INTERVIEW
2019.10.02
劇伴作家として幅広く活躍する澤野弘之によるプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]が通算8枚目のニューシングル『Tranquility / Trollz』を10月2日にリリースした。本作には、全三章に分けてイベント上映中のアニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These』セカンドシーズン「星乱」のEDテーマ「Tranquility」、澤野が純粋に今作りたい音楽を形にした「Trollz」など全4曲を収録。TVアニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These』OPテーマとして好評を博したUru歌唱曲のリアレンジバージョン「Binary Star_moll」も収められている。
今回は「Tranquility」の歌唱を担当した沖縄出身のシンガーソングライター、Anlyと澤野による対談をセッティング。以前から縁がありながらも初コラボレーションとなった二人に、楽曲制作にまつわるエピソードや作曲術などについて語ってもらった。
――おふたりは今回が初コラボになりますが、以前から面識はあったのですか?
澤野弘之 Anlyさんとは元々、僕が劇伴で関わった『七つの大罪 戒めの復活』というアニメで、AnlyさんがEDテーマ(「Beautiful」)を担当されていたこともあって、その作品の打ち上げでご挨拶をさせていただいたことがあったんですよ。そのときにAnlyさんからアルバムをいただいたのですが、聴いたらすごくかっこよくて。あと、僕はスキマスイッチさんと何度かご一緒する機会があったんですけど、Anlyさんも以前にスキマさんと共作されていたので、どんな方かというお話は何となく聞いていたんです。
――Anlyさんは澤野さんサイドからお話をいただいたときにどう思われましたか?
Anly 「えっ!あの澤野さんですか?」という感じでした。澤野さんと言えばたくさんの作品で劇伴を作られている方なので、普段生活しているなかでもお名前を見る機会が多いじゃないですか。それに私はスケール感のある音楽が好きで、小さい頃からエンヤとかゴスペル調な音楽も聴いてきたので、澤野さんの作られている空間の広がりを感じるような音楽もすごく好きなんです。『七つの大罪』の曲を歌わせていただくことが決まったときも、澤野さんと同じプロジェクトに関われることがすごくうれしかったので、打ち上げのときもご挨拶させていただいて。なので今回のお話をいただいたときは、何の迷いもなく「やりたいです!」と言ってました(笑)。
澤野 僕は初めてお会いしたときは、たぶん打ち上げの流れで挨拶しに来てくれたぐらいで、僕のことはあまり知らないんだろうなと思っていたんですけど、そこでご自身の歌われていたテーマ曲について丁寧にお話してくれたり、後々になって自分の音楽を知ってくれていることを人づてに聞いたので、そうだったんだと思ったりして。
Anly でも私、初めてご挨拶した当時はお名前しか知らなかったので、想像していた姿よりもスマートな方で「あれ?」と思っちゃいました(笑)。
澤野 ハハハ(笑)。たしかによく言われるんですよね。どうも劇伴作家というのは堅いイメージを持たれるみたいで、もっと気難しそうだったり、年上で髭を生やしているような印象を持っている方が多いみたいなんですよ。でも、そこで変な奴だと思われていたら、今回歌ってくれなかったかもしれないので良かったです(笑)。
――Anlyさんが参加されている今回のニューシングル「Tranquility/Trollz」は、SawanoHiroyuki[nZk]名義としては3rdアルバム『R∃/MEMBER』以来の新作になりますが、そういう意味で意識したこともあるのでは?
澤野 ありますね。『R∃/MEMBER』は主にアーティストとのコラボ曲を収録した、企画的な部分もあるアルバムだったので、次の作品を作るときは、そのときに自分が作りたいサウンドにマッチするボーカリストを呼んで歌ってもらう、[nZk]本来のやり方にしようと思っていたんです。結果的に今回の「Tranquility」ではAnlyさんというアーティストの方とご一緒することになりましたが、シングルのもう1曲のA面になる「Trollz」では、普段自分が作るサウンドトラックに参加してもらっているLacoさんをフィーチャーして、タイアップとは別の形で今の自分が聴かせたい音楽を表現することにしました。
――それで両A面シングルにされたんですね。ちなみに様々なアーティストとコラボすることが、ご自身の音楽制作に影響を及ぼしていると思いますか?
