INTERVIEW
2017.08.30
───改めまして、1曲目「Massive Passive」はどういったイメージで作られたのでしょうか?
江口 アルバムのリード曲を決めるときに、どれにするという話になってディレクターから「昔デモでもらってたこの曲をいれようよ」と言われて採用された曲です。表題曲は作るときに神経質になるというか、100万回聴いても飽きないように作らなきゃいけないと思いながら作りましたね。
内村 「ego-izm」の系譜なんだけど、似ないように気をつけていましたね。最初に提出したデモは2番からそのまま最後のサビにいって終わっていたんですが、ディレクターから「Dメロがほしい」と言われて……。
江口 「まさかこのまま終わりませんよね?」と言われまして。
内村 「いやいやこれじゃ足りないでしょう」と(笑)。
江口 畜生って思いながらDメロを作りましたよ(笑)。
内村 Dメロを作るにあたって、江口さんはサビへの復帰の仕方にすごく悩んでました。それで悩んだ挙句、最終的に「俺は新しい技を編み出した!」と嬉々として報告してきましたよね。
江口 以前に編み出したのが、Dメロや落ちサビで一度半音下がって、大サビで元のキーに戻るというやり方なんですよ。歌う人にとって負担が少なくて、なおかつ聴く人にとっては半音上がっているような感覚にできるんです。最後のサビで半音上がられると、歌う人にとって負担が大きいですからね。いちばん盛り上がるときにいちばん体力がない状態になっちゃう。今回も作っているうちに大サビで半音上がってしまいそうになって、新しい技を編み出しました。
内村 「名づけて”メロディーしりとり”だ!」と言われました(笑)。
江口 Dメロの段階で、コード的に下がっていく進行だったんですね。レギュラーキーがどんどん下がっていくんです。そこから綺麗に繋がるようにDメロからサビに戻ると、結果的に大サビのキーが半音上がってしまって。それはちょっとまずいと思って、1オクターブ下の落ちサビを挟んだんです。そしてその落ちサビのメロディーの最後の音と、元のサビのキーに戻ったときの音を同じにしたんですよ。そうするとキー的には転調しているんですけど、歌う人は同じ音を歌い続ければいい形になるんです。歌う人に負担がないまま、3回転調しているんですよ!
───作曲の方は面白い転調を楽しんで作っていると思っていたのですが、江口さんは「歌う人に負担がないか」をかなり重視されているんですね。
江口 たしかにそうですね。そういえばこの間、TVで小室哲哉さんが自分の曲の転調について語っていたんですけど、小室さんもボーカリストの声が気持ちよく聴こえるキーに無理矢理転調してでも合わせると言っていました。「そうなんだー」と思いつつ、よくよく考えてみたら自分も同じようなことをやっていました(笑)。
───江口さんにとって作曲のいちばんの軸になるのは、歌ということなのでしょうか?
江口 歌ですね。la la larksであれば内村の歌に合わせて作りますし、内村が皆さんから思われているパブリック・イメージのようなものも考えています。決して「元気、キャピキャピ、19歳」みたいな感じの曲は求められていないですからね(笑)。自分の中でla la larksの内村は薄幸女子系シンガーとオシャレ系バンドの融合だと思っていて、オケはバッキバキとフワフワの丁度真ん中をやるようにしています。
───そういったイメージは内村さんは聞かされているんですか?
内村 とくに聞いていないです。江口さんはSchool Food Punishmentのころから自分の歌をずっと録ってくれているし、わかってもらえていると信頼しているので、ただ「難しい曲が来るなあ」と思うばかりです(笑)。
───体力的には歌う人を気遣ってくれるものの、技術的には容赦ないんですね。
江口 内村ならできるはずだと思っているので(笑)。前のバンドで内村自身が作ってきたイメージがあると思うからこそ、そこから落として楽した余生みたいなバンドにするつもりはまったくないんですよ。その辺は気をつけています。
内村 School Food Punishmentの曲より遥かに難しいですけどね。江口さんの曲を練習していると、アスリートの気持ちになります(笑)。
───最初に候補として提出されたデモには歌詞がつけられていたんですか?
内村 ハーフ尺は作っていて、でもそれは仮歌詞だったので。今回のアルバムの中では、2曲歌詞を改めて書いているんです。「Massive Passive」と「Reset」がそうで、それ以外の曲はもともとライブでやっていた曲とシングルに収録されていた曲なんですよ。歌詞を書き直した2曲は結構苦戦して、歌入れのギリギリまで詰めていましたね。最終的に仮歌詞からはまったく違うものになりました。
───アルバムのリード曲になる前提で歌詞を書かれたんですか?
