INTERVIEW
2019.12.11
水樹奈々のニューアルバム『CANNONBALL RUNNING』が12月11日にリリースされた。前作『NEOGENE CREATION』から約3年ぶり、通算13枚目のオリジナルアルバムとなる本作には、「WHAT YOU WANT」「NEVER SURRENDER」「METANOIA」といった話題作とのタイアップ曲はもちろんのこと、「BLUE ROSE」「REBELLION」「FINAL COMMANDER」などのデジタルリリース曲も初CD化で収録。さらに全17曲中11曲が新曲という、彼女が今やりたいことをたっぷりと詰め込んだボリューミーな1枚となった。声優アーティストのトップランナーとして全速力で走り続け、2020年にはデビュー20周年を迎える水樹の飽くなき情熱と挑戦心を形にした本作について、じっくり語ってもらった。
――ニューアルバムのお話を伺う前に、今年も残すところあと1ヵ月足らずということで、まず水樹さんにとって2019年はどんな年だったかをお聞かせください。
水樹奈々 先日、某番組で「今年を漢字一文字で例えるなら?」という質問があったのですが、私は「届」という文字を選びました。これは夏に開催したツアーのタイトルが“EXPRESS”で「声を届ける」というテーマだったこともありますし、今年は1月に6年ぶりのオーケストラライブ(“NANA MIZUKI LIVE GRACE 2019 -OPUS III-”)、3月には地元の愛媛で“NANA MUSIC LABORATORY 2019 ~ナナラボ~”という、私の声と曲ごとに異なるひとつの楽器で構成した実験的なライブ、5月には座長公演“水樹奈々大いに唄う 伍”、そして7月からはツアーと、皆さんのもとに会いに行く機会がとても多い1年だったんです。しかもその間にシングル「METANOIA」をリリースして、12月には今回のアルバムを発表ということで、たぶん今まででいちばん様々な形で声を届け、体も頭もフル稼働した年だと思います。毎年同じようなことを言っているような気もしますけど(笑)。
――毎年人一倍精力的に活動されている水樹さんでも、今年は過去最高の忙しさだったんですね。
水樹 2017年もミュージカルに初挑戦したり、ちょうどそのタイミングで『戦姫絶唱シンフォギア』と『魔法少女リリカルなのは』という、私にとってものすごく思い入れのある作品のシングル(「Destiny’s Prelude」と「TESTAMENT」)を2枚同時リリースしたこともあって、自分のキャパシティをオーバーしそうでヒーヒー言っていましたが(笑)、今年はまたそのときとは違う濃厚な時間になりました。オーケストラライブと“ナナラボ”と座長公演ではそれぞれアプローチが違いますし、セットリスト・演出・映像・衣装・楽曲アレンジ…と考えることが盛りだくさんだったので。ステージからパッケージまで常に同時進行で、いろんなことを考えながら常に何かを生み出し続けていました。
――そんななかで通算13枚目となる今回のニューアルバムの制作も進められていたわけですが、どんな作品にしようとお考えでしたか?
水樹 今回は3年ぶりのアルバムになるので、皆さんにより成長した姿を見せられるように、そして「水樹奈々にまだこんな引き出しがあったのか!」と思っていただけるような新しい一面を見せたい!という気持ちが強かったです。活動を長く継続しているからこその難しさはいつも感じていて、毎回、いかにして「水樹奈々らしさ」というものを核に持ちながら、新しい挑戦を見出していけるかが勝負だと思っています。オリジナリティを追求しながら、これまでいないものを生み出すためには、エネルギーも多く必要になるとあらためて感じます。
――今作にはそういった自身の活動に対する気持ちが強く反映されていると。
水樹 そうですね。でも1stアルバムの頃からずっとブレていないのは、「そのときに自分が歌いたいものを制作する」ということです。私のアルバムの制作スタイルはずっと変わっていなくて。あらかじめ決めたコンセプトに沿って曲を選ぶのではなく、「旬の水樹奈々」をギュッとパッケージしたい気持ちがあるので、毎回テーマはあえて決めず、自分が歌いたいものを直観的に選ぶようにしています。自由なお題のなかで作ることの難しさもありますが、「今の自分だとどんなものができるんだろう?」と変化が毎回あるので、そこが醍醐味だと思っています。
――タイトルの『CANNONBALL RUNNING』にはどんな思いを込めましたか?
