REPORT
2019.07.07
「アイドルマスター ミリオンライブ!」ライブツアー“THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 6thLIVE TOUR UNI-ON@IR!!!!”を締めくくる福岡公演「Fairy STATION」2日目が2019年6月30日、マリンメッセ福岡にて開催された。
福岡公演にはゲーム「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」Fairy属性のアイドルによって構成されるユニット・D/Zeal(ジュリア役・愛美、最上静香役・田所あずさ)、夜想令嬢-GRAC&E_NOCTURNE-(天空橋朋花役・小岩井ことり、所 恵美役・藤井ゆきよ、二階堂千鶴役・野村香菜子、百瀬莉緒役・山口立花子)、EScape(真壁瑞希役・阿部里果、白石 紬役・南 早紀、北沢志保役・雨宮 天)、Jelly PoP Beans(ロコ役・中村温姫、舞浜 歩役・戸田めぐみ、永吉 昴役・斉藤佑圭、周防桃子役・渡部恵子)が出演、「UNI-ON@IR!!!!」というひとつの番組とライブを作り上げた。
なお、今回のライブでは本ツアーの追加公演“THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 6thLIVE TOUR UNI-ON@IR!!!! SPECIAL”が2019年9月21日・22日、さいたまスーパーアリーナにて開催されることが発表された。
765プロ劇場事務員・青羽美咲が「UNI-ON@IR!!!!」の放送開始を告げると、各ユニットの衣装をまとった13人が登場、Fairy属性曲「FairyTaleじゃいられない」で、6thツアー地方公演を締めくくるライブがスタートした。
ユニット最初の登場はD/Zeal(愛美/田所あずさ)。赤と青の世界の中で、ハーモニクスマイクを持ったふたりのボーカリストが火花を散らす。マイクの形状が違うことで、よりインファイトでボーカルをぶつけあっているような印象がある。ボーカルを担当する演者をピンスポットが細かく切り替わりながら照らし出してステージにリズムを生む一方、もうひとりも暗い照明の中で情熱的に動きで表現を見せる。間奏、客席のクラップを呼びこみながら会場のテンションを燃やすふたり。スーパーボーカリスト同士の表現のせめぎあいが生む相乗効果のステージだ。
本ツアーではユニットによる楽曲カバーが行なわれたが、D/Zealは「流星群」と「SING MY SONG」という互いの大切なソロ曲をふたりで歌って共有するアプローチを見せた。「流星群」では愛美がギターを奏でる中、田所が歌い出しのボーカルを担当。田所にロングパートが渡る前には、愛美が「シズ!」と楽しげにバトンを渡した。D/Zealとしての「流星群」に新しい色合いを与えていたのは、歌っているふたりが見せる、最高に楽しそうな感情だろう。ラストのハモリの前には視線を合わせ、笑顔をかわし、意志をつなげてから歌声の呼吸をぴったりと揃えた。
「SING MY SONG」については、田所が「最上ちゃんだけじゃなくて、D/Zealにも通じる曲だと思ってやりました」と語る。柔らかな光の中、演奏される楽器は愛美が奏でるアコースティックギター一本。シンプルな音の世界に包まれながら、田所のよく伸びる歌声がどこまでも広がっていった。アコースティックギターを弾く愛美の表情は真剣で、特に間奏でギターの音だけが響く時間帯は細心の集中が感じられた。それはボーカルとギターで会話をかわしているような一対一のコミュニケーション。ラストの「願う明日がある」から始まるフレーズでの田所の歌声は、揺れながら涙を流すように雄弁だ。そこに愛美の歌声が寄り添っていき、やがてそれは溶け合ってD/Zealの歌声になった。
