「春擬き」「オラリオン」「カザキリ」を収録。開放感あふれるサウンドが展開する3rdアルバム。

『ポリオミノ』から約1年5カ月ぶりとなるやなぎなぎの3rdアルバム『Follw My Tracks』。TVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』OPテーマ「春擬き」、TVアニメ『終わりのセラフ』名古屋決戦編のEDテーマ「オラリオン」、TVアニメ『ノルン+ノネット』OPテーマ「カザキリ」など全13曲収録している。「旅」をテーマに制作された今作には、北川勝利、コレサワ、谷口尚久、藤間仁、斎藤真也ら作家陣が参加しており、今までになく開放感溢れるサウンドへと仕上がっている。

「春擬き」

TVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』（第1期）のOPテーマ「ユキトキ」と同じく北川勝利による作・編曲となるこの曲。「ユキトキ」の方向性をよりアグレッシヴに進め、ヴォーカルとバンドの一体感を強めている。ドラム：山本真央樹、ベース：沖井礼二、ギター：堀崎翔、ピアノ：末永華子、ストリングス・プログラミング：牧野洋司、シンセ・プログラミング：acane_madderと、花澤香菜作品にも多く携わる北川勝利チームのメンバーがサウンドを支えている。

音が集まりぶつかってくるCDもある意味パンク的で青春っぽいが、ハイレゾでは「本物」を追い求めながら疾走を続ける姿に焦燥感が漂う雰囲気。中低域を押し出す空間の余裕と分離感が生み出すビートは、アクセントが戸惑いを映し、ハイハットが加わり走り始め、スネアのロールが心の高まりを描く。それは自分のことを顧みず誰かのために奔走するアニメのイメージと重なる。

始まりではCDよりもやや穏やかで柔らかな表情で聴こえるヴォーカル。それはダイナミクスレンジによる変化でもあるが、階調が多くなることで感情の揺れや迷いのニュアンスの幅が広くなり、また色濃く伝わってくる。その緩急が歌声にも表われており、サビの“こんなレプリカは　いらない”の激しさが深く胸を打つ。

「オラリオン」

前作『ポリオミノ』にて「Rainy veil」を手がけたElements Gardenの藤間仁が作曲と編曲を担当。ベースはquasimodeの須長和広、弦楽奏は室屋光一郎ストリングス。ギターなどそれ以外の楽器は藤間仁が演奏している。ドラマチックに激変する展開をコーラスが結ぶ、迫力のあるサウンドが魅力的だ。

CDはメリハリが効いておりTVで聴いていたものに近い音像だが、空間が広がり物語のスケールの大きさを感じさせるのはハイレゾ。打楽器の張りのある音も奥深くから空気を振動させている様子が伝わり、ストリングスとともに雄大に鳴り響く。明瞭なフォーカスが左右のリズムのキレやピアノの音色を浮き彫りにし、躍動感が強まる。

熾天使（セラフ）の祈り（オラリオン）を示すコーラスも教会で歌われているかのようにリヴァーブが深く、その重なる声が浮遊する聖なる空間を演出。コーラスとは対照的に苛烈な運命と進むための希望を告げるサビの歌声はクールな声質に熱がこもる。高域で歌い上げる“トリックスター”の掠れるように消えゆく語尾に切なさと儚さがにじむ。

可憐な歌声が印象的な「パラレルエレベーター」、華やかに幕が上がる「夜天幕」、メロディが鮮やかに広がる「未来ペンシル」、エモーショナルなロックバラッド「ターミナル」、鳥の鳴き声が入り混じる弾き語りによるラストソング「どこにも行かない」など、しっとりとした叙情的な曲だけでなく明るいポップなナンバーも多く、今まで見られなかったヴォーカル・スタイルも披露している。ハイレゾは躍動するサウンドに弾む歌声をリアルに描写しており、存在感をより強く感じられる。やなぎなぎならではの美しいヴォーカルに魅了されるアルバムだ。