2011年にモバイル用ノベルゲームとして誕生した「明治東亰恋伽」。その最初のシリーズから主題歌を歌ってきたKENNだ。登場人物である菱田春草を演じながらも、アーティスト・KENNとしての表現でも作品に色を添えてきた彼は、その後、コンシューマーゲームや劇場版アニメ、ミュージカルにテレビアニメと、数々のメディアミックスを重ねファンを増やしていく「めいこい」につねに寄り添い、歌でも作品を色付けてきた。今年は、実写ドラマ版「めいこい」の主題歌「一夜ノ永遠ニ君想フ」と、実写映画版の主題歌「彼ハ誰ノ空」を続けて担当。この2曲を収録したニューシングルが発売となる。そんなKENNに、作品への想い、そしてアーティストとしての”今”を聞く。
――これまで数々のめいこい楽曲を担当されていますが、ドラマ&映画の主題歌を歌われることが決まったときのお気持ちを教えてください。
KENN 近々でTVアニメとアプリゲームの歌をうたわせていただいているなかで、またこうして実写ドラマと映画の主題歌のオファーいただいて、本当にうれしく思いました。今まで8年くらいやらせていただいていたんですけど、ふと気づいたんですが、短いスパンの中で4曲もやらせてもらうことなんてなかったので、最近はとてもめいこい色に自分が染まったな、という気持ちがすごく強いですね。
――実写版とTVアニメ版の楽曲となると歌う時のお気持ちに違いなどはあったんでしょうか。
KENN 曲の雰囲気だったりコンセプトが実写は実写で、今までのゲームやアニメとは別であり、一緒に作るスタッフさんとお話をしながらアプローチをさせていただいたので、そのベクトルに寄り添えるような気持ちではいました。ただ心境としては同じです。アニメ版でも実写版でもゲーム版でも、一緒です。
――コンセプトというと?
KENN まずドラマの曲である「一夜ノ永遠ニ君想フ」の方は、視聴者の方に改めて「明治東亰恋伽」に触れていただくにあたって、僕たちも初心に還ったつもりで作ろう、アプローチしていこう、ということで、まず「めいこいらしさってなんだろう」ということをスタッフさん達とお話させていただきました。その中で、いくつかある候補曲の中からこの曲をスタッフさんと一緒に選ばせていただきました。満場一致で「めいこいらしさってこれだよね」と、すんなり決まった感じです。ほかの候補曲もいい曲ばかりだったんですが、そちらはまた機会があったらどこかで披露させていただけたらうれしいなと思います。今回は圧倒的なイントロのインパクトと、歌いだしのギャップから三拍子のサビへ、という展開が目まぐるしいけど、ものすごく心地がよくて。あっという間に曲が聴き終わってしまうような、ギミックにも凝っている楽曲です。対して実写版映画主題歌である「彼ハ誰ノ空」のコンセプトは、映画の最後の方でとてもいいシーンで流して泣ける曲がいいよね、というところが曲選びのポイントとして最初にみんなの中にあって、そこで候補曲の中から選ばせていただいたんですけれど、これも名曲揃いの中で選ぶのが難しかったイメージが僕の中にあるんです。どストレートなバラードって、キャラクターソングでは結構やってきたんですけど、主題歌でここまでしっとりしたのは「約束」以来で。「約束」はちょっと開けた感じがあったんですが、この「彼ハ誰ノ空」は泣きの入った歌い上げる系のミディアムテンポバラード。こういう曲は初めてだと思うので、すごくやり甲斐がありましたね。
――楽曲に対してこだわった点はありましたか?
