バンド結成10周年を経てあらたなフェーズに突入した岸田教団&THE明星ロケッツ。そんななかリリースされたニュー・アルバム『REBOOT』は、その名の通りバンドを一度リブートし、抜本的な改革を断行して生まれた意欲作……いや、まごうことなきロック・ミュージックの大傑作だ。バンドの在り方から見つめ直して生まれた本作から見る岸田教団のネクスト・ステージという現在地を、岸田&ichigoのふたりに迫ったロング・インタビュー。
――バンド結成10周年を経た2018年ですが、活動としては6月に“リスアニ!PARKVol.02”の出演もありましたね。
ichigo まさかのトップバッター。
岸田 気持ち的にはラクでした(笑)。最初だと思えるとなんでもできるしね!
――こうしたフェスで岸田教団がトップバッターというのは珍しいですよね。
岸田 なかなか任されない。リスキーだと思われがちですからね、俺たちに任せるのは(笑)。
ichigo 終わりよければすべてよしというのもあるので、続くアーティストの方々にあとのことは任せて大丈夫だろうと思っていました!
――それだけに攻めたセットリストにもなりましたしね。
ichigo 攻め攻めにしました。
岸田 リスアニ!さんのイベントはまた出たいですね。“リスアニ!LIVE”へもまたいつか!
ichigo 出たいねー!
岸田 然るべきことはちゃんとやります!(笑)。
――書いておきます(笑)。さて、そんななか制作された11年目の岸田教団のアルバム『REBOOT』がついにリリースとなりましたが。やはり10周年を経てのあらたなステージというのはありましたか?
岸田 節目がついた、ということですね。10年間バンドをやってきて踏んできた道はこうでした、帰結はこうでしたということが前作で、今回はすべてを無に還すということですね(笑)。
ichigo そういう意味での『REBOOT』です。
――まさにタイトル通り岸田教団をリブート(再起動・再構成)するという意図はあったわけですね。
岸田 そうですね、最初にタイトルを決めることからすべてを始めたので。10年も経ったらそうでもせんとどうしようもないというか。
ichigo 我々としても、もうひと段階上に行くために一回自分たちを見直してぶち壊すことは大事かなと。
岸田 今回は完全に秩序を壊していますね。みずからの本質が出ましたね、人間として。
――10年もやっていくとバンドも慣れた面もあってカジュアルになったりしていくものですし、実際前作『LIVE YOUR LIFE』はそういうテーマも見えたんですが、そこを一度破壊して再構築したと。
岸田 10年経って丸くなった部分が前作で、それを捨てて丸さがなくなったのが今作。もう一度攻めてみようと。そう思えたのもよかったですね。それは「GATE〜それは暁のように〜」以来で。
――本気で攻めていくぞと。
岸田 過去最高に喧嘩しながら作ったアルバムですね。でも今回はステージを上げるために必要だった。今までのアルバムは100パーセント出し切るというよりは、完成させることが第一。もともと完成するかどうかわからないぐらいメンバーの人間性もバラバラなので、それをまとめる役として自分がいたんですね。でも今回は自分が第一に作家として作っているというイメージでやり直したのでそこは大きいですね。
ichigo 今回いちばん変わったのは制作過程の役割分担です。リブートしたのはバンドの在り方や役割分担みたいなのの改革でもあって、大きいのはそれによってボーカルのディレクションがhayapiになったこと。これまでは当然、岸田がディレクションしていたんですけど、そこでまあ喧嘩にもなるんですよ。同じ結果に行くまで考え方やプロセスが違いすぎるから、hayapiがディレクターとなって歌詞の世界観からの彼なりの深い読み解き、表現の部分までていねいにわかる言葉で伝えていってくれました。
――リブートという構造改革が見事ハマったわけですね。
ichigo 楽曲を感覚的に捉えていたことがもう一歩踏み込んで感じ取ることができたので、今回ボーカルが変わったねってきっと言ってもらえるんだろうなと。
岸田 僕のリソースを減らすことができたので、作詞作曲編曲に集中することができたし、アルバムのコンセプトを練り上げることができたので、聴いている人もアルバムのストーリー性を読み取りやすくなったんじゃないかなと思いますね。
――たしかに本作はこれまで以上にアルバムの流れがはっきりしている。
岸田 ビジョンを立てて、コンセプトを考えた上で作家としてやることに時間を費やせた結果です。hayapiさんに任せることは任せて、自分のやるべきことができたと思います。
――リブートの様々な影響が出たわけですが、それを実践したのはどのタイミングからでしたか?
