近年は最新のクラブ・ミュージックの要素を今まで以上に多く採り入れて、音楽面でもパフォーマンス面でも大きな進化を遂げているGARNiDELiAが、あらたな企画アルバム『響喜乱舞』を9月26日にリリースした。
本作は、彼らが2012年から展開している「踊っちゃってみた」動画シリーズの楽曲を集めた、いわばガルニデ流のダンスベストアルバムと呼べるもの。いまや「踊ってみた」動画の定番となっている「Girls」のリアレンジ版をはじめ、中華圏を筆頭に海外で爆発的な人気を獲得した「極楽浄土」や、それに連なる和テイスト×EDM路線の新曲「響喜乱舞」など、多彩なダンス・ナンバーを全10曲収録している。
今や彼らの活動において大切な要素となっている「踊っちゃってみた」を集大成した今回のアルバムについて、メイリアとtokuのふたりにじっくりと話を聞いた。
――今回の新作『響喜乱舞』は、ガルニデ恒例の「踊っちゃってみた」動画シリーズの楽曲をまとめたダンスベスト盤になります。「踊っちゃってみた」動画シリーズは、2012年8月にアップされた「Girls」からスタートしましたが、そもそもどういった経緯で始めたのですか?
メイリア 動画サイトには「踊ってみた」や「歌ってみた」という文化があって、私は元々歌い手として「歌ってみた」をメインに活動してたんですけど、自分のソロ・アルバム(『aMazing MusiQue PaRK』)をリリースすることになったときに、そのアルバムからEasyPopさんに提供していただいた「Girls」を記念に動画でアップしたいと思ったんです。その頃にイベントでみうめ(「踊っちゃってみた」動画シリーズに参加している踊り手)と出会ったんですけど、私はもともと踊りもやっていたので「ダンスができるなら〈踊ってみた〉もやってみようよ」という話になって、みうめが217に声をかけて3人で踊ってみたのが「Girls」だったんです。
toku だから元々はメイリアのソロ・アルバムの企画として作ったものなんですよ。僕はそのアルバム自体のプロデュースもしていて。当時はオリジナル曲を歌った本人が「踊ってみた」を踊る文化はあまりなくて、人の曲を踊るからこそ「踊ってみた」と呼ばれてたんですが、そこと区別化するために「踊っちゃってみた動画」というタイトルで動画をアップしたんです。
メイリア その当時、歌った本人が踊ってる動画はなかったので、そこは私たちがパイオニアになれたと思います。それにその頃は「踊ってみた」自体もそこまでは盛り上がってなかったんですよ。なので10万再生いけばぐらいの気持ちだったんですけど、突然100万再生まで伸びたので「これはもう一回やったほうがいいかも?」ということになりまして(笑)。
――それで2013年10月に2作目の動画「Lamb.」をアップされたと。
メイリア 今度はGARNiDELiAの曲にダンスをつけようということで、tokuが「Lamb.」を作って動画をアップしたんですけど、これも思いのほか再生数が伸びて、次の動画を期待される声も多くいただいたので、そこから意識をもって「踊っちゃってみた」動画を作るようになったんです。ただ、メンバーはみんな別々の活動をしながらだったので、ペースとしては1年に動画ひとつアップする程度だったんです。でも、4作目の「極楽浄土」がさらにすごい再生数になって(笑)、自分たちのほうがビックリするぐらい独り歩きしていって。
――「極楽浄土」はYouTubeでの再生数が3,000万回以上と、それまでの動画を一桁上回る再生数になりましたものね。
メイリア 「極楽浄土」は元々、ガルニデとしてメジャーデビューしてから海外のイベントに出演する機会が増えたので、世界中の方々に日本のカルチャーを知ってもらおうと思って、着物を着て踊ったんですよ。でもそれが中華圏を中心にヒットしまして、そこからありがたいことに中国でワンマンライブを開催できるようにもなって、今では日本と中国でイベントの参加数があまり変わらないほどになったんです。なので5作目の「桃源恋歌」は中国の文化を採り入れることで中華圏のファンの方への感謝の気持ちを込めて作りましたし、そこから世界を意識した曲を作るようになりました。
toku 「極楽浄土」は和の要素とEDMを組み合わせるのが難しくて、作るのにすごく時間がかかったんですよ。EDMの楽曲はサビに歌がないのが主流なので、そのなかでどう作ればEDMっぽくもありポップスっぽいものにもなるかを試行錯誤しましたね。
メイリア tokuさんは動画をアップする直前まで「この曲はカッコいいのか、ダサいのかどっちなの?」って悩んでたんですよ(笑)。私が思いつきで「和をテーマに作りたい」と言い始めてしまったものだから、振りをつけてくれたみうめも「この振りでいいのかな?」と悩んでしまって(笑)。でも、結果大きな反応をいただけましたし、この曲をきっかけにライブや曲の制作の仕方も変化して、アニメのタイアップ曲と「踊っちゃってみた」シリーズの二軸で制作を進めるようになりましたし、活動も日本と中国の二軸になって、人生を変えてくれた運命の一曲と言っても過言ではないと思います。
toku 今では〈極楽浄土〉というワードでググったら、ガルニデの曲がいちばん上に出てくるもんね(笑)。
――tokuさんは悩みながらも作り上げた曲がここまで大きく受け入れられたわけですが、その後の楽曲制作のアプローチにも影響があったのでは?