内村 はい。すごく難しかったですね。「Massive Passive」に関しては、la la larksらしい曲というイメージがあったんです。苦しいけど希望が見えてくる感じの展開の曲で、自分は今まで「苦しいけどがんばる」とか「それでも進む」とか、そういうテーマのものをよく書いてきたんですよ。ただ5周年で初めてのla la larksのアルバムというものに対して、次のステージを感じられるような内容じゃないと意味がないと思ったんです。苦労しましたが、リード曲らしい曲にできたんじゃないかと思います。
───「end of refrain」はla la larksのもうひとつの側面である、クラブ・サウンドの楽曲ですね。
江口 「end of refrain」は、今回のアルバム用に手を加えていないんです。1stシングル「ego-izm」のカップリングだったんですけど、改めて聴いたら非常によくできていたんですよ。
1stシングル『ego-izm』(2014.06.04)
内村 もともとはシングルのM1、M2はアルバムに入れようという話だったんです。「色彩」がイレギュラーで入ったんですね。
江口 この曲を作っているころにサカナクションの「ネイティブダンサー」を聴いていて、いいバランスだなと思っていたんですよ。バンドだけどクラブ・サウンドだし、人力で演奏もできそうという。そういうものをやりたくて作った記憶があります。1stシングル以降はライブでも同期を使って演奏するようになったので、「end of refrain」も含めて幅広い楽曲が作れるようになったと思います。このあと出てくる「loop」「たりない」「さよならワルツ」「失う」「Self」あたりは、もともとはライブで人力で演奏できるように作っていた曲なんですよ。
───続く「loop」はガラっと雰囲気が変わりまして、ここまでの曲よりポップ度が高い印象でした。
内村 結成当初からずっとある曲なんですが、今回アルバムに収録するにあたってストリングスを追加しました。「loop」と「たりない」は、河野 伸さんにブラスとストリングスのアレンジをお願いしているんですよ。それによって生まれ変わった曲になっています。
江口 初ライブからやっているくらい古い曲で、コード進行が多くはないけど小洒落ているという。ライブでやってもそのままの印象で演奏できるという曲でしたね。アコースティックでバンドサウンドという楽曲がほしくて作ったんですよ。最初のドラムの打ち込みは「俺は佐野康夫だ※……俺は佐野康夫を打ち込んでいるんだ……」と呟きながらやりました(笑)。アコースティックなピアノトリオだけど、アグレッシブで格好いいというイメージですね。もともと「ダメ女の歌」というテーマだったので、ディレクターにストリングスを入れようと言われたときに「ダメ女にそのゴージャスさはいるのか」と思ったんですが、ストリングスが入ったことにより賃貸アパートから分譲マンションに生活水準が上がった感じがしてよかったですね(笑)。
※佐野康夫 なだたる経歴を持つドラマー/セッション・ミュージシャン。「Tank!」(『カウボーイビバップ』OPテーマ)など、菅野よう子の楽曲や坂本真綾のライブにて彼の演奏を耳に(目に)した人も多いはず。
内村 若干いい女に思えてきましたね(笑)。
江口 ユニットバスから風呂トイレ別になった感じね(笑)。
───こちらもライブ用に作られたという「たりない」は、レゲエ的なテイストが入った楽曲ですね。
江口 そういう解釈もあると思います。90年代オシャレCDを沢山聴いて育った手前、音が悪くても雰囲気がどう聴いてもオシャレだったら正義だという考えが自分にはあって。でもディレクターと相談したときに「さすがにもう少し今風な方が」と言われて、どちらかというとヒップホップの解釈に寄せることにしました。それでドラムは完全にドライで跳ねないものにして、そこにブラスを乗せるという形ですね。ドラムが跳ねるともっと黒い感じになってしまうんで、それは避けたいなと。
内村 ほかの曲は江口さんが書いているものが多いんですが、「たりない」は私がメロディーと基本的なコードを作ったんですよ。それを江口さん以外のメンバーと詰めてスタジオで演奏してみたら、江口さんが聴いてすぐ「だっせぇ」って(笑)。
江口 さっき言ったとおり、悪い意味で跳ねてたんですよ(笑)。
内村 それでリズムとコードを修正することになるんですけど、跳ねているようで跳ねていないリズムは消化するのにすごく時間がかかりましたね。
───「たりない」以外でメンバー間の意識の統一で苦労した曲はありますか?
江口 「loop」はギターで苦労してましたね。律郎はレコーディングの最後の日までギターソロを録り直してました。
内村 クリーントーンで弾くソロのイメージを擦り合わせていたときに、「ラリー・カールトン※じゃないか」という話になって。
※ラリー・カールトン ジャズ・フュージョンを代表するアメリカのギタリスト。クリーントーンによるギタープレイを特徴としている。代表曲は「ルーム335」(1978年のアルバム『夜の彷徨(さまよい)』に収録)。
江口 それで律郎が「カールトンならわかります!」って言って弾きだすんだけど、それが全然カールトンの感じと違うっていう(笑)。「たりない」と「loop」はバンドで詰めるのに苦労した印象です。ほかの曲は意識の統一が、デモの段階である程度まで済んでいるところがありますからね。意味は違いますけどストレートな明るい曲の「Reset」も色々と大変で、いちばん胃が痛かったです。
───「さよならワルツ」は6/8拍子の激しい曲になっていますね。
内村 これもla la larks結成時には、もう江口さんが作ってくれていた曲ですね。そこからアレンジはほとんど変わっていないんですよ。
江口 そうだね。今気づいたんですが、ライブ用に作った曲はコードが少ないですね。あと展開が簡単。本当に今気づいた(笑)。
───それは作編曲家としてより、バンドマンの意識が働いているということなのでしょうか。
江口 実際に演奏することを考えてしまうんですよね。覚えやすいかとか、生で演奏できるのかとか(笑)。
───タイアップ曲だと作り込んだものになるのに対して、ライブ用だとシンプルになるのは面白い差ですね。
江口 タイアップ用に作る曲はギミックがいっぱいですからね。1枚のアルバムの中に、コンポーザーとしての意識とバンドマンとしての意識が両方入っているのかもしれません。
───「さよならワルツ」はサビの歌詞のハマり方が印象的でした。
内村 江口さんが作ったシンセメロの段階で、サビのメロディーには繰り返す言葉を入れたいと言われていたんですよ。そこから考え始めて、“シュワシュワシュワ パチパチパチ”を最初にはめたんです。その言葉から「炭酸→お酒→失恋……?」「ハチロクだからワルツ……さよならワルツ!」みたいな連想でタイトルと内容を決めていきました。結構サラッと歌詞は書けましたね。
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