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REVIEW&COLUMN

2016.12.21

上田麗奈『RefRain』レビュー

上田麗奈『RefRain』レビュー

fhánaの佐藤純一、MONACAの田中秀和、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDらが参加。アーティスティックなセンスで自身の世界を描き出した、上田麗奈のデビュー・ミニ・アルバム。

TVアニメ『南鎌倉高校女子自転車部』舞春ひろみ役、『ばくおん!!』佐倉⽻音役、『Dimension W』百合崎ミラ役、映画『ハーモニー』御冷ミァハ役、ゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ!』⾼坂海美役などで知られる声優の上田麗奈。2016年12月21日にミニ・アルバム『RefRain』をリリースし、アーティストとしてデビューを果たした。

今作には、fhánaの佐藤純一、MONACAの田中秀和、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND、snow*やSuara、堀江由衣や南條愛乃、三森すずこらの作品で作詞や作曲を行なっているshilo、ChouChoの「セフィロトの木」(シングルAsterism」収録)を作曲し、花澤香菜のあたらしいうた」ではストリングス・アレンジを担当しているシンガーソングライター、rionosらが手がけた全6曲を収録している。

作詞は上田麗奈が、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND、TO-MASのメンバーである作詞家の松井洋平とともに手がけ、自らが思い描くイメージを飾らぬ言葉で綴っている。そこにはひとりの少女が扉を開けて新たな世界へと踏み出す物語が描かれており、それは「歌」という表現に真摯に向き合い、今作を作り上げた上田麗奈の姿にも重なる。ジャケットやミュージック・ビデオにも彼女の意思が反映され、さながら上田麗奈のセルフ・プロデュースといった、アーティスト性が非常に強い作品となっている。

「ワタシ*ドリ」

作曲・編曲は、上田麗奈が主人公・関谷なる役を演じたTVアニメ『ハナヤマタ』のオープニングテーマ「花ハ踊レヤいろはにほ」を手がけたMONACA田中秀和

80年代初頭の化粧品CMソングを思い出すような、躍動的でポップなこのサウンドは、清水信之が携わっていたEPOや大江千里の初期作品(1983、84年ぐらいまで)の頃の音にも例えられるだろう(このようなイメージで聴いてみると、ヴォーカルの伸びやコーラスが飯島真理っぽくも聴こえてくる)。「名うてのスタジオ・ミュージシャンがバックを固めた」と形容したくなる、往年のシティポップのような雰囲気にテクノポップのテイストを散りばめた楽曲の仕上がりは、彼らの後継者である牧野由依中島 愛らとの親近感も感じさせる。

連続して打鍵されるピアノとシロフォンの上にフルートが舞い踊り、リズミカルな音色がスピード感をもって奏でられるイントロでは、それらを追いかけるようにエレキギターとリズム隊が折り重なり、楽曲に安定感とともに躍動感をもたらす。演奏のイニシアチヴを握るベースが力強いグルーヴを生み出し、楽曲を貫く昂揚感を巧みにコントロールしている。それぞれの楽器の定位や演奏のリアルさを伝える解像感も優れており、快活なハイハットや流れ星が落ちるようなキラキラとしたシンセの音色なども鮮やかだ。

24bitと32bitの音源を比べると前者では、低域や楽器の音がやや際立ち、サウンドがダイナミックなものに感じられる。後者は、張りのある音の響きが空間を満たし、演奏の細やかなニュアンスがさらに伝わってくる。それぞれの音の方向性を聴き比べるのも面白い。

親密さを感じさせるようにはずむヴォーカルとは対照的に、 “見えてるかな?” “できてるかな?”と心配そうに自身へと問いかける言葉が繰り返され、“あなた”の目の前で思うような『私』であろうと明るく振る舞う少女の姿が浮かび上がる。おもてに現れたこぼれるような笑顔と、実は不安げな胸の内とを描き分ける、声の役者らしい表現の繊細さが伝わってくる。アクセントの強い拍が差し込まれる終盤では、形が定まらずも少しずつ変わりゆく心の機微を表わした “そう、ここじゃないどこかに行ってみたいと思わない?”のフレーズに爽やかさが広がる。ラストの確信を含んだ台詞 “「一緒にいってみる?」”の甘い声質も魅力的だ。

