『プラネテス』などで知られる漫画家・幸村 誠が描く人気コミック『ヴィンランド・サガ』が、連載開始から15年目を迎える今年、ついにTVアニメ化。この7月よりNHK総合にて放送開始となり、大きな注目を集めている。戦いに明け暮れるヴァイキングたちの生き様を通して、「本当の戦士」の在り方を描く本作のEDテーマを担当するのはAimer。その楽曲「Torches」は、迷える戦士たちを導く灯火のように、暖かく、柔らかな光を放つ「夜」の歌になった。彼女はどのような心情のもと、この楽曲を生み出したのか?その想いに迫った。
――まずは『ヴィンランド・サガ』に触れた感想をお聞かせください、
Aimer 今回のEDテーマのお話をいただいてから、原作のマンガを全巻購入して読ませていただいたのですが、本当に物語の奥の方までゆっくりと引き込まれていくような感じがしました。作品としていくつかの大きな流れに分かれていて、ひとつのテーマを描き切ったと思ったら、そこがまたひとつの始まりになっていて。長い時間をかけてていねいに、しかも史実に基づいて作られていることにすごく感動しました。
――本作は10~11世紀の北ヨーロッパを舞台に、ヴァイキングの戦士たちの生き様が描かれていますが、そういった世界観にはどのような印象を受けましたか?
Aimer 私たちが実際に生きている世界というのは、『ヴィンランド・サガ』で描かれているような戦いが起こるようなことはなくて、いわばこの世界自体がひとつのヴィンランド(=劇中で主人公のトルフィンらが目指す肥沃な大地)じゃないですか。でも、私たちがこうして享受している平和な世界が成り立つまでには、ものすごく多くの血が流れて、そこに辿り着くまでにいろんな悲劇があったことが、この作品から伝わってきて。「生きることって何だろう?」とか、「愛」という言葉が浸透していなかった時代があったことを考えさせられました。
――様々な歴史の積み重ねがあって今がある、普通の生活の大切さを知るという意味でも価値のある作品になっていると。
Aimer 例えば作品の中に「本当の戦士」という言葉が何度も出てくるじゃないですか。トルフィンやトールズはもちろん、アシェラッドでさえもその言葉を使っていて。もし「本当の戦士」がいない世界だったなら、今でも争い合って、奴隷制度のある生活をしていたかもしれないけど、現実はそうじゃなくなっているということは、実際に「本当の戦士」が「この世界はおかしい」と思って動いたから変わっていったんだと思うんです。私は全然戦えないですけど、精神的には自分も「本当の戦士」に近いところにいることはできるのかなとも思いました。
――本作でトールズは「本当の戦士」たらんとして武器を持ちませんが、Aimerさんが思う「本当の戦士」とは?
Aimer トールズのようになるには、剣を持たずに人の心を変えられるくらいの強さを持たないといけないですが、武力そのものや肉体的な意味じゃなくても、真剣に死と向き合う精神的な強さだとか、自分の弱さを正面から受け止められる強い人が「本当の戦士」なのかなと。私は全然戦士ではないですけど(笑)、歌の活動をしていくなかで、声が出なくなったり、批判を受けたりすることもあって、そのたびにどうしても自分の弱い部分が出てくるんです。ただ、そこで「弱い自分」を捨てるのではなく、「弱い自分」を認めるということが大事だと思っています。なのでこの作品は、私にとっても教訓になると思いました。
――ちなみに『ヴィンランド・サガ』で特に心を惹かれたキャラクターはいますか?
Aimer 私はトルケルが好きなんです。天真爛漫……と言うとかわいく聞こえるかもしれないですけど(笑)、自由奔放で、あんなにも自分の直観・第六感のままに生きてるのに、ある意味筋が通っていて、みんなから慕われているのがすごいなあと思いまして。それに作品自体が重みがあってすごく考えさせられるなかで、トルケルが出てくるとすごく癒されるんですよね。個人的にトルケルは幸村(誠)先生っぽいんじゃないかなと勝手に考えています(笑)。
――原作者の幸村先生とはお会いされたのですか?
Aimer こないだの私のツアーに幸村先生が来てくださったんです。しかもそのときに最新巻の22巻をお持ちいただいて、そこにサインとメッセージとトルフィンの絵を描いてくださったんですよ。ただ、お話したことはまだ全然なくて、私がサインをいただいて恐縮しただけなんですけど(笑)。幸村先生のTwitterを拝見したときに、トルケルみたいに面白くって素敵な印象を受けました。
――そんな『ヴィンランド・サガ』のEDテーマ「Torches」を制作するにあたって、まずどのようなことを意識しましたか?