toku そうですね。それまではちょっとひねくれた曲を書こうとしてて、メロディをわざと難しくしたり、構成も変わった感じにするところがあったんですけど、和メロは「次はこうくるだろうな」という型がありますし、EDMも「ここで盛り上がるだろうな」ということがわかる作り方が大切じゃないですか。なので、その相乗効果で「やっぱりきたー!」となるのを狙うか、逆にセオリーを外して「ここで裏切られた!」となるさじ加減を考えるようになりました。
メイリア 結果、「わかりやすいものが正義!」というところに辿り着きましたよね。
toku だから作り方はストレートにしつつ、そこで音色を変わったものにすることで違和感を狙ってみたり、小技でアクが出る感じになったのは、このシリーズの楽曲に関して感じるところですね。
――『響喜乱舞』の表題曲となる新曲「響喜乱舞」は和楽器を使ったEDM調のダンス・ナンバーで、「極楽浄土」に連なる世界観を感じさせます。
toku 漢字4文字シリーズですね(笑)。
メイリア この曲はひとつの区切りじゃないですけど集大成的なもの、このシリーズの7年間を全部詰め込んだものにしたかったんです。なのでたくさんの人が知ってくれるきっかけとなった「極楽浄土」の要素も入れつつ、今の私たちのサウンドもガッツリと入れた、新しさと懐かしさの融合を目指して作った曲ですね。「極楽浄土」よりもゴリゴリのEDMになりました。
――ヒップホップのパーティーチューンで聴かれるような煽り声のサンプリングも入っているのが新鮮ですね。
toku 今のEDMはヒップホップ寄りになってきたので、その要素は入ってますね。海外でこういうEDMや4つ打ちの曲をやると、その曲を知ってるとか知らないは関係なく、本当に盛り上がってくれるんですよ。なので実際にミックスもLAの方にお願いしましたし、今回はダンスベストになるので「派手にしたいなあ」という意識で作りましたね。
――それに加えて〈ソレソレ〉という祭り囃子のようなフレーズも入っていて、まさに和洋折衷の雰囲気になっています。
メイリア そこはライブも意識して作ったところがあるんですよ。「極楽浄土」はみんなでコール&レスポンスを楽しめる、私たちのライブで絶対盛り上がる曲になったので、それをさらにパワーアップさせた新しい定番曲を作れたらと思いまして。
toku 実は春にやったファンクラブイベントでお客さんにガヤとして「ヘイヘイ!」と言ってもらった音源をそのまま使ったりもしてます。自分たちのツアー中にも、メンバーに参加してもらって録音したり。
メイリア クラップの音も自分たちで「はい叩くよー」みたいな感じで録りましたし、〈ソレソレ〉という掛け声もツアーのスタッフを含めて、みんなでライブハウスで録音したんです。だからファンの方も合わせたみんなと一緒に作った曲になりました。
――歌詞も浮世の儚さを感じさせる部分がありつつ、「踊らにゃそんそん」の意識を感じさせるものになっていますね。
メイリア まさにそういうテーマで書いてますね。そもそも「踊っちゃってみた動画」は踊りを象徴するようなところがありますし、みんなにはこのアルバムを聴いて一緒に踊ったり歌ってほしいので、その表題曲であればテーマも「みんなで一緒に踊ろう歌おう」にしようと思って。でも、和の要素はどこかに切なさや儚さを感じられるものだし、日本語は言葉の美しさが素敵なところだと思うので、〈花いちもんめ〉といった昔ながらの言葉も散りばめて書いていきました。
