2017年にランティスから高水準なアニメタイアップ曲を立て続けて世に送り出し、アニメファンへの認知を一気に広げた音楽ユニットのORESAMA。今年4月にはアルバム『Hi-Fi POPS』を発表し、「Animelo Summer Live」への初出演でも注目を集めるなか、早くもニュー・シングル「ホトハシル」を完成させた。表題曲はTVアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』のEDテーマで、これまでになくクールな一面を打ち出した意欲作。カップリング曲を含め、トレードマークのポップなディスコ・サウンドを拡張するような一枚と言えよう。その新たな試みについて、ボーカルのぽんとギター&トラックメイカーの小島英也に語ってもらった。
――まずは、今年4月にリリースされた最新アルバム『Hi-Fi POPS』の反応・反響について聞かせてください。
小島英也 僕的には「cute cute」のように新しい要素を盛り込んだアルバム用の新曲が良い反応を得られて、ライブでも盛り上がったので、そういう意味でこれからも新しいチャレンジをどんどんしたい気持ちになれたし、新しい扉を開けられた一枚になりました。
ぽん このアルバムでORESAMAのことを知ってくれた人も多くて、すごくうれしかったです。再スタートを切ってからの楽曲をギュッと詰め込んでいるし、初回限定盤のBlu-rayには「オオカミハート」(2014年発表のデビュー・シングル)からのMVをすべて収録しているので、今までがむしゃらに走ってきた活動をひと区切りできた感覚もあって。だからこそ今回の「ホトハシル」でまた新しい挑戦ができたんだと思います。
――ニュー・シングル「ホトハシル」の表題曲は、TVアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(以下、『ムヒョロジ』)のEDテーマに使用されていますね。
ぽん アルバムをリリースして「次はどうしようか?」と考えていたときに今回のタイアップのお話をいただいたんです。今までのORESAMAにはない要素をたくさんリクエストいただけたので、それであれば今まで見せたことのないORESAMAを見せられたらと思って制作に取り組みました。
――『ムヒョロジ』は週刊少年ジャンプで2004年から2008年にかけて連載されていたマンガが原作になりますが、作品自体はご存知でしたか?
ぽん 今回のタイアップのお話をきっかけに原作を読ませていただいたんですけど、最初は小分けにして読もうと思ってたのに、結局一晩で一気に読んでしまうくらい面白くて。ジャンプの作品で「魔法律」という言葉が出てきますし、ムヒョとロージーのふたりも見るからにバディ感があるので、戦いがメインの作品を想像していたんですけど、私が思っていた以上に人との絆た人間模様が色濃く描かれていて、個人的にも大切な人の死や自分自身を乗り越えようとする姿勢に励まされたんです。その「行かなきゃ」「進まなきゃ」という気持ちをそのまま歌詞に落としこもうと思って、読み終わってすぐ制作に入りました。
小島 幽霊が出てくるクールでダークな要素は僕が元々好きなところでもありましたし、ぽんちゃんが言うように人間味を感じさせるところもたくさんあるなと思って。特に僕はムヒョとロージーのケンカするけど実は助け合うような関係性、当たり前だからこそ忘れがちな友情や愛情を思い出させてくれるような面が好きですね。でも、今回は曲を作ってから原作を読み始めたんですよ。
――それはなぜ?
小島 作品の世界はぽんちゃんが歌詞で表現してくれるし、アニメの主題歌の89秒という尺で作ることにも慣れてきたので、僕はORESAMAとしての楽曲作りに集中することで、また今までとは違う新しいものができるんじゃないかと思ったんです。
――『ムヒョロジ』のアニメ制作サイドからはどんなリクエストがあったんですか?
小島 大きかったのは「ロックなテイスト」ということで、最初は疾走感やクールなイメージで曲を作り始めました。今までORESAMAではロックというキーワードをあまり意識してこなかったので、今回は作り始める前から新しいチャレンジだったんです。ただ、僕が知ってるようなロックをそのままやるのは今のORESAMAには合わないと思ったんですよ。僕がまずイメージした「ロック」は8ビートでリズムを刻んでいるものでしたが、そこはORESAMAなりの16ビートのリズムにして、なおかつちょっと跳ねてる感じを組み込むことで、疾走感はあるけどグルーヴ感を生み出して。だから、出来上がったものは一般的には「ロック」とは呼ばれないサウンドになっていると思います(笑)。
――たしかにリズムだけ聴くとタメが効いていて、あまり「ロックらしさ」は感じられないですね(笑)。小島さんとしてはどんな部分で「ロックなテイスト」を表現したのでしょうか?
