REPORT
2017.04.12
2017年3月29日、緒方恵美のハイレゾ試聴&トークイベントが、Gibson Brands Showroom TOKYOにて開催された。今回のイベントは、2月1日にリリースされた緒方恵美の最新アルバム『real/dummy』のハイレゾ版『real/dummy High Edition』を極上の音響設備で聴きながら、緒方恵美とアルバムの制作を担当したランティスの音楽プロデューサー・佐藤純之介による楽曲解説を聞くというもの。高品質のハイレゾ・サウンドを大音量で体感し、さらにふたりの軽妙なトークを楽しめる、充実した内容となった。
イベントは、各楽曲のサビ部分まで聴いたあと、2番目以降はバックに流しながら、ふたりがその曲について語り合う、いわば「副音声的」スタイルで進行。制作の裏話や音へのこだわり、楽曲の聴きどころなど、時間の許す限りたっぷりと話を聞かせてくれた。
ハイレゾは96kHz/32bit版の音源を使用し、MacBookからAudirvana Plusにて再生。 TEACのDAC・UD-503とONKYOのパワーアンプ・M-5000R、そして、B&Wのスピーカー・MATRIX 801という贅沢な環境で試聴することができた。
なおイベント時には参加者がイベントの模様をTwitterにて発信することができ、楽曲をハイレゾで聴いた感想や、ふたりの発言を書き起こすツイートが多数投稿され、ハッシュタグの“#オガタ”がトレンド入りするほどだった。
登壇した佐藤純之介から紹介を受け、「アシスタントの緒方恵美です!」と初々しく「新人声優」を装い、笑顔で応える緒方恵美。会場が笑いに包まれ、和気あいあいとした雰囲気でイベントはスタートした。
『real/dummy』の制作が始まったのは2016年の春のこと。前作のアルバムにも参加している佐藤純之介によれば、緒方恵美の声をよりリアルに収めるため、マイクのセッティングや録音方法をもう一度見直して、レコーディングを始めたとのこと。レンジが非常に広く、また倍音の成分も多い、緒方恵美の声の要素を余すところなく収録することに注力し、佐藤氏が得意とするハイレゾによるレコーディング手法をさらに突き詰めて、作業を進めたそうだ。レコーディングスタジオの大きなスピーカーで、今までにない自身のリアルな声を聴いて、大変驚いたと語る緒方恵美は、「それを今回皆さんにも体感してほしい」と続ける。そして、佐藤氏の合図でアルバムの1曲目から試聴が始まった。
『real/dummy High Edition』のレビューはこちら
作詞:em:óu 作曲・編曲:中土智博
■通常のマイクに加えて、立体的な録音ができるダミーヘッドマイクをレコーディングに使用した、アルバムのリード曲。実際にすぐそばにいて耳元で囁かれているような、非常にリアルな臨場感で緒方恵美の声を体感することができる。
緒方 何度聴いてもおかしい曲ですよね(笑)。
佐藤 緒方さんからのリクエストで作ったんですよ!(笑)。CDよりもハイレゾの方がより音のレンジが細く聴こえるので、ダミーヘッドの効果が強烈ですね。
緒方 ダミーヘッドマイク自体は副業の声優でやってるので(笑)、慣れているんですが、これは驚きでしたね! 自分の声にビックリしました。
佐藤 レコーディングスタジオでは、左側にボーカル・ブースがあって、その中に緒方さんがいてダミーヘッドマイクに囁いています。僕はヘッドホンでモニターしているのですが、緒方さんが向こうの方にいるのに、声がここから(後頭部付近を示す)聴こえるんですよ。あれは新鮮な体験でした。
緒方 この曲は人間の内面をダミーヘッドマイクで表現する、自分にとって新しい試みとなりました。レコーディングのときは、ダミーヘッドマイクにウィッグとメガネを付け、カーディガンを着せて、髪を触りながら録ったり、腕をまわして囁いたりしているので、後ろからハグされているようなイメージで聴いてほしいですね。
佐藤 僕はダミーヘッドマイクに、“カヲルくん”と名前をつけました(笑)。さてプロの、特にベテランの声優さんのスゴいところは、マイクのコントロールです。距離と表情を同時にコントロールすることによって、言っているセリフの説得力が増すんですね。今回、緒方さんはそれをダミーヘッドマイクで角度をつけながら同時にやっています。そのリアリティに圧倒されました。