岸田 「Blood and Emotions」から始めたことですね。ただこれは『ストライク・ザ・ブラッドⅢ』の曲として制作したので、本格的に始めたのは「Decide the essence」からかな。
――アルバムの冒頭を飾る「Decide the essence」ですが、イントロのシンセのフレーズからリブートの片鱗は見えているかなと。
岸田 それは狙ってそうしましたね。さすがにリブートと言って1曲目から変わり映えしないのはどうかと。そこははっきりリブートしているということを伝えてから、それで心配しちゃう人のために2、3曲目で変わってない部分もあるんだと。言ってしまえばリブートだからって変わっちゃダメなんですよ。変化じゃなくて再構成なので、でも今までと違うものも見せなくちゃいけない。けど何も変わっていないということも大事なんですよ、リブートは。
――それにより変わっていない部分、続く「our stream」「Never say Never」のアグレッションがより際立つというか。
岸田 そう、どこかを引くと逆に攻めていることがわかりやすい。リブートすることで自分たちの本質がわかりやすくなるんですよ。今までの作品と聴き比べてリブートしても結局残っているものが本質なんだよという。リブートして変化したものは変えることのできる部分でしかない。逆にどこまでいっても同じものはそれが個性なので。リブートすることで本質を問い直す。
――豪速球がウリのピッチャーが、変化球を出すことで持ち味が活きるという。
岸田 150キロ投げられるピッチャーでも決め球がないと打たれますからね。
――そうした意図のある前半、すなわち「Blood and Emotions」までが『REBOOT』のテーマの大きな部分を担っている構成になっていますね。
岸田 かなりこだわりました、ここは。
――一方で本作はichigoさんは作詞でも多くクレジットされていますが、ソングライティング面で『REBOOT』によって意識が変わったことはありますか?
ichigo このメンバーが演奏すれば、私が歌えば岸田教団のサウンドというのは揺らがないので。まあ歌詞はそれぞれの主張や個性というものがあるけど、バンドのコンセプトやずっと変わらないなというのは、折れないとか、折れないために逃げるのはオッケーとか(笑)。諦めちゃダメだけど生きるために違う方向を見つけるのはオッケーとか。
岸田 戦術的撤退はオッケー(笑)。後ろに向かって前進というか。
ichigo それそれそれ(笑)。自分的に負けていなければいいというのは、別に話し合ったわけではないけど、それは私と岸田のふたりの歌詞のなかにはあるので。そういう意味では迷いも別にないし、舞台が変わるだけという感覚なので、今回多めに任されたけどアルバム全体には馴染んだなと思います。
岸田 自分が作ったものの密度を上げるために、これはichigoさんのほうがいいんじゃないかと思うものは積極的に投げて、これは自分が書いたほうがいいというものは自分で納得するまで作ったので、そこは明確にこだわったところですね。
――アルバムにおいて非常に理にかなっている楽曲制作になりますね。
岸田 徹底的に合理主義ですね。それが、僕が本気でやったときの特徴ですね。自分ひとりではできないときにいかに他人に頼れるか。
ichigo 大事。大事だね。
――またichigoさんは「3 seconds rule」では作曲も担当していますが、これもカラッとしたキャッチーなサウンドになりました。
ichigo こういうことができるのはアルバムならではなので。あと全体的に歌詞を書きながらいろいろ迷いがなくなってきたなと私も思って。年齢重ねたのもあるんですけど、かっこいい言葉だけじゃなくてもいいなって思っていて。かっこよくないんだけどわかる言葉とか、今までだったら歌詞に入れなかったワードも使えるようになってきたなと。
――これは前作もそう思ったんですが、岸田教団らしいニヒリズムなどがある歌詞のなかで、ややストレートな言い回しも増えてきたと思うんですよ。本作ではそれがより出ているなと。
ichigo そこは全体的にも感じましたね。
――一方、本作は決めとなるところでの英語のフレーズも多いですよね。
ichigo 難しさもあるんですけど、いわゆるジャパニーズ英語のようではなく、発音も含めてしっかり勉強しました。もちろんネイティブのように歌えるわけじゃないですけど、クリアにやりすぎずナチュラルに響くように意識して歌いましたね。