KENN 作品に関わる曲の場合は、いつもその作品らしさをどう散りばめるか、を考えています。今回なら、「現代と過去との行き来」や「和洋折衷」はやはり「明治東亰恋伽」で浮かぶ印象的なポイントのひとつだと思うんですけど、そういった部分をどういう風に散りばめていくか。曲によっても違うんですけど、ある時は歌詞の中でめいこいらしいパートを強調して歌ってみたり、曲の全体のイメージでめいこいらしさを表現するということもあるし、あとはエモーショナルにこの言葉だけを立ててみようであったり、そういった部分でのアプローチがキャラクターソングとは違うということで意識しているところですかね。今回でしたら、「一夜ノ永遠ニ君想フ」では四拍子が三拍子になる部分のある、リズミカルな楽曲なので、歯切れよくタテを意識して歌ったり、「彼ハ誰ノ空」ならよりエモーショナルに、張り上げるところは張りあげて、しっとり優しく響くところでは優しく歌うとかギャップをつけたり、ですね。
――その「一夜ノ永遠ニ君想フ」の聴きどころを教えてください。
KENN 聴きどころは全部、と言いたいです。でも今、こだわりポイントをお話したのでそういった部分も注目して聴いていただけたら嬉しいなという想いもありつつ、今回2曲同時に収録されているということで、どちらも違ったタイプの曲ですけど聴いていて僕としては「めいこいらしいな」と思っているので、聴いているあなたにとってどういうところがめいこいらしい部分なのかを探していただくのも面白いと思います。
――ご自身の中で「ココが好き」というのはどこでしょうか。
KENN 細かくなっちゃうんですけど、いいですか?(笑)「一夜ノ永遠ニ君想フ」だったらイントロがすごく好きですね。イントロの途中でかぶさって来るストリングスの部分が好きなんです。まずそのイントロを聴いたときに「そうくるか!」って思ったんですよね。なかなか今まで聴いたことのない音の運びだったので、「心地いいな」と聴いていたら急に裏切られて、でも次の瞬間にはもう違うところにいってしまっている。強引なんだけどエスコートされている感じがすごく好きなので、そういうところを「一夜ノ永遠ニ君想フ」では楽しんでいただきたいですね。おすすめです。四拍子から三拍子になるのも「急にそうなる!?」と思いそうなところをすごくスムーズに移行しているので、そういうところでしょうか。
――ご自身の歌唱はいかがですか?
KENN 僕はもう、控えめでいいんですけれど(笑)。「一夜ノ永遠ニ君想フ」で、「忘れて忘れて」と同じワードが2コ続くところではニュアンスを変えたりして、飽きさせない工夫をしてみたつもりです。あとは最後の「僕の射抜いた」という歌詞。アウトロに差し掛かる直前のところでどう歌い切るかはこだわりました。
――ではもう一曲。「彼ハ誰ノ空」の好きなポイントを教えてください。
KENN この曲はイントロにエフェクトで歪ませた音が入っていて。以前、「約束」でも使ったんですけど、そのときは時間を行き来するからそういった音を使ったら面白いんじゃないかってことで使いました。今回のアレンジでもそういったイメージがあったんじゃないかと思うんですね。その部分も好きだな、と僕は思っているので、ぜひ聴いていただきたい部分です。それとさっきも言いましたが、ウィスパーなところではすごくウィスパーに歌って、張り上げるところはすごく張りあげているので、そこのギャップ感がすごく好きです。歌っていてもすごく楽しかったですし、ウィスパーで歌うときと張り上げるときでは歌の表現として大事にするポイントが僕の中ですごく違うので。それを考えながら細かいところを突き進んでいる感じが歌っていて好きでした。
――その大事にしているポイントというと?