小島 僕の中ではテンポが重要で、今回は8ビートがいちばん映えるようなBPMに設定したんですよ。この曲は4つ打ちにするには速いし、もっと速ければハーフテンポでビートを取って面白いアプローチも出来たんですけど、そことも違うテンポの中で曲を構築していくことに挑戦したんです。だから最初は本当にロックらしい曲を作ってたんですけど、挑戦を重ねていくうちに、ORESAMAらしさをどう入れるかということに執着してました。
――逆に言うと「ORESAMAらしいサウンド」をあらためて見つめ直す作業になったのでは?
小島 そうですね。今までこれだけ速いテンポで16ビートのリズムを取り入れることはあまりなかったので、新しい発見もありました。速くても意外と音がガチャガチャしないし、グルーヴ感がちゃんと残るんですよ。この曲の場合は16分のギターやスラップベースとかいろんなウワモノが入ってるので、もしリズムを8ビートに変えてもわりとORESAMAっぽい曲になるんですよね。16分と16分をぶつけ合った意味でもおもしろい曲作りでした。
――たしかにシンコペーションの効いたリズムアプローチが非常に新鮮です。個人的には2番のAパートからリズムが変化して、少しレゲトンっぽい雰囲気になるところが好きでして。
小島 あそこは良い意味で違和感を加えたくて、4つ打ちを入れてみたんです。でも、ハウスでやるような4つ打ちでビートを刻んでもせわしなくなると思ったので、そこに跳ね感を加えた結果いいリズムが生まれて。サンバ感も出てると思うんですけど、普通はサンバっぽいものを入れると陽気さが出るのに、この曲の場合はそれがあまり出なかったので、思い切って入れてみました。
――ORESAMAのサウンドは「リズムの跳ね感」が肝なのかもしれないですね。
小島 そうですね、気づいたら跳ねちゃいますから(笑)。
――ぽんさんはどのような着想で歌詞を書かれたのでしょうか?
ぽん 歌詞に関しては、先ほどもお話しした通り私が原作を読んで励まされたので、そこで感じたそのままの感情を歌詞にしようと思いました。タイアップ曲を作るときは、作品のための曲でありつつ自分たちのための曲を作ることをマストで考えているので、今回も読んで感じたことと自分自身のリンクした部分を抽出して制作しました。
――今回は『ムヒョロジ』という作品のどんな部分と自分の気持ちがリンクしたんですか?
ぽん 自分自身や大切な人のために何かを乗り越えようとする姿ですね。私は生きていて、前に進みたいのにどうしても打ちひしがれてしまうことがよくあるんですけど、それは自分との闘いになるわけじゃないですか。今回は、どうしたら自分自身を奮い立たせることができるかを意識して歌詞を書いたんですけど、『ムヒョロジ』はそういう気持ちの描写が多い作品だと思うんです。みんなの強い気持ちにすごく励まされて、私も立ち止まっていられないなと思ったので。
――サビの歌詞も“走れ 走れ いつでも僕らの選んだ正義の道を”といったように、いつにも増して力強い言葉が並んでますしね。
ぽん 『ムヒョとロージー』の世界を意識しつつ言葉を選んでいったんですけど、やっぱり今までになく強くてストレートな言葉というのは意識しました。
――とはいえ、2番以降の歌詞はORESAMA自身のことを意識した部分が強くなっている印象を受けて。〈壊せ 壊せ 蔓延るステレオタイプにのまれる前に〉は自分たちの活動スタンスを表してるようですし。
ぽん 作り方としては、まず89秒の部分を作って、そこから2番以降を広げていったので、2番になるとより自分の気持ちが強くなってくるところはあるかもしれないですね。“めげそうな夜”というのは“私”の部分がより濃くなっている気がします。
――“めげそうな夜”のときはどのように解消されるんですか?
ぽん 私は落ち込むだけ落ち込むタイプかもしれないです。だからこそ、そういう自分をどう奮い立たせるかを考えて作った曲でもあります。
――小島さんはぽんさんの書いた歌詞をご覧になっていかがでしたか?
小島 いつもにも増して熱量のある言い回しが多い印象を受けましたね。音が8割ぐらい完成した状態で歌詞を書いてもらったんですけど、今回はAメロの出だしのところとか、サビの“叫べ 叫べ”のように同じフレーズを2回繰り返すところを特に重要なポイントとして考えていたので、「ここにどんな言葉を当てはめてくるかな?」と思ってたんです。そのAメロの最初のところに“生きているのか”という力強い言葉を持ってきたので、覚悟とか度胸を感じましたし、掴みの最高な歌詞だと思いましたね。歌詞の内容についてはぽんちゃんを信頼してるので何も言わないんですけど、メロディに対しての響きとかは見るようにしてて、そういう意味でも一個一個にすごく強いワードをハマり良く入れてくれたので、曲にも熱やグルーヴ感が出たと思います。
――“叫べ 叫べ”や“挑め 挑め”のようにサビで同じ言葉をリフレインするのは、曲を作った時点で意識されてたのですか?
