INTERVIEW
2019.04.19
劇場版三部作として今年1月から3月にかけて連続公開された、『PSYCHO-PASS サイコパス』のスピンオフ作品『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』。そこで流れた凛として時雨やEGOISTの楽曲のリミックスを手がけた人物こそ、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之だ。そんな中野による『PSYCHO-PASS』楽曲のリミックス・アルバム『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+Dedicated by MASAYUKI NAKANO』がリリース。『PSYCHO-PASS サイコパス』の音楽世界、そしてそれがどう生まれ変わったのか、話を聞いた。
――今回、劇場三部作『PSYCHO-PASS サイコパス SS』の主題歌も含め、歴代のテーマソングをリミックスされましたが、まず『PSYCHO-PASS サイコパス』という作品についてはどんな印象をお持ちですか?
中野雅之 人気が出る要因というのはさまざまあると思いますが、まず世界観が特殊な舞台設定だと思いました。人間の心理状態が数値化される社会のなかで、どう生き方を手に入れていくかという話を面白く観させていただきました。それもあって今回関わることができて光栄だと感じました。
――オファーの内容はどういったものでしたか?
中野 オファーとしては単純にリミックスを、ということでしたが、作品から汲みとれることは多かったというか。すでにアニメにもアーティストにも楽曲にも大きいファンがベースについているじゃないですか。そのスピンオフを公開するにあたって、そのファンの期待に応えてそれをさらに超えていかなくてはならないとういミッションを感じたんですね。オファーの際に具体的には何も言われませんでしたけど、そういう意味では通常のリミックスのやり方とは変えていかなくてはならない。じゃないとファンをがっかりさせてしまうんじゃないかなと。
――楽曲の背後にあるアニメ作品、そしてそれを支持するムーブメントも意識したリミックスになっていくと。
中野 そうですね。その都度その都度何を目的にやるのか、なんで受けるのかというのは考えながらやってきていますけど、そのなかで今回は『PSYCHO-PASS サイコパス』の楽曲全曲でしたし、劇中で使われる曲に関しては89秒という縛りもあったので、そこは頭フル回転で、より曲が輝きを放つように。オリジナル楽曲はアニメとの親和性も高かったので、それをより押し広げていってより感動するポイントというものをたくさん作っていければなと思いました。
――アルバム収録曲のうち、「abnormalize」「名前のない怪物」「All Alone With You」「Fallen」の4曲は『PSYCHO-PASS サイコパス SS』三部作で使用されましたが、そこに劇場サイズの制限はあったんですね?
中野 劇中で使用するバージョンに関しては、この尺で作ってくださいというのはありました。89秒というのはTV放送のオープニング・エンディングの規定のフォーマットですよね。実際89秒がいつから始まったのか知らないんですけど、おそらく『ど根性ガエル』も89秒なんではないかと思います(笑)。ただ今回は劇場アニメなので本来はそういう縛りを作らなくてもできるはずなのに、制作サイドが89秒と指定したのはそこにすごく強い思い入れがあると思うんです。おそらくそこは、アニメ独自の培われてきた文化を劇場でもやりというのがあったんではないかと思うんですよね。それもひとつ音楽を作るうえでは縛りになっていくので、そういう縛りというものは実際多かったわけです。でもそういう縛りも楽しみつつ、作業は充実した感じでした。
――ではここからは中野さんがリミックスされた収録楽曲についてお伺いします。まずは凛として時雨の楽曲についてですが、以前から彼らと交流はありましたか?
中野 凛として時雨はデビューしてそんなに経たないうちに会っていて、ライブも観に行ったし、10年前ぐらいから僕のスタジオに来るようになったり、という間柄です。北島(TK)くんも自分の手で録音とミックスをやる人なので、常日頃僕と情報交換もしたりします。だからこのリミックスやっているときも彼にはラフミックスを聴いてもらっています。
――おお、感想はいかがでしたか?
