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2016.11.16

山崎エリイ『全部、君のせいだ。』レビュー

山崎エリイ『全部、君のせいだ。』レビュー

木戸衣吹とのユニット“every♥ing!”でも活躍中の声優・山崎エリイがソロ・アーティストとしてデビュー。デビューアルバムは、ヴァラエティ豊かなサウンドと彼女の甘い歌声がたっぷりと詰まった全11曲を収録。

『サムライフラメンコ』の森田 萌役、『世界征服 ~謀略のズヴィズダー~』のロボ子役、『レーカン!』の小川真琴役、『ナースウィッチ小麦ちゃんR』の西園寺ここな役などで知られる声優の山崎エリイ。木戸衣吹とのユニット“every♥ing!”でも活動中の彼女がついにソロ・アーティストとしてデビュー。every♥ing!ではシングルを“お試し版”も含めると4枚リリースしているが、こちらはシングルを待たずにフルアルバムをリリース!18歳ならではの勢いも感じさせる鮮烈なソロ・デビューを飾った。このデビューアルバム『全部、君のせいだ。』には、全曲異なる作曲者によるヴァラエティ豊かな11つの楽曲を収録。ヴォーカリストとして成長を続ける山崎エリイの今の姿を捉えている。

「全部キミのせいだ」

今作のオープニングを飾るタイトル曲であり、アルバムのリード曲となるナンバー。作曲は小野貴光。ゆいかおり「NEO SIGNALIFE」「Ring Ring Rainbow!!」、小倉 唯「Tinkling Smile」「winter tale」(シングル『Future Strike』カップリング曲)などを手がけ、ClariSや内田 彩、petit miladyらアーティストに、また『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS』『Tokyo 7th シスターズ』などの作品にも楽曲提供をしている。編曲の玉木千尋は、小野貴光と同じ音楽制作プロダクション“Time Files”に所属している作曲家で、小野貴光が手がけた楽曲にアレンジャーとして参加することも多い。

キミのせいで変わった日常。キミのせいで変わった未来。キミと出会うことによって始まった新しい物語は、今まで気づかなった心の扉を開き、“ドキドキ”する毎日に“ワクワク”する魔法をかける。世界が塗りかえられたような驚きで満ち、その喜びがあふれ出しているこの曲だが、山崎エリイによればその眼差しは恋愛対象だけでなく未来の自分の姿にも向けられているそうだ。

声優として様々なキャラクターを演じ、アーティストとして音楽を表現する。新しいことに出会いそれに挑戦し続け、変わっていく今の自分。なりたかった自分になれるようにとその姿を思い描いていけば、やがては未来の自分が手招きをし、理想に追いつける。今の此の場所に来れたのは、そう思わせてくれた未来の“キミ”のせいだから──そんな彼女の前向きな気持ちもこの曲には反映されている。

パッと音が弾け、ハミングのようなフレーズに導かれるイントロは、雨風が吹き抜けた後の今までとは違った風景が眼の前に現れているかのような新鮮なイメージをもたらす。“はじまる世界”の幕が滑るように開き、電子音が足元から新しい物語へと誘なうようにさざめき合う。軽やかなシンセの音色やリズムを映す解像感の中、低域はそのサウンドとは対照的に量感豊かなビートを生み出し、程よい音圧が感じられる。サビではさらに視界が開けたように音が華やかにあふれ出し、爽やかな昂揚感に包まれる。

ヴォーカルは、始まりでは戸惑いを感じながら自分に語りかけるようにちょっと引いた抑揚で歌い出し、“今で神様が 目隠ししてた”ではやや拗ねた表情を見せる。躍動するサウンドとともにそれは次第に明るさを増し、さらなる輝きを放つ。歌声はすっきりとした輪郭で移り変わる表情の変化も豊かに、そしてその甘さが空間いっぱいに広がる。うれしそうに呼び続ける“全部キミのせいだ”はもちろんのこと、“世界はあれから季節を繰り返す” “失くしたもの数えるより 二人で笑おう”の言葉に含まれる柔らかなニュアンスも魅力的。

