『マクロスΔ』のワルキューレのメンバーでもある安野希世乃が、自身のアーティスト活動である2ndミニアルバム『笑顔。』をリリースした。話を聞く中で強く感じたのは、歌詞から広がっていく歌の物語性だ。日頃、声優として活動する彼女にとってそうした世界観を持つことは当然かもしれない。だがそれを自作詞でも発揮するところに、声優アーティスト活動ならではの作家性を感じられる。このインタビューで、歌声だけでなく、アルバムの背景もじっくり堪能してほしい。
――今回の2ndミニアルバムのコンセプトはタイトルの通り「笑顔。」です。1stが「涙。」だったのと対照的ですが、どんな思いからこれをコンセプトとされたのでしょうか?
安野希世乃 『涙。』のときは最初にプロデューサーの福田(正夫)さんから、「安野さんの歌や声からは”泣き”の要素が多いので、それを活かせるアルバムを最初に作るのがいちばん」というご提案をいただきました。そこで、聴いた人に良い涙を流してもらえるような、悲しいけれども幸せな涙ということをテーマにして作りました。ただ、私としては「楽しい曲も歌いたいな」と常々こぼしていまして、今回、「涙。」の後には「笑顔。」だよね、と鶴の一声で決定しました。
――今回の作品も多くの作曲家さんがご提供されていますね。
安野 福田さんは『マクロスΔ』のワルキューレをプロデュースしてくださったので、その繋がりの方が中心になってはいますが、新しい作家の方々との出会いも多かったです。今回の特徴は、作詞が「Wonder Shot」の堂島孝平さん以外は女性ばかりなんです。なので、歌詞の世界観が女性的なものに広がっているのではないかと感じております。
――そのなかで「ぼくのヴィーナス」は安野さんの作詞。前作の「ねぇ、話をしよう」に続いて2回目ですが、いかがでしたか?
安野 「ねぇ、話をしよう」は、私から皆さんにすぐ隣で聞いているような近い距離感で、愛の気持ちの子守歌というような形で書かせていただきましたが、今回はワイドな歌詞にしたいなという思いがありました。作り方も、前回は初めての作詞ということもあり、珍しいことに詞先で書かせていただいたのですが、今回はコモリタミノルさんの曲先で書いていきました。コモリタさんの曲の世界観にすごく力をもらったところがあります。そこでの広さや心地よさ、華やかさになるべく寄り添って、コモリタさんの曲の良さが消えないように、私のささやかな力でもこの世界を言葉にできたらと思って、歌詞を書かせていただきました。
――楽曲を受け取ったときにはどの程度の仕上がりだったのでしょうか?
安野 福田さんから「ちょっと聴いてみてください」と渡された段階でオシャレな都会の夜、みたいなイメージで、そこにコモリタさんの仮歌が入っていて、サビの仮詞が「ライラライラ~ああ夢の中~フゥウ~♪」だったんです。もう、これがパワーワードすぎてすべてを表現しているなと思って(笑)。「これもう完成してるじゃん!」と思いつつも、「この曲で作詞をやらせてください!」とお返事をしました。でも、「ライラライラ」の部分がいちばん出てこなかったかな~。ハードルを超えるのは大変でした。福田さんに「せっかくなので、ここは繰り返しの言葉が良い」とヒントを貰って、「ああ きっと きっと~恋してる」という繰り返しの言葉でお話が進んでいく形になりました。
――コモリタさんは、仮歌ですからきっと軽い気持ちで歌われていたかと思いますが、思いの外、ハマってしまったわけですね(笑)。でもそこで作詞にチャレンジしたのは、安野さんご自身が楽しんでいるからですよね?
安野 はい、楽しいです。作詞する楽しさって、やっぱり自分が言ってほしい言葉を紡げることじゃないでしょうか。すごくシンプルになってしまいますが、「ねぇ、話をしよう」のときも、「泣きたい夜にこんなこと言ってくれる人がいたらいいよね」という気持ちで書いていたところがあって、「言ってほしいこと」と「言いたいこと」はもう裏表だなと思いますね。
――「言いたいこと」もそうですが「言ってほしい」ことを自分で書きたい。
安野 そうですね。「こんな歌があったらいいのにな」って思うものを、歌詞にするとこうなるっていう感じですかね。
――歌う際も自分で聴いて心地よいことを表現することも?
