予定だったのですか?

夏川 そうです。私としても作詞の活動は続けていきたいし、リリース自体も久しぶりだったので、書きたいという気持ちが強くて、もし何も言われなくても自分から作詞しますと言うつもりでした。

――表題曲と質の違う怒にしたいということで、どのような意識で作詞をされましたか?

夏川 この曲もサビが最もエネルギッシュだなと感じて、そこで自分の怒りをいちばん出す曲にしようと思ったので、サビでは自分のああしたいこうしたいという欲を叫ぶイメージで書きました。指摘されて気づいたんですが、私の書く歌詞って「とにかく大人になりたくない!」ということをずっと叫んでるらしくて(笑)。それを指摘されたので、今回は違う方向性にするつもりで書いたんですが、完成してみたら結局「大人になりたくない!」って叫んでいました(笑)。

――この曲は自分の根っこを変えないために、変わるという選択をする歌詞だと感じました。これは夏川さんの歌詞としてはこれまでも一貫性を持っていた部分でもあると思います。

夏川 たしかにある意味の一貫性はありますね。結果そうなった理由としては、今自分のいちばん抱えている気持ちを正直に、なるべく汚い言葉で書こうというのを意識していたので、結果として「大人にはなりたくない」のメッセージになったところはあると思います。

――汚いというか、とても強く、トゲのある言葉だと思います。

夏川 まずもって鼻水というタイトルが汚いですからね(笑)。その汚い言葉を曲のいちばんかっこいいところ全部で使うという。あとはかさぶたとか、耳に入る音として汚い言葉を意識して選んだのはあります。

――たしかに濁音が多いですね。

夏川 なるべくキラキラした言葉を使わないでおこうという意図があって、2番Bメロ「うつろぎ理解されたい」という部分も最初は“きらめき”とか“かがやき”にしてみたんですが、歌ってみて違和感があったので、自分が知っている中でいちばんキラキラしてない言葉を当てはめたんです。

――言葉は語感を優先して選んでいるのですか?

夏川 そうです。私の作詞は基本的に意味のない言葉でも、音が気持ちいいものをとりあえず置いてみてシャッフルするという手法でやっています。今回の詞の中で気に入ってるのが「平凡→ロック者 メーデー」という部分なんです。ここはまさに先ほど言ってくださった自分の芯を変えないために変わるという部分だなと思います。造語っぽいんですけど、雑魚ナメクジな私ごときがロックを語るときに、ほかのかっこいい言い回しじゃなくて「ロック者」ぐらいの語感ならば、使ってもバチは当たらないんじゃないかと思ってチョイスしました。

――自分の発露させたい感情の表現として「ロック」という言葉は適したものだったんですね。

夏川 そうですね……。自分で言うのは恥ずかしいのですが、ブログとかで最近の情勢への言いたいことをワーっと書いたことがあって、それを読んだ人から「ロックだね」と言われることが多かったんです。正直自分ではまったく思ってもみなかったんですが、周りからそう見られることがあるんだったら、少しぐらいは主張してもいいのかなと思ったんです。

――正直夏川さんのこれまで音楽を聴いているだけでも真っ先に想起される言葉だと思います(笑)。

夏川 私の考えていることはロックというか、若者の怒りみたいなものなんだろうなとは思います。それをこうやって外に向けて言うことで、元気になる人がいるなら言ってもいいのかなと。

――ロックという概念には代弁者の側面がありますから、言えない人のために言うというのも大切な役割だと思います。

夏川 元々は言えない側だったんですけどね(笑)。最近は少し変わってきて、様子を見ながら少しずつ自分の毒を出せるようになってきた自覚はあります。言えなかった私が言えるようになりかけているからみんな聞けー! メーデー! みたいな(笑)。

――元から言える人が言うのと、言えなかった人が言えるようになるために変わるのではメッセージがまったく変わってきますから、こちらのほうが弱者に寄り添うというか、リスナーとしては嬉しいと思いますよ。

夏川 「ロック者」という言葉が、平凡から変化したてのペーペーという感じなのが私らしいとは思いますね。

――「ログライン」での初作詞からインタビューをさせていただいて、今回ぜひ聞いてみたかったことがありまして。夏川さんはずっと怒っているイメージなのですが(笑)、そのピュアな怒りは尽きないのでしょうか? 初期衝動というのはどんなに大きくてもいずれ尽きるものだと思うのですが、ずっと怒の感情を持ち続けているのは、ご自身でしっかり怒る意志を持っているからだと思うんです。それで今回もちゃんと怒っていたので恐縮ながら安心したのですが、ご自身の中で、作詞を始めた頃と怒りの姿勢や濃度は変わらないですか?