KENN ちょっとしゃくったり、緩やかに落ちていったりするところでどれくらいビブラートをかけて終わるかであったり、どれだけ声を掠れさせる、とか。そういう部分を制御していく(表現手法を用いる)のが自分的には好きな作業で、面白いなと思いながらやっているんです。でもやりすぎてしまうと味付け濃い目だな、という印象になるし、やらな過ぎても感情的にはならないから冷たい印象になってしまう。そこの微妙なところを突いていくこと。アンニュイな感じ。写真でいうところのフォトジェニックな感じをウィスパーの部分では目指していきましたね。張るところはダイナミックに、感情的に。でもこれもやりすぎてしまうとちょっとお腹いっぱいな(表現に)思ってしまうんです。泣きのシーンの芝居を泣きすぎるとそれはそれで違うベクトルのお芝居になりそうなのと一緒だなと思ったので。それもいい“泣き”を見つけるようにしました。あと落ちサビもエモーショナルにやらせてもらいました。これもギリギリの部分を攻めましたね。でも割とこのチームでやらせてもらうと、ディレクターさんが「エモーショナルにいきましょう!」と言ってくださる方なので、この落ちサビでもちょっとメロディをはずれていたとしても味になるかな、と思ってやってみたら最終的にOKテイクに。「なるほど、こういう表現をいいと思ってくれるんだ」と思ったりしました。
――歌詞の中で「たったひとつだけ願い叶うなら」とありますが、たったひとつ願いが叶うなら何をお願いしますか?
KENN ひとつだけですか?「願いをふたつ叶えてください」とかはだめなんですよね?ちょっと天邪鬼ですね。ごめんなさい(笑)。ひとつ願いが叶うなら……明治村の近くに住みたい、とかかなぁ。「明治東亰恋伽」の登場人物に会ってみたいです。春草に会ってみたいって、本当に思っています。
――そしてここからはアーティスト・KENNさんにフォーカスをしたいと思います。ソロアーティストとしてデビューされて昨年が10周年だったKENNさん。
KENN もうそんなに時間が経ちましたかぁ。アニバーサリー的なことは何もしなかったです。あまり自分の記念日的なものをカウントダウンしないんですよ(笑)。ファンのみなさまに「10周年ですね」と言っていただいて、そこで気が付くタイプみたいです、わたし。だから本当に感謝です。
――KENNさんとして歌ってこられたこの10年はどのような時間でしたか?
KENN 超あっという間でしたね。でもそもそもバンドからソロ活動をするときの違いがあまりなかったんです。圧倒的にガラっと変化したな、というのをそんなに感じていなかった。元々バンドからデビューさせて頂いて。バンドで曲を作るときって、自分たちで歌詞を書いたり曲を書いたりして、プロデューサーやディレクターに聴いてもらい、そこで「こういう方がいいんじゃないか」などディスカッションを経てブラッシュアップし、レコーディングをみんなでやって1曲を時間を掛けて作る感じだったんですが、ソロ活動だと自分は歌の部分を担う。楽曲面では今までに比べればかかわりが少なくなったので、そういう意味では歌や歌詞に専念出来るところはありました。でも結局、ソロでもミックスに立ちあわせていただいたりとか、楽曲によって関わる度合いは違いますが、結構会議にも参加させてもらったりもしているので、やり方的にそんなに変化した印象はないです。
――でもお話を伺っていると、バンドでの「阿吽」の呼吸の中での制作とはまた少し違うのかな、とも感じますね。
KENN そうですね。毎回同じ方もいらっしゃれば、新しい方とのセッションになることもありますし。新しくやらせていただく人に新しい世界を見せてもらったりもしていますね。
――そんな様々な方との制作を重ねてきた中で一番印象に残っている出来事はなんですか?
KENN 最後にやったソロライブの印象が強いですね。結構、前のことになってしまうんですけれど。2011年だったかな。そのときのチームの方たちとすごく密にやらせていただいた上、そのときに表現したかったものは出し切ることができて。ライブDVDもリリースさせていただいたんですが、編集にも立ちあわせていただいて、自分のライブの映像を改めて長い時間まじまじと見たことで自分と向き合えたりもして。そういうことはすごく印象深いですね。
――ソロになって11年目に入った今、どんな進化を遂げた、と感じていらっしゃいますか?