――それを複雑なリズムのなかでの譜割りで実践しているのはすごいなと。
岸田 譜割りがあるから英語になったんですよ。ここはリズム的に英語じゃないとハマらないなって。僕が書いている分はすべてそうですね。音楽ありきの英語で。
ichigo 私もそうですね。
岸田 曲のリズムが複雑になったことが大きいんじゃないかな。
――となるとそのリズムを叩くみっちゃんのドラムの役割も非常に大きいところですよね。
岸田 大変でしたね。僕が全曲の編曲のメインを手がけているので、「みっちゃんが叩けなかったらどうしよう」と思っていつも現場にいます。作った張本人なんですけど(笑)。でも叩けちゃうんで「いけるじゃん!」って。今回ばかりはダメかと思ってたんですけど。それぐらいみっちゃんにはいちばん高い要求をしていると思います。酷いことしているという自覚はある(笑)。
――そうしたソングライティング面とプレイアビリティの向上の結果、アルバム全体に漂うメジャー感を汲み取ることもできるんですよね。
岸田 ああー、そうかもしれませんね、結果的には。洗練されて聴こえる気がすると思います。でも僕としては自分の作家性を前面に出しただけなので、洗練した部分はみんなが頑張った結果なのかなと思うし、自分がやりたいことに満点で返してくれたんだと思います。メジャー感というのはクオリティーも含まれているので。質が高いからメジャーに聴こえる、作家としてどうやったかというより、それをどれだけ完璧にこなせたかがクオリティーへ影響することなので、それができたことが大きいと思います。
ichigo 今回のアルバムで、技術に関して岸田からのNGが初めてなかったですね。
岸田 曲を書いている側からすると「そうじゃない」っていうところもあったんですけど、今回はこう歌ってほしいというところを歌ってくれている。そこまでできるほどすべてを追求できたんですね。それぐらい僕も完成をイメージできていたので。
――それを年に一枚作るスケジュールでできたことは驚異的ですよ。
ichigo 今までのアルバムは岸田がいちばん辛かったんですけど、今回は等しくみんな辛かったよね(笑)。
岸田 効率化するということはそういうことです(笑)。
――アルバムとしてのコンセプトもしっかりしていてメジャー的なクオリティーも担保されている。またそれでいて、発売前に流れていたYouTubeでのトレイラー映像のコメントを見て思ったんですけど、みんな好きな曲が分かれているんですよね。
ichigo バラバラでしたね。
岸田 でもその多くで僕は最後の「Code : Thinker」が褒められていてうれしいです。
――最近の洋楽でも聴かれるシャッフル系のサウンドは新鮮ですが、それをアルバム最後に持ってきたところも自信の表れなのかなと。
岸田 「Code : Thinker」は、かなり頑張って作りました。7曲目の「Reboot : Raven」は作家で音楽仲間でもある友達のカヨコさんにメロディを書いてもらったんですけど、多分それか「Code : Thinker」が人気かなと話していたんですね。今の段階では僕のほうがちょっと人気で、勝ったなと(笑)。
ichigo 今の流れ、うっざ!(笑)。
――そうした楽曲の構成も含めてリブートされている本作ですが、改めて秩序を壊し、残すところは残してハイクオリティーに仕上げた傑作になりましたね。
岸田 10年もやっていると自分たちのランクってこれぐらいですよって社会から言われている気がするんですよ。でもそれが……気に入らないんですよね(笑)。
――岸田教団ってこうだよねっていう社会からのレッテルに抗いたいと。
岸田 そうそうそう、それが気に入らない。だから本気出すよと。でも本気出したらバンドって解散するんですよ。
――バンド内での精度を高めすぎた結果解散するか、みんなの期待とはまったく別のものを作ってしまうとかはバンドあるあるですよね。
岸田 そう、それってどっちもダメじゃないですか。
――そうならないためには、バンド内の構造改革をする必要があったと。
ichigo 今回のアルバムはみっちゃんとhayapiの自己犠牲のうえで成り立っているから(笑)。今まで私と岸田がふたりで向かい合ってどうしようもなくなっていたところを残るふたりが受け持ってくれた結果、曲を良くするため、アルバムを良くするために集中できた。
――ichigoさんのおっしゃっていた、等しく辛くなるということですね(笑)。
ichigo hayapiさんも今回言いたいことはいっぱいあるはず(笑)。
