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INTERVIEW

2016.12.14

悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.1 悠木 碧インタビュー

■ 05|これが私のコミュニケーションであり、これまでの一枚一枚すべてが私の名刺ですって言える作品なんです

──そういったストーリーやその背景にある設定は、楽曲のアレンジなどにも反映されているのですか?

悠木 作曲家さんにはレコーディングの現場に来ていただいているのでそのときに、歌詞のストーリーを改めて共有するんです。すると作曲家さんも「そういうストーリーならここにも台詞を入れてみよう」「ここには音をもう少し足した方がいいかも。逆にここは引いた方がいいのでは?」みたいな提案をしてくれるので、それをその場で反映したりもしました。

──キャラクターやストーリー、世界観を共有してそれを形にするんだということを、声が収録されるその瞬間まで徹底しているんですね。すると作曲家さんもレスポンスをくれる。

悠木 それを共有できているとどのセクションの方も、「じゃあこういうふうにしたらこの場面やこの子の表情がもっと映えるんじゃない?」っていうアイデアをぽんぽん出してくださるんですよ。

──レコーディング現場でのストーリーの共有というのは、皆さんに歌詞を見てもらって悠木さんから言葉で補足する、というようなことですか?

悠木 それとあと、最初に藤林さんとお話をしたときに私、キーキャラクターであるキメラのイメージ・イラストをささっとは描いていたんです。そのイラストを改めてきちんと完成させてレコーディングに持っていきました。「こんな感じの子です」っていうビジュアルも共有してほしくて。

──悠木さんのイラストって、そのままアニメやゲームの設定資料にも使えそうなクオリティですよね。それを使って自分のイメージをビジュアルで周りに伝えることができる。それは悠木さんの音楽制作において大きな力になっているように思えます。

悠木 あ……重要ですねぇ。私そもそもアニメに声を当てる声優なので、アニメのキャラというビジュアル・イメージありきの存在なんです。なのでアニメーションやイラスト・イメージ、2Dの中のものが3Dの温度を与えられる瞬間の重要性を強く感じています。だから私にとっては、その温度を与える前の2Dの世界観をまず共有することは、音楽を作るうえでもとても大切なんです。

──ビジュアル・イメージの共有が重要だからこそ、ビジュアルそのものであるイラストもその手段として活用しているんですね。

悠木 授業中に落書きばかりしてたことがこんなふうに役立つ日が来るとは(笑)。でも自分の伝えたいことのここがわかってほしいというピンポイント、それを伝えたいっていうそこへのこだわりが、本当にちっちゃい子供のころからずっとあって。イラストにしたらわかってもらえるのか、言葉の選び方を工夫したらわかってもらえるのか、話す音程を変えてみたらわかってもらえるのか、身振り手振りをつけたらわかってもらえるのか。そういう一個一個を試して積み重ねて、ちょっとでもいいから私の感情のここを理解して!っていうのはすごくあって。

──使える手段は全部使って、ですね。

悠木 全部使いたい!コミュニケーションをとるうえでのツールは全部使いたいっていうタイプなんです。それが音楽活動にも生かされている……溢れているのかなと思います(笑)。

──形にするのは音楽だけれどそれを形にするために、イラストを描いて、言葉を選んで、コミュニケーションをしてと、悠木 碧のすべての能力を投入している。悠木さんの音楽活動はそういうものなんですね。

悠木 これが私のコミュニケーションであり、これまでの一枚一枚すべてが私の名刺ですって言える作品なんです。そういうものをつくるんだっていう私の想いを確実に受け取ってくださる、様々なセクションの方々に恵まれているおかげもあって。

──特に今回は「声だけでつくる」という容易ではないテーマでしたから、それも受け止めてくれる方々の存在も一段と大きいのでしょうね。

悠木 「こういうものをやりたい!」って私が決めたときにはそれをやらせてくれるスタッフさんたちです。これまでの作品を作ってきたなかで紡がれてきた関係もあって「今回もやらせてあげたい」と思っていただけたのかなというのは、それだけでありがたいと思います。私は声優で、声に感情を乗せるのが仕事で、声を武器に戦っています。「声だけでつくる」というのは、そこへのこだわりでもあるんです。そのこだわりを理解してくださるチームで良かったなと思っています。

■06|“悠木 碧”という楽器はわりとどんな音でも出るので、やってみてくださいって(笑)

──悠木さんのイメージやこだわりを受け止めて形にしてくれるというところでは、レコーディング現場でのお話にも出てきましたが、作曲家さんの力も大きいですよね?

