この4月に放送も物語後半に突入し、佳境を迎えつつあるTVアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』。TRIGGERとA-1 Picturesによる共同制作、多くの謎と伏線を張り巡らせたストーリー、キャラクターたちが戸惑いながらも前を向いて進む群像劇など見どころは多いが、劇中に登場する5人の少女たちによるユニット、XX:me(キス・ミー)が歌うEDテーマもまた、本作を魅力的に彩る要素のひとつだ。
アニメ本編の展開とシンクロするように切り替わるそれらのEDテーマを制作したのは、乃木坂46や家入レオらへの楽曲提供で知られる作曲家の杉山勝彦。昨年には声優ユニットのNOW ON AIRに「キボウノカケラ」などを書き贈った彼が、今回は全6曲のEDテーマを一括で手がけることで『ダリフラ』という作品により一層の深みを与えている。杉山がその楽曲群で描いた「並行世界」とはどんなものなのか?本人に話を聞いた。
――杉山さんはこれまでアニメ音楽に関わることは少なかったですが、今回はどういった経緯で『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のEDテーマを手がけることになったのですか?
杉山勝彦 錦織(敦史)監督が僕の書いた乃木坂46の曲をすごく気に入ってくださっていて、山内(真治/アニプレックスの音楽プロデューサー)さんを通じてご相談いただいたんです。2クールで6曲もエンディングがあることに驚きもあったんですけど、それこそアーティストがアルバムを1枚制作するのと同じような形で、ひとつの作品の中に起承転結を持たせたものを作ることができるので、面白そうだなと思いました。
――ひとつの作品のテーマ曲を複数、しかも作詞・作曲・編曲すべてを一括して手がけるというのは、杉山さんにとっても珍しいお仕事だったのでは?
杉山 初めてのことでしたね。僕はTANEBIというグループでアーティスト活動もしてまして、そちらでは基本相方(上田和寛)との共作で全部の曲を作ってるわけですけど、作家としては多くても1枚のアルバムの中で3~4曲を提供するぐらいなので。だからめちゃくちゃ面白そうだと思いましたし、いわゆる(シングルの)表題曲らしいキャッチーさがなくても良い曲だったり、作品を観てる人が(複数の)曲を並べて聴いたときに良さが増す楽しみ方もあると思うんですよ。今は単曲買いの時代なので時代錯誤な考え方なのかもしれないですけど、僕はそういう音楽にワクワクして音楽を始めた人間なので、今回こういうことに挑戦できるチャンスをいただけたのは幸せでした。歌詞も全曲ひとりでやると良くも悪くも統一感が出ると思いますし。
――アニメ制作サイドからはどのような楽曲を求められたのでしょうか。
杉山 まず『ダリフラ』の世界観そのままではなくて、パラレルワールドというか並行世界を描いてほしいということだったんです。「『ダリフラ』に登場する少女たちが、精神性はそのままに今我々がいる普通の世の中にいたらどんなことを言うんだろう?」というのがいちばん大きい部分ですね。それとEDテーマが変わるタイミングとか、特定の回で使う曲があるので、そこのイメージを最低限伝えていただいたうえで、結構自由に作らせていただきました。
――並行世界とは具体的にどんなイメージで書かれたのですか?
杉山 まず、その世界にはどんな子がいるのかを、普段してることや家族構成なんかを含めて考えて、実際にストーリーを組み立てていくようなイメージで設定を作ったんです。『ダリフラ』の主人公の子たちはみんなパラサイトとして優秀なので、もし並行世界にいたとしてもインテリだと思うんですね。そこから、校則の厳しい進学校で大人たちに縛られながら勉強をしてるけど、実はやんちゃな発想も持っていて、何かおかしいと感じてる子たちという設定にして、どの曲もそのイメージから逸脱しないように作っていきました。
――EDテーマは『ダリフラ』本編のストーリー展開に沿って変わっていきますが、『ダリフラ』の世界観と密接にリンクしながらも、パラレルワールドとして独自の物語が繰り広げられてきますね
杉山 『ダリフラ』では好きな人ができることで、世界の見え方が変わる瞬間というのが描かれてると思うんですけど、それが(EDテーマで描かれる)並行世界にもあるんですね。例えば「トリカゴ」(1曲目のEDテーマ)と「Beautiful World」(3曲目のEDテーマ)は歌詞的に全部繋がってるんですよ。「トリカゴ」の主人公は教室の窓越しから空を見ていて、本当はやりたいことがあるけどその<才能(チカラ)>がなくて嘆いてるだけの状態なんですね。そんな<ボク>に「何で空を見てるの?」と声をかけてくれる人が現れて、自分だけが抱えてた「なぜ空はキレイなのか?」という疑問に関心を持ってくれたことで、窓を開けて空を見るようになるんです。そこに<青空が 触れそうなほど 鮮やかに見えて>という視覚の変化が起こるわけですが、それは主人公の気持ちの表れでもあって、空がより近くになったことで世界は美しかったことに気づくんです。それが<君がただ ボクの名前をね 声にするだけで 自由になれる 気がしたんだ>と歌ってる「Beautiful World」で、その変化は同じ教室内で起こってることだし、その後の曲でも連作のようにお話が続いていくんです。