緒方 ありがとうございます。
佐藤 ハイレゾがあって、さらに経験値から基づく実力やノウハウですね。これは緒方さんだからこそできた表現かなと。ただ単に僕が機材を揃えてやりましょうでは、できなかった曲だったと思います。この曲は僕にとっても印象的で、次へのステップの礎となる曲になりました。
作詞・作曲・編曲:ミト
■クラムボンのミトによる作詞・作曲・編曲の、ノリのいいダンサブルなロック・ナンバー。サビ前には、“「2度と離さない」” “「君を連れて行ってあげるよ」”などの決めゼリフが挿入されており、例えれば少女漫画の王子様視点からのイメージで歌詞が展開されている。
佐藤 王子様感たっぷりですよね。
緒方 ミトさんは音楽好きでもありますが、無類のアニメ好きでもいらっしゃる。そのオタク部分で私が自分では恥ずかしくて書けない「王子様的」な歌詞を書いてほしいとお願いしたらこの曲が。なんだこの世界は!(笑)。最初は出てくるセリフがもっとイッちゃってる……いや素晴らしいセリフを書かれていたんですが(会場笑)、そこまで行ってしまうと別のドラマCDになってしまうのでということで、今の感じに落ち着きました。おかげでライブでは大変盛り上がる曲になりました。
佐藤 ダンスもカッコよかったです!
緒方 副業の前にミュージカルもやっていたので。
佐藤 今作には緒方さんがこれまでにやられていたことが、いろいろと反映されていますよね。
作詞:RUCCA 作曲:五条下位 (Arte Refact) 編曲:fandelmale (Arte Refact)
■アニメ化もされたゲーム『蒼の彼方のフォーリズム』のラジオ番組テーマ曲。躍動的なサウンドにキャラクターをイメージした中性的な歌声が爽やかに広がっている。
緒方 これだけ2、3年前ぐらいに録ったものですね。
佐藤 そうですね。CDしかリリースはされていませんが、録音はハイレゾで始めています。なので、この時代に作ったものも違和感なくアルバムに収まったかなと思います。今のこのシステムで気づいたのですが、ギターがめっちゃカッコイイ。音の太さとかが、これくらいの大きいスピーカーだとガツンときます。スタジオで聴いているのとはまた違った印象を受けますね。
作詞:em:óu 作曲・編曲:渡部チェル
■ミドルテンポのサウンドに陰りのある歌声が切なく響く、Xbox Oneソフト『ミステリートF -探偵たちのカーテンコール-』の挿入歌。緒方恵美は、本作の主人公である凄腕の探偵、八十神かおる役を演じている。花澤香菜も氷川マイ役で出演しており、主題歌「Night And Day」は自身のアルバム『Blue Avenue』(2015年4月)に収録されている。
緒方 『ミステリート』の挿入歌として作ったんですけど、ゲームは未だに完成していないんです。花澤香菜ちゃんの主題歌はさらに1年ぐらいに前に完成しているのに、ゲームはまだ出ないという(笑)。
佐藤 この曲のスゴさは皆さん聴いておわかりになる通り、Aメロの歌いだしの低さです。普通の女性だと絶対出ない低さで、でも言葉がはっきりと伝わる明瞭感があります。このレンジの広さは緒方さんでないと歌えないですね。この曲では、緒方さんの声の低い成分を上手に使いたかったんで、マイクをいろいろと試してみて、最終的にはビンテージの真空管マイクに辿り着きました。緒方さんの声の太い感じや広さをうまく捉えてくれました。古くて実績のあるマイクを最新のハイレゾで録ったということに意味があるのかなと思います。
緒方 録った音ってマイクによって、本当に違いますよね。今の時代でホントよかった!(笑)、機材も録音方法も。
佐藤 時代が緒方さんに追いついたんですよ!(笑)。
作詞・作曲・編曲:Neru
■緒方恵美も【歌ってみた】「脱法ロック」の作者Neruによる書き下ろし曲。疾走感のあるサウンドが魅力的なナンバーだ。
緒方 ニコニコ系の作家さんのNeruくんに書いてもらったんですが、すごく好きな曲です。そして今びっくりしました! 録ったときは動画のイメージが強かったんですが、今このスピーカーで聴くと、ライブ感がめちゃめちゃありますね。
佐藤 ドラムも打ち込みではあるんですが生っぽい打ち込みをしていただいています。ハイレゾだとビートのアクセントがよりはっきりと聴こえますよね。