小島 歌詞の内容まではイメージしないんですけど、メロディを作るときはいつも「ここはリピートしたい」とか「ここは名詞で終わりたい」という細かい想像をしてるんです。でも、それをぽんちゃんに言葉で説明することはほとんどなくて、例えば繰り返すところは自分で適当な仮歌詞を2回繰り返して歌ってるんですね。あとはぽんちゃんに任せる意味でも全部「ラララ~♪」で仮歌を入れてるので、基本はぽんちゃんに歌いたいように書いてもらってます。
ぽん 小島くんに「もう少し響きの良い言葉がほしい」って言われるのはサビの頭が多いよね。
小島 歌詞によってはメロディが死んでしまう場合があるんですね。それはメロディを作ってる身としては気を付けたいところだし、歌詞も同じようにつぶしてしまうことになるので、そこのハマりはどんな曲を作るときも気をつけてますね。
――曲のタイトルが「ホトバシル」ではなく「ホトハシル」になっているのも気になったのですが。
ぽん 「ホトバシル」にすると受け手の方が雰囲気を想像しやすくなると思ったんです。そこから濁音を取って「ホトハシル」にするだけで呪文っぽい響きになるし、〈「ホトハシル」って何だろう?〉って考えるきっかけにもなると思うんです。いつもより歌詞がストレートな分、タイトルで一瞬考える間があったら面白いなというのと、ビジュアル的にも気に入ったのでこのタイトルにしました。
――“呪文っぽい”というのはやはり「魔法」が出てくる『ムヒョロジ』にかけてのこと?
ぽん もちろんそうです。「呪文ならもう少し長い言葉のほうが良いのでは?」ともアドバイスをいただいたんですけど、私はこの言葉の見た目がすごく気に入ってしまったので「5文字がいいんです!」とこだわらせていただきました(笑)。
――カップリングの「ようこそパーティータウン」は表題曲から一転して、いつものORESAMAらしいディスコ・ポップな曲ですね。こちらはロッテ雪見だいふくのキャンペーン企画「【雪見だいふく】雪見家の日常はほんわりで〆る」の主題歌になります。
ぽん この曲は「ORESAMAらしいディスコの楽曲を作っていただけませんか?」というお話をいただいたことから制作を始めたんです。ご担当の方が私たちの楽曲を聴いてくださっていて、「ORESAMAの楽しい感じがいいです」というお話だったので、そこは得意分野かなと(笑)。私は今回のシングル2曲のコントラストがすごく良いなと思っていて、新しくクールな部分を打ち出した「ホトハシル」と、今までの延長線上で新しいチャレンジができた「ようこそパーティータウン」が並んでるのがすごく好きなんです。
――ひと口に「ディスコ」と言ってもいろんなタイプのサウンドがありますが、この曲は90年代っぽい明るさがあります。小島さんはどんなところにこだわって曲を制作されたのですか?
小島 先方に「家族」や「パーティー感」というキーワードをいただいたので、老若男女が聴けるものを意識して年齢層の幅を広げたメロディのアプローチをして、僕らの得意としてるディスコでパーティー感を表現しました。実はYouTubeの動画で公開されてるバージョンと今回のシングルに収録するバージョンで少しだけ雰囲気を変えていて、YouTube版は4つ打ちディスコのテイストなんですけど、シングル版はニュー・ジャック・スウィング的なリズムを取り入れたんです。
――そうだったんですね!その部分を変えた理由は?