――それはサウンド面でも感じられることで、「トリカゴ」と「Beautiful World」、そして5曲目のEDテーマ「escape」はストリングスをフィーチャーすることで共通性を持たせているように思いました。
杉山 「トリカゴ」の弦は攻撃的な音なんですけど、「Beautiful World」の弦はすごく柔らかい音なんですよ。あれはエンジニアの岡村弦さんという方が楽曲のテーマを噛み砕いて理解してくださって、ダビングするときにリボンマイクという音がマイルドに録れるマイクでも録るように提案してくださったんですよ。それぞれの曲のメッセージ性やポジションがどういうものなのかを考えながら制作できたのがすごく良かったです。
――「トリカゴ」はアグレッシブな弦やマイナー調のメロディから曲の主人公である優等生が閉塞感を感じて苦しんでる様子が伝わってきます。サウンド面で他に工夫したことはありますか?
杉山 例えばドラムの打ち込みにしても、ずっと同じテンポ感なんですけど全部をジャストのタイミングで打ち込んではなくて、すごく前にいくところとそうではない部分があるんですよ。弦を演奏されてる方にも攻撃的に弾いていただくようにお願いしましたし、言葉の面でもかなり緻密に計算して作ってます。おもしろかったのは、山内さんがサビのメロディを聴いたときに「リズムを呼んでる」とおっしゃられて(※譜面参照)、
メロディがドラムのキックパターンを呼ぶことがあるんだと思って新鮮でしたね。僕はどちらかというとそういう動きから意図的にズラすことが多かったので。
――第7話のみでオンエアされた2曲目のEDテーマ「真夏のセツナ」は、登場人物たちが海水浴を楽しむ本編のストーリーにマッチした夏っぽい曲調ですね。イントロで男声のハーモニーが入るところはビーチ・ボーイズっぽいですし、全体的にアイドルポップ的な印象を受けました。
杉山 この曲は「夏の小休止」というテーマだったので、もうコテコテのものを書きました(笑)。ただ、3曲目の「Beautiful World」もそうなんですけど、サビ頭からすごく華やかでキャッチーなものにするとフィナーレ感のある曲になってしまうので、そうならないようには気を付けました。恋愛がメインのお話ですけど、この段階では恋がひとつの気付きの段階でしかなくて、まだ続いていくわけですから。あえてシーンとか楽曲の立ち位置を大事にして作ってます。
――「Beautiful World」は先ほどお話いただいたように「トリカゴ」の続きのストーリーが描かれてますが、EDアニメが曲の世界観とシンクロしていて非常に見応えのあるものになっています。EDアニメはご覧になっていかがでしたか?
杉山 特に曲が入るタイミングはどの回もすごく考えて作ってくださってるんだなと感じました。アニメを観てキャラクターに思い入れが出てくると、そのキャラの絵が出てきたときは曲も本当に今までと違って聴こえますし、曲の印象も変わるんですよね。僕は脚本から読み取ったものをパラレルワールドに持っていって歌詞で表現したわけですけど、それをさらに解釈してより伝わりやすいものとしてビジュアルに落とし込んでくださってるので、すごく循環してると思います。
――第13話のエンディングで使われたゼロツーのソロ曲「ヒトリ」は、どのようなイメージで作られたのですか?
杉山 この曲には主に「ゼロツーの幼少期の心象風景」というテーマで作ったんですけど、それは特殊なものじゃないですか。なので、一般の人にもある程度共感してもらえるものにする必要があると思って、サビのフレーズは<“ふつう”が良くて そうありたくて>にしたんです。「普通」の定義にもよりますけど、多くの人がそういう葛藤を一度は経験したことがあると思いますし、第13話を観たあとにそういう歌詞を戸松(遥/ゼロツー役の声優)さんの声で歌われたらグッとくるだろうなと思いまして。あとは公園で遊んでる子供をひとりで見てるときの孤独感というか、そういういつも以上に孤独を感じさせるものを意識して書きました。
――歌詞にもサウンドにもどこかもの悲しい雰囲気がありますね。
杉山 2番の歌詞に<ぬくもりさえも 知らずにいれば こんなにも 切なさを 感じずにいられたの?>とありますけど、でもどこかでまた出会えるであろうことを想像し続けてるから歩いていけるし、曲の最後では<普通らしさを今日も探す>と歌っていて。それはゼロツーが人間になりたいと願う『ダリフラ』の物語とシンクロしてるんですよ。それと、この曲の歌詞は回想から入るので、例えば戸松さんの声をあえてダブリング(同じ歌唱パートを複数回録音して重ねる手法)にして憂いてる感じを出したり、楽器もビブラフォンやトレモロのギターとかの揺らし系で統一して、他の曲とは世界観が違うということを表現してます。
――5曲目のED「escape」はどんなテーマで作られた楽曲ですか?
