デビュー15周年という大きな節目を迎えた茅原実里が、自身初となるクリスマスシングル「Christmas Night」をリリースした。糸曽賢志監督による劇場アニメ『サンタ・カンパニー 〜クリスマスの秘密〜」と出会ったことで生まれた本作収録の3曲は、糸曽監督をはじめ、まったく新しいスタッフとの制作となる、彼女にとってフレッシュな体験となった。そんな環境で生まれた、この季節を彩る楽曲たちについてたっぷりと伺うとともに、2020年まで続く15周年イヤーについて話を聞いた。
――さて、このたびリリースされたニューシングル「Christmas Night」ですが、茅原実里初となるクリスマスシングルとなりました。
茅原実里 そうなんです!3曲ともクリスマスにちなんだ楽曲で、クリスマスのコンセプトシングルという感じなんですよね。
――キャリア15年で初という、この話をいただいたときのお気持ちは?
茅原 いちばん最初に劇場アニメの『サンタ・カンパニー 〜クリスマスの秘密〜』の主題歌を歌わせていただけると聞いたときは、びっくりしたのとうれしかったのと両方でした。ちょうど「エイミー」をリリースしてそんなに時間が経っていなかったですし、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 – 永遠と自動手記人形 -』に続いて劇場アニメの主題歌を担当させていただくなんてびっくりでしたね。
――たしかに今年リリースしたシングルはどちらも劇場アニメの主題歌ですね。
茅原 それに、クリスマスにまつわる主題歌というのもまたうれしくて。自分の楽曲でクリスマスソングってなかったですし、またクリスマスってやっぱり特別な、私も好きな行事なので、そんなクリスマスにちなんだ曲を作れるというのがうれしかったですね。
――たしかにこれまでクリスマスのイベントなどでカバー曲を歌うことはありましたが、オリジナルというのは初めてですしね。ちなみに茅原さんにとって、小さい頃のクリスマスの思い出はなんですか?
茅原 茅原家は毎年イブにクリスマスケーキを食べて、クリスマス当日はアイスのクリスマスケーキを食べます。
――クリスマス2 Daysですか!
茅原 2 Daysです(笑)。イブとクリスマスでパーティーをしてくれて、あとはツリーの飾りつけをして、サンタさんに「プレゼントは何々がいいです」ってお手紙書いて、当日に受け取ったりとか、絵に描いたような幸せなクリスマスを過ごしていました。
――またクリスマスソングというと有名な楽曲が多いですが、お気に入りの曲はなんですか?
茅原 クリスマスは名曲が多いですからね。私はこの季節になると、やっぱり山下達郎さんの「クリスマス・イブ」が聴きたくなっちゃうなあ。あと稲垣潤一さんの「クリスマスキャロルの頃には」とか。そして、なんといっても「いつかのメリークリスマス」ですね!
――ここでもやはりB’zは外せないですよね。そうしたなかで自分がオリジナルのクリスマスソングを歌うというのは感慨深かったのでは?
茅原 そうですね、これまでクリスマスソングがなかったぶん、茅原実里のクリスマスソングが生まれるというのは感慨深かったですね。
――さて、そんな「Christmas Night」ですが、まずこのシングルのコンセプトはどのようにして作られていったのですか?
茅原 今回のシングルの采配のすべては、『サンタ・カンパニー』を作った糸曽(賢志)監督によるものなんですね。『サンタ・カンパニー』というのは原作・脚本・監督すべてを糸曽さんがなされていて、きっと最初から「こうしよう」というイメージがあったと思うんですよね。楽曲も私の曲ではあるんですけど、いつもの制作スタイルとは違っていて。いつもはランティスが制作をするんですけど、今回は糸曽監督がいつも仕事しているSUPA LOVEさんが楽曲制作を担当してくださるということが最初から決まっていて、制作はまるっとSUPA LOVEさんと一緒にやりました。
――シングルの企画の走り出しからこれまでとは異なるやり方だったんですね。
茅原 そうですね。そこで最初から3曲作ることは決まっていたんですけど、最初に盛大なコンペを開いたんですね。本当にすごい数の曲を集めて、そのなかからまずはスタッフの皆さんが数を絞ってくれて、私がセレクトに参加したのは最後の方で、残った数曲に実際に私の声を入れてみて、そこで多数決で収録曲を決めていきました。
――では、楽曲のアプローチというのもある程度決まっていたわけですか?