小島 単純に僕が最近ニュー・ジャック・スウィングをよく聴いてるということもあるんですけど、アルバムの制作を挿んで、最近は4つ打ちとはまた違ったORESAMAに合うリズムアプローチを模索してるんです。「ホトハシル」もそのひとつなんですけど、この曲でも4つ打ちではないアプローチを試してみたくて、YouTubeバージョンのテイストはちゃんと残しつつ、リズムパターンで遊んでみて。今回の2曲は4つ打ちの要素は少ないですけど、それでもORESAMAのテイストを作ることができたので、ORESAMA流のディスコを拡張できた手応えは感じてますね。
――歌詞は一日の始まりや街での出会いのワクワク感が凝縮されたような内容ですね。
ぽん 今回は作品とのタイアップというよりもCMソングという立ち位置だったので、「雪見家」の世界に完全に寄せきる面白さも考えたんですけど、それはORESAMAのぽんとしては違うかなと思ったので、「雪見家」に出てくる商店街とORESAMAの世界をイコールにするようなイメージで書きました。
――先ほどの「ホトハシル」の話とも繋がりますが、この曲も2番以降は“眠れない夜には イヤホンの向こうへ いつだってハートあまやかしにきて”といったように、ORESAMA自身を思い起こさせる内容になってますね。
ぽん タイアップをいただいたときは、まず1番までを完成させて、そこから2番以降を広げていくことが多いので、どんどん自分の思いが強くなるのかもしれないです。
小島 どっちも89秒バージョンから作り始めたことも大きいかもしれないですね。曲も詞も89秒でいったん完結させないといけないので。
ぽん 小島くんも2番以降はいろんなことを始めるもんね。小島くんはよくORESAMAのことを「実験室」に例えるんですよ。そのときに聴いてる音楽の影響も出るようですし。
小島 僕は日によってモードが変わる人間なので、聴いてる曲もすぐにジャンルが変わるし、そのときのモードで作りたい曲もどんどん変わっていくんですよ。その中でORESAMAにはディスコという軸があるんですけど、僕が求めるのは「気持ちいい違和感」なんです。今はORESAMAで気持良さと気持ち悪さのはざまのちょうど良い違和感、聴いたらクセになる感覚を追い求めてジャンルや音色の融合を研究してるところなんです。
――小島さんが最近刺激を受けた音楽は?
小島 最近だとチャーリー・プースの新作(『Voicenotes』)がミディアムからスローテンポのグルーヴ感やメロディがすごく良かったですし、Vulfpeck(ヴルフペック)というアメリカのバンドも好きですね。ヴルフペックはグルーヴもすごいんですけど、音色の作り方が面白いんです。ビンテージ感のある音なんですけど肉厚かつ濃厚で、それでいて跳ねてる軽快さもあって。彼らが開発に関わっている音楽制作用のプラグインがあるんですけど、僕も制作に導入してて、最近の曲ではガンガンに使ってます。
――それはどんなプラグインなんですか?
小島 「ようこそパーティータウン」にも使ってるんですけど、スネアとかにそれをかけるとローファイなビンテージ感のある音になるんですよ。ハイファイなキラキラしたシンセサウンドの中にそういった音を入れることで、おもしろいテイストの違和感が生まれるんです。
――ぽんさんは最近、音楽に限らず刺激を受けたものはありますか?
ぽん 私はすごく遅いかもしれないんですけど、最近初めてIMAX 3Dの映画を観たんです。私はテーマパークに行っても、3Dのアトラクションは焦点があまり合わないタイプなんですよ。だから『ジュラシック・ワールド/炎の王国』を観に行ったときも「いつもの感じかなあ」と思っていたんですけど、もう恐竜がすぐそばにいて……なんか自分も頑張らなくちゃなと思いました。
小島 えっ、どういうこと?(笑)。
ぽん だってそういう技術は日々進化してるんだよ。映像の中の虫も本当にすぐ近くにいるみたいに出てきたし、私たちとはジャンルが違うけど、世の中には人を楽しませるために命を削ってる人がたくさんいるんだろうなということをすごく感じて。
――さて、カップリングを含む2曲で新境地を拓いた今回のニュー・シングルのリリースに続き、9月13日にはワンマンライブ“ワンダーランドへようこそ~in AKASAKA BLITZ~”の開催を控えています。
ぽん 今までのワンマンライブでは回を重ねるごとにスパイスを加えていって、いろんな自分たちを見せられるようにしてきたんですけど、今回はそれを上回るライブになると思うので、あらゆる面で新しいORESAMAを楽しんでいただけたらと思います。
小島 今回のシングルで新しいリズムアプローチに挑戦してるので、ライブでそれをどのくらい表現できるかという部分もありますし、今回は楽器隊の強化を図ってるので、より生のグルーヴ感を感じられるようなアプローチができたらと思います。
――IMAX 3Dのように飛び出す演出もあると楽しそうですが。
ぽん 面白そうですね!(笑)。それと先日、アニサマ(Animelo Summer Live 2018”OK!”)に出させていただいたので、そこで一瞬でも「楽しい!」と思ってくれた人にはぜひ来ていただきたいです。たっぷりとORESAMAワールドに連れて行きます!
Interview & Text By 北野 創
●リリース情報
6th SINGLE
「ホトハシル」
8月22日発売
品番:LACM-14792
価格:¥1,200+税
<CD>
01. ホトハシル
02. ようこそパーティータウン
03. ホトハシル -Instrumental-
04. ようこそパーティータウン -Instrumental-
●ライブ情報
ワンマンライブ
“ワンダーランドへようこそ~in AKASAKA BLITZ~”
2018年9月13日(木)
マイナビBLITZ赤坂
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