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INTERVIEW

2016.12.14

悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.3 フライングドッグ音楽プロデューサー・佐藤正和インタビュー

■02|悠木さんの作品の制作では、必ず誰かが突破口を開いてくれるんですよ

──それまで作業は順調に進んでいたのですか?

佐藤 いえ、具体的に進め始められるまでの模索期間が長かったんです。作曲家さんたちに「声だけの曲を作ってみてくれませんか」とお願いしたのなんて、2ndミニアルバム『メリバ』の制作と同時期ですから。

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1stフルアルバム『イシュメル』(2015.02.11)
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──『メリバ』は2013年2月、『イシュメル』は2015年2月のリリースです。模索期間から『トコワカノクニ』が完成するまで3年以上かかっているわけですね。

佐藤 その間、作曲家さんからいろいろな曲を返していただいてはいたのですが、私のイメージや、悠木さんの世界観となかなか重ならなかったんです。声の役者は性別も問わずどんな人間にもなれるし、人じゃないものにだってなれる。その強みを様々な要素とともにバランスを保って、空間全部が「悠木 碧」で埋まったらファンの方々も喜んでくれるんじゃないか。私が思い描いていたのはそういうイメージでした。

──なるほど、そうなのですね。

佐藤 そのコンセプトは、1stコンサート『プルミエ!』の企画の根底とも同じなんです。舞浜アンフィシアターのステージ、あの空間を「悠木 碧」の世界で満たしたいというのとまったく変わらない。コンサートは視覚で、今回は聴覚で体感してほしかったんです。

──だがそのイメージを形にしてくれる曲が見つからない。その状況から確信を得られたのには、何かきっかけがあったのですか?

佐藤 作曲家のinktransさんと出会ったことですね。そのことによってプロジェクトが具体的に進み出しました。

──今作に収録されている「サンクチュアリ」「鍵穴ラボ」の作曲家さんですね。“悠木 碧の声だけの音楽”というテーマにinktransさんが返してきてくれた曲が、遂に佐藤さんのイメージに合致するものだったということですね。

佐藤 inktransさんとの出会いは、実はまったく別のルートでした。inktransさんがフライングドッグ・オーディションの作曲家部門に応募してくださった楽曲を聴いたとき、私の中で悠木さんの世界観とリンクしたんです。それで連絡を取らせていただいて、“悠木 碧の声だけの音楽”のデモ曲の制作をお願いしました。

──その出会いが長い模索からの突破口になったのですね。

佐藤 悠木さんの作品制作では、必ず誰かが突破口を開いてくれるんですよ。今回はinktransさん、そして、リードトラックとなる「レゼトワール」を生み出してくれたKidlitさん。このふたりとの出会いは大きかったですね。過去にも『プティパ』では、今作でも「アイオイアオオイ」「マシュバルーン」「マシロキマボロシ」を提供していただいたbermei.inazawaさん、『メリバ』では新居昭乃さん、『イシュメル』では今作でもすべての作詞をお願いしている藤林聖子さんや辻林美穂さんが突破口を開いてくれました。悠木さんはそういう出会いにとても恵まれているんです。

──その出会いは探し回って見つけたというより、偶然というかどこか運命的なものを感じます。

佐藤 そうなんです。何かに導かれるようにして……人の縁とか出会いって本当に不思議だなって思いました。

■03|読み解いて意味を理解するまで結構時間がかかりましたね(笑)

──突破口を得て、イメージに重なる曲が集まってきました。次はそれらをひとつの作品としてどのように構成していくかになるかと思います。悠木さんからも聞かせていただいたのですが、“プチアルバム”であることがポイントのようですね。

佐藤 はい。声という楽器の情報量はとてつもなく多いんです。音程の高さや伸ばす長さだけではなく、言葉の生み出された瞬間から消える瞬間はもちろん、生み出す手前の呼吸や消えた後の余韻、母音と子音、本当にいろいろな要素があります。先ほどの歌詞を朗読してもらったという話で挙げた、温度感や感情もそうです。このプチアルバムの再生時間の数字だけを見ると短いとお思いになるかもしれません。でも実際に作品を体感していただければおわかりになると思いますが、時間を盗むと言いますか、ちょうどよいバランスになるのはこの長さだったんです。

──たしかに私も聴き終えてから時計を見たら、この作品の世界に引き込まれていた間の体感時間と、現実に過ぎていた時間の違いに驚きました(笑)。

佐藤 そう感じていただけたなら狙いどおりです(笑)。

プリント

『トコワカノクニ』初回限定盤ジャケット

──さて曲が揃いプチアルバムとして構成も組み立てられ、悠木さんのイメージを藤林さんがより明確に具現化した歌詞も出来上がってきました。いよいよ、それを形にするレコーディング以降の工程に入りますね。

佐藤 悠木さんの描いた、この作品のキーキャラクターである「キメラ」の完成系のイラストを見せてもらってイメージをさらに共有したり、そういった過程も経てのレコーディングですね。レコーディング現場では作曲家さんやスタッフもそのイラストを見て、イメージを膨らませています。

──イラストによってイメージがさらに広がり曲が完成形へと向かっていく、印象的なレコーディング風景ですね。

佐藤 デビュー前の準備期間に、悠木さんが「こういう音楽がしたいです」って持ってきたものがありまして、音楽作品などではなく、一枚のフォトコラージュだったんです。あれには初めびっくりしました。読み解いて意味を理解するまで結構時間がかかりましたね(笑)。でもそれからは、「こういう絵本があるんだけどどうかな?」「この絵本知ってます!私も大好きです!」といった感じにイメージの共有をすることがすんなりとできるようになりました。

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