安野 そうですね。私はどこかやっぱりエールソングが好きで、いきものがかりさんも好きですし、ZARDさんの「負けないで」も極まるところですよね。恋愛の歌でも、切ない恋の歌よりも「頑張ってる君を見てるよ」みたいな恋の応援歌のほうが好きなんです。励まされる歌やポジティブで「陽」の影響を与える歌が好きなこともあって、自分でもポジティブな歌詞を書きたいなと思うんです。
――「ぼくのヴィーナス」もポジティブなメッセージを発していますね。
安野 この歌詞の主人公ってすごい片思いをしているんですよね。詞から想像するに、好きな人は近くにいない。「星」というくらいだからもはや遠い存在なんですよね。でも、この主人公は恋をしている”あなた”を想っている時間が楽しくて、輝いている。あなたはしたいことをして輝いて、私はそんなあなたをずっと見ていたい。そんなふうに、あなたのことも、恋をしている自分のことも、どちらも肯定している歌詞にしてみました。それに、想うことで強くなれるから、見返りを求めていないんですよね。「ここにいてくれないの?」ではなく、あなたが幸せで私も幸せ。あなたの笑顔が私を照らしてくれるみたいな、そういう気持ちなんですよね。
――本当に幸せが溢れています。
安野 ある意味で誰にでも当てはまるような普遍的な歌にしたかったんです。この歌詞のあなたというのは恋愛の相手ではなくてもよくて、ただの憧れの人でもいいし、同性の好きなアーティストに対してでもいい。女の子が「モー娘。がカワイイ」、「ももクロがカワイイ」と思ったとして、その子たちに向けてでも全然良いと想うし、性別も関係ないし立場も関係ない歌にしたい。いろんなことに、いろんな”あなた”を当てはめられる歌にしたいという思いが、詞を書くなかでありました。
――自分で歌詞書かれているだけに、歌う際は書いた思いをダイレクトに出すような感じですか?
安野 そうですね。本当に自分にとっての宝物・ヴィーナスに捧げる歌だから、キラキラ輝いて歌っている本人が幸せで充実しているハッピーな気持ちがこの歌から出ないとリスナーに届かないなと思いました。なので、あなたを待っている自分が今、世界一輝いているというくらい「恋して楽しい」みたいなハッピーさを大事にしました。やっぱり自分が書いた歌詞だけあって、うまくニュアンスが出せないときは自分からリテイクを出すように粘らせていただきました。「ここ、納得行くテイクが出てないので、もう一度歌わせて下さい」というときもありました。
――お仕事全般を通じても自分からリテイクできる機会って、そうそうないですもんね。
安野 ないですね。ゲームの収録だとひとりなので、もう1回やれば良いテイクを出せると思ったときは自分から言えるのですが、普段のアフレコですと皆さん一緒なので、基本的にスタートの合図がかかったら止まらないんです。そうなると、たとえうまく行かなくても音響監督さんがリテイクを出さない限り自分から言い出すことはできないんですよね。そういうときにリテイクを出されるとむしろ「ありがとうございます!」みたいな感じです(笑)。歌の場合は自分から言い出せるので、より積極的に関わらせてもらってますね。
――安野さんはご自身でこだわりが強い方だと思いますか?
安野 こだわり。う~ん、強いですねぇ。好きなことに関しては思い描いた通りに到達したいタイプですね。でも、興味が薄いことに関してはあんまりこだわらないかも(笑)。作詞はすごく楽しい作業だから本当にもう一字一句すごく迷いましたね。「なんでもっと早くに出逢ってなかったんだろう」を「出逢えてなかったんだろう」とするか、一週間ぐらい悩みました。たった1字しか違わないんですけど。仮で提出してから収録まで日にちがあったので、何度も細かく修正をお渡ししました。細かいことかもしれないんですけど、「出逢えてなかったんだろう」だと、悲観的になりすぎるから不満が乗るんですよね。じゃあ「早く出逢えなかった今はダメなの?」みたいになってしまうので。だから、言葉のニュアンスに関しては妥協できないですね。
――もう1曲伺わせて下さい。「嘆きの空」は感情の乗り方がスゴかったです。
安野 これもまたゾーンに入って録ったので、今の私にはなぜあの歌がうたえたのかわからないぐらいです。
――その集中力に至るまでにはどうやって気持ちを組み立てて行ったのでしょうか?