中野 喜んでくれましたよ(笑)。
――そんな時雨が手がけた、TVアニメ第一期OPテーマ「abnormalize」ですが、この曲をリミックスするにあたって意識されたことはなんですか?
中野 原曲は性急感というか、スピード感とか北島くん(TK)のボーカルのピーク感というのが魅力だと思います。それがオリジナルだとしたら、そこに広がりと重みとを加えていって世界観を押し広げていくというのを意識しました。彼のボーカルがひとたび鳴れば出来上がってしまう部分があるので、それに対して今までの楽曲に、足りないわけじゃないけどなかった面をつけることで、歌がより叙情的に聞こえるようになったり、そういう方向でアプローチしてみようかなと思いました。
――サウンドもさることながら、エディットされたボーカルの鳴りや置き方というのが非常にフレッシュで心地良いと感じました。
中野 そうですね。ボーカルのピーク感が気持ち良く聴こえるようにというのは心がけました。例えば少し間違えると「ちょっとうるさいな」という方向に行っちゃうので、音楽的にはホットだけど聴きやすさとか楽しさという、一見相反するようなものをバランスをとって……っていうことを気をつけました。ボーカルが自然に聴こえるかもしれないけどかなりいろいろやっています、リミックスに合わせて。
――ピーキーだけど聞きやすいバランスのボーカルというのは、本作の時雨のリミックスで印象的な点ですよね。TVアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス 2』OPテーマの「Enigmatic Feeling」はいかがでしたか?
中野 前の2曲ではビート感を強く意識して作った曲が多かったんですが、今回どれか一曲はビートレスにしたかったんですね。それでこの曲がピタッとはまったというか。今回こうやってビートレスで作ってみると、意外なところで叙情的なものになるなと思いましたね。
――続いて、劇場版主題歌の「who what who what」はいかがでしたか?
中野 もちろんアニメの世界観と、原曲の世界観と北島くんのボーカルの特徴を活かすこと。劇場版では使われていない楽曲ですけど、そこは意識して、その作品のトータリティがちゃんと出るように思ってやりました。それ以外は、映像に対して作らなくてよかったので自由にやらせてもらいましたね。これだったら北島くんも好きなんじゃないかなって軽く意識はしましたけど、自然にああいうものが出たのは、自分が今まで培ってきたもの、音楽性やテクニックとか自分のキャリアのなかから自然に出てきたものなのかなって思います。
――個人的にはアウトロの、ビートが消えてただシンセが荘厳と鳴る余韻が特にカッコいいなと。
中野 あ、よかったです。
――ここからはEGOISTの楽曲のリミックスについてお伺いします。ちなみにryoさんとも交流はあるんですか?
中野 ryoくんはBOOM BOOM SATELLITESのものすごいファンらしいんです、本当かどうかわからないんですけど(笑)。10年以上前、彼がニコ動からメジャーのレコード会社に来たばっかりの頃に対談をやったんですけど、それ以来年に1回2回か会ってご飯を食べる仲ですね。
――アニメ音楽側から見て、中野さんがryoさんの音楽をどう思われているのかはすごく気になりますね。
中野 彼が作る音楽に関して、そんなに僕の作る音楽から影響を受けたのかなって思うんですけど、ものすごい熱量で音楽を作っていることは知っています。以前もryoくんからご指名を受けて『ギルティ・クラウン』で1曲リミックスをやっているんですけど、そのときすでに感触は掴んでいました。彼はボーカルのディレクションに厳しい子で、徹底的にディレクションするんですよね。表現は息づかいひとつからダメ出ししているだろうなと。歌い出しの前のブレスひとつも音楽表現として捉えている。なので、ボーカルの子は絶対大変だろうなって思うんですけど(笑)、そういうプロセスがあるので、僕がリミックス素材としてもらうボーカルテイクは非常に完成度の高い、最高の素材が届いているという状態なんです。今回もそのボーカルをどう料理するかというところで、とても楽しい作業ではありました。
――ではまずTVアニメ第一期前半EDテーマの「名前のない怪物」のリミックスはいかがでしたか?