KENN キャラソンも含めて数百曲、歌っていますね。進化というか……あまり難しいことを考えなくなりました。いい意味で。割と、ディティールを細かくするのが好きなんですが、昔よりはディティールを細かくするために考えるプロセスが減りました。最適化されています。頭の中で、心の中で、こっちいってあっちいって答えにたどり着く、というよりも今はダイレクトに答えの表現までたどり着ける感じはします。よりシンプルに、より短時間で表現を掴むことが出来るようになった感はあります。その分、昔よりも上のクオリティにいけるチャンスが増えたように感じます。
――そのソロ活動の中で「めいこい」はすごく大きな、KENNというアーティストの世界を作る要素になっているのかな、と感じますがいかがですか?
KENN そうですね。8年くらい同じキャラクターや同じ世界観でやらせていただいているので、このプロジェクトに関わることですごく引き出しが増えたと思います。
――「めいこい」があったからこそ出来たKENNの音楽。どんな部分に影響をしていると感じられますか?
KENN 「めいこい」という作品が明治時代の話だったり現代のお話だったり、と過去と現代を主人公が行き来する物語というのもあるので、歌うときにも歌謡曲っぽいテイストを入れさせていただいたり、こぶしの効いたような歌い回しをさせていただいたりもしていて。そういう普段とはちょっと違ったやり方をエッセンスで加えることで自分の歌い方の引き出しや表現力がアップしていったんじゃないかなと思います。ただキャラクターソングも同時にやらせていただいているので、それも引き出しが増える要因のひとつになるんですけど、自分としての歌、キャラクターとしての歌、向き合い方がちょっと違うから2種類の考え方で曲にアプローチできるのはとてもいい環境だなと感じます。
――そうしてたくさんの楽曲を歌ってこられたKENNさんですが、ここまでの時間で最も印象に残っている楽曲、忘れられない一曲というのはありますか?
KENN メジャーなところで言えばアイドルもたくさんやらせていただいるので、その曲はどれも印象深いですが、キャラクターソングという意味で印象が強いのは「VitaminZ」で前野智昭さんと共に天と千で歌わせてもらった「絶頂HEAVEN」ですね。かなりロック色が強い一曲なんですが、自分にとってすごくターニングポイントになった曲です。キャラクターとして気持ちを込めて歌うことについてすごく考えて表現をした、という意味で印象に残っているのは僕が「幻影旅団」のフィンクスとして歌わせてもらった「HUNTER×HUNTER」のキャラソンの「Cycless Wind」です。すごく印象的な曲たちです。
――10周年の先へと踏み出されている今。これからのKENNさんの音楽表現で目指しているのはどんなものでしょうか。
KENN 年齢や経験を重ねていく中で考え方も少しずつ変わってきたりもしているので、10年前に思い描いていた姿や表現したいものと今、表現したいものって違うんじゃないかと思っていたりもします。一回、全部自分で作る、というのをやりたいですね。作曲を一から勉強してやってみたいですね。自分で本当にやりたい曲とパブリックに向けて表現する歌って違う部分もあると思うので、そこのうまい落としどころって考えなきゃいけないと思うし、自分が今、やりたいこと、作りたいものを模索するところからではあるんですけど。未知数ではありますが、やってみたいですね。
――映画の方も楽しみですが、最後に読者へメッセージをお願いします。
KENN 引き続きドラマ版にもお馴染みの方もボイスで出られていますし、わたしも主題歌をやらせていただいていますし、今回新しい座組で実写版映像チームが1か月くらいの短い時間の中でドラマを作り上げているので、みんなのチームワークも楽しみに見て頂けたら嬉しいです。主題歌というのは作品のひとつの顔だとも思っているので、心を込めてスタッフさんと一緒に作らせていただいたドラマ版の主題歌と映画版の主題歌も作品と共に楽しんでいただければと思います。
Interview & Text By えびさわなち
●リリース情報
「一夜ノ永遠ニ君想フ」
7月24日発売
品番:USSW-0190
価格:¥1,300+税
<CD>
01 一夜ノ永遠ニ君想フ(ドラマ「明治東亰恋伽」主題歌)
02 彼ハ誰ノ空(映画「明治東亰恋伽」主題歌)
03 一夜ノ永遠ニ君想フ -off vocal-
04 彼ハ誰ノ空 -off vocal-
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