INTERVIEW
2016.09.30
今さら人に聞きにくい、「ハイレゾって何?」という素朴な疑問。CD音源との違いから、ハイレゾを存分に楽しむために必要な機材の話まで、『ラブライブ!』など数多くの作品の音楽制作プロデューサーを務め、自らが手がけた作品のハイレゾ配信にも積極的な佐藤純之介氏に話を聞いた。
Vol.1では「ハイレゾとCDの違い」という基本の話からスタート。ハイレゾの特性までわかりやすく解説してくれている。
●教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー・佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.2はこちら
●教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー・佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.3はこちら
Interview by 田中尚道(クリエンタ)
Text by 青木佑磨(クリエンタ/学園祭学園)
at Lantis Magic Garden Studio 3st
──先日、ハイレゾ対応の再生機器とヘッドホンを手に入れたので、早速μ’sの「Snow halation」の通常版とハイレゾ版をダウンロードして聴き比べてみました。……が、正直あまり違いがわかりませんでした(笑)。まずはCD音源とハイレゾ音源の違いはなんなのか、というところからお聞かせください。
佐藤純之介 まず大前提として、CD音源とハイレゾ音源のどちらもが良いものになるように作っています。CDにはCDの、ハイレゾにはハイレゾの視聴環境があって、それぞれに良く鳴らすためのテクニックが存在するんです。だから、どちらが良い悪いというような差別はありません。ただレコーディング時には元々、フォーマットとして「96kHz」や「192kHz」といった周波数のハイレゾで収録されていて、CDに収録する際に44.1kHzに圧縮されるんです。だから、録った時の音をそのままユーザーに届けられたら喜んでもらえるんじゃないか、というところからハイレゾの配信を始めました。
──ハイレゾ配信を始めたいと思ったのは、いつ頃のタイミングだったのでしょうか?
佐藤 いちばん初めに思ったのは、もう7~8年前ですね。当時の上司に「君にそのような仕事は望んでいない」と言われてしまい、頓挫してしまいました(笑)。そこから時代が巡って2年程前に、オーディオ系ライターの野村ケンジさんと出会ったんです。それをきっかけにオーディオメーカーさんともお付き合いが始まって、その中で「ハイレゾを望んでいる声がある」ということがはっきりとわかりました。それで改めて会社を説得して、ハイレゾ配信を始めたのが2014年10月。その最初が『ラブライブ!』という流れですね。
──ハイレゾ配信に興味を持った7~8年前には、何かきっかけがあったのですか?
佐藤 96kHzのレコーディングは2006年頃からやっていました。96kHzで録音したものと従来通り48kHzで録音したものをCDにしたときに、最終的には同じ44.1kHzに圧縮されるのに不思議なことに96kHzの方が音が良かったんですね。ですのでやはり録るときには考え得る限り良い音で録っておいて、アウトプットに合わせて音作りをしていこうと。そうして7~8年前に、僕の中でメソッドができあがった感じです。
──「CDでは圧縮されていたものが、ハイレゾではそのままの音質に」という売り文句はよく目にしますが、耳で聴いたときに変化がわかりやすいポイントはあるのでしょうか?
佐藤 「違いがわからなかった」とお話しされていましたが、僕もそれは理解できる部分があるんですよ。ハイレゾ配信を始めていちばん驚いたのが、「そこまで聴いてたの!?」というユーザーが多かったことなんです。作る側のこだわりとして、ボーカルが複数人いるなら「この人の声は右に何mmかだけ寄せておこう」とか、ほんのちょっとズラしたりしていたんですね。そうすることで声が混ざらずに、同じメロディを歌っていながらも個性が消えずに残るようにしていたんです。ハイレゾではそれをちゃんと聴きわけている人がいて、本当にすごいと思ったんですよ。
──CDでは届ききらなかった部分にも、ハイレゾでは気付く人が出てきたと。
佐藤 なので「違いがわかる、わからない」ということには、実は「ひとつひとつの曲に対する思い入れ」が影響しているのではないかと思うんです。聴き比べて薄いか厚いかくらいの変化はあったとしても、その音楽に対する思い入れがないと大きな差は感じられないんですね。『ラブライブ!』をはじめとしたランティスのハイレゾが受け入れられた背景には、元々CDで大事に大事に聴いてくれていたユーザーがいてくれたことが大きくあると思います。
──CD音源の状態が耳に馴染んでいるからこそ、変化に敏感になるんですね。
佐藤 そうです。僕は今までユーザーの皆さんに対して、CD音源やそのマスター、マスタリングし直したものなど、バージョン違いを何パターンも提供してきたんです。パターンを沢山作って儲けようという話ではなくて、ニーズが高まると同時に、ユーザーが些細な違いに気付いてくれることがどんどん嬉しくなってきてしまって。新しいマスタリング方法を考えたり、些細なことの積み重ねを続けて行く中で「今までよりあそこの歌の表現が見えるようになって良くなった」という意見もいただいたり、ユーザーも一緒に成長してくれたんですよ。そういった意識が変わった人たちに対して、恥ずかしくないものを提供していこうという想いがあったので、CDとともにハイレゾも大事にする形になりました。
──ユーザー側が愛情を持ってくれたからこそ、作り手もハイレゾに力を入れることができたわけですね。
佐藤 そうですね。CD音源やMP3配信では、「iPhoneのイヤホンでチェックして大丈夫ならOK」という風潮があるんですよ。J-POPだと「渋谷の街鳴りで歌がちゃんと聴こえている」とか、それぞれに指針があるんです。それが正義だと教えられてきたんですけど、アニメ・ユーザーのリスニングに対する姿勢は、すごくこだわって、すごく愛してくれて、大事にしてくれて……そうやって細部まで全部聴いていてくれていたんです。
──たしかに「Snow halation」を聴いたときは、自分はそこまでではありませんでした(笑)。
佐藤 そこが本当にポイントだと思うんですよ!なんでもかんでもA/Bテスト※をすればいいというわけではなくて、すごく大好きな曲のCD版とハイレゾ版を聴き比べたら差が絶対にわかるはずです。やっぱり音楽なので心の問題、気持ちの問題、というのはあるとは思いますし、そこを否定するつもりは全然ないですよ。
※A/Bテスト AとBを比較することでどちらが良いか判断するテスト。
──ヘビーローテーションでずっと聴いていたものほど、自分の中に染み込んでいるから差がわかりやすいということですね。
佐藤 そうですね。「ハイレゾ音源です」と言われて聴かされて、それが本当にハイレゾかどうかなんて僕にもわからないです。比較と、それに対する思い入れという部分が大きいと思います。
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