澤野 アーティストの方々が歌うことで曲が違う聴こえ方をすることはあると思います。例えばスキマスイッチさんであれば、リスナーは「あの「全力少年」を歌った人だな」みたいな意識が頭のどこかしらにあると思うので、そういう方たちとコラボすることによって自分の曲の見え方が変化する面白さがあると思うんですよ。もちろんキャリアがあるからこそ出せるサウンド感に刺激を受けることもありますし、今後もこういった取り組みは続けていきたいですね。
――Anlyさんはこれまでに他アーティストの作品に参加した経験はあるのでしょうか。
Anly MAISY KAY(メイジ―・ケイ)という海外の女性アーティストの方の楽曲(「Distance」)に参加したことはありました。スキマスイッチさんとの曲(「この闇を照らす光のむこうに」)は「Anly+スキマスイッチ=」名義で一緒に作ったものなので、私の中ではゲスト参加とかではないんです。私は普段は自分で曲を作って歌うシンガーソングライターなので、実は自分が全く楽曲制作に関わっていない曲を歌うのは「Tranquility」が初めてなんですよ。MAISY KAYとの曲は私が2番の歌詞を書いていたので。なのでレコーディング風景がいつもと違っていたし、歌詞も全部英語だったし……すごく難しい曲でした(笑)。
――それは例えばどんなところが?
Anly メロディにすごく高いところとすごく低いところがあったりするんです。でも、私も『NARUTO -ナルト- 疾風伝』のOPテーマとして自分で書いた「カラノココロ」の最初のサビのところが1オクターブ以上あがったりするので、「きっと歌えるだろう」と信じてレコーディングに臨みました。ただ、自分の中に迷いがあるとこの曲の世界観を表現できないと思ったので、自分のレコーディングのとき以上にたくさん歌い込みました。
――シンガーとしての自分に集中されたわけですね。
Anly そうですね。歌だけで勝負するのが初めてだったので。私も『R∃/MEMBER』をよく聴かせていただいてるんですけど、普段歌っている人間として聴くと「この人は普段は絶対にこういうメロディは歌わないだろうな」という部分がすごく面白いし、歌う側からするといつもと違う衣装を着せてもらえて、とても新鮮だと思うんですよ。私も今回の曲でいつもと違う素敵な衣装を着せていただいたと思います。
――楽曲はどのような着想で作っていかれたのですか?
澤野 前作の『銀河英雄伝説 Die Neue These』のOPテーマだった「Binary Star」は、英語詞でストリングスが入ったバラードという要望を受けて作りましたが、今回は壮大な世界観のバラードということ以外は特に指定がなかったので、前回に合わせて英詞にしたほうがいいんじゃないかと思って。あとは個人的にストリングスを入れるよりもバンドに少しデジタルサウンドを足したようなもの、言ってしまえば最近の海外のロックアーティストがデジタルを取り入れて歌うバラードみたいな曲を作りたいなと思って取り掛かりました。
――Anlyさんに歌ってもらうことを決めるよりも先に楽曲が出来上がっていた?
澤野 そうですね。Anlyさんはよく洋楽のカバーをライブで披露されていて、ループペダルを使ってひとりで演奏してるんですけど、それがめっちゃかっこいいんですよ。なかでもアヴィーチーの曲(「Wake Me Up」)がすごく良くて、それを聴いたときに、この方の歌は「Tranquility」にハマるんじゃないかと思ったんです。あと、個人的にレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)の「Can’t Stop」もすごくかっこいいなと思いました。原曲も好きなので。
Anly ありがとうございます! 私は小さい頃から父が好きな洋楽のブルースやロックを聴いて育ってきて、沖縄出身なのでドライブするときも米軍のラジオを聴いていたので、アメリカのチャートをリアルタイムで耳にしていたんです。アデルも日本で流行る前からずっと流れていたので、私は「誰?」と思って、当時はShazamとかもなかったので、たぶん「Someone Like You」という曲かな?と思って検索したりして(笑)。そんな環境だったので、歌詞は日本語で書くんですけど、英語で歌うほうが心のままに声が出せるんです。
澤野 たしかにAnlyさんのアルバムからは洋楽のテイストを感じましたし、そこがすごくかっこよかったんですよね。ボーカリストの方とコラボする場合、純粋にボーカルで判断する必要がありますけど、例えばその方の曲がキャピキャピした感じだと、本人がどんなにかっこいい声質だったとしてもわかりにくかったりするんですよ。Anlyさんはご本人もかっこいい曲をやっているので、そういう意味でも惹かれましたし、コラボする意味があると思いましたね。
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