安野 最初に聴いたときは、すごく静かな歌だなと思いました。誰に歌っているというわけでもなく、ある意味、自分の気持ちに正直な感情を吐露している歌なので、だからこそ身勝手に歌っていい歌だと思ったし、これをあなたの住所に届ける前提で送っては逆にダメだと思うんですよね。完全に自分の日記的な、もう何を言っても良いという境地でないとなかなか言えないなと。結構恥ずかしいことを言ってるし、理不尽なことへ「何で?」と言っている疑問が拭えないところとか。言葉にするのは難しいですね……。自分の不甲斐なさをわかってるし、どうにもならなかったっていうのも本当はわかっている。この関係が修復できないっていうことはもう誰よりもわかっている。そのうえで、「でも言わせてよ!」っていう歌だと思うんですよね。なので、訴えちゃダメだと思いました。レコーディングのときにメモにも書いたのですが、「囁くようにうたう歌」で歌ったところ「今みたいな感じで」って言っていただけました。でも、自分の中でこのストーリーを入れるのが難しかったですね。
――落とし込むのが。
安野 今のこの子って、情緒不安定なんですよ。気持ちが行ったり来たりで隣にいて「大丈夫?」って心配してあげたいぐらいの堂々巡りの中にいて。行き場がないところでうたっている歌という感じだったので、私としては気持ちはズーンとなっていました。「嘆きの空」の場合は、あくまで入ってきたという感覚。めちゃめちゃ感情移入できたというわけではないかもしれません。「そういう気持ちなんだね」というふうに自分が何とか隣に行けたかなという曲ですかね。
――聴く側も何度も聴いて解釈していきたいなと思います。
安野 答えはひとつじゃないんですよね。歌うたびに、この歌の気持ちを持っている子が今もどこかで泣いていて、何とか私が寄り添えないかなと思っています。皆さんももし心の中にこの子がいたり、こんなふうに気持ちを持て余してしまうときがあったら、「そういう気持ちを肯定してもいいんだ」という歌として聴いてほしいなと思います。「わがままでいいんだよ、心の中の歌は」っていう気持ちです。
――12月には1stライブツアーを開催。12月22日には舞浜アンフィシアターでの追加公演も決まりましたね。
安野 楽しいライブにしたいですね。円形型の劇場ということもあり、皆さんのお顔がスゴく見えるんですよ。もう、私が経験したどの会場よりもいちばん見えます。なので、そんなみんなに全力で会いに行きたいですし、皆さんも私が見ているぞということを覚えておいてください(笑)。でも、作り「笑顔。」はいらないですよ? 私が皆さんを笑顔にしますので。自然と笑顔が溢れるようなライブにしたいと思っていますので、皆さんに会えるのを楽しみにしています。
Interview&Text By 日詰明嘉
●リリース情報
2ndミニアルバム
『笑顔。』
11月7日発売
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
品番:VTZL-148
価格:¥3,400+税
【通常盤(CD)】
品番:VICL-60476
価格:¥2,400+税
<CD>
1.ぼくのヴィーナス
作詞:安野希世乃/作曲・編曲:コモリタミノル
2.ふわふわとしてる
作詞・作曲:EPO/編曲:山本隆二
3.笑顔。
作詞:鈴木桃子/作曲・編曲:松本良喜
4.Wonder Shot
作詞・作曲:堂島孝平/編曲:北川勝利
5.かすかなかなしみ
作詞・作曲:鈴木祥子/編曲:鈴木祥子・菅原弘明
6.嘆きの空
作詞・作曲:成本智美/編曲:河野 伸
7.ロケットビート
作詞:岩里祐穂/作曲・編曲:北川勝利/ストリングス編曲:宮川 弾
<Blu-ray>
1.ちいさなひとつぶ Music Video
2.ロケットビート Music Video
3.ぼくのヴィーナス Music Video
4.ぼくのヴィーナス メイキング映像
●イベント情報
リリース記念イベント ~ぼくたちのヴィーナス~
11月18日(日)13:00スタート ゲートシティ大崎
11月24日(土)14:00スタート アスナル金山(名古屋)
開催内容:ミニライブ&ハイタッチ会&特典お渡し会
●ライブ情報
1st LIVEツアー2018 「きっと、ふわふわとしてる。」
12月8日(土) 恵比寿ザ・ガーデンホール
12月15日(土) 大阪・オリックス劇場
追加公演決定!
12月22日(土)舞浜アンフィシアター
2ndミニアルバム『笑顔。』(限定、通常とも)にチケット優先販売申込み券封入
●番組情報
ラジオレギュラー番組
「ふわふわな話をしようかな、どうしよっかな。」
毎週水曜25:30~26:00 FMヨコハマにて放送
※radikoでも聴けます
☆番組へのメッセージやお便りの宛先は kiyono@fmyokohama.jp まで。
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