水樹 これは、私が今年30代ラストイヤーだということと、来年が歌手デビュー20周年イヤーを迎えるということで、これまでの自分を振り返ったときに、本当に脇目も降らず一直線に、弾丸のように駆け抜けてきた姿が浮かんで(笑)、その様子を言葉にしたいなと思ったんです。そして今後の自分の活動を考えたときに、私はきっとこのまま速度を緩めず、目の前のことに一生懸命がむしゃらに取り組み続けて、気づけばまた次の節目を迎えることになるんじゃないかなと(笑)。周りからは「まだこのままの勢いで走り続けるんですか?」と言われたりもしますけど、でもきっとそれが私らしさというか、私にはそれが心地良くて。なので「このまま走り続けたい」という気持ち、そして時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまうものだから、この瞬間を精一杯楽しみたい、1分1秒を大切にしていきたいという想いを込めて、この言葉を選びました。
――水樹さんらしい素敵なタイトルだと思います。しかも今回は全部で17曲入りで、これは水樹さんのオリジナルアルバムとしては過去最大のボリュームですよね。
水樹 はい。曲数が多いので「ライブ盤?」と言われます(笑)。ベストアルバムは別として、オリジナルアルバムでこの曲数はなかなかないですよね。やはり3年ぶりのアルバムとなると、歌いたい曲もたくさんありましたし、「これからも攻めていくよ!」という気持ちが曲数にも表れました(笑)。
――その攻め感はアルバムの1曲目「Higher Dimension」からも伝わってきました。マーチング調から始まるファンキーなロックで、今までのアルバムの幕開け曲とは趣きが異なります。
水樹 これはアルバムの序曲的な立ち位置として作りました。最初はインストゥルメンタルの予定だったのですが、この華やかなメロディと攻め感のある構成を聴いて、歌を入れてより躍動感を出したほうが、今回のアルバムにふさわしい曲になるんじゃないかということで、急遽追加でレコーディングしました(笑)。『CANNONBALL RUNNING』というひとつの物語の幕が開く曲でもありますし、来年の20周年イヤーに向けてのセレブレーション的な意味を込めた曲にもしたかったので、作詞の藤林(聖子)さんには“CANNONBALL RUNNING”というテーマで歌詞を書いていただきました。
――2曲目の「カルペディエム」は、先ほど水樹さんがおっしゃっていた「今この瞬間を大切に生きよう」ということをテーマにした曲ですね。
水樹 まさにタイトルの「カルペディエム」はラテン語で「今この瞬間を積め、楽しめ」という意味で。この曲では、どうしようもない現実に半ば諦めながらでも、自分の思い描く未来に辿り着きたいともがき、葛藤する主人公の姿を描いています。人間は誰でも失敗や迷いからメンタルが不安定になるときがある。どれだけ前向きな思考を持っている人だって、壁にぶつかって落ち込むときはあるわけで。そういうときに無理やり引き上げるのではなく、同じ悩みを抱えて、共感しあって、そこで少しでも見えるものがあれば、そしてまた前に進もうという気持ちが沸いてきたら、という想いで作った曲です。私は「何をクヨクヨ悩んでるの!」って背中をバーンと強打するような曲を歌うことが多いですけど(笑)、でも大人になったからこそ、傷口に寄り添うような曲も作れたらと。
――それもまた新しい挑戦というわけですね。作詞のヨシダタクミ(saji)さんにはどのようにお願いしたのですか?
