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INTERVIEW

2019.06.21

茂木伸太郎総監督と、ユニゾン田淵智也の作り手としての共通点とは? 「Tokyo 7th シスターズ」Le☆S☆Ca 3rdシングル「ミツバチ」発売記念対談

「Tokyo 7th シスターズ」(ナナシス)のユニット・Le☆S☆Caの3rdシングル「ミツバチ」が2019年6月19日に発売される。上杉・ウエバス・キョーコ役井上ほの花、荒木レナ役飯塚麻結、西園ホノカ役植田ひかるの新体制で再出発するLe☆S☆Caに楽曲を提供するのは、以前より「ナナシス」楽曲の素晴らしさを公言してきた田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)だ。

今回は「ナナシス」総監督の茂木伸太郎氏と、田淵智也氏の対談インタビューを行なった。控室で茂木氏と田淵氏のクリエイター同士の会話が盛り上がっていたこともあり、ふたりのフリートークからそのままインタビューに入らせてもらった。

田淵智也 茂木監督はものすごい忙しさですが、それだけやる原動力ってなんなんですか?

茂木伸太郎 うーん。一面の真理になってしまいそうでアレなんですが、恐れずに極論を言うと、自分のためですよね。自分が本当に見たい、聞きたいと思っているものを作ってきたし、イメージと感情を具現化させて、それを創作物に定着させて世に出したいと思ってやってきた。結局、シンプルにそれが好きなんだと思います。だから僕は現在の立場的に、最終的には自分との対話に向かうんですが、現在の田淵さんは外との接点を持った活動をされている印象です。

田淵 そこに関してはUNISON SQUARE GARDENというバンドと、それ以外での活動で変わってくると思います。バンドに関してはバンドマン田淵の見たいものを実現するんだみたいな気持ちがあるんですよ。「こういうのがすごいと思ってる俺たちをすごいって言え!」みたいなのもある。でも声優さんに楽曲を提供する時は、声優さんがポップな歌をうたうという文化がただの音楽ユーザーとして自身好きなんです。そういう曲が好きだし、作業が好きだから、それこそ茂木さんのように寝る間を惜しんで作るのも苦にはならないです。曲がよりよくなって、アニソン声優ソングをちょっとでも好きな人がよりもっと深まって欲しいと思うんです。それはきっと、バンドでの活動のマインドとは違うと思います。

茂木 それはきっと違うんでしょうね。

田淵 考え方は人生の時期によって変わってくるんですけど、今は外に向けてやれることはなんでもやろうと考えてる時期なんです。

茂木 それは認知であったりやりがいであったりの面で、バンドをはじめた頃より今の自分が満たされているから、外に意識が向いているって部分があるのかな。

田淵 それはあるかもしれないですね。バンドという自分の人生で一番大事なものがあって、それをちゃんと回すことができているから。バンドというものを軸において俯瞰で見た時、声優さんに楽曲を提供したり、外の仕事をするのって浮気じゃねーかと思う人もいると思うんですよ。でも、外に曲を提供しても、バンドの曲のクオリティは落ちない、迷惑はかけないという自信はついたんじゃないかと思います。昔はちょっとビビってましたが、少し余裕ができたんだと思います。

──今話に出た創作における承認や余裕という点で、茂木さんは今満たされてますか?

茂木 どうなんでしょうね。現在はあまりそういう承認欲求はないかもしれません。そりゃ褒められたいし、賞賛されたいって強く思ってた時期もあったけど。元々すべての人に受け入れられる創作物なんてないってのが真理だと思ってるんだと思います。それよりももっと具体化された物の方が嬉しいです。ビジネスで成功した、でもいいし、美しいものができた、でもいいし。でもそうだな、先日、自分が数年間表現したかった思いを込めた絵コンテがあったんですが、それを元にした原画が上がってきた時にうぉーって思ったんですよ。自分が思い描いていた、求めていた表情が本当にそこにあって、描き手にこの表情はどこから出てきたの?と聞いたら、コンテだけ見て書いた結果だと言われたんです。他の作品でもあんまり見ない感情だから、資料を見つけられなかったって。それを聞いてぶわーっとなった瞬間は、すごく気持ちよかった。やってきてよかった、伝え続けてきてよかったと思った。結局、達成感中毒なんだと思います。

──自分が表現したいものが一緒に物を作っている人に伝わって、的確にフィードバックされる気持ちよさ。

茂木 そうですね。あとは単純に美しいものを見る、美しいものを聴きたいということですね。もちろん、伝えたいものがお客さんにちゃんと伝わってくれた、共感してもらえたという喜びもあります。それを含めての達成感だと思います。

田淵 そこに関してはあんまり変わらないかもしれないです。一緒にやっている人と喜び合うことも、僕の中では承認であり、達成につながっている気がします。すごい歌詞を書いてくれた、めっちゃいいアレンジをしてくれた、嬉しい!そういう仕事が好きなんです。僕はいい音楽を作ることが目的なんですけど、一緒に働いてる人がつまんないと思っていたら自分のテンションもモチベーションも下がるじゃないですか。