「ドーナツガール」

作曲・編曲は、村川梨衣や内田 彩、i☆Ris、petit milady、また『プリパラ』などの楽曲を手がけているhisakuni。“恋に恋してる Donut Girl”の言葉通り、まだ恋にたどり着いていない少女の膨らむ夢を、ポップなサウンドで描き出す、アルバム随一の甘さを誇るナンバー。

鮮やかなシンセの音色やディスコティックなベースラインが繰り出すグルーヴに加え、ミックスのバランス加減も何処か懐かしい雰囲気を醸し出す、80’sらしさも漂うエレクトロニック・サウンドが心地好く響き渡る。メリハリの効いた明快な方向性を目指した楽曲の中に潜む、巧みに織り込まれた細やかなアレンジがハイレゾでは感じ取られ、そのセンスの良さも伝わってくる。

この曲ではキュートさの表現について思い悩み、考え抜いたというだけあって、それぞれのセンテンスに込めた感情やそれを伝えるための抑揚、ふわっとした声の質感や耳元で囁くようなコーラスまで、ヴォーカルのどこかしこにもキュートな表情が彩り豊かに浮かんでくる。甘さを多分に含んでいながらも透き通るような声質である山崎エリイの歌声が豊富な情報量でリアルに再現されており、後半では声にさらに甘美なアクセントのコーティングがなされ、“知らないNew World”もいっそう蠱惑的に響く。

切なさが疾走感のあるサウンドともに去来する「星屑のシャンデリア」
GSのエッセンスを散りばめ、ヴォーカルもまたそのスタイルに準ずる歌謡ナンバー「Lunatic Romance」
こちらも青春歌謡といった雰囲気を漂わせる「空っぽのパペット」
穏やかなサウンドに優しい歌声がゆっくりと広がる「雨と魔法」
EDMっぽさも交えた、でもソフトなアッパーチューン「Zi-Gu-Za-Gu Emotions」
ゴシックテイストを取り入れたサウンドが展開される「cakes in the box」
清々しい歌声と差し込まれるセリフで少女たちの友情を温かく描く「アリス*コンタクト」
“初恋”ではなく“一番の愛”を優しさをこめて歌い上げる「My first love」
突き抜けるような爽快なロックナンバー「星の数じゃたりない」

松田聖子を始めとする80年代の音楽を好む山崎エリイのキャラクターがサウンドにも現れている今作。アルバムとしてのコンセプトなどを特に定めずに作られているそうだが、かえってそのことが山崎エリイの可能性を広げており、どんな曲にでも対応できる柔軟な歌唱力を持っていることが証明されたように思える。歌声にますます磨きがかかり、その音楽性がさらに広がりそうな予感がする──今後の期待もいっそう高まるアルバムとなっている。

erii_T_book_last2山崎エリイ
全部、君のせいだ。

ZERO-A
2016.11.16

FLAC・WAV 48kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

 収録曲

 1.全部キミのせいだ
   作詞:大西洋平 作曲:小野貴光 編曲:玉木千尋

 2.星屑のシャンデリア
   作詞:坂井竜二 作曲・編曲:佐藤陽介

 3.Lunatic Romance
   作詞・作曲:櫻口葵子 編曲:佐藤清喜

 4.空っぽのパペット
   作詞・作曲:金子麻友美 編曲:佐藤清喜

 5.雨と魔法
   作詞:飯泉裕子 作曲・編曲:佐藤清喜

 6.ドーナツガール
   作詞:宮嶋淳子 作曲・編曲:hisakuni

 7.Zi-Gu-Za-Gu Emotions
   作詞:SUIMI 作曲・編曲:Tak Miyazawa

 8.cakes in the box
   作詞:只野菜摘 作曲・編曲:横関公太

 9.アリス*コンタクト
   作詞:hotaru 作曲:柴田尚 編曲:佐藤清喜

10.My first love
   作詞・作曲:宮崎まゆ 編曲:賀佐泰洋

11.星の数じゃたりない
   作詞・作曲・編曲:鈴木裕明

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