INTERVIEW
2020.04.23
angelaにとって初の「異世界転生作品」主題歌となる「乙女のルートはひとつじゃない!」(TVアニメ『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』OPテーマ)がリリースされた。この情報が昨年大晦日のライブ「大サーカス」の場で初めて明かされてから一体どのような楽曲になるのかと待ち望んでいたところ、耳に飛び込んできたのは、我々のangela像をさらに拡張する新たな方向性を示す楽曲だった。このシングル・MVの制作模様と先のライブの振り返り、そして今この時代を生きるリスナーへの強いメッセージを語ってもらった。
――こんなご時世ですが、お二人は最近どのように過ごされていますか?
atsuko 私は普段ですと遊びに出歩きたいタイプなのですが、今は頑張って極力、出歩かないようにしています。
KATSU 僕らは去年末の大サーカスが終わったあと、1月に曲作りをして2~3月は制作期間に当てるようなスケジュールを半年前から組んでいたので、その意味では影響は少なかったのですが、ライブ制作などを行なっている周りのスタッフさんのお仕事が激減したのが心配ですね……。ストレスフルなことも多いなかで、平静を装わなくてはいけないことに歯がゆさも覚える今日この頃です。
――そんななか、公開された「乙女のルートはひとつじゃない!」のMVは、久々に笑わせていただきました。まずは楽曲について伺いたいと思います。TVアニメ『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(以下『はめふら』)のOPテーマですが、angelaとしては「異世界転生」ジャンル作品の主題歌を担当されるのは初めてですよね?
atsuko 私たちとしても意外でした。これはアニメの方のプロデューサーから直接オファーをいただいたんです。皆さんからはangelaというと、SFだったりロボットアニメというイメージが強いと思うのですが、こういう形でオファーをされたことが嬉しかったですね。
KATSU 僕は、またファンの人が食いつきづらいルートに入ったなと思いました(笑)。
――どういうことですか!?
KATSU この前のCDが『蒼穹のファフナー THE BEYOND』主題歌の「THE BEYOND」で、そこで聴いて知ってくれた方が、「angelaの次のシングルも買おう」となったときに、この曲は想像しないだろうと(笑)。でも、自分たちとしてもそれを楽しんでいる部分があって。
atsuko 打ち合わせの際に私は小説を読んでKATSUさんもコミックスを読んで臨んだのですが、いろんな方向性を探っていった結果、最終的に「angelaさんがやりたいようでいいです」と言われて(笑)。
――『はめふら』の作品についての印象はいかがでしたか?
atsuko 主人公だけが現代の感覚を持って貴族社会に転生してかっこいい男性たちに取り囲まれながら「破滅ルート」を選ばないように奔走する話なんですけど、そこで恋愛物語やドタバタ劇がありつつも、それぞれのキャラクターが抱えているトラウマを解きほぐしていったりとか、そういう優しさがある作品だなと感じました。
――作曲クレジットではお二人の共作となっていますが、どのように作っていきましたか?
atsuko 今回は要素が満載で実にトリッキーな作り方になっています。
KATSU 例えば、Aメロはatsukoさんが作ったメロディがベースになっていますが、当初はここがサビだったんです。『はめふら』に対して僕らが抱いたいろんなイメージを曲の要素にどんどん詰め込んでいきました。atsukoさんが無茶苦茶なこと言ってくるんですよ。「ここにベートーベンの『運命』を入れたい」とか、何を言い出すんだこの人って(笑)。
atsuko 何か大変なことが起こったときに聞こえる音楽ってなんだろう? やっぱり『運命』でしょーって(笑)。貴族といえば舞踏会。だったらワルツだよねとか。主人公の明るく奔放な感じも出したいし、ドタバタしてる感じも出したいし、イントロはカーテンがフワッとする感じ、といった感じの断片的なアイデアをたくさん出して、メロディラインに落とし込む段階になって、さてどう組み合わせたものかと悩む(笑)。
KATSU だから聴いていて落ち着かないんですよ(笑)。でもそれが面白くて。3拍子のワルツを入れたいって思っても、こういう作品じゃないとできないので。
――歌詞についてどのように考えてこの言葉遣いに?