緒方 ライブのときサビの部分では、“進め進め”と拳を突き上げるんですけど、レコーディングのときも実はやっていて。この辺で、“進め進め”とアタックをかけてやっていた、そのときの動きを思い出したぐらい、やっぱり音響設備スゴいですね。
佐藤 細かなニュアンスまで届けることができるようになったのはいいことですよね。
緒方 大変だよ。スピーカー欲しくなってしまったよ! どうしてくれるんだよ(笑)。
作詞・作曲・編曲:葉山拓亮 Chorus:川村ゆみ
■w-inds.や関ジャニ∞、また自身もメンバーである“Tourbillon”のヴォーカル・河村隆一などに楽曲提供を行なっている葉山拓亮が手がけたバラード・ナンバー。『ペルソナ』シリーズでもおなじみ、川村ゆみがコーラスに参加している。
佐藤 「二人の方舟」はライブも印象的でした。このアルバムのリリース後、いわゆる『バックハグ・サラウンド・ライブ』と名づけた4chサラウンド・ライブというものをやらせていただきました。スピーカーを後ろにも設置して、この曲では、前からは緒方さんの声、後ろからは川村さんの歌が流れるようセッティングして、お客さんの席で聴くとふたりの声に挟まれているように聴こえるんです。
緒方 私ステージに立っていたんで、それ体験できなかった! 聴いてみたかったなあ(笑)。
佐藤 (笑)。これは画期的なライブになったと思います。緒方さんと川村さんのパート、基本的にトラックは同じなんですけど、実はコーラスの部分、それぞれの声の特性を考えて、お互いがお互いを支えるきれいな帯域というところで、メロディを変えさせてもらっています。川村さんのCD※を持っていらっしゃる方はぜひ、聴き比べてほしいなと思います。
※2017年2月22日にリリースされた川村ゆみのアルバム『ゆみザウルス』には、川村ゆみのメインボーカルによる、『real/dummy』とは別バージョンの「二人の方舟(feat. 緒方恵美)」が収録されている。
作詞:em:óu 作曲:manzo 編曲:M’s Bar
■緒方恵美の耳に装着したインイヤーモニター(モニター用イヤホン)をマイクとして使用した、一発録りのナンバー。つまりこの曲では、緒方恵美自身がダミーヘッドマイクとなり、自身のヴォーカルと楽器の演奏を一緒に録音している。途中で演奏が一旦止まり、緒方恵美の気さくなトークが展開されているのもこの曲の特徴。イベントでは、ハイレゾ版のボーナストラックに収録されている「ユウキアイマジン(courage & imagination)192k High Edition」を試聴した。「ユウキアイマジン(courage & imagination)」と、ボーナストラックの「~ High Edition」は同じ音源だが、後者は通常のマイクで録音されている。
佐藤 メインに入っている「ユウキアイマジン(courage & imagination)」は、緒方さんによるリアルダミーヘッドマイクで録ったものですが、ボーナストラックの「High Edition」の方は通常の作り方をしたもので、音の表現がCDとは異なります。今回はそちらのバージョンで聴いていただきましょう。
~曲再生~
緒方 この歌はいろんな人にね、「あの“イカとハイボールの歌”いいよ」と言われるんですよ(会場大爆笑)。聴いてほしいのは、そこじゃないんだけどなあ(笑)。
佐藤 (笑)。生のバンドだけで一発録り。歌もいっせーので録音・ミックス・ダウンした、ライブ・レコーディングをスタジオでやったような感じですね。
緒方 普通はそれぞれのブースで分けて録るんですよ。でもこれは同じ空間で、私の耳からちょうどいいバランスで録音できるように、メンバーの人たちを配置して録音しました。ピアノやパーカッションは音が大きいので距離が離れているんですけど、アコギだけは私のすぐこの辺にいるのでちょっと異様な感じでした(笑)。
佐藤 普通だとミキサーで「じゃあギターだけ下げます」と調整できるんですけど、この場合は物理的な距離で調整するしかできなかったんですね。
緒方 でも昔はそんなふうにやっていたわけですよね。あっ! 実はリアルダミーヘッドマイクで録音したものと、ボーナストラックの「High Edition」のバージョンでは、間違い探しがあるんですよ。
佐藤 お気づきになられた方、いらっしゃられますか?