茅原 この3曲のイメージもはじめから糸曽監督の頭の中にあったんでしょうね。「Christmas Night」を主題歌に、バラードの「キラキラ輝く、世界の時間」とミュージカル調の「Santa Company The Musical」の全3曲を作るという明確なイメージがあったんだろうなと思います。なので私の気持ちとしても、より糸曽監督のイメージに近いものが選ばれていったらいいなっていうスタンスでした。自分が作りたいものというよりは、『サンタ・カンパニー』に合う3曲を選んだという感じですね。
――そうした制作スタイルとなると、実際のレコーディングなども変わってきましたか?
茅原 まずSUPA LOVEさんがはじめましてだったので、レコーディングも普段とは違ったチームスタッフさんでしたし、過去にI’veさんの楽曲を歌うときに近い感覚でした。
――ああ、「嘘ツキParADox」(2012年)で、I’veのスタジオで高瀬一矢さんにディレクションしてもらったときのような。
茅原 そうそうそう、そういうのもひさびさで、SUPA LOVEさんはどういう制作をするのか楽しみでもありましたね。だって、普段の茅原実里の座組みだったら、ミュージカルの曲を作ることはないと思いますもん。今回の収録曲はどれもクリスマスソングだけど、それぞれアプローチがまったく違っていて、『サンタ・カンパニー』という作品があったからこそ集まったし完成された3曲なので、聴き応えのあるものに仕上がったと思います。面白い作品になりましたよね。
――劇場で流れることを想定した楽曲制作になったかと思いますが、制作の感触はいかがでしたか?
茅原 曲が決まって本番までの間も、監督も常に気にかけてくださる形でプリプロ作業も丁寧にやっていただいて、それだからこそ本番のレコーディングもスムーズに終えることができたし、時間をかけてきちっと作ることができたなって思います。今回、SUPA LOVEさんの社長の松原(憲)さんがディレクションをしてくださったんですけど、様々なアーティストの制作に携わってきたということで経験値も高く、レコーディングでも熱血的なアドバイスをしていただきました。私ってレコーディングするときは、集中力を切らせたくないので自分が歌っているブースからあまり出たくないんですよ。休憩のときにお水を取りにいったりはするんですけど、なるべくは出たくない。でも松原さんはブースに入ってくるんですよ(笑)。
――入ってきますか(笑)。
茅原 声だけのアドバイスじゃ足りないんでしょうね。例えば「Santa Company The Musical」では実際歌ってくれたり。松原さんのおかげで壁を取っ払われて(笑)、すごく面白かったですね。
――レコーディングの仕方も普段とはまったく異なるやり方だったんですね。
茅原 いい意味で壁を崩された感じでしたし、フレッシュでした。すごく刺激的で楽しかったですよ。ファミリー感というか、家族になった気がしましたね。
――まさしくカンパニーに入っていくというか。
茅原 そうですそうです。だって今は終わってちょっと寂しいもん(笑)。
――では、ここからはそんなシングルの収録曲についてお話をお伺いします。まずは1曲めの「キラキラ輝く、世界の時間」からですね。
茅原 この曲は本当に好き。デモで初めて聴いたときから大好き。お家でも練習する時間もプリプロのときも、この曲を自分が歌えることがうれしくて、触れるたびに喜びを感じていました。糸曽監督が作詞をされているんですけど、監督の『サンタ・カンパニー』に込めた想いが伝わってきて、歌っていてうるっときてしまう感覚があります。世界の子供たちに夢や幸せを届けたいんだっていう監督のあたたかい想いが、歌っていると心に流れてくるような……。すごく好きな曲です。
――曲としてはバラード調で、オケもストリングス主体のシンプルなものですね。
茅原 シンプルで神聖なアレンジですよね。気持ちが安らぎます。
――そんななかでの茅原さんの歌唱ですが、これも普段とはちょっと違った、声の表現が聴かれるなと。
茅原 たしかにそうですね。結構ファルセットも多かったりして。この曲はまず英語のフレーズが難しかったですね。レコーディングを迎えるにあたり、世界の人たちが観て聴くということで、カタカタ英語ではないほうがいいという話がありました。だから自分でできるギリギリのラインを頑張って発音して歌うというのは心掛けていましたね。あとは、このバラードはとにかくメロディが美しいので、歌いながら語りかけるみたいなイメージを持って歌いましたね。絵本を読むような感覚というか……。
――たしかに英語と日本語の差がないような、流れるような歌唱という印象があります。
茅原 あ、うれしい。メロディが求めている言葉を糸曽監督が紡いでいるという感覚がしたんですけど、そういうのもあるのかな?
