INTERVIEW
2020.04.27
アニメ音楽をクリエイトする側の人々に焦点を当てたリスアニ!の別冊シリーズ「アニソンクリエイターズ」の第6弾「リスアニ!Vol.40.3」では、クリエイターを軸に2010年代のアニメ音楽を振り返る企画を多数展開。総勢46名のクリエイターが選ぶ「2010年代の1曲」をはじめ、この10年のシーンの流れに迫る記事を通じて、アニメ音楽の「これまで」と「今」、そしてこの先の「未来」に繋がるであろうあれこれを紹介しています。
今回はその記事の中から「クリエイターから見る2010年代のアニメ音楽~リスアニ!ライター座談会~」を、WEBで特別公開! MC担当の清水耕司(セブンデイズウォー)と、冨田明宏、中里キリ、北野 創(リスアニ!編集部)、馬嶋 亮(リスアニ!編集長)の5名が、この10年におけるアニメ周辺の主なトピックと、クリエイター・楽曲視点から見たトピックをまとめた二つの年表と共に、2010年代のアニメ音楽とクリエイターについて語り合いました。いろんな名曲が生まれた2010年代を振り返るきっかけとして、ぜひご覧ください!
――2010年代はアニソンにとってどんな時代だったと感じていますか?
冨田明宏 実は2010年代って、2000年代ほど大きなイノベーションが起こった時期ではないと思うんです。神前 暁さんや菅野よう子さん、上松範康さんが2000年代に生み出した流れが定着した豊潤な時代と言えますね。2010年代の作り手として名前が挙がるのは田中秀和くんや田淵智也くんだと思いますが、その田中くんにしても神前 暁の弟子ですから。
中里キリ 神前さんのルーツはどこにあるのか考えると、「アイドルマスター」、そして当時のナムコのサウンドチームなんですね。今主流になっているデジタルな音作りが一般化する前、そういう技術と才能がどこに集まっていたかというと、セガやタイトー、そしてナムコという家庭用ゲームメーカーでした。まだアイドルゲームのひな型がなかった頃にゲームサウンド畑の人々が、それぞれのアイドル観と音楽性を元に手探りで音楽を作りましたが、その中に神前 暁や椎名 豪といった天才が〝たまたま〞いたんです。
冨田 そう、椎名さんもそこでしたよね。
中里 椎名さんの「蒼い鳥」をはじめ、初期アイマスの音楽は相当尖っていて、既存のアイドルソングの常識を外れた楽曲が溢れていました。それが、のちのイノタク(TAKU INOUE)さんやAJURIKA(遠山明孝)さんといった新しい才能が自由な音楽を生み出す土壌になったと思います。
――2000年代の系譜が2010年代である、と。
中里 MONACAもナムコから独立した岡部啓一さんが立ち上げた会社でした。そこのエースが神前さんであり、神前さんが見出した才能が田中秀和さんで、神前さんのアシスタントをやっていた直弟子的存在の広川恵一さんにも繋がります。MONACAに限らず、2010年代アニソンの大きな流れとして、TRYTONELABO、一二三のようなプロの音楽制作集団が増えたことも挙げられます。レコード会社の縦割りだった世界でサウンドの外注が当たり前になって、クリエイターやノウハウを業界全体でシェアできるようになった結果、全体のクオリティが上がったんじゃないかと思います。
冨田 ナムコの系譜とは別に、ボカロの世界からはkz(livetune)くんやryo(supercell)さん、kemuこと堀江晶太くんらが現れました。ヒゲドライバーさんに注目が集まったのもその時期ですね。そして、2010年前後といえば『けいおん!』でTom-H@ckさんが登場しました。彼が作ったMYTH & ROIDは今すごい活躍を見せていますが、そのTom-H@ckさんやヒャダイン(前山田健一)さんだって絶対神前さんの存在を意識しているはずです。クラムボンのミトさんも神前さんをすごくリスペクトしていて……ってやっぱり2010年代の話をすると神前 暁の話になるんですね。
馬嶋 亮 当時、ミトさんが豊崎愛生さんの作品に参加した衝撃も大きかったよね。
冨田 音楽制作会社にしても、上松さん率いるElements Garden(エレガ)が誕生してもいて、やはり2004年から2008年頃にかけての大きなイノベーションが、2010年代の土台になっています。それこそ今、藤永龍太郎くんが大活躍していますよね
中里 アイマスとボカロが、2007年頃に同じタイミングでニコニコ動画で流行したのは重要なファクターな気がします。
