今年でメジャーデビュー5周年を迎えたfhánaが、それを記念したキャリア初のベストアルバム『STORIES』をリリースした。シングル曲ではタイアップ作品の世界観に寄り添いながら自分たちにしか生み出しえない楽曲を追求しつつ、それと並行してバンドとしてのストーリーも紡ぎ上げてきた彼ら。今回のベスト盤はそれら今までの軌跡はもちろん、towanaが作詞した書き下ろしの新曲「STORIES」や、初回限定盤のみの豪華特典などを通じて、バンドの「物語」を様々な角度から楽しむことができる作品になっている。つねに未来を見据えて活動する彼らが、本作で表現したかったバンドとしてのスタンスについて、リーダーの佐藤純一に語ってもらった。
――今回のベストアルバム『STORIES』はバンドのメジャーデビュー5周年を記念した作品です。佐藤さんは5周年を迎えた今どんなお気持ちですか?
佐藤純一 特に感慨深いことはなくて、気づいたら5周年だった感じですね。ベスト盤を出すことも自分たちから出たアイデアではなくて、言われて「なるほど、ベストのタイミングか」と思ったぐらいなんで(笑)。ただ、5周年というタイミングについては『World Atlas』(2018年3月リリースの3rdアルバム)を作ってるときから何となく意識はしてて、タイアップのあるなしに関わらず5周年を記念した新曲を作ろうとは考えてたんです。なおかつその曲の歌詞はtowanaに書いてもらおうと思ってたところに、ちょうどベスト盤の話が持ち上がってきたので、ならそこに収録するのがいちばんいい形になるかなと思って。
――そうだったんですね。
佐藤 それと今回のベストの初回限定盤には、いろんなライブ音源をまとめた「LIVE BEST」のCDと、3rdアルバムのツアーファイナルの映像を完全収録したBlu-rayが付くんです。ライブ盤については特にtowanaが前から出したいと強く希望してたことで、fhánaは今までアルバムの特典でライブ映像を付けたことはあるんですけど、それだと外で楽しむには手間がかかるじゃないですか。でも僕らとしては普通に外出先でもライブ音源を聴いてもらいたいという思いがあったので、今回のベスト盤に付けることにして。ライブ映像に関しては、この間のツアーファイナルが僕の中ですごく手ごたえがあったのでパッケージとしてフルで残したい気持ちがあったんです。ただ、単体のライブ映像商品を出すのはなかなか難しいこともあるので、ベスト盤にかこつけて特典にしてしまおうと(笑)。なので、今回はベスト盤という側面もありつつ、5周年の新曲にいろいろ付けた超豪華シングルでもあるんです。
――なるほど。そのとらえ方は面白いですね。『STORIES』というタイトルにはどんな意味を込めたのですか?
佐藤 なぜ感慨深いものがないかと言うと、つまり僕らは過去を振り返るよりは未来のことばかり考えてるんですね。ベスト盤は基本的に過去の曲をまとめたものですけど、僕はただ過去を振り返るだけのものではなくて、ちゃんと未来のことも入れた、キチンと意味のある作品にしたかったんです。だからタイトルも、単に「fhána BEST」みたいな感じではなく、ちゃんと意味を持たせたかったのでギリギリまで考えて。それで『STORIES』というタイトルを思いついたときに、すべてがちゃんと意味を持って繋がりを得たと思ったんです。fhánaは物語性を重視した曲作りをしてきたし、アニメの主題歌の場合もそれぞれの作品の物語があって、バンド自体にもストーリーがあって、さらにこのベスト盤を聴いてくれるリスナー一人ひとりにそれぞれのストーリーがある。そういうたくさんのストーリーが交差するのがこのベスト盤で、「物語たち」だからこそ『STORIES』というタイトルにしました。これはベスト盤のジャケットを撮影する2日前ぐらいに思いついたことで、その時に新曲のタイトルも「STORIES」にしようと思ったんです。
――ベスト盤のコンセプトと共に新曲で描くべきテーマが決まったわけですね。
佐藤 なのでtowanaには今僕が話したような、fhánaの今までの物語とこれからの物語を含めいろんな物語たちが集まっていて、なおかつ「物語はこれからも続いていくよ」という内容の歌詞をお願いして書いてもらいました。それで上がってきたものを見たらすごくいい歌詞で、一発OKでしたね。
――towanaさんは『World Atlas』収録の「ユーレカ」で初めてfhánaの曲の作詞をしたので、これが2曲目になります。
佐藤 「ユーレカ」は、元々5周年の新曲で歌詞を書いてもらいたい気持ちがあったので、そのお試しも兼ねて書いてもらったところがあるんです。そのときは多少ディレクションしましたが、基本的には良い歌詞が上がってきたので「やるじゃん」と思ってたんですけど、今回の「STORIES」に関しては、fhánaの今までの歴史を総ざらいしつつも、大げさな感じじゃなくて、すごくさらっとした軽やかな歌詞だったのでいいなあと思って。
――それこそサビの“言の葉を光らせて”というフレーズは、バンドの最初期の楽曲「kotonoha breakdown」を思わせますし。
佐藤 そうなんですよ。今までのfhánaを連想させるような言葉が入ったりしてて。ちゃんとコンセプトを汲み取りつつも、ぬるい瞬間がいっさいない、全部が必然で繋がっている言葉たちみたいな感じがしますよね。towanaにも「めちゃめちゃいいね、ゾクゾクする」って伝えたら、「ほんとですか?」って機嫌良さそうでした(笑)。
――音的には近年の海外のポップスのトレンドを感じさせる、スケール感のあるメロディと空間的な広がりのあるサウンドがマッチした楽曲に仕上がっていますが、どんなイメージで作られたのでしょうか?