茂木 田淵さんに初めて会った時から、なんかすごくシンパシーがあったんですよ。制作のやり取りをしていて、その感覚はより深まりました。

田淵 (お互い似ているのは)メールが長いところとかね。

茂木 (笑)。それそれ、ふたりしてメールが長いんですよ。

田淵 難しい国語の問題ですね、筆者が言いたいことを抜き出しなさいみたいな(笑)。

茂木 言葉で指定しても、人によって捉え方はまったく変わるということをよくわかっているからこそ、いろんな方向から言葉を尽くすことで、自分の意図が可能な限り100%伝わってほしいと考える人の文章なんだと思います。そういうことを仕事としてやってきた人というか。

田淵 昔から「ナナシス」の音楽が大好きなんです。今回の対談の前に「ナナシス」の音楽を聴き直して、単純に自分と音楽の好みが似ているんだろうなと思いました。世の中であまた楽曲がある中で、このコンテンツの楽曲大体好みだなって思うことってそんなにないと思うんです。音楽が良いか悪いかの基準じゃなくて、俺の好みだという。

──田淵さんと「ナナシス」の出会いの曲ってあるんですか?

田淵 777☆SISTERSの「FUNBARE☆RUNNER」だと思います。

茂木 「ナナシス」がひとつ新しいフェーズに入った頃の曲ですね。

田淵 たぶんそれ以前にも何曲か聴いているんですが、自分は大量のアニソンを(作品の)タイトルを追わずにかけてずーっと聴いているタイプなんですよ。その中にやたらリピートしたい曲があって、それが「FUNBARE☆RUNNER」だったんです。「Tokyo 7th シスターズ」というタイトルを意識していろいろな曲を聴いてみましたが、自分の好みに一番ぴったり来るのはさわやかな曲でした。

茂木 だんだん、僕自身の音楽のカラーが出てきた頃の曲かもしれません。

田淵 最初は違ったんですか?

茂木 最初期はアプリゲームとしての企画を通し、予算を通すために、ボカロ的なサウンドの方向性で行きますよ、というのを前に出していたんです。でもそこにビクターさんというメジャーから声がかかりライブもやれるとなって、もうちょっときちんと自分を出して行こうと思って作ったのが「僕らは青空になる」と「FUNBARE☆RUNNER」だったんです。結果的に初めての生楽器、ロック路線だった気がしますね。

──田淵さんはよく、バンドとしてやるロックと、楽曲提供をする時、あるいはアニソンを聴くときに好むポップという線引きをしている印象で、それは茂木さんの中にある楽曲ジャンルとしての「ロック」「ポップ」とはちょっと違うニュアンスだと思うんです。できれば田淵さんの中での「ポップ」という感覚について伺えますか?

田淵 声優さんが歌う楽曲ならではの良さ、他ではできないもの、という部分をポップと表現していて、かわいい声の人がそういう曲を歌うのが好きなんですよ。だからアニソンはポップであれと思っていて。ロックを前面に出すならLiSAぐらい歌えないと格好つかないし、バンドでロックを歌うなら(UNISON SQUARE GARDENボーカルの)斎藤くんぐらい歌えないと駄目だよ、というこだわりが自分の中にあるんです。正直、バンドのロックな音楽に関しては、僕は斎藤宏介に曲を書いていたらそれで満足なんですよ。声優さんの曲にはそこにはないものを求めていて、違うことをやりたいと思っている。だからもし声優さんにロックな曲を提供するとしたら、また違った形のロックを考えるでしょうね。僕はロックについてはちょっと神経質になっちゃうんです。

──「FUNBARE☆RUNNER」は、田淵さんにはポップな曲として映ったと思うんですが、茂木さんの感覚では「ポップ」ではない。

茂木 個人的にはポップロックですよ。でも「ナナシス」の中では、「FUNBARE☆RUNNER」はロックですね。

──そのあたりの感覚の違いも面白いと思いました。

茂木 まぁ、僕はあまりそのカテゴライズに意味はないと思っていますけど。

田淵 表現はどうあれ、自分は「FUNBARE☆RUNNER」みたいな音が好きなんです。自分にハマったのは「FUNBARE☆RUNNER」でしたけど、初期の曲を聴かせて頂いてもkzさんであったりfu_mouさんであったり、クリエイターを起用して音楽を大事にしているコンテンツなんだなと思いました。そういう作品が好きなんです。その頃ニッポン放送のラジオに出た時に打ち合わせの雑談で、吉田尚記さんに「この曲の歌詞を書いている人(※カナボシ☆ツクモ名義)を知らないから怖い。畑 亜貴の偽名なんじゃないか」って話したんです。

──最大限の好評価じゃないですか。

田淵 全く名前を見たことない作家さんを見ると怖いんですよ。すごくいい楽曲を作る人は、できれば自分より年上であってくれって思う、僻み精神があるんです(笑)。すごいと思った人を調べて年上だったらなんだか安心するんです。でもカナボシ☆ツクモとかSATSUKI-UPDATEって調べても出てこないので一体何者だとなったんです。最近茂木さんと会うまで、茂木さん自身が書いてるって知らなかったので。