――たしかに糸曽監督の歌詞も素晴らしいですよね。
茅原 本当すごいなあ。私も初めてお会いしたんですけど、経歴を読めば読むほどすごい人で。
――実際にお会いした印象はいかがでしたか?
茅原 まず”すごい人”っていうのが事前の情報としてありました。大学の教授もやってらっしゃいますし、ジブリで働いていたこともありますし、クラウドファンディングで自分の作品も作ったり、監督しても数々の賞をもらったり、ニュースキャスターもやったり、CMに出ていたり……調べれば調べるほど多才で何者なのか分からない……(笑)。自分のやりたいことを次々に具現化していくギラギラした野心家なんだろうなって思っていたんですけど、実際会ってみたら本当に優しくて穏やかで、気さくでめちゃくちゃ癒される人だなって思いました。そのギャップに心を鷲掴みにされつつ、監督の頭の中ってどうなっているんだろうなって興味を持ってしまいました(笑)。
――たしかに(笑)。
茅原 夢がとても大きな方だと思うんですよ。私もお仕事して15周年を迎えて、こういう巡り合いがあって糸曽監督の夢を叶えるお手伝いができる一員になれた気がして、それも光栄だしうれしいなって思いました。15年やってきたからこそ、今、出会えたんだと思います。
――続いての「Santa Company The Musical」はミュージカル調の楽曲という、これも初挑戦となりました。
茅原 そうですね。プリプロは大変でしたけど、それで流れをしっかり自分のなかで収めることができたので、スムーズにレコーディングできました。最初に曲が決まってキーチェックで歌って、そのとき歌詞はなくて「ラララ」だったんですけど、そのときから「歌詞が乗ったら大変だぞ、これはきちんと歌いこなせるかな?」っていう不安がありましたね。レコーディングのときも、ミュージカルに寄せて歌ってほしいというディレクションを受けたので、「これは大変だぞ〜」って……(笑)。でも色々な技術的なコツをその場で手取り足取り教えてもらったりもして。それを踏まえてミュージカルの曲も家で聴いたりして……。そもそもミュージカルって歌のスキルが高くないと歌いこなせない。すべてをコントロールしないと演技しながら歌うことなんて到底できないですよ。あえてちょっとテンポを外して歌ったりとか……。
――テンポを外す、ですか。
茅原 「ビハインド、ビハインド」って言われていましたね。もっと後ろに、インテンポ(テンポ通り)じゃないんです。普段はインテンポでなければいけない中で歌っているけど、あえて後ろにルーズに歌う。でもやりすぎるとモタれちゃうからうまくバランスをとって計算しつつ歌う……というか、もう勉強っていう感じでしたね。やりがいもあったし、少しでもコツが掴めたときは快感もありましたね。
――そして最後の曲は、映画主題歌となる「Christmas Night」になります。いわゆる王道的なクリスマスソングですね。
茅原 イントロから鈴の音がシャンシャンしていて、「ああ、クリスマスソングだ!」ってわかる楽曲ですね。とてもポップでかわいらくて、歌詞もストレートで、誰が聴いてもクリスマスの楽しくてハッピーな雰囲気が心の中に広がるような、幸せなクリスマスソングですよね。最後には子供たちの合唱が入っていますし。
――クリスマスソングといえば子供の合唱は鉄板ですからね。最後まですごくクリスマスソングらしい1曲になっているなと。
茅原 それもまたうれしくて。もともと私が子供の頃に観ていたアニメって、わかりやすく元気や勇気をもらえて感動できるものだったんです。私もアニメを通してたくさんのことを教わりました。だから子供たちが観て楽しめる、子供たちの心に伝えられる作品に声優や歌い手として関われたらうれしいなと思っていたので、それが時を経て今回関われたという喜びがありましたね。
――まさに子供たちの心に響くクリスマスソングとなりましたね。
茅原 今回のシングルは、3曲とも違ったアプローチで楽しんで聴いてもらえると思いますし、ボーカリストとしてこういうことにトライさせてもらえたというのはとても幸せなことですよね。なかでも「Christmas Night」は親子で映画を観ていただいて、帰り道に「Merry Christmas♪」って口ずさんでもらえたら幸せだなっていう夢も広がります。
――そうした「Merry Christmas」というリフレインがあったり、茅原さんの歌唱も非常いハッピーな雰囲気のあるものになっていますね。
茅原 メロディが複雑じゃないんですよね。歌いやすかったですし、歌詞に沿って歌うだけで自分も楽しくなってきて、自然と笑顔で歌っている感じだったんですよね。今年はとっても幸せですよ。「エイミー」に引き続きこんなに素敵な楽曲を歌えるなんて。
――そうした新しい経験を15周年というアニバーサリーイヤーでできるというのは素敵ですよね。そんな15周年イヤーを迎えて、今のお気持ちはいかがでしたか?