Aimer この作品はアイスランドが舞台ということで、私もアイスランドには撮影やライブで何回か足を運んでいるので、そこにまず縁を感じたんです。なおかつ、私にとっては久々に男性が活躍する作品とのタイアップだったので、歌うにしても、作品を創るにしても、そこは意識しました。私の過去の作品でも「I beg you」や「花の唄」といった梶浦(由記)さんに作っていただいた曲は、女性性が強かったんですけど、そこから今回は男性性と言いますか、荒々しいもの、猛々しいものを表せたらと思ったんです。それとアニメの制作サイドから「中世の北ヨーロッパの広大な景色が見えるような曲にしてほしい」というお話をいただいたので、それを念頭に制作しました。
――他に『ヴィンランド・サガ』という作品に触発された部分はありますか?
Aimer 先ほどの「本当の戦士」のお話じゃないですけど、この曲を制作しているとき、私はツアー中で、その前のツアーで声が出なくなってしまったこともあって、自分の中でも自分の弱さと戦っていたタイミングだったんです。だからメッセージも自然と自分を鼓舞するものになりました。それと、私は3rdアルバム(『DAWN』)まで「夜」をテーマに作品を作ってきて、そこから最近までは「光」をイメージして作品を制作していたんですが、今回のシングルからまた「夜」を表現したいと思ったんです。それはタイミング的に前作(5thアルバム『Sun Dance & Penny Rain』)で「光」に振り切った今がそのときだ、というのもありましたし、このタイアップのお話をいただいて、「夜」に合う曲を作れそうだなと思ったからで。物語の序盤に、トールズがまだ幼いトルフィンを抱えながら海を渡っているシーンがあるのですが(アニメ第3話「戦鬼(トロル)」)、その船の上で松明が灯っている場面がすごく印象的だったんです。トールズが夜の海を覗き込んだ人に対して「あまり夜の海を見つめるな。引きずり込まれるぞ」と言うのですが、私もそのとおりだなと思って。夜にはどこか恐ろしいものがあるし、法外な自然には畏怖のようなものが感じられるじゃないですか。そこで「松明」をモチーフに楽曲を作ることにしました。
――なぜ「光」から再び「夜」に戻ろうと思ったのでしょうか?
Aimer いろんなタイミングもあるんですけど、この数年はベクトルが外を向いていて。聴いてくれる人のことを思って、ライブで一緒に盛り上がれるような曲を作ってきたのですが、それを重ねていくことで「昔の夜にいた頃の自分を忘れてしまったのでは?」と言われることも多くなって、「そうじゃないのに」という思いを抱えながらずっと活動していたんです。それこそ私が昔からビジュアルを極力出さないように活動しているのは、音楽や声を敢えて先入観を持たずに聴いてほしいという思いがあったからで、「光」のなかで顔が以前より見えたとしてもその部分は変わらないのに、「変わっちゃった」と言われることが嫌だったし、私は誰も置いてけぼりにするつもりはないということを、どこかでちゃんと言いたいなと思っていて。そういう意味でも『ヴィンランド・サガ』という作品との出会いは、ここから新しい「夜」に行くという意志表示をするためにも、すごく良いタイミングでした。
――しかも「Torches」は夜の中で灯りを灯す曲でもありますし。
Aimer そうなんです。昔なら閉じこもってひとりきりの夜を過ごしていたと思うんですけど、今は同じ夜でも昔とは違うと思っていて。みんなと出会ってからの夜だから、ものすごくおこがましいですけど、私が松明を灯してみんなを引き連れていきたい、そういう気持ちもこの曲に込めました。
――そういう意味では、Aimerさんの現在のアーティストとしてのスタンスを示す曲でもあるんですね。
Aimer 私もデビューして8年になるので、ここまで積み重ねてきたものがあるし、それがみんなとの信頼関係になっていることを私自身が感じています。それと今回は民族音楽的な要素を入れたんですけど、そうするとどうしてもわかりやすいポップスからは少し外れた音楽になってしまうと思うんです。でもそれも今までの積み重ねがあったからこそ、シングルの表題曲としてリリースすることができるのかなと思っていて。
――たしかにサウンド的にも、どこか神秘的な雰囲気を感じさせるコーラスが入っていたり、作品の舞台であるアイスランドの音楽に通じる壮大さがあります。
Aimer そうですね。アイスランド語は全然わからないんですけど、現地に行ったときに感じた言葉のフロウ感や声の形をコーラスで表現するというところから始めました。あのコーラスも自分で何声も重ねて、スピリチュアルな雰囲気が出ればいいなと思いながら録ったんです。実は作曲者の方の声も入っていて、そうすることでより広がりを出すことができました。それとギターをたくさん重ねているのも、舞台になった北欧の音楽性を意識していて。いい意味で作品に導いてもらえました。
――作詞はご自身で手がけられていますが、どのような気持ちを込めて書きましたか?