「餞の鳥」では、明暗のコントラストが効いた照明の中で、今日のステージいちばんにも思える雄大で力強い歌声を響き合わせる。サビでそれぞれの想いを爆発させる前に、一度視線を合わせて気持ちを通わせるやりとりはこの曲でも見られた。やがて、スクリーンに雪のような光が舞い、それは白き羽が舞う。歌い終えたふたりは会場に背を向け、階段を上ると羽たちの元へ。かけがえのないパートナーを得たふたりの手元が比翼の翼を象り、そこに一本の青い、羽が降る。シズとジュリアの傍に、もうひとりの蒼い歌姫の気配を感じた気がした。
さて、パフォーマンスではジュリアと静香に深く深く潜った鮮烈なパフォーマンスを見せたふたりだったが、MCでは一貫して笑いに満ちたコントのようなやりとりが繰り広げられた。特に愛美が「シズ、説明頼む」と振って、田所がプロデューサーにこねこちゃんになってジュリアさんに応えるように要求するくだりは、再三繰り返される定番ネタとなっていた。要求に応えて会場がにゃーん→愛美が駄目だし→今度はもっとうまくにゃーん、という天丼(繰り返し)が定着していたのだが、福岡公演を締めくくる最後の最後のMCでは愛美がダメ出しをせず、最高の笑顔で「よくできました!!」とにっこり。笑いの本質でもある緊張と緩和が、形を変えてバシッと決まっていた。
夜想令嬢-GRAC&E_NOCTURNE-(以下、夜想令嬢。小岩井ことり/藤井ゆきよ/野村香菜子/山口立花子)のステージでは「座席におかけになって鑑賞してください」の文字が表示された。小岩井、藤井、野村、山口が「昏き星、遠い月」をベースにした歌劇を演じ、観客はそれを座って観劇するという前例のないステージが幕を開けた。
ステージに流れるBGMは「昏き星、遠い月」を編曲したもの。ステージ上の芝居が特定のポイントに来るとキャストが楽曲の一節を歌いはじめる。BGMの尺は事前に決まっており、歌い出しに合わせた演技のペースや間は演者が調整しているというから驚きだ。
最初は小岩井のモノローグと共に、傘を持った吸血鬼・クリスティーナ(小岩井)がステージに登場。はじまりの日の思い出から舞台はスタートする。夜の城の背景に大きな大きな満月が浮かび、月光が薄汚れた街並を照らす中、エドガー(藤井)がクリスに声をかける、ふたりの出会いが描かれる。物語が進み、エドガーは命に関わる傷を負う。クリスが「ここで死ぬか、もう二度と死ねない身体になるか」と問いかけ、エドガーが生きたいと叫んだことで、ふたりの永い逃避行がスタートする。小岩井が藤井の首元に口づけ、藤井演じるエドガーもまたヴァンパイアとしての運命を得るシーンは哀しくも美しい。
野村のモノローグと共に登場したのは、騎士アレクサンドラ(野村)と悪女エレオノーラ(山口)。淡々としたモノローグにアレクサンドラの誠実さを宿すモノローグがいい。騎士の鎧をまとった騎士・アレクサンドラは騎士は、エレオノーラに吸血鬼狩りを強制される。アレクサンドラは吸血鬼となって眠りについた妹・ノエル(水瀬伊織)をエレオノーラにかくまってもらっている弱みがあった。罪を背負いながらも誇り高き騎士であらんとするアレクサンドラを野村が好演。そして、素晴らしかったのが山口のエレオノーラとしての悪女っぷりだ。「世界は赤く染まった」のくだりを歌う山口の妖艶で邪邪悪な笑みがスクリーンに収まらないほどの寄りで切り取られる演出はおそろしくも美しかった。
クライマックスはヴァンパイア狩りの騎士・アレクサンドラがエドガーを追いつめるシーンだ。ここでこの曲で人気の藤井の台詞「どうして俺たちを殺そうとするんだ!」が来るのだが、舞台でのこの言葉は抑えた、内に怒りと絶望をたたえた叫びだ。生きた舞台の演技の流れの中では、本当のテンションの山はそのあとの「ヴァンパイアだって、幸せになっていいはずだ!」の絶叫なのである。妹のために吸血鬼を狩る剣となることを選んだ野村の剣捌きも見事だった。