北野 創 ネットと音楽の話で言うと、2004~5年頃にYouTubeで革命が起こって、音楽や動画を共有できる体制が整ったのが大きいと思います。それまでは同人イベントなどで交流していた音楽のやりとりが、ネット上でできるようになってぐっと距離が近くなった。それらネット音楽の流れから登場したkzさんやy0c1e(佐高陵平)さん、それと並行してメインストリームで人気を得た中田ヤスタカさんといった人々の活躍で、エレクトロハウス的なサウンドトレンドが生まれたのは大きな変化でした。その流れからTAKU INOUEさんとかも出てきて、クラブミュージック的なポップスが普通に聴かれる時代がやってきた。
中里 イノタクさんの「Hotel Moonside」で流れが大きく変わった感じがします。
北野 TAKUさんにしろkzさんにしろ、世界的なEDMの流行の流れのなかにあって、「Hotel Moonside」なんかはまさにクラブで聴いても違和感のない音楽なんですよ。
中里 kzさんが手がけた「Tokyo 7th シスターズ」の「SEVENTH HAVEN」とか、クラブでの評価がすごく高いですよね。
北野 ガチで踊れる楽曲をリスナー側も受け入れる土壌が出来たと言えますね。
冨田 それってすごいことで、オタクが好きなアニソンって「マニアック」なものでしたが、かっこいい音楽やおしゃれな楽曲も許容するように変化したわけです。
北野 その面では神前さんはもちろん、同じく渋谷系の系譜で語られることの多い北川勝利さんの存在も大きくて。シンプルに良い音楽を追求し続けてきたことが実りに繋がった。
冨田 エイトビートのロックにストリングスというスタイルのエレガは、表の中田ヤスタカとは別のパワーがありました。
馬嶋 ダンスミュージックで言うと、I’veはどう? 2000年代で言えば大きいのでは?
冨田 孤高な存在ではあるけど2000年代に美少女ゲーム業界から突如現れたI’veがアニソン業界に影響を与えた面は大いにある。
中里 I’veがRun Girls, Run!に提供した「Break the Blue!!」がめちゃめちゃ気持ちよくて、自分の中にあるI’veは感じましたね。
――アーティストへの楽曲提供者としてもクリエイターが注目されたのが2000年代で。
北野 そして、2010年代のLiSAさんですよね。アニソンの流れを語るうえで欠かせません。今のスタイリッシュで洗練されたアニソンを象徴する存在ですから。
馬嶋 LiSAはデビュー時点からコンセプトにブレがないよね。
北野 LiSAさんに楽曲提供しているのが田淵智也さんであり、V系好きというルーツを持つ渡辺 翔さんで、両者ともロックの文脈がある。NARASAKIさんやミトさん、江口 亮さん、バンド経験のあるMONACAの広川さんもそうですが、ガチでロックなクリエイターが増えてきた感もありますよ。
冨田 クリエイターが、ポストロック、ポストハードコアといった音楽表現を目指したときに受け入れられる土壌が今のアニソンにはある気がする。
中里 中塚 武さんがアニソンを手がけたとき、予算をかけてクオリティの高い音楽を作っている世界だから、作曲家としての力量が問われると話していたのがとても印象に残っています。
馬嶋 アニメの作品数が増えていることもあって、興味をもってもらうためのフックとして、今までにない目新しいことをやろうという意識が強いのかも。LiSAは新しい世代のアーティストを起用してコンセプトを提示するフックアップの仕方も上手かったよね。歌ものの話が続いたけど、劇伴周りはどう?
冨田 2010年代は、澤野弘之がブレイクした時代。劇伴で言えば圧倒的に梶浦由記さんと澤野さんかな。
中里 旧来の劇伴って存在を意識されない、自然にそこにあるのを良しとする雰囲気があったと思うんですけど、作り手を前面に感じさせる、主役になる劇伴が現れた気がします。
冨田 その意味では梶浦さんと澤野さんには近いものがあるのかもしれない。メロディやサウンドに記名性がすごくある。
――裏方のイメージが強かった劇伴ですが、川井憲次、菅野よう子、梶浦由記とアニメで有名な作家が連続テレビ小説の音楽を担当したのも2010年代。菅野祐悟も知られたのはドラマからですが、アニメも多く手がけました。
北野 最近だと高橋 諒さんとか。
冨田 (K)NoW_NAMEとかね。高橋 諒さんのVoid_ChordsしかりSawanoHiroyuki[nZk]しかり、劇伴がユニットの基盤になっていることも新しい傾向かも。
中里 田中秀和さんのキャリアの中でも、『Wake Up, Girls!』や『アイドルマスター シンデレラガールズ』の劇伴を手がけた経験はかなり大きいはずです。逆に、高橋邦幸さんがMONACAの中で劇伴作家として重要な役割を果たしているとも思います。
――では成熟のあと、2020年代のアニソンはどうなっていくと思いますか?