岸田 今回思ったのは、身を削って作ったものは美しいということですね(笑)。
――その末に出来た結晶が『REBOOT』だとして、それが来年のツアーを経て次のアルバムに向かうなかでどう作用するかも気になります。
岸田 ひとつ言えるのは、手段を選ばないというのは『REBOOT』以降も変わらないと思います。手段を選ばないと音楽はよくなりますね。誰かの歌詞じゃないですけど、本気は痛みを厭わないですね。
――となると、まずは本作を伴う2019年の全国を巡るツアーに注目ですね。
岸田 本当にいいライブを見せないと、こんなアルバムを作っておいてライブでへちょいとこ見せられないですから。マジでライブは頑張らないと。これ聴いて絶対がっかりしないライブにしないといけないから、そのためにはなんでもやるぞと。
ichigo とはいえ今回曲が出揃った時点で、めっちゃいいアルバム出来たね〜と思いながら、hayapiとふたりで「ライブどうしよう……」って話していて(笑)。このクオリティーと世界観はちゃんと伝えたいし、何より曲が難しい。
岸田 hayapiさんとそのためにどうするかと話していたら、「覚悟決めることだ」と。
――覚悟を決めることこそが、それこそがアルバムだけではなく……。
岸田 岸田教団のリブートなんですね。
ichigo 岸田も覚悟を決めるそうなので。そういう意味では私も、普段の私とバンドでのichigoって全然変わらないところがあって、テンションも考え方も。何にも変わらないゆえに照れくさい部分は出てしまうので、そこは岸田さんの覚悟と同じように、お客さんに伝わるように頑張っていかないと……でも照れくせえんだわ。
岸田 本当そうだよねえ。
ichigo だったら普段からテンションを上げていこうと。暑苦しく情熱的に愛に溢れていくので!普段から!(笑)。
岸田 僕はステージに上がると変わる方ですね。
――それでは見事リブートを果たした岸田教団に2019年も期待というところですね!
岸田 いつまでもつかなと。(笑)
――そこは少なくともツアーまではもたないと!(笑)
ichigo 春ツアーやって解散するかもしれないから(笑)。
――わははは、なんてこと言うんですか(笑)。
ichigo だから最後のツアーかもしれないので来てください!(笑)。
岸田 そうなる前に誰かが止めてくれるから!
――物騒な冗談ですが、それぐらいの意気込みでも臨むぞということですね。
ichigo それぐらい私たち本気なんです!
岸田 俺たちが本気で作ったアルバム、『REBOOT』聴いてください!
Interview & Text By 澄川龍一
Photography By 山本マオ
【アーティスト盤(CD+BD)】
品番:1000735130
価格:¥5,000+税
特典ブックレット:全48P
2万字超にわたる、メンバー、レコーディングエンジニアなどへのインタビューを収録
【通常盤(CD)】
品番:1000735131
価格:¥2,800+税
<CD>
1.Decide the essence(新曲)
作詞・作曲:岸田
2.our stream(新曲)
作詞:ichigo 作曲:岸田
3.Never say Never(新曲)
作詞:ichigo 作曲:岸田/hayapi
4.Blood and Emotions(新曲)(「ストライク・ザ・ブラッドⅢ」 OP)
作詞・作曲:岸田
5.ストレイ(TVアニメ「博多豚骨ラーメンズ」OP)
作詞・作曲:岸田
6.3 seconds rule(新曲)
作詞・作曲:ichigo
7.Reboot:RAVEN(新曲)
作詞:岸田 作曲:カヨコ
8.Love prescribe(新曲)
作詞・作曲:岸田
9.シリウス(TVアニメ「天狼 Sirius the Jaeger」 OP)
作詞・作曲:岸田
10.キミノミカタ(新曲)
作詞:ichigo 作曲:hayapi
11.stratus rain(シングル「シリウス」CW曲)
作詞:ichigo 作曲:岸田
12.Code :Thinker(新曲)
作詞・作曲:岸田
※全編曲:岸田教団&THE明星ロケッツ
<Blu-ray>
Blood and Emotions Music Video(新曲)
シリウス Music Video
ストレイ Music Video
「REBOOT」 Recording Making Movie” document”(約30分)
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