杉山 この曲は「僕たちの失敗」というのがテーマで、曲名も「現実逃避」ということですね(笑)。鳥かごの外に出てみたけど、実際はどうにもならなくて、もうどうでもいいやっていう。「トリカゴ」を作ってるときからリズムのイメージは何となくあって、単純に「失敗」だけではなくて「諦めを口にしてる時の自己陶酔」というキーワードもあったので、縦ノリではなくてゆらりゆらりとしたリズムにしようと思ったんです。
――諦念を描いた曲とはいえ、5人の歌声は力強いですし、サビの箇所には4つ打ちのビートが挿入されるなど、悲壮感みたいなものはあまりないですね。
杉山 以前に何かの本で「人間は本当に絶望しきったときはスッキリする」という話を読んだことがあるんですけど、この曲は絶望しきってないからスッキリしてないという温度感なのかなと思ったんです。<ボクと君は 出逢わない方が良かったかな?>と言いながら<青白い顔してる 君を美しく思う>と言ってますし。この曲はミュージシャン仲間に聴かせると、すこぶる評判がいいんですよね。
――『ダリフラ』のEDテーマは杉山さんにとって新しい挑戦の多い作品になったと思いますが、今までの自分のお仕事やディスコグラフィーの中でどういう位置づけの作品になったと思いますか?
杉山 作家として自分のやれることは全部詰まってると思うし、すごく大事な作品になったと思います。僕が作曲家としてどういうことをやってきたのかがわかりやすく詰まってますし、僕は普段新しい曲を作ったときは、ミックスまで完成させると軽いプチ失恋感があって、そこからそんなに聴かなくなるんですね。それが『ダリフラ』の曲はもう一回再燃するというか、自分でもお気に入りで珍しいぐらいよく聴いてるんですよ。
――それだけご自身にとっても満足いく作品になったんでしょうね。
杉山 自分で作ったときと、声優さんにレコーディングしていただいたとき、それと岡村さんにミックスしていただいたときで楽曲の印象が変わりましたし、それがアニメでオンエアされて、声優さんの演技とかも知ることで自分の中で全然変わってきて。今は新しい回を見るごとに印象が変わっていってるんですよね。それは自分にとっては新しい経験ですし、満足感というよりもその変化を噛みしめるために聴いてる感じですね。願わくばみなさんにも全曲を続けて聴いてほしいです。
Interview&Text By 北野創
●リリース情報
『ダーリン・イン・ザ・フランキス』エンディング集 vol.1
発売中(3月28日発売)
【初回仕様限定盤(CD+DVD)】
価格:¥1,800+税
<CD>
1.「トリカゴ」
2.「真夏のセツナ」
3.「Beautiful World」
4.「トリカゴ (TV Size ver.)」(歌唱:ミク)
5.「真夏のセツナ (TV Size ver.)」(歌唱:イチゴ)
6.「Beautiful World (TV Size ver.)」(歌唱:ゼロツー)
<DVD>
ノンクレジットエンディングアニメ
「トリカゴ」「真夏のセツナ」「Beautiful World」
『ダーリン・イン・ザ・フランキス』エンディング集 vol.2
6月27日発売
【初回仕様限定盤(CD+DVD)】
価格:¥1,800+税
<CD>
「ひとり」を含むエンディング3曲
キャラクターソロver・TVサイズ収録予定
<DVD>
ノンクレジットエンディング
●作品情報
TVアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』
放送中
TOKYO MX 毎週土曜23:30~
とちぎテレビ 毎週土曜23:30~
群馬テレビ 毎週土曜23:30~
BS11 毎週土曜23:30~
ABC朝日放送 毎週土曜26:29~
メ~テレ 毎週土曜26:39~
広島ホームテレビ 毎週木曜27:00~
BSS山陰放送 毎週金曜26:18~
BBCびわ湖放送 毎週月曜26:45~
※放送開始日・放送日時は編成の都合等により変更となる場合がございます。予めご了承ください。
©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会
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