今年、アーティスト活動15週年目へ突入する牧野由依。声優・歌手・ピアニストとして表現を続けてきた彼女の歩みをギュッと凝縮した2枚組のセレクトアルバム『UP!!!!』が完成した。
Disc-1は、ライブコンサートでファン達と育て上げてきた楽曲を、彼女のライブコンサートをサポートするミュージシャンたちと共に再現した新録音源も含めて収録。そしてDisc-2は、牧野由依がピアニストとしてもレコーディングに参加した楽曲で構成されている本作。レーベルの垣根を超えて集めたこの作品に、彼女はどんな想いを詰め込んだのか。
――過去の楽曲の新録音や、既発の曲たちを集めたセレクトアルバム『UP!!!!』。まずは、楽曲を選んだ基準から教えてください。
牧野由依 今回、間もなく迎えるデビュー15周年へ向けて、牧野由依の歩みを投影したアルバムを作るにあたり、「何を基準にしようか」という構想を練っていたときに浮かんだアイデアのひとつが、ライブコンサートを通してファンの皆さんからいただいていた声を元に、今の牧野由依の形にアップデートした曲たちを収録しようということでした。私自身が、以前からライブコンサートを通して、過去の曲たちをそのときの自分に似合うアレンジで歌ってきたり、その曲を聴いたファンの人たちからの感想や声などをとおして、さらにブラッシュアップしたりし続けてきました。そうやって、ファンの人たちと一緒に成長してきた楽曲たちを、今のスタイルで、それこそ、“アップデートした”バージョンとして収録したいなと思ったんです。中には、Disc-1の1曲目を飾った「Brand-new Sky〔UPDATE〕」のように、バージョンアップした楽曲に対する支持が高くなったことで、「そのバージョンで音源化してほしい」という声までいただく曲もありましたから。
――ファンの方々も、ライブコンサートで慣れ親しんだスタイルの楽曲を音源としてもほしいと思い始めていたわけですね。
牧野 そういう声も出ていました。ただし、オリジナル曲への思い入れを持っている方々もたくさんいるので、一度音源としてリリースした楽曲にあらたなアレンジを施して、それをリリースするのはとても勇気のいることで。私の中では、そのタイミングを見計らっていたこともあって、今回、15周年へ向けてというタイミングでのリリースなら、ここまでの14年間の歩みの軌跡をまとめつつ、新しい気持ちで15周年へ歩みを進めるうえでもいちばん良いのではと思い、Disc-1に多く収録した「〔UPDATE〕バージョン」に関しては、そういう想いを持って入れています。一方、Disc-2には、私がピアノ演奏をした曲たちを、こちらは14年間の歩みの中からセレクトして収録しています。
――アーティスト活動をしていくなかで、「周年」というのは、いろんなことを振り返ることができたり、何かを仕掛けたりできる良いタイミングになるということでしょうか?
牧野 ひとつのきっかけにはなるのかもしれません。そのタイミングで、「ありがとう」代わりの記念としてベスト盤を発売することも素敵だと思いますけど、私に関しては、記念のタイミングで振り返るのではなく、その記念となるタイミングをきっかけに新しいスタートを切りたいという意思を持っていました。だから『UP!!!!』に関しても、ベスト盤ではなくセレクトアルバムと名付けましたし、過去の曲たちをそのまま入れるのみならず、リアレンジした曲たちも多く収録したんです。
――たまたま15周年を迎えようとはしていますが、あくまでも現在進行形で進み続けているわけですからね。
牧野 そうなんです。だから今回の『UP!!!!』というアルバムに対しても、私は「“これまで”と“これから”を繋ぐ1枚」とメッセージをしましたし、その位置づけを持って作りました。
――〔UPDATE〕ナンバーの制作に関して心がけたことも、ぜひ教えてください。
牧野 今回、〔UPDATE〕した楽曲のアレンジを手がけてくださったのが、わたしの音楽を1stアルバムの頃からずっと聴いてくださっているMEGさん。当時にしか出せない楽曲の良さなどもすべて知り尽くしている方なので、あらたなアレンジを行ううえでもとても安心感を覚えたと言いますか。すごく信頼を寄せながら一緒に取り組むことができました。もちろん、私自身のこだわりもお伝えしながら、そのうえで、原曲の良さを守りつつ「こういう冒険はどう?」と、MEGさんはいろいろ提案もしてくださいました。私自身、好きなアーティストのリアレンジされた楽曲を聴きながら、「あの部分が好きだったのに変わってしまった」という寂しい経験をしたことがあるので、牧野由依の音楽を好きで聴き続けてくださる方々にそういう想いをさせたくない一心で“UPDATE”を心がけました。正直、そこはすごくデリケートな部分なので、聴いた皆さんがそう感じない形に昇華できていたらなと願っています。
――そこのさじ加減はとても難しいですよね。
牧野 難しいですね。歌い方を含め、10代の頃と今とでは変わっていくのは当たり前のこと。だからと言って、曲によっては失くしちゃいけない要素があるので、「どこを活かして、どこを変えていくか」という部分は、MEGさんとかなり話し合いました。
――弦カルテットを加えたアレンジは、原曲へより深みや壮大さを描き加えたなと感じました。中でも「synchronicity〔UPDATE〕」は、圧巻なパワーを持っていますね。
牧野 これまで「synchronicity」をライブで演奏するときにも、ヴァイオリンとチェロを加えていましたけど、よりエッジの効いた楽曲へ仕上げていただけたなと思っています。この曲のアレンジをとおして、ストリングスは演奏に乗っかるものではなく、楽曲そのものを引っ張っていく力を持った楽器なんだということも感じていただけると思います。弦カルテットを用いた「夏休みの宿題〔UPDATE〕」では、元々ポップな曲調なのにめちゃめちゃ歌詞が切ない、どこかノスタルジックな楽曲だったんですけど、ギター始まりだったイントロを弦カル始まりにすることによって、そのノスタルジーさに、より深みを増すことができたと思います。結果、ポップな楽曲を聴いているはずなのに、「なんだろう、このザワッとした心に陰りのある感覚は……」という印象を与えられたなと思っています。
――個人的には、明るく弾け飛んだ「ワールドツアー〔UPDATE〕」も好きです。
牧野 「ワールドツアー〔UPDATE〕」は、ライブで皆さんと一緒に盛り上がれる楽曲ですからね。Disc-1に関しては、ライブのセットリストを作る感覚で流れを組んだので、1本のライブを観ていただくような気持ちになってもらえたらうれしいです。
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