茅原 いろんなことを思い出す15周年になりました。本当に音楽と一緒にここまで歩いてきたんだなっていうのをものすごく感じることができているし、歌に対する気持ちは増すばかりです。10周年から5年経って自分の環境もいろいろ変わったので、変化も含めて余計に感謝の気持ちが募ります。巡り合った楽曲たちにもとても感謝をしているし、当時は必死になって歌っていた楽曲たちが、「そうか、この子はこういうこと言いたかったんだ……」って改めて感じ取ることができるんですよ。過去の曲に今の自分が、歌うことでリアルに励まされたりもして、音楽ってすごいなって。歌っているとその当時のことも思い出すし、制作に関わってくれた人たちのことも思い出すし、それを経て今を迎えられるって感慨深くて恵まれていたなって思います。
――そうした15周年イヤーは来年へと続いていきますが、2020年もいろいろ楽しいことが待っていますね。
茅原 来年も止まらずに走っていきたいですね。2020年もいろいろ決まっていますし。私って本当ラッキーガールだなって思うんですよ。普通に考えて、15年間活動を続けてこれたことが奇跡です。それなのに、まだこうして新しいお仕事もあって、様々な障害ややるべき使命も生まれて。まるで誰かに「あなたはまだ歌っていなさい」って言われているような気が、今年は特にしていますね。
――たしかに来年も様々なリリースやイベントが目白押しで、まずは2月に15周年ベストアルバム『SANCUTUARY Ⅱ』がリリースとなります。
茅原 そうなんです!『SANCUTUARY Ⅱ』は、DISC 2がキャラクターソング集になっているですよ。FCイベントでは、そのベストを引っさげてキャラソンライブもやります!
――そしてライブといえば、5月にはひさびさのオーケストラコンサート”Minori Chihara ORCHESTRA CONCERT 2020 「Graceful bouquet」”も開催となります。
茅原 今回は完全オーケストラなんですよ。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のオーケストラコンサートをやらせていただいたときに、オーケストラの世界はとても魅力的だなって感じていて……。前回は10周年のときにシンフォニックコンサートを開催しました。バンドも一緒だったので激しさもあり賑やかでした。今回のようにオーケストラのみでやるのとはまた世界が変わります。今回このタイミングでお声がかかったのは、やっぱりご縁があるなって思います。運がいいんですよね、私。
――そして8月には恒例の”SUMMER CHAMPION”と、夏まで目白押しですね。
茅原 本当はオリンピックもあって日程をずらそうかって話もあったんですけどね。戦う姿勢で挑みます(笑)。
――やっぱり夏の恒例行事は外せないですよね。
茅原 「オリンピックには負けないぞ!」という気持ちですね(笑)。2020年もみんなが楽しんでくれる行事をたくさんやっていきたいと思います!
Interview & Text By 澄川龍一
●リリース情報
劇場アニメ「サンタ・カンパニー 〜クリスマスの秘密〜」主題歌CD
「Christmas Night」
12月4日発売
品番:LACM-14912
価格:¥1,300+税
<CD>
1.キラキラ輝く、世界の時間
2.Santa Company The Musical
3.Christmas Night
+各曲のオフボーカルを収録
15周年ベストアルバム発売決定!
『SANCTUARY Ⅱ ~Minori Chihara Best Album~』
2月5日発売
品番:LACA-9739~40
価格:¥3,600+税
●ライブ情報
TACHIKAWA STAGE GARDENグランドオープニング記念
Minori Chihara ORCHESTRA CONCERT 2020「Graceful bouquet」
会場:TACHIKAWA STAGE GARDEN
5月30日(土)16:00 開場 / 17:00 開演
出演者:茅原実里/東京21世紀管弦楽団
「SUMMER CHAMPION2020~Minori Chihara 12th Summer Live~」
会場:河口湖ステラシアター
8月1日(土)15:30 開場 / 16:30 開演
8月2日(日)15:30 開場 / 16:30 開演
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