映画『リズと青い鳥』のED主題歌を歌うHomecomings。淡々とした良質なメロディの中に躍動する強い思いを感じる「Songbirds」。それは映画にも通じるところがある。ボーカル&ギターの畳野彩加に話を聞いた。
――映画『リズと青い鳥』を観ていかがでしたか?
畳野彩加 すごく好きな映画でした。私はそれほどアニメを観ないというか、普通くらいなんですけど、すんなり入れる感じがしました。アニメなのにアニメっぽくないと言ったら変ですけど、でもそこが感情移入できた理由だと思うんです。なのですごい泣きましたね(笑)。ボロボロ泣きました。もうグッとくるところがいっぱいあったんです。
――女の子同士の「好き」って、そこには憧れとか嫉妬とか、いろんなものが詰まっていて、そういうところを描いた作品だったと思うのですが、それは同性のほうがよくわかるのかなって思いました。
畳野 はっきりさせたくないというか。はっきり言えないし、嫌いとも言えない。好きというのも照れくさい。でもずっと私のところにいてくれるものだと思っているというか。そこに依存しているところもあるし……。それは女の子だからわかる感情でもあるかもしれないんですけど、全部に共感するというか、共感するところが人それぞれ違うと思うんです。なので、そこまで描いていることが、まずすごいというか。あのテンションをアニメでやっているのが私は衝撃だったんですね。そのくらいちょっとしたことを繰り返すんですよね。大きな出来事があるわけではないのに。
――そうですね。それなのに最後まであっという間に観れてしまうのが、山田監督のすごいところだと個人的にも思います。
畳野 キャラクターの表情が豊かに思えたんですよ。でも何も言わないじゃないですか。セリフも少ないし、最初もじわ~~っと始まる。それがすごく良かったし、何も言わないんだけど、こっちが自然と感じ取っちゃってるところがすごいと思いました。
――監督は、言葉で発したことが正解ではないとよく言っていますよね。
畳野 それは思います。ふたりの癖とか、髪の毛を触るところとかが、すごく目に入ってきて、たぶんこういう事を言いたいんだろうなって思ったので、それを観る側に感じさせることがうまいと思いました。作品に対する熱量がすごくて、一つひとつに対するこだわりがすごい。作品を作ることに対する姿勢がめちゃくちゃ強くて、そこは私たちとの共通点ではあるんですけど、ひとつの作品に向かってるときに、そこに集中している感じが共感できるんです。
――その映画の最後に自分たちの曲が流れたことについてはどうですか?
畳野 ドキドキでした(笑)。みんな帰っちゃうんじゃないかと不安でした。
――先に牛尾憲輔さん作曲のEDテーマが流れたあとでしたからね。
畳野 あそこで一度終わった感じがあるじゃないですか。まだあるからねって(笑)。でもめっちゃ感動しました。映画館の音もピッタリで、山田監督が訳詞を乗せてくれたのがすごくうれしくて。Homecomingsのことを好きと言ってオファーをしてくれたので、そこの理解をしてくれているし、フォントにもこだわってくれて……。ちょっと斜めになっていたじゃないですか。そこまでホムカミの世界観を理解して、力を入れてくれたことに感動しちゃったんです。なので歌詞を読みながらボロボロ泣きました。本当にいい映画で、良い曲だなぁって。自分たちの曲なのに(笑)。
――監督が好きでオファーをくれたとのことですが、突然でした?
畳野 はい。もうびっくりしました。うちのベースの福田穂那美が山田監督の作品を好きでしたし、「あの山田監督の新作?」って感じでした。(『けいおん!!』とかの聖地でもある)叡山電鉄が通るところに大学があったので、監督のことはメンバーもみんな知っていて。驚きでした。
――でしたら、悩む間もなく引き受けて?
畳野 間もなかったです(笑)。
――なんでオファーが来たんだろうとは思いましたか?