atsuko 曲も明るい感じに仕上がったのでキャッチーな言葉を使いたいなと思ったんですけど、それだけだとただの明るい曲になってしまって面白くないなと思って、ここに貴族感を加えようと(笑)。「ごきげんよう」とか「お許しあそばせ」とか、私生活で一度も使ったことがないんですけど(笑)。そうした語句を入れ込むことで、ちょっとした引っ掛かりを作れるかなと思って。歌詞も上から順番に書いていくというよりは、途中まで書いてサビをラララと歌って、「ここは『ごきげんよう』がメロディにハマるな」と思ったらそれに決めて、『ごきげんよう』の流れになるように逆算して書いていきました。一歩間違うと、とっ散らかってしまうので、そこは何度も二人で歌詞を直してデモを詰めていきました。
――歌い方も可愛らしさを意識されていましたね。
atsuko 私、普通に歌うとSFアニメ感、戦いに行くとか憂いのようなものが声質に出ちゃうんですよ(笑)。なので、KATSUさんはそういう感じを出さず、「もっと可愛く」と言うんです。ただ、それをやりすぎてキャラソンにならないよう線引きするのが難しかったですね。
――また、この曲の収録には昨年末に逝去されたドラマーの山内“masshoi”優さんが生前に参加されていたそうですが、聴きどころを教えてください。
KATSU masshoiくんと出会ったのは5年ぐらい前にatsukoさんからすごいドラマーがいるぞと聞いたのが出会いでした。その後、“Animelo Summer Live”などのイベントやライブで叩いてもらっていました。僕自身、元々はドラマーとして17歳のときに上京してきたので、そのときに彼と出会ったら音楽を辞めていたかもと思うくらい、素晴らしいドラマーでした。レコーディングに参加してもらうのは今回が初めてで、デモの段階で作り込んだものを渡したら、本番は3テイクぐらいで済んで、こちらから言うことは何もありませんでした。ちょっと難しいかなと思うようなフレーズもバシッとキメてくるんです。この音源は去年の“アニサマ”のときにはもう仕上がっていて、“アニサマ”の場で「この前ありがとね~。今度できたら送るわ」って言っていたのですが、渡せなかったことが心残りです。
atsuko レコーディングしたのは去年の5月6月の頃だったから、masshoiくんに「今年の“アニサマ”で演るんですか?」と聞かれて「発売は来年だから、また来年かなー」って言ってたんですけどね……。
KATSU 個人的にはその意味において、聴いたときに悲しさも覚える曲なんです。でもこの音源自体は半永久的に残るわけですから、それについては別の思いもあります。
――一方でこの曲のMVは大いにカオスな内容で話題沸騰ですが、これはどなたのアイデアだったのでしょうか?
atsuko これはMVのディレクターですね。我々は絵的な想像が思い浮かばなかったので、アイデアも抽象的にしか出せなかったんです。貴族の庭があって、ドレスではなく顔ハメでとか。そうしたらディレクターさんが、angelaが乙女ゲームの主人公になっていろんな相手をなぎ倒しながら本当の恋を見つけていくというストーリーを提案してくださって。これめっちゃ面白いじゃんって(笑)。
KATSU masshoiくんのことを含め、これはangelaとしても特別な1曲になるなと思ったので、MVも今までとは違う路線で撮りたかったんです。それで新たなルートで探してきてもらいました。僕がこのMVが面白くなるぞと確信したのは、香盤表にatsuko・KATSUではなく、山下・平里と本名で書いてあったのを発見したとき。
――どういうことでしょうか?
KATSU angelaをよく知らないからこそ本名の名字で書いていたというわけです。つまり、angelaだったらこう、みたいな先入観がない。これはいつもと違うことができるぞと思いました。で、会ってみると年も同年代だしゲーム好きで話が合ったし、良い意味でこの曲のことだけを考えて撮ろうとしてくれるんです。現場でも空き時間にゲームの話をしたりして、それらが諸々のゲームネタに反映されています(笑)。
atsuko アイデアがあまりにも豊富で、パーツ撮りも多かったから、忘れているカットはないかと心配でしたよ(笑)。グリーンバックで「はい、ここで腕立て伏せしてください」とか(笑)。でもこんなに遊んでもらえるのってすごく嬉しいんです。先程のSF感ではないですけど、長く続けているとイメージって固定されるじゃないですか? それを違う方向からバッサリ切り刻んで再構築してくれたのがこのMV。angelaにとっても良い出会いだったなと思います。
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