緒方 実は「High Edition」の方は、間のトークがほんのちょっとだけ長いんですよ(笑)。なぜ長いかというとですね、後ろにコーラスをしてくれているクラップ隊の人たちがいるんですよ。(トークの際に)クラップをしてくれている人たちに、“皆さんも飲みに行きませんか?”と後ろへ振り向いたときに、耳につけているマイクにガサッと音が入っちゃったんですよ。それがものすごい大きなノイズになってしまったので、リアルダミーヘッドマイクで録音した「ユウキアイマジン」は、その部分だけ泣く泣くカットしました。
佐藤 ほんの1秒ぐらいだけなんですけどね。「High Edition」は別のマイクで録っていたので完全版です。ちなみにこの曲のレコーディングは、全部で7回行なっています。
緒方 最初の3回ぐらいは位置調整などを兼ねてのテストで、これはちゃんと録り始めて3回目のテイクだったかな? 毎回、録音する度に違うトークをしたので大変でした。
作詞:及川眠子 作曲・編曲:manzo
■「ユウキアイマジン(courage & imagination)」では作曲、また演奏にも参加しているmanzoによる、スピード感あふれるロック・ナンバー。作詞は、「残酷な天使のテーゼ」や「魂のルフラン」などで知られる、作詞家の及川眠子が手がけている。
緒方 最初にあったのは「大人パンク」なイメージです。パンクなんて自分で作らないと意味がないと思っていて、今まで自分で作ってきたんですけど、今回は、最近仲良くなった作詞家の及川眠子さんに歌詞を書いてもらいました。ご本人がパンクな方なんですよ。人生の先輩である女性クリエイターで私よりパンクな方を初めて知って、この方にパンクな歌詞を書いてほしいと熱望したんです。
佐藤 これ歌がカッコイイです! ニュアンスのつけ方が他の曲とは違う感じですね。
緒方 この曲はサビが全部付点だったんです。レコーディングのときはこれ歌えないよって、8分音符でストレートで歌ったのですが、ライブでこのメッセージを強く伝えようと思ったら、やっぱり付点になっちゃう。いつもは正面を向いて歌っているのですが、この曲では下を向いて歌わないと出なくなって、より魂が入る歌になりましたね。
佐藤 ライブになったときの熱さは半端なかったです。及川眠子さんとのコンビネーションはまたやってみたいですね。今回はロック寄りの曲になりましたが、今度は騒げるパンクとかいいですね。ネクスト・ステップはもっと広くやってみたい! 今回は、緒方さんと一緒にゼロから作る初めてのアルバムだったので、お互いキャッチボールをやっている感じでした。そして、完成度の高いものが出来上がって満足したんですが、いやまだいける! まだ無茶振りができるみたいな(笑)。
緒方 ……「無茶振り」って一体なんの話?