中野 楽しかったですよ。どこかダークネスなものがある、ゴスっぽいところがryoくんのテイストというか。そのゴスっぽさを生かしつつも、近未来的な感じで、僕の好きなテイストにちょっと振ってやってみました。そんなに大変じゃなく、いいボーカルテイクをもらったことで、こっちのイマジネーションがどんどん膨らでいったのが楽しかったですね。
――序盤の歌い出しから2コーラス目ぐらいまでは原曲に近い印象もあり、そこから中野さんのカラーがどんどん出てくるという、何かryoさんと中野さんの感性がクロスするような感触でした。
中野 ああ、そうですね。そう聴こえるのは、原曲にジャングルの要素があってそんなに極端にテンポも変えなかったからかもしれないですね。なので後半の展開とかは、独特なものを注入してみました。
――続いては第一期後半のEDテーマの「All Alone With You」。
中野 この曲はアニメのエンディングで聴いたときに、歌い出しでホッとしてサビでつかむという、アニメにものすごく貢献した曲なんじゃないかなと思いました。その役割を今回ぼくのリミックスでも担わなくちゃいけないなというのはありましたね。バラードで、エンディングで心をつかむというは僕も必ず実現しなくちゃいけないなと思いつつ、なのでサウンドメイクをしながらもやっぱり歌に頼って作っているところはありましたね。で、世界観をさらに原曲から押し広げていくのに、少しアーバンなハーモニーとか、フューチャーリスティックなサウンドスケープとかを加えて、未来のソウル・ミュージックみたいに聴こえるように作ってみたつもりです。
――そしてTVアニメ第二期EDテーマの「Fallen」ですが、ハードコアな原曲とはまた異なるアプローチとなりました。
中野 これは結構ジャズっぽいというか、フューチャー・ジャズみたいな感覚で作りましたね。もしかしたらこれは映像制作サイドからダメが出るかもなって思って提出した曲です。コード感やハーモニーは原曲とかけ離れているところがあって、音楽的には少しIQが高めと自分では感じながら作っていて、ちょっとしたチャレンジかなと。多くの『PSYCHO-PASS サイコパス』のファンにとってはちょっと小難しく聴こえないかなっていう懸念がありつつ、ちょっとこれで提出してみたいなっていう冒険があったんです。そしたら意外なことに一発でOKなので、「あ、これ大丈夫なんだ」って(笑)。
――なるほど(笑)。ちなみに今回のようにそうしたトライをしてみて、意外とOKがもらえるような機会はよくあるんですか?
中野 いや、ないですよ(笑)。やっぱりダメだったかっていうのがほとんどです。ちょっとジャブ打つ感じで提出してダメで、「あ、やっぱりそうですよね」って(笑)。
――となると今回のケースは本当に珍しいんですね。
中野 だから『PSYCHO-PASS サイコパス』は懐が広いなって。ここまで自由にやらせてくれるんだっていう印象は受けました。
――このリミックスがあるからでもありますが、EGOISTの3曲は特にアプローチの多彩さが際立ちますね。
中野 EGOISTのリミックスは軽いプレッシャーはあります。これを言うとryoくんは嫌がるんですけど、彼はアニメ職人だなと僕は思っているんですね。作品のストーリーを汲み取って、歌詞やサウンドの世界をちゃんと作って、的確なテンションや感動を必ず起こしてくれる。そういう曲をたくさん作ってきたから彼は人気があるんだし、「それのリミックスかあ……」っていうプレッシャーみたいなものはありましたね。時雨はロック・シーンに生きていて、そのなかで時々すごく印象的な楽曲をアニメや映画で残している。生き方としては以前の僕とそれほど変わらないところでやっていますけど、ryoくんはまったく違う生き物だから(笑)。
――そしてもう一曲、Nothing’s Carved In StoneによるTVアニメ第一期後半のOPテーマ「Out of Control」についても。こちらは曲中の印象的なギター・フレーズを冒頭に持っていきましたね。
中野 そこでハッとさせられることがあるかなと。結構アグレッシブなリミックスなので、あの曲だよということを最初に印象づけておいたほうが世界観にぐっと引き込めるかなと思いました。
――いずれも濃厚なリミックスが揃ったアルバムになりましたが、原曲やアニメが好きな人たちで、クラブ・カルチャーやリミックス文化に触れてこなかった人たちにとっては、今回こうした体験は実にフレッシュになるんじゃないかと思います。
中野 そうだったらいいなと思います。総スカン食らったらどうしようと思っていたところです。「これは俺が知っている『abnormalize』じゃない!」って言われたらやばいなあって(笑)。
――そうした懸念は中野さんでも感じていたわけですか(笑)。
中野 これは叩かれるために引き受けるんだって思っていましたよ(笑)。まあ冗談ですが、ハードルはすごく高いなって思っていたのは本当です。
――こうしたリミックスから中野さんのそのほかのワークスにも耳を傾けてもらいたいですね。そして、これから先もアニメ作品での中野さんの音楽が聴ける機会があるといいなと思います。
中野 もちろん。今後もいい作品があればぜひ頑張りたいですね。アニメってそう思わせてくれる、日本のコンテンツ独自の文化なので、何か貢献していきたいと思います。やっぱり音楽で作品の印象ってガラッと変わるし、自分の力を使って作品にプラスな効果が出るようであれば、積極的に関わっていきたいと考えています。