北野 冨田さんの言う2010年代の豊かさは、ロックやアーティスト寄りの人がクリエイターに流入することでも培われたと思うので、さらに花開くことを期待したいですね。
中里 2010年代は、優れたノウハウを持った音楽制作チームや、フリーの信頼できるクリエイターが世に溢れた時代だったので、クリエイターの一つ手前、誰と誰を組み合わせて、何を歌わせるか。どう作品性に合った新しいものを生み出すかが問われますよね。
冨田 これはブーメランになりますが(笑)、これだけクリエイターが台頭してきた今だからこそ、プロデューサーの力量がより問われる時代になるとは思いますね。『けいおん!』の主題歌にしても、当時20代前半でまだ実績のなかったTom-H@ckに任せた人こそが偉い。若いしぶっ飛んでいた彼は、オーダーとまったく違うデモを出してきた。そんな彼を受け止められたからこそ、『けいおん!』が伝説となったんです。
馬嶋 仕事で中国のシーンに触れていると感じるのが、強烈に強大なものを作るか、ものすごくアンダーグラウンドな方向に潜るか、その二択でしか勝負ができなくなっているということ。丁寧に作り続けた作品がなかなか結果を残せない状況にあって、国内ではある意味安定した物作りができているとも言えるけど、このままでは水樹奈々やLiSAのような強烈な存在はもう出てこないかもしれない。
冨田 2000年代はアニソンが今世界でいちばん面白い音楽だって真顔で言えたんですよ。だからこそ、2010年代にこれだけ魅力的なアーティストが入ってきた。だからこれから業界を面白くするためには、新しい才能を育てる覚悟が必要だと思います。あとは2020年代の変化として重要なのがフォーマット。今はみんな、NetflixやAbemaTV、Amazonプライム・ビデオでアニメを観てる。とするともしかしたら、飛ばされてしまうことの多いOP・EDよりも挿入歌が力を持つ時代が来ることもあり得る。『キャロル&チューズデイ』みたいに。
――挿入歌が重要になるかもという視点は面白いですね。
冨田 『涼宮ハルヒの憂鬱』だって今いちばんカラオケで歌われているのは「God knows…」。たった一回放送されただけの挿入歌なんですよ。そういうパワーのある曲が出てきてほしいですね。あれ? 2020年代を語っているのにまた神前 暁の話が(笑)。
TEXT BY 中里キリ
●発売情報
「リスアニ!Vol.40.3」
2020年4月15日(水)発売
[表紙・巻頭特集]
劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring song
インタビュー:梶浦由記×Aimer/梶浦由記
[特集]
梶浦由記 -2010年代の歩み-
神前 暁『神前 暁 20th Anniversary Selected Works“DAWN”』
インタビュー:神前 暁
澤野弘之『BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2』
インタビュー:澤野弘之
LIVE LAB.
インタビュー:ハヤシケイ/毛蟹
PICK UP CREATORS
インタビュー:伊藤 翼/篠崎あやと/rionos/タナカ零
DIALOGUE+
インタビュー:DIALOGUE+(内山悠里菜、緒方佑奈、鷹村彩花、宮原颯希)×田淵智也
IDOLY PRIDE
インタビュー:Wicky.Recordings/kz(livetune)/Q-MHz/田中秀和(MONACA)
クリエイターから見る2010年代のアニメ音楽
~リスアニ!ライター座談会~
クリエイターが選ぶ「2010年代の1曲」
[ライブレポート]
“リスアニ!LIVE 2020”
[巻頭特集]
LISTENERS リスナーズ
インタビュー:じん/佐藤 大
[特別付録]
ACCAMER 新曲「stay night」収録CD
ほか
(C)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC
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