佐藤 いやいやいや、新しい出会いって話のことですよ!(笑)。
作詞:em:óu 作曲・編曲:藤戸じゅにあ
■心の叫びを表わすギターやシンセの激しいアクセントとハイトーンのヴォーカルが強く印象に残る。ジェッジジョンソンの藤戸じゅにあとの、“新しい出会い”が、緒方恵美のヴォーカルの表現をさらに大きく広げた。
佐藤 これは自信をもって緒方さんの新天地をご提供できたと思っています。
緒方 この曲はさっきの「プライド」と同じときに、挿入歌としてこういう感じの曲がほしいと書いていただいたものです。“凛として時雨”さんみたいな、アカペラっぽいハイトーンから始まる曲のイメージで、かつ自分ならではの曲となるものをお願いしました。
佐藤 「プライド」が低いところから行くのに対して、この曲はいきなりファルセットから始まるので、対照的な曲になりました。また緒方さんの声の上の方を使っているので、その分、下の帯域にいろいろな楽器を詰め込めることができました。ひとつひとつの楽器が複雑に絡み合うものが作れて、とても大好きな曲です。
緒方 私も大好きです。目木とーるさんって超上手いギタリストがいるんですけど、ライブのリハをやったときに、冒頭のギターのリフで「ダメだ。これ弾けね」って言いだして。そこで私が珍しく「弾いて」って強くお願いして(笑)。そうしたら、「えっ!?……そこまでお願いするの珍しいよね」とブツブツ言いながら、でも見事に弾いてくれました。
佐藤 普通はピックで弾くものですけど、これ「ライトハンド奏法」と言って、ピアノのように叩いて音を出すというものです。ちょっとやそっとじゃ弾けないんですけど、目木さん完コピしてましたもんね(笑)。
作詞:em:óu 作曲・編曲:目黒将司
■『ペルソナ』シリーズの音楽を担当しているアトラスの目黒将司が作曲とアレンジを手がけている。サビのこみあげるような展開とメロディの切なさが心をぐっと掴む、エモーショナルなナンバー。
佐藤 この曲は僭越ながらミックス・エンジニアを、最終的な音作りを僕がやらせていただきました。
緒方 目黒さんからのご指名なんですよね。私は『ペルソナ3』に出演していて、目黒さんとのご縁なのですが、純之介さんは『ペルソナ』シリーズのエンジニアをされていたとお聞きしました。
佐藤 ランティスに入る前、『ペルソナ』のお仕事をやらせていただいていて、『ペルソナ2』『ペルソナ3』ではエンジニアをやってたんです。
緒方 目黒さんに曲をお願いしたら、この話になってお互い「ええっ!」って。
佐藤 そして今回、目黒さんから「佐藤さんお願いします」って話になって、ちょっと緊張しました。さてこの曲の聴きどころを話します。これ緒方さんにも言うのも初めてです。この2年強、緒方さんのサウンド・プロデューサーをやらせていただいていますが、普段のレコーディングやライブ、打ち合わせやそれこそ飲みの席などで、ほかの人に比べて緒方さんの生の声を多く聴けていると思います。その生の声を聴いた記憶や印象を忠実に再現しようと思って、この声を作っています。ですので、僕の印象というところではありますが、マイクやエフェクターを通ったあとではなく、限りなくそれ以前の本物=リアルな声を目指して作りました。ほかの曲とは声の特徴の捉え方が違うと思うので、ぜひ聴き比べてほしいと思います。
緒方 この曲では、某小学生の役が中学生になったときのイメージで詩を書いて歌わせていただいています。精神年齢がちょっと下で歌っているので、あまりビブラートですとか、大人っぽい声ではなくて、直球な感じで出すようにしていたので、若干恥ずかしいですね。
佐藤 言ってしまえば、可能な限り「裸の声」にした感じですね。
緒方 いやーんな感じ(笑)。