――今年7月に動画が公開された新曲「アブラカダブラ~avraK’Davarah~」は、アラブの音楽やダンスの要素が採り入れられていて、シリーズにあらたな国の要素が加わりましたね。
メイリア 和、中華ときて、次はアラビアみたいな(笑)。でもアラビアンな楽曲はずっとやりたかったことで、本当は「極楽浄土」の次には出したいぐらいだったんですよ。ただ、その間にタイアップのついた「Hysteric Bullet」をアップしたりして、先延ばしになっていたんです。
toku この曲自体も去年には出来上がってたんですよね。和メロの場合もそうですけど、こういった民族的な音楽の要素をポップスとして昇華するにはどうすればいいのか、という悩みもありつつ作っていきました。僕自身、そんなにアラビアの音楽に詳しいわけではないので(笑)。だから詳しい人に聴いてもらって大丈夫か確認したり、自分で調査もしたんですよ。例えばインド音楽とアラブ音楽は似たように聴こえますけど、音階や使われてる楽器からして違うんです。僕たちは今中国語を勉強してるんですけど、中国語には日本語にはないような発音があるんですね。音楽にも地域によってそういう細かな違いがたくさんあることがわかって、勉強になりました。
メイリア ふたりともいろんな音楽の歴史を調べながら作ったので、このシリーズを初めてから世界の民族音楽にも少し詳しくなりました(笑)。ダンスのルーツもみうめと一緒に勉強したんですけど、アラビアンダンスには中国の舞踏と似てる動きがあって、実は中国にルーツがあるのかもしれない、という説もあるみたいなんです。起源は一緒だけどそれが派生して違った動きになってるのかもしれなくて。
――それはおもしろいですね。あと、この曲のサウンドにはゴアトランスの要素も感じられますが、それはやはりアラブのダンスミュージックを意識されてのことなのでしょうか?
toku そうですね。僕も若い頃はサイケ(トランス)とかそっち系のクラブシーンの音楽を聴いてたので、そういうサンプリングの切り貼りをしたらおもしろいかなと思って。なのでこの曲は終始ワンコードで作ったんですよ。ゴアトランスはスケールにしても向こうの文化なんだということは作っていて感じましたね。
――改めて世界のダンスミュージックを学ぶ機会にもなると。次はどの国の音楽を採り入れられるのかも楽しみです。
メイリア 動画のコメントでも「次はどの国かな?」といただいたりするんですよね。「じゃあ次はロシアでコサックダンスでもやる?」とか思ったりして(笑)。次はどの国の音楽をやるのかも若干考えてるんですけど、私は衣装担当なので各地の民族衣装を調べたりもしてるんですよ。ロシアの衣装はかわいいんですよね。
toku でもロシアの音楽はコード進行がとてもシンプルで、日本語が乗りづらいので「どうすればいいのか?」という問題があるんですよね(笑)。
メイリア 今度はヨーロッパ方面を攻めてもいいかも、とか思ったりもしてますけど……。アジアの音楽は印象的なので作りやすいんですよね。
toku 華やかなイメージがあるよね。ヨーロッパは気候の問題もあってか、音楽もしっとりしてるところがあるので。
――ジャマイカとか南米方面を攻めてもおもしろそうですけど。
メイリア なるほど!ブラジルのサンバとかいいかも!でも衣装がヤバいな(笑)。
toku 布不足になるよ(笑)。そのうち浅草のカーニバルとかに出ちゃうかも。
――『響喜乱舞』の収録曲は音質面での変化もあるのでしょうか?