悠木 もちろん!

──その皆さんによる曲ですが、前作『イシュメル』から今回の『トコワカノクニ』と、奇数拍子や変拍子などの凝ったリズムがとても印象的です。

悠木 ああ!そうですね~(笑)。

──ここではない何処か、別世界の雰囲気を生み出しているポイントのひとつに思えるのですが、作曲家さんにはリズムを指定してこういう曲をとお願いしているわけではないんですよね?

悠木 はい。ストーリーやキャラクターのイメージを伝えてあるだけなんですが、皆さんこういう曲を返してくださる(笑)。

──悠木さんご自身も奇数拍子や変拍子をお好きなのではないですか?パーソナリティをなさっていたラジオ番組で拍子の話題が出てきたとき、「なになに!奇数拍子?奇数拍子?」と食いついていたのが印象に残っていまして(笑)。

悠木 好きですねぇ(笑)。四拍子は規則的に横に揺れる感じ。奇数拍子は1・2・3ときて4に進まず1に戻る、そのターンでちょっとつんのめるというか……その謎の転び方をするたび、どんどん世界観に入り込んでいく感覚があるんですよね。

──拍子の話で「謎の転び方」という表現を取り出してくる方に初めて出会いました(笑)。

悠木 はじめまして(笑)。その謎の転び方の引っかかりが、私のイメージする「かわいいだけじゃないかわいさ」につながってくるのかなあとも思うんですよね。「ちょっとひねた癖のあるところもあってのかわいさ」に。そういう意味でも奇数拍子や変拍子はすごく好きですね。

──拍子からそれをイメージする感覚って悠木さん独特のものと思うのですが、それを伝えたわけでもないのに作曲家さんからそういうリズムの曲が返ってくるってすごいことですよね。

悠木 もはや変拍子の方が多く返って来ますもんね(笑)。今回なんかはもう「何拍子なんだこれ?」みたいな曲ばかりで(笑)。曲全体としてのリズムは四拍子なところも歌は奇数で詰め込まれていたり。

──複雑なリズムは本当にうまく使わないと歌いにくく、また伝わりにくい曲にもなりかねません。それをあえて使ってくるのは、悠木さんのイメージを表現するために、作曲家さんも使える手段を全部使っているのかなと思います。

悠木 今回は「声だけで」という難しいテーマにまで応えていただいて(笑)。

──実際に収録された曲を聴くと「 “声だけでつくる”をどう解釈するのか」の幅広さを実感させられます。

悠木  “声だけでつくる”という意味をどういうふうに捉えてくださるのか、作曲家さんごとの解釈も作品の一部にしたかったんです。なので「私の声を好きに使って曲を作ってください」ってお任せしました。

──「悠木 碧の声をどうぞご自由にお使いください」と?

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悠木 “悠木 碧”という楽器はわりとどんな音でも出るので、やってみてくださいって(笑)。皆さんそれに応えてくださって、「使う楽器は悠木 碧の声だけ」という同じ条件になったからこそ、作曲家さんの個性は今までよりもっと出ていると思います。声楽みたいに歌を重ねる。楽器の真似をした声を使って曲を構成する。台詞を素材として重ねて音楽にする。それぞれの解釈で皆さんの色を強く出してくれていてとても面白かったです。

──曲が出来てきて声を入れるときには、悠木さんも作曲家さんの曲その色を大切に表現していくのでしょうか?

悠木 まずは私から「こういうものがつくりたいんです!」っていうイメージを明確に示して、受け止めていただきました。だから次は、作曲家さんが曲にして返してきてくれた明確なものを私が受け止めて、作曲者さんのイメージを形にしてお返ししたいんです。レコーディングのときは「作曲家さんのイメージに近い楽器になろう」って思っていました。

──お互いのイメージを再現し合う関係なんですね。

悠木 っていうふうになれたらいいなと。私名義の作品ではありますけど、いろんなクリエイターさんの力が注がれている一枚でもあるので、その皆さんの色も出していくために私も力を注いでいます。

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