佐藤 (笑)。なので、ちょっと裸に作りすぎたのかなとも思いました。この曲は、緒方さんの年齢層の低い人物の表現における、ある種の完成系なのかもしれません。
作詞:em:óu 作曲・編曲:黒須克彦
■激しいロックが駆け抜ける、『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』の主題歌。作曲・編曲は「Q-MHz」でも活躍中の黒須克彦。
緒方 プロットをいただいたとき、「よくもこんなエンディングを書きやがるもんだ」と思いました(笑)。小高和剛氏のシナリオは最高です。聞いてくれる人が1人1人、自分の足で力強く歩いてゆくイメージにしたくて、作曲の黒須さんに、最初はガツンと、それから間奏にバンド・メンバー全員のソロを入れて、最後にスカッと希望が見えるようにしてくれという無茶振りをお願いしたんですけど、スゴい曲を書いていただきました。今ネットとか特にそうですが、人に対するバッシングとかとことんやるじゃないですか。なにかひとつのことが起こると本当か嘘かどうかわからないのに、とことんまで追い詰めるみたいなことをして。その対象になっちゃった人は、どうやって立ち直っていくのだろうかといつも考えていて……。誰もがその標的になる可能性がある今、イジメの対象になってしまっても、なんとかまた立ち上がってもらいたい、生きてほしい。その背中を押せるような曲にしたいと思ったので、いつも以上に時間をかけて、慎重に言葉を選んで歌詞を書きました。
佐藤 レコーディングも大変でしたね。この曲は、爆音で聴くとまた無茶苦茶カッコイイ! “オイ!オイ!”の掛け声が、CDで聴くと塊で聴こえるんですけど、これで聴くとひとりずつが見えます。そして、Bメロでジャズっぽくなるとこともめちゃ好きです。
緒方 やりおる黒須克彦(笑)。
佐藤 黒須さんが無茶振りな曲を作っているんですけど、緒方バンド・メンバーによるライブでの再現度も素晴らしい! ソロとかも含めて完璧に再現していましたね。ドラムもスゴかった!
緒方 ドラムはBABYMETALの“神バンド”のメンバー(青山英樹)ですからね(笑)。
佐藤 いろんな緒方さんの歌の表情、例えば、“ハァハァ”とかああいう部分もリアリティがあって、立体感のある曲に仕上がっているなあと感じました。
緒方 あの“ハァハァ”を録ると言われたとき、「これ“あえぐ”ってことっすか?」と思わず聞きました(会場笑)。そうしたら、「そういう意味で録っているつもりではないんですが、ハイレゾでは息遣いもリアルに聴こえるので、聴く人によってはそう感じるかもしれません」と返されました(笑)。
作曲・編曲:中土智博
■アルバムのオープニング・ナンバー「white closet」を手がけた中土智博によるアルバムのクロージング・ナンバー。「white closet」のトラックやヴォーカルを素材として使用した、「white closet」の変奏曲となっている。
佐藤 今回は非常にバラエティに富んだアルバムが出来たので、どうやってアルバムの最後を締めくくろうかと話していたときに、緒方さんからですよね。
緒方 1曲目のインストゥルメンタル・バージョンみたいのを入れたいなと。タイトル「D.Closet」の「D.C.=ダ・カーポ(曲の冒頭に戻り、再び演奏することを指示する演奏記号)」にかけているんですけど、またアルバムの始めに戻るというイメージですね。素材だけで中土さんが作ってくれたんですけど、こう来たかと。“My Sweetheart”勝手に入れやがって(会場一同笑)。いや素晴らしいです、中土さん。ありがとう(笑)。
佐藤 イントロの最初の部分も実は「white closet」の“おいでぇー”の「ぇー」の部分を加工しています。声を切り刻んだり、素材として使うとか、緒方さんの新しい表現が出来たかと思います。
緒方 本当にありがとうございます!
