INTERVIEW
2016.10.21
──ハイレゾがスタンダードになるという可能性もあるのでしょうか?
佐藤 ハイレゾが標準になるというのが僕の野望でもあるんですが、しばらくは無理だと思います。10~20年の単位になりますね。定年までにはなんとかしたいな(笑)。
──どういった理由で時間がかかりそうなのですか?
佐藤 やっぱりCDや、iTunesやiPhoneは手軽ですよね。ハイレゾはCDなどの光ディスクやUSBメモリのような物理メモリで持っていてもあまり意味がないし、「それを経由することで音が変わるんじゃないか……」というマニアックな悩みどころもありますし(笑)。ですので、ハイレゾはノン・パッケージでいくしかないんです。でも音楽ってジャケットの文化があったり、音楽は音楽だけで普及した芸術じゃないんですよね。ライブがあって、ジャケットのアートワークがあって、それと音楽が三位一体になって完成している芸術だと思うんです。そう考えると実はハイレゾは音楽の部分が特化してしまって、その三位一体が足りないんですよね。
──たしかにアニメファンの方は特に、パッケージを手に入れたい欲求を持ち合わせていることが多いですね。
佐藤 そういう意味で、今ハイレゾは大事なものを欠いたまま進めているビジネスだなとも思うところもあります。なので、普及にはまだまだ遠いですね。ただどうやってそこを打ち破りたいかというと、僕はアニメそのものを96kHzでやりたいと思っているんです。TVで流れるときにはダウンコンバートされてしまいますが、Blu-ray自体は24bit/96kHzの音を収録できるんですよ。アニメの制作の段階でマスターを96kHzで作っておいて、それぞれのフォーマットで放送や配信をする。「自宅のTVからハイレゾが流れる」という文化があると、ハイレゾの素晴らしさや、「映像と音楽を組み合わせた複合アート」としての本質が見てもらえると思うんです。
──映像に乗せる音をハイレゾにするというアイデアは、どんなきっかけで始められたのでしょうか?
佐藤 fhánaの1stアルバム『Outside of Melancholy』の初回限定盤に付属するBlu-rayを作っていたときに、収録されるライブ映像の音声を96kHzにしたんですよ。普通、MVやライブ映像の音は48kHzなんですが、あえて48kHzと96kHzを切り替えられるようにしました。この試みは音楽モノでもごく一部、アニソン関係だと世界初だと思います。96kHzのハイレゾ音源でライブ映像を観たときに、僕は本当に心から感動して涙を流したんですよ。自分が担当していて、現場にも行っていて、編集にもMIXにも立ち会って、それでも家で見たときに、バンドのパッションが記憶以上の鮮明さで感受性にスッと入ってきたんです。「やっぱりハイレゾはすごいな」って思ったと同時に、「音楽だけじゃちょっと弱い」とも思ったんですね。絵と音が一緒になって、それが96kHzになって完成するネクスト・フェイズだなと。
──映像は4Kや8Kと走査線の数をひたすら増やしていく方向でわかりやすく進化していますが、TV放送におけるオーディオの進化はほとんど触れられることがありませんね。
佐藤 そうなんです。音は48kHzのままで、しかもTVは全部圧縮音源なんですよ。
──デジタル放送のセグメント的には、音質を上げることは可能なんですか?
佐藤 ノンリニアのPCMとしては乗らないので、それはBlu-rayで楽しんでいただくしかないですね。
──となると、よりいっそうBlu-rayを手に入れることに意味が出てきますね。
佐藤 そうですそうです。そこに価値が生まれてくると思うんです。放送でもそこそこ良い感じにはなるとは思いますが、それは僕が望んで作ったクオリティのものではないので。それを届けるためには、「映像付きのBlu-ray」として届けるのがいちばんかなあと。でもそうなると「Blu-rayプレーヤーと、TVと、オーディオセットを揃えないと……」と段々大変なことになってきますね(笑)。
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