toku 今まではミックスも全部自分でやってたんですけど、今回は別の方に頼んでクラブでの鳴りも意識したものにしたので、音像感は変わったと思います。イベントで曲をかけてくれるときに、動画から音源を抜き出してかけてる方もわりといらっしゃるんですけど、それだとどうしても音質が良くないんですね。だから今後イベントでかける際は、このベスト盤の音源を使っていただけるとうれしいですね。
――クラブ映えする音質というのは、今のGARNiDELiAの音楽性を考えると重要なことですよね。それこそ今年4月に行われた中野サンプラザ公演では高性能のウーハースピーカーを導入されていて、音響面でのこだわりを非常に感じましたし。
メイリア 低音がブリンブリンでしたもんね(笑)。
toku ああいう快感の体験はライブでしかできないものだと思いますから。個人で聴く場合はそれぞれの再生環境で音質が変わりますけど、ライブではそういう部分での一体感も共有できればということをPAさんとお話して、実現できたのが中野サンプラザ公演だったのかなと思います。でも、ウーハーは持っていきすぎましたね(笑)。「いや、もっと(低音を)出しましょう」みたいな感じで、開場ギリギリまで調整してたんですよ(笑)。
――中野サンプラザ公演でのアプローチもそうですし、直近のシングル「Error」や最新のオリジナル・アルバム『G.R.N.D.』でもEDM~クラブ・ミュージックに振り切ったサウンドを指向されていました。そういったダンス/ダンス・ミュージック的なアプローチへの意識の変化が、今回のダンスベストには象徴的に表れているように感じます。
toku それはもちろん僕らがやりたいことですし、アニソン界の中では異色になるかもしれませんけど、僕らはこのジャンルを追求していったほうがいいのかなと思うんです。今はそれが動画の再生数とかを含めて、いろんな意味で自信になるところまできたんですね。だからこそ「これで突っ走るためにはどうしたらいいのか?」と考えた結果が、この間の中野サンプラザ公演になるのかなと思っていて。ただ、「果たしてこれがたくさんの人に受け入れられるのか?」という意味では悩むこともあるんですけどね(笑)。
メイリア やっぱり日本ではなんだかんだでダンス・ミュージックが海外ほどなじみがないですから。でも、ダンスが義務教育に組み込まれるようになって、よりダンスに注目が集まりつつありますし、自分自身も昔からダンスを含めてパフォーマンスするアーティストが好きで、ダンスとセットでアーティストとして魅せるステージをやりたいとずっと思ってたんです。それをどうやって自分たちに結び付けるか研究するなかで「踊っちゃってみた動画」を作ったりもして。今まではシングルのカップリングとかアルバムの中にゴリゴリのダンスナンバーを入れて様子をうかがってましたけど、ようやくシングルの表題曲とかアルバムのリード曲でダンス曲を作れるようになって、今はみんなにも「ガルニデと言えばダンスだよね」という認識が広まってきてると思うんです。今までダンス・ミュージックに触れてきてこなかった人にも「こういう音楽もいいでしょ?」と提示してきたつもりだし、「ガルニデに出会ってなかったらこういう音楽に一生出会ってなかった」と言ってくれるファンもいるので。
toku ガルニデの場合はアニソンだったりニコニコ動画だったりと、ファンのみんなの入り口がバラバラなので、こうしてアルバムの形で「ダンスをやってますよ」と提示するのは大切なことだと思うんです。それとシングルだと海外でのリリースは難しいので、海外の人にも手を取っていただく意味でもアルバムにしたという理由もあるんですけど。
メイリア 今回はちゃんと海外に向けてもリリースするので、日本だけでなく世界中の人に向けて作ったアルバムでもあると思います。海外の人たちはネットで情報を得ることが多いので、「GARNiDELiAと言えば〈踊ってみた〉」という人が多いんですよ。
――世界を視野に入れるとすれば、今のようにEDMやダンス・ミュージックに振り切った楽曲が受け入れられる土壌も広がりますね。
メイリア 「Error」はMVも含めて自分たちで「これだ!」と納得できるものを見つけられた作品でもあって、そこから作った『G.R.N.D.』でダンス・ミュージックの方向にがっつり振り切って、中野サンプラザ公演にまで繋げていけたんです。自分たちでも迷いが消えた部分があるし、GARNiDELiAのこれからのサウンド作りは、今回の『響喜乱舞』でわかってもらえると思うので、これからは伸びる/伸びないという判断は一度捨てて、自分たちのやりたいサウンドをどんどん形にしていけたらと思います。そうすることでだんだんと根付いていくものだと思うので。
Interview & Text By 北野 創
●リリース情報
『響喜乱舞』(きょうきらんぶ)
9月26日発売
【初回生産限定盤(CD+フォトブック)】※三方背仕様
品番:VVCL-1296~7
価格:¥3,000(税込)
※フォトブック:メイリアが踊っちゃってみたシリーズの衣装を着用した、完全撮り下ろしのフォトブック
【通常盤(CD)】
品番:VVCL-1298
価格:¥2,500(税込)
<CD>
1.響喜乱舞
2.アブラカダブラ ~avra K’Davarah~
3.紅葉愛唄
4.Girls
5.Love Swing
6.Lamb.
7.PiNKCAT
8.Hysteric Bullet
9.桃源恋歌
10.極楽浄土
SHARE