佐藤 でもタイトルに「D.C.」とつけたのは本当に納得できます。CDでリピートして聴いていると、「D.Closet」が終わって「white closet」が始まると、スゴいつながっているんですよね。
緒方 延々終わらないという。エンドレスの沼に落ちろと(笑)。
佐藤 そうかもしれません(笑)。でもそういう意味では非常に統一感のあるアルバムが作れたと思います。
緒方 基本的にはロックなんですけど、いろんなジャンルに振った楽曲が集まって、作っているときはアルバムのプロデューサーである吉江(輝成)さんが、「これ一枚のアルバムとしてまとまるの?」って心配していたんですって(笑)。でもアルバムが出来上がってみたら、こんなにもバラエティ豊かなのにきちんとアルバムとしてまとまっていて、どれも前向きで人の背中を押せるような曲ばかりで、とてもよかったって仰ってくれて、大変うれしかったです。
佐藤 それはやはり緒方さんの声や歌詞があるからです。どんな技術を使っても、どんなにハイレゾがいいって言っても、元の歌詞や言葉、そして、歌がよくなければ、いくら高級なスピーカーで聴いても全然よく聴こえないですよね。今作では、緒方さんの歌や歌詞や言葉をありのままにこぼさず届けることを、いちばん大切にしようと考えました。世の中では、あえて聴きやすくするために上や下を切ってみたいなアプローチが当然のように行なわれていますが、緒方さんの今回の作品に関してはそういったことは一切せずに100%、なんなら120%、とにかく緒方さんの声にこだわり尽くして、アウトプットをしようと思いました。リスナーにそれがどこまで届くか挑戦した作品となりましたが、皆さんいかがだったでしょうか?(会場拍手)
緒方 ハイレゾとか技術がこう上がってくると、映像におけるCGみたいなもので。CGって最初出立ての頃は、「どうだ! このCG技術って素晴らしいだろ?」「いやいや、たしかにそのCGはいいけれど、映画のストーリーとしてはどうなの?」みたいなものも多くて。でもそれが途中からCGをCGと気づかせずに、でもその作品のグレードを上げていくようなCGの使われ方になってきて、素晴らしいものになってきたじゃないですか。音楽も同じでこういう新しい技術が出てきても、技術の押し売りになっては決していけない。その技術を使って、それに耐えられる「本物」を作らないといけないんだなと感じました。まだまだ学ぶことがたくさんありますが、ひとつひとつの活動を大切に積み重ね、進化しているサウンドに対応できるよう頑張ろうと思います。
『real/dummy』に収録されている曲をすべて聴き終えたところで、トークの内容は次のリリースとなる「progressive -漸進-」に移った。「progressive -漸進-」は、『ダンガンロンパ』シリーズの外伝『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』の主題歌として、2015年1月にリリースされたシングル曲で、登場人物である苗木 誠( CV.緒方恵美)と、苗木こまる( CV.内田 彩) が歌唱している。そして、この曲のハイレゾ版が4月12日より配信されることが、このイベントの2日前に発表された。『real/dummy』以外の緒方恵美のハイレゾ音源を聴きたいと思っていたファンにとって実にうれしいニュースだ。今回のイベントでは、出来上がったばかりの初公開となるハイレゾ版を試聴することができた。
この「progressive -漸進-」ハイレゾ版は、元音源をただハイレゾ用にリマスタリングしたものではなく、ミックスの段階からハイレゾ環境で「リビルド」しており、佐藤純之介によれば、「『real/dummy』の延長線上のサウンドになるように作り直した」とのこと。ハイレゾ版を聴いた緒方恵美は、「ダイナミクスレンジが広がったことで、内田 彩ちゃんの声の抜けがよくなり、また自分の声の低い帯域が豊かに聴こえるようになった」と語り、佐藤氏が、「内田さんの声は、9人組のときとは違うアプローチで録音しています!」とつけ加え、会場の笑いを誘った。
「progressive -漸進-」に続いて、カップリング曲である「poison -劇薬-」も併せて試聴。こちらは緒方恵美が演じる狛枝凪斗が歌唱しており、狛枝の声が8人分重なるイントロ部分について緒方恵美が、「わかりますか?気持ち悪い人がいっぱいいるんですよ(笑)。ハイレゾだと声がしっかり聴き分けられて、小さな狛枝がいっぱいいるみたいな感じで怖かったです(笑)」とコメントした。