Aimer たぶん『ヴィンランド・サガ』をご存知の方であれば、すごく作品の世界観を感じていただけると思うのですが、先ほど「本当の戦士」の件で話した自分の弱さや強さと向き合う部分にシンパシーを感じたこともありますし、作品全体の力強さが、今の私が表現したい「みんなを引き連れていきたい」という気持ちにすごく合っていたので、そういう部分が出ていると思います。ただ、もっと普遍的なメッセージにもなるように考えて、『ヴィンランド・サガ』自体が時代を超えて今に通じる部分があるように、この歌詞も時代と関係なく受け取ってもらえれば、と思いながら創りました。
――個人的には“傷つかずに進むだけの道などなく 傷つくためだけに生まれた者もない”というフレーズが心に残りました。
Aimer 今までの歌詞では、ここまで力強く言い切ることはなかったんですけど、今回は新しい「夜」ということもありますし、作品にも寄り添えるかなと思ってそう書きました。ここは自分への鼓舞でもありますね。言い聞かせている部分もあるし、わからないけれど、そう思いたいという願望だったり。
――ちなみにアニメも放送中ですが、ご覧になっての感想は?
Aimer 幸村先生もTwitterでおっしゃってましたけど、原作とは構成が変わっていて、これはこれですごく引き込まれましたし、エンディングのアニメも広大な景色が見えるような曲というイメージにピッタリのものにしていただいて、大切に使っていただいてることが伝わってきてすごくうれしかったです。それと、声優さんもキャラクターに伴ってダンディな声の方が多いじゃないですか。私の好きなトルケルの声優さんも大塚(明夫)さんということで、今から登場が楽しみです(笑)。
――ここからはシングルのカップリング曲についてもお聞かせください。まずアコースティックなナンバー「Blind to you」はどのようなイメージで制作されましたか?
Aimer 今回のシングルには「旅に出る」という裏テーマがありまして、「Torches」が松明を掲げて旅の始まりを表しているとしたら、「Blind to you」はその旅の中で少し寂しい気持ちになったときを表していて。「人というのはやっぱりひとりなんだろうな」という寂しさを表現したくて作った曲です。歌詞自体は昔に書いていた「夜」の曲に通じるものがありますけど、サウンド自体はそこまでどっぷり悲しいものではなく、サラッとしみこむような、重すぎない曲を意識していて。また新しい夜として作ったものですね。
――もう1曲の「Daisy」は陽だまりのような雰囲気があって、あまり夜っぽくない曲調ですが。
Aimer そうですね。今までなら「夜」ということで3曲目はバラードにしてかっちり決めて作ったと思うんですけど、せっかくひとつの「夜」を終えて、「光」のなかでいろんな挑戦をしたことで、今は昼の光や太陽のこともわたしなりに愛せるようになったので、今回は夜の中から昼を思い描いて歌う曲があってもいいのかなと思って。仮にそういう「夜」があったとしても、みんなは各々の解釈で受け止めてくれるであろう、という信頼もあるので、今回は3曲目にあえてライトな曲を入れました。今回のシングルにライブ音源を収録したのもありますけど(2019年のアジアツアーより「Black Bird」「I beg you」のライブ音源を収録)、今はライブに重きを置いて活動しているので、自然とみんなとライブで歌える曲というのを意識して作っていますね。
――今回のシングルの制作を通して、シンガーやアーティストして新たに気づけたことはありますか?