畳野 そうですね。なんでオファーが来たんだろうとは思ったんですけど、それは会った瞬間にわかりました(笑)。ラフ・トレードというイギリスのレーベルのトートバックを持っていたので、「あぁ~、はい」って。もう話が早いと思いました。音楽にもすごく詳しかったのでビックリしました。
――打ち合わせも早かった?
畳野 早かったです。山田さんが好きで聴いてくれていたことが大きかったです。私たちは、映画やアニメ主題歌なので英語よりも日本語だよねってことで、山田さんに「日本語でもいいと思っているんですけど」と言ったら、「いやいやいや」と(笑)。「今まで通りのHomecomingsでやってください」と言われたので、それで(打ち合わせは)終わりという感じでした。
――日本語詞の曲もあるんですか?
畳野 カバー以外は、今のところは全部英詞ですね。
――山田監督は、曲を聴いて何か言われましたか?
畳野 すごく喜んでくれました。山田さんが、ここのギターの音をもうちょっと大きくしたほうがエモくなる気がしますと言ってくれたので、そこは大きくしました。本当にそのくらいで。
――主題歌を制作するうえで、これまでの作曲と変化したことはありましたか?
畳野 それは全然なくて、本当に気張らずに、今まで通りのHomecomingsで、かつ『リズと青い鳥』の雰囲気に合うもの、そしてエンディングに流れていそうな「良い曲」を作ろうというだけでした。『リズの青い鳥』の映画内容と雰囲気は全員で共有できていたので、そこから先はいつもと変わらず。特別なことをしていないからこそ、すごく良いものができたという感じがします。
――福富優樹さんの歌詞がすごく良かったのですが、彼の歌詞の良さというのはどこにあると思いますか?
畳野 福富くんは背中を押してくれる歌詞を書かないんですよ。人に対してというよりは自分に対する歌詞なのかなと思っていて、だから意外と淡々と物語が進んでいくんです。それに歌詞というより詩(ポエム)っぽいんですよね。だから歌っぽくはない詩なんですけど、それを英語にしているから歌にできるのかなと思います。
――日本語の詩が先にあるんですか?
畳野 そうです。日本語で詩を書いてから、英詞にして歌にしてるんです。で、最後にメロディを作る感じですね。
――春の曲、爽やかさがある曲だと思いますが、サウンドには、どんなこだわりがありますか?
畳野 春の曲というのはなかったので新鮮だったんですけど、アレンジも特に苦労はしなかったです。さらーっとできたものが、めっちゃ良いじゃんみたいな(笑)。だからこだわったところはそんなにないんですけど、なるべくコーラスを多くしました。間奏の間で入ってくるコーラスワークを凝ってみたんですけど、それもこれまでやってきたことではあります。
――すごく作品にもマッチしていたし、こんないいバンドがいたんだと、正直思いました。
畳野 あははは(笑)。良かったです。そうなってくれよって思っているので。この曲を作ったとき、このテンションでこの曲を作れるバンドって今いないんじゃない?ってエンジニアさんが言ってくれたんですけど、それを言われてハッとしたんです。
――音楽をしてる喜びを感じるんですよね。音を出す喜びというか。しかもすごくシンプルな良い曲を作っている。
畳野 アナログなやり方でやっているので(笑)。パソコンで作り込むやり方もしているんですけど、やっぱりこうやって自然に出てくる曲がいちばんいいなと思うんですよね。ただ「良い曲」をもっと「良い」と思ってくれたらいいなって思います。
――やはり大事にしているのはメロディですか?