佐藤 歌詞はさらっとした感じですけど、曲も5周年だからといって壮大なで大団円みたいな感じにはしたくなくて、メロディと歌曲の構成もすごくシンプルにしました。結果的に他の収録曲はアニメ主題歌ばかりで、おのずと情報密度が高い曲がたくさん集まっているから、それに対して新曲はすごくシンプルにしてコントラストを付けたイメージですね。それと同時にライブで定番曲になりうるようにしたかったし、サウンド面でもチェインスモーカーズみたいに、内省的でアンビエント感のある音像のEDMとか、そこにThe 1975みたいなバンドっぽい音が混ざってる雰囲気っていう、個人的に最近好きな音の質感を自然に入れたらこうなりました。
――歌詞の最後は“続いていくストーリー 僕らのストーリー”という言葉で締めくくられますが、この楽曲がfhánaの今後の方向性を示している?
佐藤 方向性とまではいかないけど、なにか可能性というか、わくわくする感じがあったので、まだまだ面白いことができそうだなと改めて思った曲ですね。
――<Disc-1>の「SINGLE BEST」は文字通りこれまでのシングル表題曲全13曲と新曲「STORIES」で構成されたベスト的な選曲ですが、初回限定盤のみ付属の<Disc-2>「LIVE BEST」はシングル以外の曲もたくさん収録してますね。
佐藤 そうですね。ライブの定番も入ってるし、fhánaの歴史において重要な曲をセレクトした感じですね。ライブ音源として収録してますけど、こっちは裏ベストですよね。
――たしかに「kotonoha breakdown」「街は奏でる」「光舞う冬の日に」といった、メジャーデビュー前の自主製作盤『New World Line』からの楽曲もセレクトされてて。
佐藤 その最たるものが10曲目の「Cipher」で、これは僕がfhánaを結成する少し前にボーカロイドで作った曲のカバーなんですよね。僕が作ったボカロ曲はこれしかないんですけど、fhánaを結成する前の2009年とか2010年頃にボカロが面白いなと思っていて、当時ボカロのシーンで活動していたyuxuki君と知り合ったんです。その時にボーカロイドというシーンでも文化でもある存在にいろいろ考えさせられて作ったのが「Cipher」で、しかもこの曲で初めて林(英樹)君に歌詞をお願いしたんです(林英樹はfhánaのほとんどの楽曲の作詞を担当している)。林君とは元々知り合いで、別のバンドで活動してたときから才能ある人だと思ってたのでお願いしてみたら、すごくいい歌詞が上がってきて感動して。その少しあとにfhánaを結成して、その流れで林君に歌詞をお願いするようになったので、fhána結成前日譚としてはすごく重要な曲なんですよね。だから「LIVE BEST」のほうは歴史性を感じさせるセレクトになってます。
――そういう意味では、初回限定盤はfhána自体のストーリーもいろんなレイヤーで楽しめる作品にもなっているわけですね。そんな本作と5周年イヤーを経て、バンドとしては今後どのような展望を抱いてますか?