山口の大きな見せ場が、エレオノーラが忘れていた家族の記憶を取り戻すシーンだ。直前まで迫真の狂気の演技を見せていた山口だが、楽曲が自然に「Everlasting」に切り替わったところで、演技とまとう気配のすべてを完全にスイッチしてみせた。慟哭するエレオノーラを強烈なスポットが照らし出す、白い衣装が浮かび上がるかのように光輝く姿は女神のようだ。記憶を取り戻した山口の想いを込めた演技は優しく崇高で、切ない。ハンドマイクではなくヘッドセットを使っていることで、胸元に当てた手や指先が、感情を映す繊細な表現をしていたのも印象的だった。
星々の中、「Everlasting」でクリスティーナが永遠の孤独を歌う。階段に座るエドガーの元にクリスティーナが寄り添うと、エドガーも彼女の孤独に応える歌を返す。手を取り合い、約束の地へと向かうエドガーとクリスティーナ。彼らの進む先にはどうすることもできない破滅の予感が横たわっているが、それでも、そこに救いがあれかしと願いたくなる、余韻の残る結末だった。
そして、その後のカーテンコールの二重性も面白かった。エレオノーラ役の百瀬莉緒がアレクサンドラ役の二階堂千鶴のおとがいをくいっともちあげようとすると、千鶴はそれを拒否。ぷんっと怒って背を向けた千鶴の肩越しに莉緒が甘えて、最後はふたりで腕を組んで階段を下りてくるというカーテンコールのやりとりを、野村香菜子と山口立花子が生身で演じている……というような複雑な構成。最後まで見事に演じきった4人の名優に拍手を送りたい。
ユニット三番手はEScape(阿部里果/南 早紀/雨宮 天)。クール系美少女たちがアンドロイドを演じるコンセプチャルなユニットだ。二日目のEScapeのステージで驚いたのは、サイバーな衣装にあしらわれた電飾演出が初日よりパワーアップしていたことだ。それをもっとも感じたのが765プロAS・三浦あずさのソロ曲「Mythmaker」をカバーしたステージだ。電飾の白い発光がリズムに合わせて赤く明滅し、間奏では闇の中で三人がまとう光の輪郭が舞い踊る。
個人的に「Mythmaker」はあずささんの曲の中でも、もっとも演者・たかはし智秋の個性とポテンシャルに寄せた楽曲だと思う(反対側にあるのがラ▼ブ▼リ▼)。個人の圧倒的なボーカルに依存した楽曲をどうトリオで表現するかという部分で、原曲ボーカルの強さ、けれん味の部分の多くを担っていたのがセンターの阿部であり、それは彼女にしかできないことだったと思う。浮遊するようなファルセットのパートでは、阿部、雨宮、南の歌声の方向性を揃えることで、EScapeというひとつの歌声で表現していたように思う。ココロを得たアンドロイドたちの支配からの逃避行は、やがてMythmaker=神話になっていくのだろう。
ステージが「Melty Fantasia」「LOST」と進むごとに、アンドロイドたちは「ココロ」に目覚めていく。その表現が爆発したのが「LOST」で、3人は生き生きとした表情で彼女たちの回路に宿った“想い”を歌声にしていく。出会えた喜びと“あなた”への想いの歌。「LOST」でアンドロイドに宿ったいのちの表現として、3人の歌声がうねり、揺らぐのがすごく印象的だ。特に南の歌声がふるえるように大きく揺れた場面で、彼女の表情を見るとあたたかな笑顔が浮かんでいて、それがコントロールされた表現であることがわかった。アンドロイドに生まれた感情と愛情を表現するために歌を意図的に大きく崩すというのは、これまでの“白石 紬”にはなかった引き出しだったように感じた。EScapeの最後は3人のアンドロイドが寄り添って倒れ伏すイメージ的なビジュアルで終わるのだが、ここで南が倒れ伏す寸前に一瞬溜めて、ことん、と顔を傾けた。この表現が事切れるような、スイッチが切れるような、あるいは眠りに落ちるような。そんな感じで、すごく良い余韻につながっていた。
最後のユニットJelly PoP Beans(中村温姫、戸田めぐみ、斉藤佑圭、渡部恵子)がカバーに選んだのは、ロコのソロ曲「ART NEEDS HEART BEATS」だった。
