INTERVIEW
2018.09.08
ガイナックスとProduction I.Gによって2000年に制作された『フリクリ』。海外でも人気を博したOVAの新作が今年、前作同様に全6話構成で復活する。しかも、『フリクリ オルタナ』と『フリクリ プログレ』の2作として。その両主題歌を担当するのはもちろん、初代『フリクリ』でも全編でその楽曲が使用され、作品世界のイメージングにおいて大いに寄与したthe pillows。実は今回の主題歌2曲が『フリクリ』に対して初の書き下ろし楽曲となるが、そこでピロウズのソングライティングを一手に引き受ける山中さわお(Vo.、G.)が語ったのは、『フリクリ』とピロウズの親和性の高さだった。
――まずは今回、劇場版『フリクリ』の主題歌を担当してほしいという話が来たときの感想から教えてもらえますか?
山中さわお おっきい声で「やったー!」って言いました。「よしっ!」って。
――『フリクリ』新作の主題歌をお願いしたいんですよっていう話はセットで?
山中 いや、「『フリクリ』をやるらしい」という噂は聞いていたんですけどなかなか話が来なくて。「ついに心変わりしたか」と思っていたんですよ。
――「前作ではあれだけの曲を使っていたのに」って。
山中 あれだけ俺のことを弄んでおいて(笑)。でも、制作がガイナックスではなく、監督が鶴巻(和哉)さんでもないと聞いて、驚きとともに納得してしまっていたんですよね。それでしょんぼりしていたら急カーブで「やりませんか」と来たので「やりますよ!」って即答しました。
――2曲の主題歌をどのように書き下ろしていったのか教えていただけますか?
山中 まず、主題歌を2曲欲しいんだけれども、そのうちの1曲を先に欲しいという話をされたんです。ストーリーも一切わからない段階で。教えてもらったのは、(ハルハラ・)ハル子が出るということ、主人公が(ナンダバ・)ナオ太ではないということの2点だけ。ただ、大人になったナオ太が出るって最初は聞いていたんですよ。でも、(『-プログレ』を見たら)全く出てこなかったので「俺、酔っぱらってたのかな」って思ったくらいなんですけど(笑)。でも、それで作ったのが「Star overhead」で。27、8になったナオ太が少年時代に出会ったハル子とのクレイジーで濃密なわけのわからない期間(とき)を懐かしむ歌にしようと思って作ったんですね。だけど、8割くらいできたとき、これは歌詞に特化した曲だと感じたんですよ。「Ride on shooting star」みたいな爆発力がサウンドにないって思いました。そのとき、アメリカで放映されるってことを聞いていたので一旦「Star overhead」は保留したんですよ。気に入ってはいたんですけど、17年ぶりのピロウズが「あいつら、おじさんになったな」みたいに思われるのは癪だったんですよね。アメリカだと伝わるのは歌詞ではなくてサウンドですから。「Ride on shooting star」みたいに、世界でヒットしたことがないオルタナティブロック。ニルヴァーナやレディオヘッドとは違う、「ピロウズが得意なのはこれだ」という曲を作ろうと思ったんです。それが「Spiky Seeds」でした。だから、歌詞もデタラメ。もちろん、本当にデタラメというわけではなく(笑)、キーワードにしたのは「ハル子」で、気持ちのいい言葉を乗せたあとにハル子から連想するものを並べ、最後に整えました。
――『-プログレ』用というよりは『フリクリ』らしく、アメリカで受け入れられる曲として作られたのが「Spiky Seeds」だったんですね。
山中 そう。アメリカでは『プログレ』が先に放映されるということだったので、「スケジュールに間に合った」って思いながら提出したのが「Spiky Seeds」。そのあと、『オルタナ』の締め切りにはまだ時間があったので、監督(の上村泰)さんに「どんな曲がいいんですか」とお伺いをたてたら、ストーリーやキャラクターの説明と、「暴れているロック! みたいなのよりはミディアムなものを」ということが書かれたメールをいただいたんですね。それを読んだら、内容も曲の雰囲気も「Star overhead」が合ってると思ったんですよ。だから、作ったけど一旦保留している状況も説明しつつ、「聴いてもらっていいですか」って出したら「これでいきたい」って言っていただけました。何が言いたいかというと、やはりピロウズと『フリクリ』は合ってる!(笑)。
一同 (笑)。
山中 だって、そんなマジックはなかなか起きないですからね。アメリカでは先に『-プログレ』を見てもらうということで、僕が忖度して(笑)「Spiky Seeds」を出したんですが、もしかしたら「Star overhead」は『-オルタナ』に使われなかったかもしれない。『フリクリ』という不条理で不親切な悪ふざけの連発みたいなオルタナティブなアニメーションに、不条理な説明的でもない不親切な勝手に放った爆発力のある「Ride on shooting star」がすごいマッチしてた。当時、書き下ろしでもないのに手応えもあったんですよ。でも、「Star overhead」を作ったときは、とってもいい曲だけど爆発を感じられなかった。「ちゃんとした曲を書いちゃったな」みたいな。だから、「ちゃんとしちゃダメだろ!」と思って「Spiky Seeds」を作ったんですよ。ただ、「Star overhead」は気に入った曲なので、普通にピロウズのアルバムに入れたでしょうね。
――「Star overhead」のような四つ打ちはピロウズとしては珍しいですよね。
山中 そう。四つ打ちってすごく少ないです。多分、29年間で3、4曲しかないと思う(笑)。
――ただ、今の流行でもあり、主流でもあります。あまり手掛けない四つ打ちを作る上では意識されたことはありましたか?
山中 フェスなどで若手を見ると、ここ4、5年は四つ打ちがやっぱりすごく多いのはわかっているから、そうなると僕の性分として「やりたくなくなる」んですよ。だけど、アレンジって曲が呼ぶものなので。単純に四つ打ちの曲を「作っちゃった」んですよね。「Star overhead」は四つ打ちが絶対ベストの曲なんですね。違うドラムで聴いたらわかってもらえると思います。四つ打ちの曲なのにあえて変えるというのは、音楽的にベストじゃないものを作るということなので、受け入れざるを得なかったですね。「四つ打ちはちょっとな」という気持ちも少しはありましたけど。でも、僕ら50代のバンドは四つ打ちど真ん中な80年代に青春時代を過ごしているので、本当はイケるんですよ。ただ、今は違う解釈の四つ打ちなので。
――当時はファンク由来でしたが今はEDMですよね。
山中 そうそう。なので、そこは思うところもあったけど、曲が呼ぶので従わざるを得ないですよね。ベストを尽くすには。
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