“恋愛”をテーマにした6thアルバム。恋する歌声が優しい情景を描き出す心やすらぐ作品。

前作『NEO FANTASIA』から約2年4ヶ月ぶりとなる茅原実里、6枚目のアルバム。恋が愛へと変わりゆく心模様を描くことをコンセプトとした作品で、サウンドもアルバムとしての共通のイメージを感じさせるものとなっている。黒須克彦、堀江晶太、田代智一、元Hysteric Blueの楠瀬拓哉、俊龍ら作家陣によるポップスを基調にしたサウンドは明るい雰囲気に包まれており、それぞれの楽曲で豊かな表情を見せる歌声もいつになく自然体。等身大の茅原実里の姿が反映された作品となっている。

「会いたかった空」

劇場版『境界の彼方-I’LL BE HERE-未来篇』主題歌となり、このアルバムのテーマである“恋愛”が始まるきっかけとなったシングル曲。作曲は『Contact』より茅原実里のサウンドを支えてきた菊田大介。

TVアニメ『境界の彼方』のOPテーマ「境界の彼方」では迷いながら探していた“君”が、この曲では“あなた”と呼ばれているように、いま共にここにいる喜びを歌う、惜しみない愛があふれるナンバー。ピアノとストリングスが奏でるエモーショナルなポップスという点は共通しているが、旅の途中を描く「境界の彼方」を経た「会いたかった空」はあるべき目的地へと辿り着いた安らぎを感じさせ、このアルバムの終盤にもふさわしいサウンドとなっている。

凛とした歌声はCDと同じくも微笑みが浮かんでいるような優しさが漂うハイレゾ。静かに始まるイントロではギターとの距離感があり、声の成分が散らずに留まり実存感が強まる。加わったピアノとリズムの高まる音色が未来への期待を確信へと変え、やがて世界を鮮やかに色付ける。パートごとのサウンドの変化がより起伏に富み、階調がどんどんと増えていく、そんなイメージを喚起させる解像感。

壮大、雄大といった言葉で形容してしまう、茅原実里作品では重要な存在である室屋光一郎ストリングスもここでは、ヴォーカルに寄り添うように物語を奏でる。至福が世界を満たし、静かに広がる昂揚感。終わらない愛を誓うラストシーンの澄んだ歌声がひときわ美しく輝く。

「ありがとう、だいすき」

茅原実里演じる『涼宮ハルヒ』シリーズの人気キャラクター、長門有希をメインヒロインに据えたTVアニメ『長門有希ちゃんの消失』のEDテーマ。いつしか愛に変わる、その予感を心に秘めたまま恋の階段を一歩づつ登る少女の姿を繊細なタッチで描いている。「会いたかった空」は大団円らしい終幕を迎えるが、その過程を描きながらこちらもハッピーエンディングへ向かう祝福の鐘が鳴り響く。

ハイレゾでは生楽器をリアルに照らし出しているのももちろんだが、フルートやオーボエ、クラリネットら木管楽器と弦楽器の音色がよくなじむ、温かい雰囲気を間近に感じる。ゆっくりと流れる旋律と歌声にじんわりと包まれる心地好さ。コーラスを効果的に扱う作曲のrinoらしさも所々に見られ、また間奏ではそれをファンタスティックに音像化したEvan Callのアレンジも秀逸だ。

透明感のある歌声は晴れやかに浮かび上がり音に広がる。「ありがとう」「だいすき」はこのうえなくシンプルな言葉だからこそ、これ以上はない純粋な想いを伝え、そして世界を塗り替える。ふくらむ恋心を柔らかなニュアンスの変化で丁寧に表現している。

恋する夜明け前を変わりゆく心情で語る「Awakening the World」、一直線に駆け抜けるサウンドが高まる恋の心拍数を刻む「恋」、“一人ぼっちで妄想まみれ”のフレーズが心に刺さる激情ロック「春風千里」、ひとつに結ばれる愛の喜びを歌う茅原実里作詞による「Love Blossom」、ディスコティックな90’s J-POPサウンドに乗り情熱的な愛を囁く「Dancin’世界がこわれても」などなどと様々な“恋”と“愛”がみずみずしく歌われる今作。恋愛模様は十人十色なれど、それを一人十六色で描き分けた茅原実里の多彩な表現力が印象的だ。恋する心の機微を映す歌声の繊細なニュアンスがハイレゾからは伝わってくる。