茂木 「ナナシス」のスタッフの一人がUNISON SQUARE GARDENと田淵さんのファンで、2018年11月の吉田さんのラジオを聴いていたんです。彼がLINEで田淵さんがこんなことを言ってくれてますよと教えてくれて、素直に嬉しいなと思いました。

──それが田淵さんの「ナナシス」愛が茂木さんまで届いたきっかけだったんですね。

茂木 そうです。その後kz君とご飯を食べる時に、急遽田淵さんたちが合流することになったんですよ。初対面でしたが、僕も当然UNISON SQUARE GARDENを知っているので、“あの”田淵さんが来るんだと。まじかー!って(笑)。

田淵 残念でしたね、やってきたのがただの酔っ払いで(笑)。

茂木 正直最初、(田淵さんはお酒が入ったモードだったので)登場の仕方がロックスターだなと思いました(笑)。後日、素面で打ち合わせしたら礼儀正しい青年で、二度びっくりしたんです。でも初対面の時も、落ち着いて話していると誠実にものづくりをしてきた青年だなと感じて、年も近いし話しやすいなと思いました。その時実は畑 亜貴さんも同席されていたんですが、田淵さんが畑 亜貴さんがいる前で「ひまわりのストーリー」の2番の歌詞をソラで歌いはじめたんですよ。

田淵 この人がすごい詞を書くんだよとね。

茂木 いやいやいや(笑)「猫みたいに真実をくれるからかわりに僕のすべてをあげる」のとこ、田淵さんが「この男(茂木氏)、こんな歌詞書いてんすよ」と畑さんに話していて(笑)。

田淵 酔っ払いだ、最低だ……。

茂木 (笑)。でもね、それでこの人ガチで「ナナシス」の音楽好きでいてくれてるんだなと思いました。普通歌詞なんかソラで言えないですからね。

田淵 あの曲は特別聴いてましたから。

茂木 もしタイミングがあえばお仕事してみたいなぁと思っていたら、田淵さんから話があったらやるのになぁ、と言われて(笑)。

──田淵さんからも希望して。

茂木 やった!と思いました(笑)。

田淵 ただ、その作品が大好きで念願叶って作品に関わるのって危険な賭けだと思うんですよ。

──「ミツバチ」のトレーラーが公開された時の田淵さんの“好きだから実現しました、というのは「良い曲を作る」という結果が伴わなければ本当にみじめなものになってしまうものです。”というコメントにはドキッとさせられました。

田淵 実はその2018年11月に吉田(尚記)さんのラジオで「ナナシス」の音楽の話をしたのも、自分の中ではあまりないことなんです。アニソンの話をする田淵をあまり見せたくはないので。

──それでもラジオで「ナナシス」の話をした理由があれば伺えますか。

田淵 このままじゃアニソンはヤバいって現状認識があるんですね。誰かが進めていかないと、アニソンというものが死んでいくんじゃないかと思ってるんです。いい音楽がたしかにあるのに、それを世に広げる遠心力が足りないならクリエイターの側もこの音楽いいよって発信していくべきなのかなって。そんな時吉田さんから今日は何話してもいいよって言われて、自分の中でも賭けとして「ナナシス」の話をしたんです。

──「ナナシス」の音楽が世の中に届く遠心力になればと。

田淵 これだけ音楽がいいのに、僕のあまり多くない友達からはそれが聞こえてこなかったんですね。だから売れてないのかな、もったいないなと思ったら、幕張イベントホールや日本武道館が埋まっているという。どこにそんなファンがいるんだろうと思って調べてみたら、クラブ界隈での評価の高さとか、ゲームユーザーに届いていることはわかってきた。でもアニソン楽曲派にもそれをもっと広げていくには、誰かがその役割をしなくちゃいけないのかなと思ったんです。去年ぐらいの自分は、表立って、このアニメがいい、アニソンがいいとは言いたくないと思ってたんですけど。価値観が変わったんでしょうね。

茂木 田淵さんは世の中の、世界の流れを感じる力があって、それをどうしたいという意志と、現実を変えるために考える頭脳があって、そういうところが本当に好きだな、すごいクリエイターだなと思います。そのおかげで今僕は田淵さんと仕事ができている。ただ、僕自身がより共感するのは、自分の見たいものを実現する側のバンドマン田淵さんかもしれませんけど(笑)。

田淵 僕はアニソンの現状がまずいと思ってるし、それで今後アニソンクリエイターのモチベーションが下がってしまったら嫌だな、とは思ってるんですけど。でもじゃあこれから今比較的勢いがある(リアルの)アイドルやJPOPのお誘いが来たら積極的にそちらに楽曲を提供しようとは、今はあんまり思わないんですね。自分はアニソンが好きで、バンド以外では作りたいから曲を提供したいと思っているし、今はまだそういうクリエイターが踏ん張ってるんじゃないかと思っています。好きなことをやりたい、やりたいから作るという点で茂木さんに近いんじゃないかと思います。

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