畳野 すごく大事にしています。全部の曲に言えることですけど、歌が基本的に大事じゃないですか。そこのメロディラインというのはめちゃめちゃこだわって作っています。
――そしてカップリングの「Play yard Symphony(for New Neighbors)」ですが、これはすでに発表されている曲です。作品の世界観にも通じる曲なので、バージョン違いで収録されています。
畳野 本当にたまたまなんですけど、この曲でテーマにしていた箱庭感が、『リズと青い鳥』のイメージに合っていたんです。『リズの青い鳥』も学校内から一歩も出ないで、鳥カゴをイメージしていると(監督は)言っていたんですけど、Homecomingで最近やっていたことが、山田監督の言いたいこととたまたま一緒だったので、これはすごいぞ!ということで、入れようと思いました。アレンジは、4人でアコースティックライブをするときにやっているアレンジになっています。あと1曲の「Songbirds(Miniascape sunset)」ですが、これはチェロが入っているバージョンで、もう少し部屋っぽい感じでやりたいと思ったので収録しました。すごく「Songbirds」に寄ったシングルになっていると思います。
――この曲で、もっとHomecomingsが広がってほしいと思いました。最後になりましたが、Homecomingsのメンバーについて、少し紹介をお願いします。
畳野 初めて聞かれました(笑)。ギターの福富優樹は私の高校生からの同級生で、今年で12年目なんです。すごく愉快で繊細で人見知りですね。ベースの福田穂那美は、髪の毛を明るくしたり、自分のことは積極的に変えていくのに、表に出ると消極的でマイナス思考で控えめなんです。けどすごく謙虚で、思いやりがあって、人のことを思ってくれる温かい人です。そしてドラムの石田成美は、すごく不器用かもしれないです。さっきからマイナスなことしか言ってない気がするんですけど、すごくシャイなんです。でも、自分のことをよくわかっているんだろうなと思います。多くは語らないタイプですけど、すごく優しくてユーモアがあって真面目で愛らしい人だと思います。
――最後に畳野彩加さんは?
畳野 女の子ふたりは吹奏楽部なんですけど、私はスポーツガッツガツにやってたので、ふたりに比べたらそういう感じかもしれないです(笑)。私もシャイではあるんですけど、4人のなかならいちばん社交的で、いろんな場所に行ってみたいし、飛び込んでいこうとするタイプです。でも私もすごくシャイなので、あんまりイエーイってタイプではないです。でも、それぞれ人間らしい人たちで、音楽がすごく好きだし、映画も本も大好きです。仲良さそうとか言われるんですけど、制作のときはバッチバチだし、でも繊細だからみんなあまり言わない、みたいなところもある。バンドあるあるだと思いますけど、そういう中から生まれる曲もあるんですよね。
――そうですね。でも基本は仲が良いんだろうなと思います。それじゃないと続かないですし(笑)。
畳野 そうですね、一歩超えた感じはあります。友達でもないし仕事仲間でもないし、家族とまではいかないけど、それに近いものって感じはするので、変な感じです(笑)。
Interview & Text By 塚越淳一
●リリース情報
主題歌
「Songbirds」Homecomings
発売中
品番:LACM-14743
価格:¥1,200+税
<CD>
1.Songbirds
作詞者:福富優樹 作曲者:Homecomings 編曲者:Homecomings
2.Play Yard Symphony (for New Neighbors)
作詞者:福富優樹 作曲者:畳野彩加/福富優樹 編曲者:Homecomings
3.Songbirds (Miniascape sunset)
作詞者:福富優樹 作曲者:Homecomings 編曲者:Homecomings
【スタッフ】
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
楽器設定:髙橋博行
撮影監督:髙尾一也
3D監督:梅津哲郎
音響監督:鶴岡陽太
音楽:牛尾憲輔
音楽制作:ランティス
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
吹奏楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹
【キャスト】
鎧塚みぞれ:種﨑敦美
傘木希美:東山奈央
リズ/少女:本田望結
中川夏紀:藤村鼓乃美
吉川優子:山岡ゆり
剣崎梨々花:杉浦しおり
黄前久美子:黒沢ともよ
加藤葉月:朝井彩加
川島緑輝:豊田萌絵
高坂麗奈:安済知佳
新山聡美:桑島法子
橋本真博:中村悠一
滝 昇:櫻井孝宏
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
SHARE