夏川 そう……そうですね(笑)。ブログを書いたり、作詞をしたり、自分の気持ちを表現する場面においていちばん上手く表現できるのが怒りだと最近気づいたんです。笑いとか喜びとかの、ポジティブな感情って笑顔とかの表情以上に出すものがないなって思っちゃうんです。一方で私は自分の悲しさとか、泣きたいとかの感情を表に出す方法もわからないので、そうなるといちばん筆が乗るというか、ノリノリで表現できるのが怒りしか残っていないんですよね。それから負けず嫌いで根に持ちがちなので、一度ムッとなったことはずっと覚えてるんです。その物事自体が解決しても、その瞬間の感情は覚えているので、あとから思い出していくらでも怒れるというのはあると思います。

――なるほど、夏川さんの創作意欲の根源がわかるようでありがたいです。では改めまして、完成した楽曲の聴き所や気に入っている箇所があればお聞かせください。

夏川 Dメロといいますか、2番になって初めて出てくるセクションがあるんですよ。そこがサウンド的にも歌詞的にも気に入っています。ここで“メーデー”から始まる、この曲でいちばん伝えたいこと。自分が叫びたかったことを真っ直ぐ叫んでいます。ここだけ歌詞の文章も口語を意識した、普通にしゃべっているような感じで、私がむずがってわがままを言って、山場になっていると思います。曲を通して聴いたときにそこが最も「夏川感情爆発してるなー」ってわかるように歌ったつもりなので、ぜひ聴いてほしいですね。

――曲の展開的にも雰囲気が変わる部分ですね。作詞をするにあたって、ここが決めどころだいう場所を設計図として考えてあるのですか? それとも頭から順に書いていって結果的に「ここで大きく展開するな」と発見するのでしょうか?

夏川 曲によるのですが、私は歌詞をBメロから書くことが多いんです。この曲もそうなんですけど、一番難しそうな場所を先に決めちゃおうという意識があって。今回はいちばん難しいと思ったのが、Bメロの“我で 自で 素で えでん れでぃ(go !!!) ”の部分なんですが、ここにはまる言葉を見つけるのが最難関だなと思って。まずここから着手して、そこから少しずつ組み立てていった中で「平凡→ ロック者 メーデー」が思い浮かんだりして。じゃあこの曲はメーデーと吠えるところをハイライトにしようと思ったときに、いちばん大きく吠える部分を、いちばん特徴的な2番のDメロにしようと決める、というような流れで、最初にいちばんの難関を埋めて、そこから全体の設計図を組み立てていく感覚でした。

――ありがとうございます。引き続き作詞家としての夏川さんのお話も掘り下げていけたらと思っております。それでは最後になってしまいますが、「アンチテーゼ」を手にする読者の皆さまへメッセ―ジをお願いいたします。

夏川 2年ぶりのシングルということで、かなり気合いを入れて作りました。喜怒哀楽のうち怒の感情だけを詰め込んだ、私のストレスが盛大に発散された曲になっておりますので、きっと聴いてもらえれば、皆さんが抱えているストレスも少しだけ軽くなるんじゃないかと思います。ぜひ私と一緒に怒ってください!

INTERVIEW BY 青木佑磨(学園祭学園) TEXT BY 市川太一(学園祭学園)


●リリース情報
「アンチテーゼ」
9月9日発売

【初回生産限定盤(CD+DVD)】

品番: SMCL-647~SMCL-648
価格:¥1,750(+税)

【通常盤(CD)】

品番:SMCL-649
価格:¥1,270(+税)

<CD>
01. アンチテーゼ
02. RUNNY NOSE
03. アンチテーゼ (Instrumental)
04. RUNNY NOSE(Instrumental)

<DVD>
01. アンチテーゼ Music Video
02. アンチテーゼ TV SPOT 15sec+30sec

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