前山田健一のポップ・マジックが炸裂。甘い歌声が清々しくはじける、TVアニメ『バカとテストと召喚獣』OPテーマ。

女優、司会などマルチな活躍をみせる麻生夏子の歌手としてのデビューは2009年5月のシングル「Brand new world」（TVアニメ『真マジンガー衝撃！Z編 on television』EDテーマ）。同年7月には、2ndシングル「Programming for non-fiction」（TVアニメ『よくわかる現代魔法』OPテーマ）が話題を集め、2010年1月、TVアニメ『バカとテストと召喚獣』のOP『Perfect-area complete!』が大ヒットを記録した。作曲・編曲を前山田健一が手がけており、J-POPのみならずアニソン界でもその名を知らしめることとなった。

「Perfect-area complete!」

動画投稿サイトではヒャダイン名義で殿堂入りの人気を博していた前山田健一。2009年には楽曲提供した倖田來未×misonoの「It’s all Love!」、東方神起「share the world」がオリコンウイークリーチャート1位、そして、2010年の1月にはこの「Perfect-area complete!」、5月にはももいろクローバーのメジャーシングル「行くぜっ！怪盗少女」がリリースと、アニソン、アイドルの作曲家としても躍進を遂げた時期となる。

トラックのキャッチィさはTK（小室哲哉）サウンドから、口ずさみたくなるようなメロディはハロー！プロジェクトなどのアイドル作品から、それを仕上げるポップな感覚は渋谷系から……と影響を受けた要素を独特のセンスで昇華させ、生み出されるMK（前山田健一）サウンド。そんな前山田健一らしさが遺憾なく発揮されている。

ハイレゾでは、解像感がシンセの音色を鮮明に伝え、イントロのキラキラとした音の存在感もCDより際立つ。勢いよく音が飛び出してくるように躍動感が増したサウンドにより、ポップな曲調がさらにパワーアップ。小西康陽の影響を感じさせるピチカートの跳ね具合も心地好く、華やかなサウンドに包まれるような感触を受ける。まっすぐで親しみやすさを感じる麻生夏子のヴォーカルは清々しく、軽やかな“ハイっ！”の合いの手に溌剌とした表情が浮かぶ。ちょっと鼻にかかった歌声が甘く、耳元に近づくリアルな描写。麻生夏子の明るいイメージがいっそう活き活きと感じられる。

ヴォーカル無しのInstrumentalヴァージョンを聴くと前山田健一のプログラミングの精緻さやアレンジの細やかさが把握できて面白く、凝りに凝った前山田健一の作曲術を理解するうえでも興味深い楽曲である。前山田健一はこのシングルの翌年にヒャダイン名義でTVアニメ『日常』のOPテーマ「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でメジャー・デビューを果たしている（PVには“ヒャダル子 starring 麻生夏子”として麻生夏子が出演している）。

「Dream into action!」

作曲はこちらも前山田健一。編曲は元気ロケッツや茅原実里への楽曲提供、またμ’s「もぎゅっと“love”で接近中！」のアレンジ、TVアニメ『対魔導学園35試験小隊』にてエッジの効いた劇伴を手がけているA-bee（繭（CV：戸松遥）＆柚子（CV：堀江由衣）「神サマといっしょ」には、A-beeによるリミックスも収録されている）。ハワード・ジョーンズを想起する曲名どおり、こちらもキャッチィなエレクトロニック・ポップ。いかにもオープニングっぽい「Perfect-area complete!」と比べると、こちらはちょっとEDテーマのようなイメージで、夢へ向かって進んでいる一途な想いを歌い上げている。

ハイレゾでは、すっきりとした空間に抜けのよい音が鳴り響く。スレンダーな音像が軽やかなポップさを演出し、ノリのよいサウンドが展開。程よいコンプレッションがサウンドにメリハリを与え、タイトなビートとメロウなシンセサイザーの音色との対比もバランスよく表現されている。ヴォーカルは高域が美しく、どこまでも伸びやかだ。語尾に力をこめる麻生夏子らしい抑揚もキュートに描かれ、穏やかな表情から優しい歌の雰囲気が伝わってくる。

麻生夏子は現在まで13枚のシングルと3枚のアルバムをリリースしており、どれもが豪華な作家陣が参加したクオリティの高いものばかり。「Programming for non-fiction」「エウレカベイビー」「MoonRise Romance」などのシングル、中土智博、山口朗彦、藤井丈司、CMJK、石田ショーキチらが参加したアルバム『My Starlit Point』がハイレゾでも配信されている。