「あなたの好きなメロディ」

作曲と編曲は、ChouChoや寺島拓篤などにも楽曲を提供しているfhána佐藤純一。1曲目の「マニエールに夢を」でも音楽好きを唸らせる素晴らしいアレンジを披露している佐藤純一だが、こちらの楽曲ではアルバムのエンディングにふさわしく、後半に向けてひときわ高まるドラマチックなサウンドを展開している。

ラストナンバーとなるこの曲では、「作詞:上田麗奈 補作詞:松井洋平」とクレジットされており、作品制作を通じて思い描くイメージをより的確に言葉で表現できるようになった上田麗奈の自信の現れているようだ。歌詞には、居心地のよい場所に留まり、同じような日々を足踏みするように過ごしていた少女が迷いを抱えながらもそこから歩き出す、その様子が描かれており、またアルバムを通して語られてきたテーマ、“ここじゃないどこか”に対する答えが示されている。

煌びやかな室内楽といった優雅さを感じさせる楽曲がゆったりとしたテンポで進み始める。リズム・セクションは穏やかにアクセントを刻み、ストリングス・アンサンブルは澄み渡るような旋律を奏で、目の前に広がる新たな風景を照らし出す。まだどこかぎこちなさも残るような少女の歌声をそっと引き立てるように楽器の音色は配置されており、そのスムーズに重なり合う音の響きがもたらす温かな雰囲気が心地よい。サビではそのサウンドがダイナミックに奏でられ、希望に満ちた光を放つような清々しい開放感を生み出している。後半の間奏ではfhánaを思わせるエレキギターのエモーショナルな演奏に強く引き寄せられる。

そっと囁くように語りかける少女の歌声は柔らかく、ふんわりと包みこむように優しく広がる。慈しみや切なさも交えながら“あなた”へと歌う表情からは、いつも“どこか”へと向かうことを思い続け、ついに“ここ”へとたどり着いた、その喜びが伝わってくる。サビではしなやかな抑揚で歌い上げる、みずみずしいヴォーカルが美しい。そして、“夜はもう怖くないみたい”の言葉では、今までの想いがすべて溢れだすような声の強い伸びが深く心に残る。

透明な声がクジラの歌とともに音に溶け込むアンビエント・ナンバー「海の駅」
弦楽奏の鮮烈なフレーズとミニマルなリズムが幻影的なイメージを映し出す「毒の手」
デカダンスな雰囲気に外へと切望する情熱的な歌声が交錯する円舞曲「車庫の少女」

細部まで作り込まれた完成度の高い楽曲と上田麗奈の幅の広い表現力が相成って豊かな音世界を作り上げている。アーティスティックな作風に振り切った今作は、声優のデビューアルバムとしては異色の出来栄えといえよう。声の特性や持ち味を生かしつつアーティストとしてあらたな可能性にチャレンジした上田麗奈の意気込みが伝わってくる『RefRain』。現時点で既にこのような充実した内容の作品を生み出しているだけに、今後の活動にますます期待が高まる。

reina1stA_JEWEL_raf3上田麗奈
RefRain

Lantis
2016.12.21

FLAC・WAV 96kHz/24bit、WAV 96kHz/32bit

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 収録曲

 1.マニエールに夢を
   作詞:松井洋平、上田麗奈 作曲・編曲:佐藤純一(fhána)

 2.ワタシ*ドリ
   作詞:松井洋平、上田麗奈 作曲・編曲:田中秀和 (MONACA)

 3.海の駅
   作詞:松井洋平、上田麗奈 作曲・編曲:rionos

 4.毒の手
   共作詞:上田麗奈 共作詞・作曲・編曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

 5.車庫の少女
   作詞:松井洋平、上田麗奈 作曲・編曲:shilo

 6.あなたの好きなメロディ
   作詞:上田麗奈 補作詞:松井洋平 作曲・編曲:佐藤純一(fhána)、川本 新

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