Interview & Text By 澄川龍一
●リリース情報
「PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+ Dedicated by MASAYUKI NAKANO」
発売中
【初回生産限定盤(CD+Blu-ray)】
品番:SRCL-11073~11074
価格:¥5,184(税込)
※描き下ろしイラスト三方背ジャケット!
本編映像を使用した、Special Music Video3本を含む20分を超える映像を収録!
ティザービジュアルの原画を使用した特製ポストカード、場面写真などで構成されたピクチャーブックレット付!
【通常盤(CDのみ)】
品番:SRCL-11075
価格:¥3,132(税込)
※初回仕様限定盤は描き下ろしイラストの原画を使用したワイドキャップステッカー付
<CD>
All Tracks Remixed by Masayuki Nakano (BOOM BOOM SATELLITES)
01 abnormalize/凛として時雨-Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1~3の主題歌)
02 名前のない怪物/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__エンディング・テーマ)
03 All Alone With You/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian エンディング・テーマ)
04 Who What Who What/凛として時雨-Remixed by Masayuki Nakano
05 Fallen/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano(PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰 エンディング・テーマ)
06 Out of Control/Nothing’s Carved In Stone-Remixed by Masayuki Nakano
07 Enigmatic Feeling/凛として時雨-Remixed by Masayuki Nakano Extra track PSYCHO-PASS SS ver.
08 abnormalize/凛として時雨-Remixed by Masayuki Nakano PSYCHO-PASS SS OP ver.
09 Fallen/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano PSYCHO-PASS SS Case.1 ED ver.
10 All Alone With You/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano PSYCHO-PASS SS Case.2 ED ver.
11 名前のない怪物/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano PSYCHO-PASS SS Case.3 ED ver.
<Blu-ray>
「PSYCHO-PASS Sinners of the System Special Music Video チャプタ‐1~3」
01 Fallen/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano
02 All Alone With You/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano
03 名前のない怪物/EGOIST-Remixed by Masayuki Nakano
04「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰 」オープニングノンクレジット
05「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian」オープニングノンクレジット
06「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__」オープニングノンクレジット
07「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System」 予告編
08「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰 」スポット
09「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian」スポット
10「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__」予告編
©サイコパス製作委員会
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