平成時代に最も歌われたアニソンは「残酷な天使のテーゼ」だった。24年前にこの国民的アニソンを歌った高橋洋子が当時の奔流具合とシーンを語る。そして今また世界のファンと”14歳”に向けて新たな「エヴァ」の歌を届ける。EDMやヒューマンビートボックスの採用など、これまでにない「EXTREME」な形のエヴァソングが生まれた理由を聞いた。
──高橋洋子さんが代表曲である「残酷な天使のテーゼ」を歌う事になった経緯については、編曲者である大森俊之さんのご紹介で、当時『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、『エヴァ』)という作品について詳しい内容を知らずに、いわばスタジオミュージシャン的なお仕事として歌われたということを様々な場所でお話されています。そこで今回、改めて伺いたいのですが、『エヴァ』という作品が後に社会現象となるなか、高橋さんはいつ頃から、主題歌アーティストという自覚を持たれたのでしょうか?
高橋洋子 『エヴァ』のアニメは、放送が始まるまでほとんど知らない状態で、視聴者の皆さんと同じくTVで初めて観たんですよ。オープニングで音に映像がピッタリ合っていて、「こんなに素晴らしい仕事をやらせていただいたのか」と感動しました。放送当時「何だかスゴいアニメがある」と話題になり、主題歌を歌っている私のほうにも新聞社からも取材のオファーが来るようになって、社会現象になっているんだなと実感しましたね。そのあたりから、自分自身も歌っていることに対する責任感を覚えて「ただ歌っているだけではいけない」という自覚が出てきました。
──当時は「残酷な天使のテーゼ」のリリースに付随したイベントやライブなどはありましたか?
高橋 いいえ、ありませんでした。『エヴァ』のTV放送が終わる頃くらいにテレビ東京さんの音楽番組に出していただいたことがあったくらいで。歌番組に出るようになったのは終わった後のほうが多いですね。そのあと映画(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』)があったので、どちらかというと「魂のルフラン」のほうをテレビで歌っていた覚えがあります。
──当時は現在ほどアニメの社会的な存在感が大きくなかったですし、ビジネスの定形も確立していなかったわけですね。むしろ、それを押し上げていった作品がまさに『エヴァ』だったわけですが。そんな時代を知っている高橋さんからご覧になって、昨年も出演された“KING SUPER LIVE”のような、東京ドームでアニメソングのフェスが開催されるようになった現在のシーンはどのように見えていますか?
高橋 アニメーションが日本の文化として世界で認知されるようになったこと、それから声優さんが本格的に歌の活動をするようになったのって、やっぱり平成の時代になってからだと思うんです。もちろん、それ以前にもそうした作品や歌を歌われた声優さんもいましたが、ひとつエポックな形になったのは『エヴァ』であり、林原めぐみさん。つまり「スターチャイルド」(当時、林原めぐみや堀江由衣などが所属していたキングレコードのアニメに特化したレーベル)ですね。そうした時代が築かれて今の「アニソン文化」というものが構築されたんだと思います。そこからレーベルは違いますが、同じキングレコードから水樹奈々ちゃんが出てきた。で、今はCDが売れない時代になっているなか、それでもアニソンは売れる。となると、音楽シーンは売れるものについていくことになり、その流れの先に東京ドームという場所でのライブが可能になったんだと思います。
──アニメ音楽ファンという絶対数の広がりも。
高橋 あると思います。一方でこういう言い方もできます。私が子供の頃のアニメの歌は、小さい子からお年寄りまでみんなが歌えるものでした。でも、今売れているアニソンはそうではないものも多いと思います。コアな人たちはいろいろ知っているし歌えるでしょうけれども、そうでない人はたぶん歌えない。ただ、そのコアの人たちがドームのライブを観たいと思えば、そこに集結するだけの力がある。お父さん世代は知らないけれども、そのお子さん世代はおしゃれにアニソンを聴いている。そういう新人類というか、垣根がなくなっているような変化が起きているんだと思います。そうしたなかで、今回の新曲「赤き月」も、“参加型”にしようと思ったんです。私、よく言うんですけど「アニソンは国境を超える最強のパスポート」だと思っていて。コンサートで世界中を回らせていただくと、皆さん日本語で歌ってくださるんです。しかも2番までですよ。これはアニソンだからこそできたことだと思うし、やっぱり『エヴァ』だからこそ、ということもあると思います。そうした素敵な時間を共有させていただくなかで、日本語で歌うことってやっぱり難しいし、「残酷な天使のテーゼ」や「魂のルフラン」は曲自体も難しい。だから、もうちょっと気楽に参加していただけるようなものがあってもいいんじゃないかなと。当時ご覧になっていた方、当時生まれていなかった今の14歳の方、皆さんの背景も含めた状態で一緒になれるのは、“参加型”の歌かなと思ったんです。
──“参加型”というのは?
