INTERVIEW
2016.12.14
前作『イシュメル』から引き続き、『トコワカノクニ』でもすべての作詞を手がけている作詞家の藤林聖子。悠木 碧が思い描くイメージを彼女から引き出し、言葉へと写し取る、極めて重要な役割を担っている。デビュー・ミニ・アルバム『プティパ』から悠木 碧の作品に参加をしている藤林聖子だが、“声のみでつくりあげる”今作では、どのようにして作詞を行ったのだろうか?
悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.2では、作詞家・藤林聖子に悠木 碧とのディスカッションについて、イマジネーションを呼び起こす様々な歌詞について、また悠木 碧が絶賛する作詞のポイントについて、深く話を聞いている。
●悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.1 悠木 碧インタビューはこちら
●悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.3 フライングドッグ音楽プロデューサー・佐藤正和インタビューはこちら
Interview & Text by 高橋 敦
At FlyingDog
悠木 碧『トコワカノクニ』のレビューはこちら
──まず制作に参加するにあたって、“声のみでつくりあげる”作品とお聞きになられたときにはどのように思われましたか?
藤林聖子 シンプルに驚きました。声だけの楽曲となると普通のレコーディングより遥かに時間がかかるだろうと予想できるので、碧ちゃんのアーティストとしての心意気みたいなものに胸を打たれました。
──悠木さんが思い描くキャラクターやストーリー、世界観のイメージを膨らませ、具体的な形にしていくという、悠木さんとのディスカッションから藤林さんの作業が始まるとお聞きしています。前作『イシュメル』と声のみでつくりあげる今作とでは、話し合う内容、あるいは方向性といったものは、違うものだったのでしょうか?
藤林 やはり、楽曲のアレンジというか曲のテイストからイマジネーションの種をいただけたのが前作までとしたら、今回は0から起草しないといけないわけで、碧ちゃんのイメージの断片と、私の中の蓄積というかビザールな根みたいなものを繋げていく打ち合わせだった気がします。
──ディスカッションの場ではイメージ共有のために、悠木さんはそのキャラクター「キメラ」を言葉だけでなくイラストでも表現したとお聞きしました。それをご覧になられたとき、どのようにお感じになられましたか?
藤林 キモチワルイと思いました。まさかこんなに可愛くないとはと(笑)。同時に碧ちゃんとの作業特有のぞわぞわ感というかキタコレ感を覚えてうれしかったです。
デビュー・ミニ・アルバム『プティパ』(2012.03.28)
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──このディスカッションについて悠木さんがうれしそうに話してくれたことのひとつは、藤林さんはこのときには「この子は休みの日は何をしてるの?」のように、歌詞をどうするかではなく、まずキャラクターの話として掘り下げてくれるということでした。歌詞にはキャラクターのこのような設定が直接現れてくることはありませんでしたが、藤林さんにとってキャラクターのイメージを細かく積み重ねていくことは、歌詞を作るうえで欠かせないことなのでしょうか?
藤林 特に碧ちゃんとの作業はシナリオに近いんじゃないかと思います。ちゃんと登場人物の個性を明確にして、歌詞中で動かしていかなきゃいけないので、最初の段階でイメージのすり合わせは私の中で絵として浮かぶまで碧ちゃんを質問攻めにします(笑)。
──悠木さんからお話をお聞きして、全体をとおして、そしてそれぞれの曲に、おふたりの中には明確なストーリーがあるのだとわかりました。ですが歌詞としては、そのストーリーのすべてを具体的に語り上げはせず、ストーリーの場面場面をあえて抽象的な表現でイメージとして伝えている曲が多い気がします。この意図はどのようなものでしょうか?
藤林 碧ちゃんがまず伝えたいのはストーリーではなく感覚なんじゃないか、と思うんですね。実際打ち合わせをさせていただいていても、曲のイメージが手触りや何かしらの違和感とか、そういうイメージが最初に来て、「例えば、」とストーリーが後から続いて出てくる感じなんです。そういえば初期の頃イメージとして劇団イヌカレーさんの作品を参考に見せていただいたかと記憶してるのですが、その時私の中のものとしてはヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クエイ、あとミシェル・ゴンドリーのコラージュ感と結びついて、ずっと続いているんです。だから説明的ではなく印象のコラージュみたいに、後味で残る歌詞にしたいと思ってしまうのかもしれません。
1stフルアルバム『イシュメル』(2015.02.11)
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