佐藤 今は広げていくターンが来てると思うんです。fhánaはメジャーデビュー3年目くらいから、アニソンというフィールドにおいては結構認知されてると思っていて、それが「青空のラプソディ」でそのさらにひとつ外側に広がりを持てたと思うんです。なので今後は海外もそうですし、アニソンという括りだけじゃなくて、もっと広い意味で音楽好きに届くようどんどん広げていきたくて。この夏は“ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018”に出たし、年末には“COUNTDOWN JAPAN 18/19”への出演も決まってるので、「アニメのことはよくわからないけどfhánaの音楽は好き」という人がもっと増えたらいいなと思うし、そこからfhánaきっかけでアニメに触れてもらったり、逆にアニソンからfhánaに入った人がアニメ以外の音楽にも興味を持ってくれたらいいなとも思うし。だけどそれも別に無理強いするわけではなくて、「アニソン以外も聴きなさい」とか「洋楽も聴かなきゃ」という気持ちはまったくないんですけど、知らないジャンルのことを知らないという理由だけで最初から排除とか拒絶はしないでほしいなと思ってて。そこから興味をもって掘っていくかは人それぞれだと思うんですけど、僕らはそのために扉は開けて風通しを良くしておくので、皆さんご自由に、ということができたらいいなと思ってます。
Interview & Text By 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
fhána 5th Anniversary BEST ALBUM
『STORIES』
12月12日発売
【初回限定盤(2CD+1BD)】
品番:LACA-35765
価格:¥5,200+税
【通常盤(1CD)】
品番:LACA-15765
価格:¥3,000+税
<CD>
1.ケセラセラ(TVアニメ『有頂天家族』EDテーマ)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
2.tiny lamp(TVアニメ『ぎんぎつね』OPテーマ)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
3.divine intervention(TVアニメ『ウィッチクラフトワークス』OPテーマ)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
4.いつかの、いくつかのきみとのせかい(TVアニメ『僕らはみんな河合荘』OPテーマ)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
5.星屑のインターリュード(TVアニメ『天体のメソッド』ED主題歌)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
6.ワンダーステラ(TVアニメ『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ ヘルツ!』OP主題歌
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
7.コメットルシファー ~The Seed and the Sower~(TVアニメ『コメット・ルシファー』OP主題歌)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
8.虹を編めたら(TVアニメ『ハルチカ〜ハルタとチカは青春する〜』OP主題歌)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
9.calling(TVアニメ『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』ED主題歌)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
10.青空のラプソディ(TVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』OP主題歌)
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
11.ムーンリバー(TVアニメ『有頂天家族2』ED主題歌)
作詞:林 英樹 作曲:yuxuki waga 編曲:fhána
12.Hello! My World!!(TVアニメ『ナイツ&マジック』OP主題歌)
作詞:林英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána、A-bee
13.わたしのための物語 ~My Uncompleted Story~(TVアニメ『メルヘン・メドヘン』OP主題歌)
作詞:林英樹・佐藤純一 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
14.STORIES ※書き下ろし新曲
作詞:towana 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
<CD DISC2>(※初回限定盤のみ)
LIVE BEST CD
1. 星屑のインターリュード(fhána What a Wonderful World Line Tour 2016より)
2. Relief(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
3. What a Wonderful World Line(fhána What a Wonderful World Line Tour 2016より)
4. lyrical sentence(fhána 1st Live Tour「Outside of Melancholy Show 2015」より)
5. little secret magic(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
6. 青空のラプソディ(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
7. 街は奏でる(fhána 1st Live Tour 「Outside of Melancholy Show 2015」より)
8. 光舞う冬の日に(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
9. kotonoha breakdown(深窓音楽演奏会 其ノ壱より)
10. Cipher(fhána What a Wonderful World Line Tour 2016より)
11. The Color to Gray World(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
12. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
13. white light(fhána 1st Live Tour「Outside of Melancholy Show 2015」より)
<Blu-ray>
fhána World Atlas Tour 2018 at Zepp DiverCity(TOKYO)
kotonoha breakdown
わたしのための物語 ~My Uncompleted Story~
star chart
Rebuilt world
ムーンリバー
Hello!My World!!
snow scene
ユーレカ
reaching for the cities
アネモネの花
現在地
Do you realize?
光舞う冬の日に
World Atlas
青空のラプソディ
星屑のインターリュード
Relief
calling
ーENCORE
white light
虹を編めたら
It’s a Popular Song
ーW.ENCORE
今夜はブギー・バック(Cover)
Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~
●ライブ情報
fhána 5th Anniversary SPECIAL LIVE
2019年1月27日(日) 開場 17:00/開演 18:00
会場:中野サンプラザホール
チケット料金:全席指定 7,800円(税込)
※3歳以上有料
※転売禁止 ※オークションへの出品禁止 ※転売チケット入場不可
公演に関するお問合せ:インフォメーションダイヤル 03-5793-8878(平日13:00~18:00)
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