高橋 コーラスを「ナナナナ~」として、一緒に歌っていただけるようにしていたり、ヒューマンビートボックスを採り入れてたりしています。“始(はじまり)の合図”という歌詞のあとにサイレンみたいな音が鳴るのですが、それは実はヒューマンビートボックスなんです。ライブの際には皆様にも参加していただくことで、初めてこの曲は完成するという作りにしています。これは新しい挑戦でしたね。
──サウンドもEDMを採り入れていますね。
高橋 これも初めての試みです。EDMも定着してきて、今までと違うサウンドでみんながノッて楽しく参加できるものといえばEDMでしょうということで、ここは譲れないという色はキープしつつチャレンジで採り入れました。
──「赤き月」は高橋さんが歌詞を書かれています。大きなテーマとして特に意識されたことは何でしょうか?
高橋 来年の劇場版に向けてスタッフの皆さんが作っているなかで今、歌い手として14歳の子供たちにエールを送れるとしたら、「母性」という眼差しでしか送れないと思いました。『エヴァ』には赤い月が個人的にはイメージとしてありますね。で、これは私の解釈なんですけど、「赤き月」というのは自分の中にある月、つまり自分自身を指すことなんです。みんな答えが違ってみんなの中に「赤き月」というものがある。それに対して私は母性で歌うという体で歌詞を書きました。
──レコーディングはいかがでしたか?
高橋 私は基本的にあまり時間をかけないので、30分くらいですね。たぶん2回くらいしか歌っていないです。むしろ、合唱の部分は本線よりも時間がかかったかな。24年間の全部を詰めこんでみんなで歌おうということでスタッフ全員参加だったのですが、そうすることによってしかできない歌ってあると思うんです。全員コーラスにおいては歌のうまさよりも、楽しさとか一体感とか、みんなで作ったことの方が大事なので。ただ、音源の段階ではこの曲はまだ完成していなくて。ライブの会場で、リスナーのみんなの声が入って初めて完成するんです。
──その光景が目に浮かびます。
高橋 今回のミニアルバムしても昨年出したシングルにしても歌詞を英語翻訳・ローマ字表記対応にしていただいて、世界中の皆さんに歌っていただけるようにしています。機会があれば、ぜひ歌いに来てください。
Interview & Text By 日詰明嘉
●リリース情報
高橋洋子ミニアルバム
『EVANGELION EXTREME』
5月22日発売
品番:KICA-2561
価格:¥2,000+税
<CD>
M1:赤き月
M2:暫し空に祈りて(パチスロ『EVANGELION』テーマソング)
M3:慟哭へのモノローグ(新パチスロ“新世紀エヴァンゲリオン~魂の軌跡~”テーマソング)
M4:残酷な天使のテーゼ 2009VERSION(CR新世紀エヴァンゲリオン ~最後のシ者~ イメージソング)
M5:赤き月 off vocal ver.
©カラー ©カラー/Project Eva.
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