水樹 上松(範康)さんから曲をいただいたときに、この畳み掛けるようなメロディから、頭の中で悩みがぐるぐると渦巻いているようなイメージが沸いたので、ヨシダさんには「本気出さない症候群に陥ってしまっている斜に構えた男の子を主人公に」とお願いしました。思春期の頃には、熱血なことがかっこ悪いと思うときもあったりする。なんにでも反抗したくなる時期というか……。そんな気持ちにも寄り添える歌詞を書いていただきました。
――アップテンポなピアノロックで、随所に感じられる和っぽいフレーズも凛々しくて印象的です。
水樹 アルバムでは毎回、「変態曲」の枠があるのですが(笑)、今回はピアノを中心とした歌謡ロックを作っていただきたいと上松さんに思ってお願いしました。特にサビの部分は印象的な和メロになっています。
――そして本アルバムのリード曲「Knock U down」はオールディーズ風のロックンロール。水樹さんの楽曲としては珍しい曲調なので新鮮でした。
水樹 そうなんですよ。オールディーズ風ロックは実は今まであまり歌ったことのないテイストなんですけど、この曲はデモテープ会議のときに一聴き惚れして。今までにない自分を引き出してもらえそうな曲だったので、アルバムだからこそ挑戦したいと満場一致で決定しました。たぶん私がこういった曲を歌うことにビックリされる方もいると思うのですが、今だからこそトライできた曲だと思っていて。
――というのは?
水樹 私は生真面目なタイプなので、なんでも全力投球で、歌も100%の力でガーッと歌い上げるようなものが非常に多くて(笑)。この曲のように肩の力を抜いてラフに歌えるものは、年齢と経験を積んで、心に少しゆとりを持てるようになってきたからこそ表現できる世界だと思うんです。この曲では遊び心をふんだんに折り混ぜ、ニュアンスや行間をどう料理するのかを自分のなかで楽しめたので、すごく良いチャレンジをさせていただきました。
――作編曲は山田竜平さんで、作詞は水樹さんと山田さんの共作になっています。
水樹 これは山田さんがデモテープの段階でワンコーラス分入れていた仮歌詞がとてもキュートで気に入ってしまったんです。ダメンズに振り回されちゃったけど「もう乱されない! 私は私らしくいくのよ!」と気丈に頑張る女の子の姿が、この曲にすごくフィットしていたので、私から山田さんに「この仮歌詞をブラッシュアップして続きを書かせていただいていいですか?」とお願いして、共作という形になりました。
――レイドバックした曲調だけでなく、歌詞の内容的にも「気楽に行こうぜ!」感がありますよね。
水樹 好きな人ができると、その人のために一生懸命になりすぎて周りが見えなくなったり、本来の自分らしくいられなかったりして、ものすごく疲れてしまうことがあると思うのですが、そうではなく、自分らしくいられて笑いある関係性こそ本当のパートナーだと思うんです。それは友達関係でも同じことで、相手に合わせるだけではバランスが悪くて心から楽しめる状態ではなくなってしまう。かといって、気をつかうなというわけではなく、もっとリラックスして、自分と相手それぞれの良いところも悪いところも受け入れられるような関係性を作っていけるといいよね、という思いを込めました。
――曲中にクラップパートがあるのも楽しくて、ライブで盛り上がりそうです。
水樹 こういった形のコール&レスポンスパートはなかなかないので新鮮で。ライブではみんなでクラップしたり、手を振ったりできたらうれしいです!
――「Knock U down」はMVも制作されていますが、オールドアメリカンな雰囲気のポップな映像ですね。
水樹 ここのところMVはダークトーンのものが多かったので、今回は「カラッと明るくてカラフルな女子らしいMVを撮りたい!」と思ってこの曲を選びました(笑)。背景も衣装も小物もすごくかわいらしいものにしていただいて、曲の雰囲気に合わせたレトロでポップで楽しい映像になりました。
――全体的にアメリカンカジュアルなファッションで統一されていて、水樹さんの衣装もかわいらしくて素敵でした。
水樹 ファッション的にも少し前からレトロなものがまた流行っていて。ハイウエストで、トップスをインしてベルトを締めたり、ダッドシューズが人気だったり、「おじいちゃんみたいなファッションがめっちゃおしゃれ!」みたいな(笑)。そういうレトロな雰囲気が曲の世界観にぴったりだったので取り入れてみました。
――あと細かいですけど、ジュークボックスが置いてあるシーンの舞台セットが、ちょっと「夜のヒットスタジオ」っぽいなあと思いまして。
水樹 わかります! あとは「8時だョ!全員集合」ですよね(笑)。私も後ろのセットを見て「懐かしい~!」ってテンションが上がりました(笑)。
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