INTERVIEW
2016.10.21
──自宅の設備を整えるよりは、映画館で高画質かつ高音質なものを楽しめるほうが見る側はお手軽ですね。
佐藤 劇場で爆音上映なんかもありますけど、ハイレゾ上映みたいなものがあったら良いなあと思ったりしています。ドルビーアトモスとか使っている機械も、全部96kHzに対応しているのでソースがないだけなんですよ。
──IMAX系の劇場などであればハイレゾ上映も可能な訳ですね。
佐藤 そういう作品が作れたらなと思います。ただまあレーベルのいちプロデューサーの力だけでは、やっぱりちょっと難しい部分もありますね。なので今はいろんな所にロビー活動しています。
──DVDクオリティでは満足できない人がいるからBlu-rayが売れているという現状なので、高付加価値のものを求めている人も多いんだと思います。
佐藤 画質は充分に上がってきているので、やっぱり次は音だと思うんですよ。爆音上映にしてもそうなんですが、「音を良くしました」というだけであれだけの話題性や吸引力がある。クオリティを上げることでユーザーが離れないようになったり、新しいユーザーがついてくれたり、戻ってきてくれる人がいたり……というふうになるように日々頑張りたいですね。
──爆音上映は、使われているのがハイレゾ音源でないとすると「単純に音圧が上がっている」だけの状態なのでしょうか?
佐藤 上手に音圧を上げていますよ。なので不快ではなく、でも迫力はあるという状態になっています。先程の「ハイレゾのライブ映像で泣けた」という話に近いのですが、「迫力が出たから映画の感動が増した」ということはあると思うんです。映画も複合芸術なので、片方だけ良くなってもバランスが悪くなってしまうんですよ。だから元々の作品の画質が良くて演出が良ければ、そこに基づく音もさらに良くなれば感動は増すんです。
──通常と異なる上映には、映画館側のチューニングも必要になるわけですよね。それを担当する方はいらっしゃるんでしょうか。
佐藤 はい。『劇場版 響け!ユーフォニアム』や『ガールズ&パンツァー 劇場版』は、音響監督が自ら上映館までチューニングに行っていたりしましたね。作品そのものを作っている人が上映環境を整えるというのは、本当に素晴らしいことだと思います。それは音楽プロデューサーにはできないことですよ。「あなたはこの状態で聴きなさい」と決めるようなものですから。
──たしかに音楽プロデューサーが「この音を正しく聴くためには、この環境が必須」とは言いにくいですね。
佐藤 「何万円かかりますけど、僕はこれで作りました」というのはたまに書いたりします。それを真似してくれて「同じ機材でこの音源を聴いています」「同じ音が聴こえてるってことですよね」と言ってくれる人もいてくれて、そのときには「そうです。この環境で聴いて、この音に対してOKを出しています」というお話はしています。
──イヤホンひとつとっても無限に種類があって、結構絶望感があると思うんですよ(笑)。端から試していかなきゃいけないくらいなら、「純之介さんと同じもの」というのはひとつの指針になると思います。
佐藤 僕の持っているイヤホンの写真を、fhánaのリーダーが写真に撮ってネットに上げてたんですよ。それに対して「これが○○でこれが○○で、総額が百何十万」と書き込まれていて(笑)。
──逆に、例えばフォーマットが遡行してレコードになったりする可能性はあるのでしょうか?
佐藤 レコードはパッケージとして強烈なまでに魅力がありますよね。すごく難しいのは、アナログ・レコードというのはアナログ・レコーディングをされているから意味があるんですよ。デジタル・レコーディングでアナログ・レコードを作って、どれだけの意味があるのか。果たして僕は、価値のあるレコードを作れるだろうかと思います。ハイレゾで作っておいてレコードに落とし込むという形なら良いものは作れるかもしれない。でもじゃあ僕らが憧れていた本物のアナログ・レコードのサウンドが作れるかというと、自分たち自身が疑心暗鬼な部分があります。
ノベルティやグッズとしてのレコードを作ることはいくらでもできるんですけど、それがオーディオマニアやレコードの音を楽しみにしている人が納得するものが作れるかというと、正直ハイレゾ音源を作るよりもハードルは高いと思っています。トライしてみたい気持ちもありますが、やるからには相当レベルの高いものを作って、アナログ・プレーヤーが好きな人たちをうならせるものにしたいなと思います。ただ今の、デジタル・レコーディングのノウハウしかない僕らの世代のプロデューサーが作るものが、果たして本当に正しいレコードの作り方なのかはわからないですね。
──アナログ・レコーディングの技術は、既にロスト・テクノロジーになっているんですか?
佐藤 それらは今60歳~70歳前後のベテランの方々がギリギリもっているノウハウで、そのテクノロジーが10年後20年後にあるかどうかはわからないですね。デジタルで、特にCD用に作られた音源というのは、やっぱりレコードに移行するのは難しそうですね。ただ音が鳴って、曲が流れるだけのもので良ければ簡単なんですけど。レコードならではのサウンドにするにはハードルが高すぎるなあ。……レコード作りは考えるだけでワクワクするんですけど。
──レコードが一度CD化されて、それがさらにハイレゾ配信になっているものもありますね。あれはマスターがアナログで存在しているものを、デジタルに変換しているのですか?
佐藤 そうですね。まだそちらの方がCDのキャパシティの中で音源を流し込めるという意味で、テクノロジーとしては簡単です。アナログ・レコードからCDを経由せずにそのままハイレゾにするのであれば、今のテクノロジーなら素晴らしいものが作れますよ。〈「ハイレゾQ&A」END〉
●マスタリングの話やパソコンへのCDの取り込み方法、再生環境についてなど話題が盛りだくさん、教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「マスタリングって何ですか?」Vol.1はこちら
佐藤純之介
1975年大阪生まれ。YMOに憧れ90年代後期よりテレビや演
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