Aimer 「Torches」という曲自体が太陽のようなポップスではない、「夜」の世界に入ったからこそ作ることができた、音楽的には洋楽っぽいサウンドになったと思うんですけど、それは今の自分だから作れたものだと思っていて。今までの自分だと「みんなを引き連れていく」という発想にも至らなかったし、8年間活動してきた分、自分自身にも「ここまで真摯に音楽を作ってきたんだ」という自負がちゃんとあることを、このシングルを聴いて改めて感じます。それがライブでの歌にも影響していたりして、昔よりもライブで歌うことが楽しくなってきているんですよね。それこそ弱い・強いの話ですけど、「声がでなくなってしまうかも」という怖い気持ちも、それを含めてゲームみたいに楽しめるようになってきたと言いますか(笑)。
――ゲームみたいな感覚があるんですね。
Aimer そうなんですよ。いつも、今日の配分はここまでにして、感情はこれぐらいまで出して、ということを考えながら歌っているんですけど、昔はそれがものすごく怖かったのが、今は楽しくなってきているんです。それはみんなとの信頼関係があることもそうですし、今までやってきた自信があるからなんだと思います。先日のアジアツアーはそれほど公演数は多くなかったんですが、秋からは公演数の多いホールツアー(“Aimer Hall Tour 19/20”)があるので、そのツアーをしっかりと完遂して「本当の戦士」になれるように頑張ります(笑)。
――では、最後に『ヴィンランド・サガ』をご覧の方に向けてのメッセージをお願いします。
Aimer きっと連載が初まった当初から読んでいる方にとっては待ちわびた、本当に歴史のある作品だと思いますし、そのエンディングを任せていただいたことを本当に光栄に思います。ストーリー的にもすごく考えさせられる作品だと思うので、私のEDテーマは観ている方がほっとできるものであればいいなと思っています。
Interview & Text By 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
Aimer 17th single
「Torches」
8月14日発売
【初回生産限定盤(CD+DVD)】
品番:SECL-2480
価格:¥1,700+税
【通常盤(CD only)】
品番:SECL-2482
価格:¥1,300+税
<CD>
M1「Torches」
M2「Blind to you」
M3「Daisy」
M4「Black Bird (Aimer “soleil et pluie” Asia Tour in Shanghai)」
M5「I beg you (Aimer “soleil et pluie” Asia Tour in Shanghai)」
<DVD>
「Torches」MUSIC VIDEO
「Stand By You」MUSIC VIDEO
「We Two」MUSIC VIDEO
「3min」MUSIC VIDEO
【期間限定生産盤(CD+DVD)】
品番:SECL-2483
価格:¥1,500+税
※「ヴィンランド・サガ」SPパッケージ
<CD>
M1「Torches」
M2「Blind to you」
M3「Daisy」
M4「Black Bird (Aimer “soleil et pluie” Asia Tour in Shanghai)」
M5「I beg you (Aimer “soleil et pluie” Asia Tour in Shanghai)」
M6「Torches (TV size)」
<DVD>
「ヴィンランド・サガ」ノンクレジットエンディングムービー
●ライブ情報
Aimer Hall Tour 19/20 “rouge de bleu”
2019年10月31日(木) 千葉公演 市川市文化会館
2019年11月03日(日) 広島公演 広島上野学園ホール
2019年11月04日(月・祝) 香川公演 サンポート高松・大ホール
2019年11月09日(土) 兵庫公演 神戸国際会館こくさいホール
2019年11月10日(日) 兵庫公演 神戸国際会館こくさいホール
2019年11月16日(土) 北海道公演 札幌文化芸術劇場hitaru
2019年11月23日(土・祝) 新潟公演 新潟県民会館
2019年12月01日(日) 静岡公演 静岡市民文化会館 大ホール
2019年12月06日(金) 福岡公演 福岡サンパレス ホテル&ホール
2019年12月07日(土) 福岡公演 福岡サンパレス ホテル&ホール
2019年12月14日(土) 宮城公演 仙台サンプラザホール
2019年12月15日(日) 宮城公演 仙台サンプラザホール
2019年12月22日(日) 長野公演 まつもと市民芸術館
2020年01月04日(土) 京都公演 ロームシアター京都メインホール
2020年01月05日(日) 岡山公演 岡山市民会館
2020年01月11日(土) 埼玉公演 大宮ソニックシティ 大ホール
2020年01月12日(日) 埼玉公演 大宮ソニックシティ 大ホール
2020年02月02日(日) 岩手公演 盛岡市民文化ホール 大ホール
2020年02月08日(土) 愛知公演 名古屋国際会議場センチュリーホール
2020年02月09日(日) 愛知公演 名古屋国際会議場センチュリーホール
2020年02月14日(金) 大阪公演 フェスティバルホール
2020年02月15日(土) 大阪公演 フェスティバルホール
2020年02月22日(土) 東京公演 東京国際フォーラム ホールA
2020年02月23日(日) 東京公演 東京国際フォーラム ホールA
受付席種・料金:指定席¥7,200(税込) ※6歳以上有料 未就学児童入場不可
チケット一般発売日
2019年開催公演 2019年09月21日(土)
2020年開催公演 2019年11月02日(土)
チケット先行情報
17th single「Torches」CD封入先行
受付期間:2019年08月13日(火)12:00~08月21日(水)23:59
※2019年8月14日発売のAimer 17th single「Torches」に封入のシリアルIDにてご応募いただけます。
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