この曲の意味を考える上で、ゲームでのJelly PoP Beansの結成エピソードについておさらいしていきたい。Jelly PoP Beansは高木社長の丸投げにより、ロコがメンバーの人選からプロデュースしたユニットだ。ベースコンセプトは“レトロポップ”。しかし、大人がちょっと昔のものや駄菓子に感じるノスタルジーを、しっかりしていても子供である桃子はうまく理解できない。“レトロ”の感覚に戸惑っていたとき、ロコがイメージをコンセプトアートに込めて表現することで、桃子とも感覚を共有することができた(歩や昴も、このアートを見るまではレトロポップがよくわかっていなかった節もある)。かつては自分の感覚の世界にいたロコが、自身のアートを仲間とコミュニケートするツールとして活用して、仲間と世界を共有したとても大切なエピソードなのである。そして、桃子や歩、昴から出るアイデアをロコが集め、一緒にブラッシュアップすることで、新しい表現が生まれた。
長く書いてきたが、Jelly PoP Beansの結成エピソードは、「ART NEEDS HEART BEATS」で描かれた、一緒に作る喜びにあふれた「ART NEEDS HEART BEATS」の歌詞とぴったり重なる。「ART NEEDS HEART BEATS」は仲間たちとつながることで変わったロコの歌であると同時に、ロコを変えた仲間たちの歌でもある。この曲を4人で歌うFour Heart Beans Ver.は、鏡の両面を描いた表現なのだと思う。
なんとも粋だったのは、最初に「月曜日のクリームソーダ」のイントロが一瞬流れたあと、そこから収束して自然に「ART NEEDS HEART BEATS」のイントロに入っていったことだ。ふたつの楽曲がもつ物語がつながっていることを、言葉ではなく音楽で表現してみせた。「ART NEEDS HEART BEATS」には“こっそり詰め込んだサプライズ”というフレーズがあるが、中村は二日目公演だけのサプライズをこっそり仕込んでいた。ソロでラップパートを担当する中村は、両脇の3人が見守る中、替え歌で“スバルアユムモモコ”と仲間たちの名前をラップに織りこんだ。これはごく一部のスタッフだけに相談したガチサプライズで、ラップパートが終わったとたんに3人はやりやがったな!とばかりにはしゃぎながら散った。MCが始まるや否や斉藤たちが「やめてくれよー!」「やられたよー!」と叫んでいたのが印象的だった。
「I did+I will」のスクリーンで展開されたのはノスタルジックなフィルム映像風演出だったが、ステージの上から見ると客席は、昨日以上にいろとりどりの光たちで満たされていたそうだ。
初日にも書いた通り、「月曜日のクリームソーダ」は着飾ったダンサーたちのタップダンスやラインダンスを取り入れた壮大なエンターテイメントショーとなった。思えば、これはゲームでこの曲をワールドワイドに展開したい、CDドラマでは世界をイノベーションしたいと意気込んでいたロコの想いに沿ったものなのではないだろうか。言葉がなくても、視覚で誰にでも伝わる境目のないエンターテイメント。
ステージに立つプレイヤーとしてのロコ=中村の見せ場は「魔法かけてあげましょう」のフレーズで中村が浮かべたいたずらっぽい、とびっきりチャーミングな笑顔だったと思う。ここを狙い撃ちしたカメラがスクリーンにきっちり抜かれていたのは、演出チームとも連携が取れていることを感じる。仲間と、裏方たちと一緒に、観客に魔法をかけるエンターテイメントショウ。それがJelly PoP Beansの「月曜日のクリームソーダ」だった。翌日の月曜日、博多の街にはクリームソーダを求めるプロデューサーがあふれたそうだ。
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