苗木 誠( CV.緒方恵美), 苗木こまる( CV.内田 彩) 『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』主題歌「 progressive -漸進-」のレビューはこちら
最後に緒方恵美より、6月6日に渋谷クラブクアトロにて開催されるバースデーライブについての告知があり、また声優デビュー25周年を記念して、大きなプロジェクトを企画していることが伝えられた。そして、イベント会場へと足を運んでくれたファンへの感謝の気持ちを伝え、約1時間半に渡って行われたイベントは終了した。
それぞれの楽曲を聴いたあと、ふたりが繰り返し語っていたように、今回のイベントでは最高の音響システムで試聴することにより、曲の印象をあらたにする、さまざまな発見があった。また大きなスピーカーから大音量で再生することで、ヘッドホンで聴いたときよりも、さらに活き活きとした楽曲の勢いを感じられた。
そして、ふたりのトークは興味深い話ばかり。ユーモアを交えながらも、緒方恵美の発言からは、聴いている人を勇気づけるメッセージを届けたいという、音楽に対する熱い想いがひしひしと伝わってきた。また、緒方恵美の声の魅力を最大限に引き出すため、最新の技術や手法を駆使した、佐藤純之介プロデューサーによる制作サイドからの解説で、楽曲についての理解がさらに深まった。今後どのような作品が作り出されるのか、ますます楽しみになるイベントだった。
●緒方恵美 | Artist | Lantis web site
●緒方恵美オフィシャルサイト M.O.bay
緒方恵美
real/dummy High Edition
Lantis
2017.01.25FLAC・WAV 96kHz/24bit、WAV 96kHz/32bit
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1.white closet
作詞:em:óu 作曲・編曲:中土智博
2.Be My LADY
作詞・作曲・編曲:ミト
3.beyond the sky
作詞:RUCCA 作曲:五条下位 (Arte Refact) 編曲:fandelmale (Arte Refact)
4.プライド
作詞:em:óu 作曲・編曲:渡部チェル
5.オオカミ少年隊のテーマ
作詞・作曲・編曲:Neru
6.二人の方舟
作詞・作曲・編曲:葉山拓亮 Chorus:川村ゆみ
7.ユウキアイマジン(courage & imagination)
作詞:em:óu 作曲:manzo 編曲:M’s Bar
8.僕を放て
作詞:及川眠子 作曲・編曲:manzo
9.アルター・エゴ
作詞:em:óu 作曲・編曲:藤戸じゅにあ
10.惑星照
作詞:em:óu 作曲・編曲:目黒将司
11.断鎖 -break-
作詞:em:óu 作曲・編曲:黒須克彦
12.D.Closet
作曲・編曲:中土智博
【ボーナストラック】
13.ユウキアイマジン(courage & imagination)192k High Edition
作詞:em:óu 作曲:manzo 編曲:M’s Bar
14.from オガタ
■制作フォーマット:HD Master 96kHz/32bit floating
(tr5のみ48kHz/24bit、ボーナストラックは192kHz/32bit floating)
■配信フォーマット:96kHz/24bit wav、96kHz/24bit flac、96kHz/32bit整数wav
(ボーナストラックは192kHz/24bitのみ)
■マスタリングエンジニア:原田光晴
■マスタリングスタジオ:Magic Garden Mastering
苗木 誠( CV.緒方恵美), 苗木こまる( CV.内田 彩)
「絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode」主題歌 progressive -漸進-
Lantis
2017.04.12FLAC・WAV 96kHz/24bit、WAV 96kHz/32bit
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1.progressive -漸進-
作詞:em:óu 作曲・編曲:中土智博 歌:苗木 誠(CV.緒方恵美)、苗木こまる(CV.内田 彩)
2.poison -劇薬-
作詞:em:óu 作曲・編曲:中土智博 歌:狛枝凪斗(CV.緒方恵美)
3.progressive -漸進-(Off vocal)
4.poison -劇薬-(Off vocal)
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